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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第8ステージ】カニバルか、ノーギフトか。ポガチャルが2日連続勝利で、8ステージを終えて3勝目。「きっと他の選手たちはうんざりしてるだろう。でも僕は自分のチームのために走っている」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかフィニッシュ直後、「今日は勝てるとはまったく思っていなかった」と語るタデイ・ポガチャル
あまりにも悠々と。それほど苦もなく。最小限の力だけで。ステージの終わりの200mで、鮮やかな加速一発、タデイ・ポガチャルが区間3勝目をさらった。マリア・ローザ姿では初めてのラインレース勝利。たっぷりとガッツポーズを披露し、大会8日目にして、早くも総合優勝記念ポスターの撮影さえ済ませてしまったようだ。
「まるで予定していなかった結果だ。でもチームが最初から最後まで見事な仕事をしてくれた。おかげで勝負には自信を持って臨めた」(ポガチャル)
逃げ切りが決まる。多くの選手がそう信じていた。スタート直後から五月雨のようにアタックが巻き起こり、小さな上りと下りが折り重なる道で、30人ほどの大きな塊が出たり入ったりを繰り返した。30kmほどドンパチを繰り広げ、2級山岳の長くて厳しい山道に入ると、とうとう14人の逃げ集団ができあがった。
逃げ切りが決まる。ポガチャルもそれで構わなかった。そもそも勝つ計画ではなかった。先頭集団にはロマン・バルデ、マイケル・ストーラー、ゲオルグ・シュタインハウザーという総合タイム差5分台の3選手が滑り込んでいたけれど、気にも留めなかった。
「当初のプランは、できる限り長くチームでまとまって走ること。前方に恐れるような選手はいなかったし、逃げを最後まで行かせることだって可能だった」(ポガチャル)
前述の3人以外にも、先頭集団にはかなりの実力者が潜んでいた。逃げの形成には、世界選2連覇のジュリアン・アラフィリップが大いに尽くした。長年グランツールの逃げを盛り上げてきたアレッサンドロ・デマルキやシモン・ゲシュケの姿もあった。2日前の勝者ペラヨ・サンチェスは、10年前のジロ総合覇者ナイロ・キンタナと共に逃げたし、チーム総合首位の座を突っ走るイネオス・グレナディアーズは、チームの半数を飛び出し合戦に投入し、初日マリア・ローザのジョナタン・ナルバエスと前日の個人TT3位マグナス・シェフィールドをまんまと前方へ送り出した。
素晴らしく豪華なメンバーが揃った逃げは、しかし2級山岳の登坂中に、早くも分裂を起こしてしまう。ダウンヒルの先で再び14人は再合流するも、決して最後まで真の協力体制を築き上げられなかった。リードは最大でも2分半ほどにしか広がらず、あとは延々と縮んだり広がったりを繰り返すだけ。
「予想通りに強い逃げができた。でも連帯感が皆無で、まとまって走ることができなかった。UAEチームエミレーツが先に行かせてくれなかったというより、まずなにより僕ら逃げ集団がもっと協力してスピードを上げるべきだった」(ヴァランタン・パレパントル)
そのうちUAEチームエミレーツが本気の追走に乗り出した。2級山岳の上りで一時は後退したものの、下りを利用して再びプロトン先頭に戻ってきたミッケル・ビョーグが、いつしか強烈な牽引を始めていた。
「逃げにとっては不幸なことに、ミッケルとヴェガール(ヴェガールスターケ・ラエンゲン)が長い上りで生き残った。そして2級を下り終えた後、ステージを獲りに行くかどうかをみんなで話し合った。特にミッケルがやる気だった。調子はいい、勝ちを狙おう、と。だからチームのみんなでタイム差を縮めに行くことに決めた。それに正直に言えば、逃げは最初の上りを激しく攻めすぎたね。あそこで炎を燃やしすぎたんだよ」(ポガチャル)
25km近いダウンヒルが続くクローチェ・アッビオはゲシュケが制していく
後はただ、タイム差は縮まっていくばかり。乗り越えた2つの山岳をいずれもゲシュケが先頭で通過し、インテルジロでバルデが小さなボーナスタイムを収集した以外は、逃げ集団はなんの成果も得られなかった。残り14.5km、最終山岳の入口で、もはや余裕は35秒しか残っていなかった。大部分が無理せず、静かに後退していった。
