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サイクル ロードレース コラム 2024年5月13日

【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第9ステージ】ナポリにはサスペンスがよく似合う。休息日前夜の荒れたフィニッシュで、コーイが初出場1勝目。「即興的に動いた。ちょっとしたギャンブルでもあった」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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22歳6ヵ月25日のオラフ・コーイは、ジロ史上最年少のオランダ人優勝者となった

22歳6ヵ月25日のオラフ・コーイは、ジロ史上最年少のオランダ人優勝者となった

3年連続でナポリはカオスに陥り、スピードとスリルの果てに、スプリンターがアタッカーをねじ伏せた。大会1回目の休息日を前に、ピンクのタデイ・ポガチャルさえ発射台役を務め大ハッスル。最後はチクラミーノのジョナサン・ミランとのタイマンに競り勝ち、オラフ・コーイが初めての栄光をもぎ取った。

「本当にスペシャルだ。ここ数年すでに大きなレースをいくつか勝ってきたから、僕にとって次のステップは、グランツールのステージ優勝だった。しかも初めてのグランツールで成し遂げられたなんて、まさしく夢が叶った」(コーイ)

200kmを超える長い1日は、なにも最初から騒がしかったわけではない。スタートと同時にミルコ・マエストリとアンドレア・ピエトロボン、つまりポルティ・コメタの2人組が勢い良く駆け出していくと、スプリンターチームは大急ぎでプロトンの蓋を閉めた。その後も複数チームが小さな突撃を試みたが、10kmほど走った先で、さざなみも完全におさまった。幸いにもお天気は良好で、序盤170kmには悩ましい難所もない。アルペシン・ドゥクーニンクやリドル・トレックが淡々としたリズムを刻み、しばらくは平和な時間が流れた。

インテルジロのスプリント勝負はミルコ・マエストリが制した

インテルジロのスプリント勝負はミルコ・マエストリが制した

おかげでマエストリはインテルジロ1位通過で、休息日明けの第10ステージを緑色のゼッケンで走る権利を得た。ピエトロボンはこの日だけで186kmも逃げ、フーガ賞では通算332kmの堂々首位へとジャンプアップ。もちろんスプリンターチームは、完全に手綱を緩めたわけでもない。ポルティ・コメタのタンデムには最大でも3分45秒しかリードを許さず、大部分の時間帯は1〜2分差で前を泳がせておいた。

また道の途中では、マリア・チクラミーノ用のポイント収集のためにもがくことも忘れなかった。ただ第1中間ポイントではほぼ全員がスプリントに参加したのに対して、フィニッシュまで55.5km地点のインテルジロでは、カーデン・グローブス擁するアルペシンボーイズが猛突進した一方で、コーイとミランは勝負に混ざらなかった。

そこから道は起伏を帯び始める。プロトン内には緊迫感が充満していく。スプリンターチームに混ざって、総合系チームも、難解な最終盤に向けて隊列を組み上げた。それでも残り36km地点の4級山岳では、上りでも下りでも、あくまでアルペシン列車が主導権を握り続けた。

クレイジーなバトルへの引き金を引いたのは、ジュリアン・アラフィリップだった。ラスト27km、小さいけれど、勾配のとびきり厳しい坂道を利用して、名うてのパンチャーは飛び出した!

「アタックする計画はなかった。でも上りで好位置につけていたし、集団がひどくナーバスになっているのに気がついて、なにかしでかしてやろうと考えた」(アラフィリップ)

ここでもアルペシンが、ニコラ・コンチを刺客としてすばやく前に送り出した。疲れ果てたポルティ2人組を早々に回収し、さらに2選手が合流してきたが、アラフィリップ率いる6人の先頭グループは、つまり半分が戦力として機能しなかった。アルペシンに代わってトレックが6人で引っ張るメイン集団から、思うように差を奪うことなどできるはずもない。

アタックをしかけたジュリアン・アラフィリップとエウェン・コステューのフランス人コンビが先頭に

アタックをしかけたジュリアン・アラフィリップとエウェン・コステューのフランス人コンビが先頭に

3日前には逃げた挙句に2位で泣き、24時間前には逃げをUAEチームエミレーツに握りつぶされたアラフィリップは、なんとか起死回生を試みた。幸いだったのは、一足遅れて、エウェン・コステューが追いついてきたこと。残り21kmで元世界王者は改めて加速を切ると、人生初のグランツールを戦う21歳を引き連れて、さらなる逃走劇を繰り広げた。6人の時は15秒ほどしか得られなかったリードを、2人では、30秒にまで拡大した。細く曲がりくねった道で、フレンチコンビは夢中で先を急いだ。

「ジュリアンのような偉大な選手と時を分かち合えたことは、僕にとって素晴らしい経験だった。全力で先頭交代を繰り返したし、ジュリアンからたくさん励ましの声をかけてもらえた。最高の喜びだった」(コステュー)

抵抗は長くは続かなかった。ラスト10kmでコステューは力尽きた。一時は4秒差にまで詰められた差を、一人になったアラフィリップは、再び13秒差にまでこじ開けた。しかしラスト8km、プロトンから新たな弾丸が発射されると、奮闘にはあえなく終止符が打たれた。

レース終盤、ジョナタン・ナルバエスが迫り、アラフィリップを悠々と追い越していく

レース終盤、ジョナタン・ナルバエスが迫り、アラフィリップを悠々と追い越していく

代わってジョナタン・ナルバエスが最前列へと踊り出た。今大会では唯一、ポガチャルとの直接対決を制した初日覇者の奇襲に、プロトンは大混乱に陥った。複数の脚自慢が流れに続こうとした。重量級スプリンターを守るために、先頭で適度なリズムを刻んでいたはずのトレックは、一瞬で統率力を失った。ライバルの苦痛を尻目に、グローブスは嬉々として集団前方でペダルを回した。

たった5秒の虎の子を手に、残り6km、ナルバエスは下りに転じた。トレックは大急ぎで隊列を編成し直し、ヴィスマ・リースアバイクはコーイを前線へと連れ戻した。1年前のナポリではラスト300mまで逃げ続けたアレッサンドロ・デマルキも、今年はカレブ・ユアンのために率先して前を追った。しかし港町の裏道は、舗装状態がひどく悪かった。ナルバエスも驚異的な粘りを披露した。ラスト1kmのロータリーを抜け出した時点で、背後のプロトンとの差は、むしろ12秒に拡大していた。アルペシンは「エネルギーを浪費しすぎた」(byグローブス)せいでもはやアシストを残しておらず、コーイもラスト1kmで完全に一人になった。いまや追走可能なスプリンター隊列はトレックのみだが、あとわずかの距離が縮まらない。

そんなぎりぎりの均衡を崩し、ナルバエスにとどめを刺したのは、まさかのポガチャルだった。フアン・モラノを背後に引き連れて、突如として、先頭へと競り上った。猛烈に直線路を駆け上がると、初日マリア・ローザの野望を横取りしたライバルを、一気に射程圏内へ捕らえた。

「だってモラノは友であり、チームメートであり、スプリンターなんだ。難しくてテクニカルなコースだったから、僕に彼の発射台を務められると分かっていた。それに第1週目はずっと僕のために働いてくれたんだから、今日は僕が、彼のために仕事をしたかった」(ポガチャル)

残り150m、ミランががむしゃらにスプリントを切ったのと同時に、生き残ったすべてのスプリンターがラインへと突進した。もがくナルバエスは、ラスト25m、とうとう前から引きずり下ろされた。そのミランもまた、あとほんの少しが足りなかった。

「去年のナポリと同じく、また2位だった。アタックが次々と起こるだろうことは予測済みだったけれど、スプリントの瞬間、猛攻に耐えてきた影響を脚に感じた。チームメイトたちが心血注いで働いてくれたからこそ、勝てなかったことにがっかりしている」(ミラン)

そのマリア・チクラミーノを、コーイがフィニッシュライン手前で抜き去った。ベテランのロベルト・ヘーシンクが2日目の朝に、発射台のクリストフ・ラポルトは前日8日目に大会を離れ、そもそも完全なチーム列車など期待していなかった。

グランツールで初区間優勝を遂げ、感無量のオラフ・コーイ

グランツールで初区間優勝を遂げ、感無量のオラフ・コーイ

「即興的に動かなきゃならなかった。特にラスト1kmは、普段ならクリストフが僕を確実に好ポジションへと導いてくれるけれど、今日はとにかく一つの計画だけに固執してはならなかった。レースがどう動くかを見定め、良いポジションに行くために何が必要なのかを考え続けた。ちょっとしたギャンブルでもあった」(コーイ)

ひどいカオスの中で、コーイは冷静に、ユアンからミランの後輪を静かにさらい取る。その後は巨体の背後に潜み、じっとタイミングを伺った。風の中に飛び出したのは、ようやくラスト75mに迫ってから。最後は思いっきりハンドルを投げた。生まれて初めてのグランツール9日目で、ついに勝利カウンターを解除した。昨季は3大ツールを完全制圧したヴィスマ――本来ジロ出場を予定していながら、ワウト・ファンアールトは3月末の落車負傷で出場を断念し、4月上旬のひどい落車後、ようやく数日前から練習を再開したものの、ヨナス・ヴィンゲゴーの今後の見通しはいまだ不透明――にとっても、待望の今季グランツール区間1勝目だった。

「願わくばこの先まだまだ何年も高いレベルで戦い続けて、素敵なレースを勝っていきたい。僕が『ベスト』になれるスピードを有していることはすでに証明してきたと思っているし、今や僕は最大のレースで勝利を収めた。だから自信がある。良い位置につけ、すべてが上手く運べば、これからも僕は勝てる」(コーイ)

マリア・ローザの献身を受けたモラノは、区間3位で終え、ポガチャルは満足げな笑顔で、大暴れの大会第1週を締めくくった。ひどくナーバスだった1日の終わりに、総合トップ10には一切変動がなかった。つまりポガチャルは総合2位以下に対して2分40秒という巨大なタイム差を保ったまま、待ちに待った1回目の休息日を迎える。

「とにかく明日は最高の休息日にしたい。今日のような良いお天気なら、きっと最高だよ。みんなでイージーライドにでかけるつもり。カフェに立ち寄って美味しいコーヒーを飲んだり、ナポリは初めてだから、きれいな景色を楽しんだりしたい。全力で走るのはナシ!」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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