唯一ヴァランタン・パレパントルだけが、諦めなかった。1年前には兄オレリアン・パレパントルが、似たようなステージで逃げ切り勝利を手にしている。今年は自分の番にしたかった。わずか15秒後にメイン集団は迫っていたが、残り10km、思い切って前に出た。一時は22秒に差をこじ開けた。必死で足掻いた。
「捕まるまで全力で行こうと決めていた。朝から調子がすごく良くて、だからこそ逃げがこんな風に終わってしまったことにがっかりしてる。だってみんなでまとまって走りさえすれば……あと1分半余計に差を開けていたら、逃げ切り勝利を争うことはできたはずだから」(ヴァランタン・パレパントル)
背後では、UAEの山岳牽引役フェリックス・グロスシャートナーが、非情なテンポを刻んでいた。前日マリア・ビアンカを手にしたばかりのルーク・プラップはあっという間に脱落し、この日の最終峠を制した経験を持つアレクセイ・ルツェンコも振り落とされた。あまりに高速だったせいか、山道の途中の中間ポイントでは、誰もあえてボーナスタイム収集には行かなかった。
ラスト5kmで、ポガチャルが誇る最終アシスト、ラファウ・マイカが作業を引き継いた。素早くパレパントルを回収しつつ、猛烈なペースで上り続けた。背後で、他チームのエースたちは一列に並び、ただ黙々とペダルを漕いだ。初夏の強い日差しの下で、奇妙なほど静かなせめぎ合いが続いた。
ラスト2kmに入ってからティベーリが果敢に攻めるも、ポガチャルがそれを上回っていく
ようやく反抗の口火を切ったのは、アントニオ・ティベーリだった。ラスト2kmのアーチをくぐり抜けた直後、22歳の若手はアタックに転じた。新人賞争いのライバル、21歳キアン・アイデブルックスがすかさず追随。さらには同じくマリア・ビアンカ候補の24歳テイメン・アレンスマンだって、大胆に加速を試みた。……ただ昨夏まで4年連続でツール・ド・フランスの新人賞を独占し、今年ついに「大人」になったポガチャルが、すべてに軽々と反応し、あらゆる攻撃を無効化してしまったのだけれど。
しかも攻撃が鎮まったタイミングで、ラスト600m前後、マイカが再び最前列へと舞い戻ってきた。34歳ベテランは、最後の力を振り絞り、エースのための発射台役を務めた。
「きっと他のチームの選手たちはうんざりしてるだろう。十分に分かってる。でも僕は自分のチームのために走っている。チームメイトは僕のために1年中働いてくれている。ここにいる仲間はひたすらジロのためだけにハードな調整を積み、強いチームを作り上げてくれた。だからみんなの望むことに、僕は耳を傾ける必要がある」(ポガチャル)
最後の1km、実力者9人でスプリント勝負!ポガチャルが見事に制し、偉業を達成した
フィニッシュ手前200m。前日総合2位に浮上したばかりのダニエル・マルティネスが、スプリントに向けて腰を上げた瞬間だった。ポガチャルが鋭い加速を切った。「アレルギーのような感じ」でちょっと鼻が詰まっていたが、自慢の爆発力になんら影響はなかった。勝負はあっさりと決した。
前日に続く2連勝にして、今大会8ステージを終えすでに3勝目。今シーズンは18日間レースを走り、早々と10勝目に達した。フィニッシュラインでは当然のようにボーナスタイム10秒も収集し、総合タイム差も改めてほんの少し押し広げた。ポガチャルがマリア・ローザを着てちょうど1週間。総合2位マルティネスにつけた2分40秒という差は、なんと2002年第8ステージで1位と2位の差が3分33秒に開いて以来の大差だという。また前日の段階では総合トップ10はかろうじてポガチャルの5分以内にとどまっていたが、いまや総合7位以下が5分以上の遅れを喫している。
「僕は8ステージ中3つを勝ったけど、5つのステージでは勝てなかったわけで。だから他の選手たちにもたくさんのチャンスはあるということさ」(ポガチャル)
もがくマルティネスが区間2位に、ベン・オコーナーが区間3位に滑り込んだ。最後に攻撃力を披露したアントニオ・ティベーリは、総合3位ゲラント・トーマス、エイネルアウグスト・ルビオ、そしてアイデブルックスと共に2秒遅れでフィニッシュ。つまり総合2位マルティネス、3位トーマス、4位オコーナーの順に変動はなかった。
また前日の総合5位プラップが一気に総合32位まで転落し、総合6位ルツェンコも11位へ後退したため、代わりにアイデブルックスが総合5位浮上。わずか1日で新人賞の白いジャージを取り戻した。21秒遅れの総合6位・新人賞2位に、ティベーリもぴたりとつけている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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