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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第7ステージ】ポガチャルが登坂タイムトライアルで完勝、7日目にしてジロを完全制圧か。「ポジティブな意味で、今日の自分の走りには少し驚いている」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか上りに絶対的自信を感じさせる走りでガッツポーズ!
火の玉みたいに坂を駆け上がって、タデイ・ポガチャルがすべてを吹っ飛ばした。全長40.6kmの個人タイムトライアルを、51分44秒88という圧倒的なトップタイムで攻略。世界屈指の独走スペシャリスト、フィリッポ・ガンナを17秒差で抜き去り、マリア・ローザ争いでは、総合2位以下に早くも2分半以上の大差を押し付けた。まるで最終日の個人タイムトライアルを見ているかのようだった。フィニッシュラインでは力強くガッツポーズさえ握りしめた。
「この日のためにたくさんの練習を積んできた。TTバイクの上で快適な時間を費やすこと目指して、多くの時間を費やしたし、バイクの上でも、それ以外でも、入念に準備に取り組んできた。ハードワークが報われて本当に嬉しい」(ポガチャル)
フィリッポ・ガンナはトップタイムを更新したが…
序盤の平坦路だけなら間違いなくガンナが快勝だった。スタートから18.6km地点の第1計測も、34km地点の第2計測でも、群を抜くタイムを叩き出した。歴代最高56.792kmのアワーレコード保持者として、ただひとり平地で時速52km超を記録しつつ、ラスト6.6kmから始まる上りへとトップで飛び込んだ。
上り始めの1.3kmの平均勾配はほぼ12%に至り、麓には最大16%ゾーンも待ち受けた。そんな激坂にも関わらず、ガンナは大きな体躯を武器に、60Tという大きなフロントシングルを回した。1分毎にスタートしていた前走者たちを計7人も追い抜いて、52分01秒でストップウォッチを止めた。
88番目に出走したガンナは、最終165番目のポガチャルが走り終えるまで、約1時間45分にもわたってホットシートを温め続けることになる。待ち時間の途中には同僚のマグナス・シェフィールドが次点に、テイメン・アレンスマンがその次に入り、イネオス・グレナディアーズのチームとしてのタイムトライアル能力の高さを見せつけた。最終的にこの3選手でイネオスは区間2位から4位までを独占し、大会4日目から守り続けてきたチーム総合首位の座をさらに堅固なものとする。
肝心のイネオスのエースだけは、満足な走りができなかった。開幕前からポガチャルは今ステージを恐れていたし、中でもトラックの団体追抜で何度も世界の頂点を極め、若き日からTT巧者として鳴らしてきたゲラント・トーマス の存在を、最大限に警戒してきた。ところが開幕直後からポガチャルのあらゆるアタックに身軽に反応し、ボーナスタイムもこつこつと貯め、納得の総合2位につけていたトーマスは、「真実の試験」の当日に……まさかの「ついてない日」にはまってしまう。平地部分からすでに不調は明らかだった。第1計測ではポガチャルへの遅れを9秒に留めたが、第2計測でトーマスの遅れは早くも40秒に。
「自分のリズムを保ち、自分自身の走りに集中した。スタートの時点では、大丈夫だ、行ける、と感じていたけど、少しだけ足りなかった。あれ以上は上げられなかった」(トーマス)
ゲラント・トーマスの“ついてない日” 向かい風に苦しむ
ガンナをさらに上回る巨大な66Tのフロントシングルを選んだというトーマスは、激坂パートではリズムを保つのに大いに苦心した。上りきった先のフィニッシュでは、ポガチャルからの遅れは2分にも達した。区間は10位で終えた。
総合での遅れが、2分46秒差に拡大しただけではない。1年前のジロ最終日前夜、やはり登坂タイムトライアルでバイク交換&ヘルメット交換という大胆すぎる作戦の果てにマリア・ローザを脱いだトーマスは、この日はダニエル・マルティネスに逆転さえ許した。昨シーズンまでイネオスのチームメイトだったマルティネスは、ステージ前半こそ大きく遅れたものの、得意の山場で上手く巻き返した。ポガチャルから1分49秒遅れの区間8位に食い込み、総合では順位を1つ上げ、2分36秒差の総合2位につけた。
またベン・オコーナーが総合11位から一気に総合4位へと前進し、前日マリア・ローザを取りそこねた23歳ルーク・プラップは、総合5位に浮上すると共に、新人賞首位に立った。マリア・ビアンカは失ったものの、21歳キアン・アイデブルックスはいまだ8秒差で追いかける。大会2日目の遅れを取り戻すかのように、22歳アントニオ・ティベーリは総合順位を21位から8位へ、マリア・ビアンカ争いでは7位から3位へと大幅にジャンプアップを成功させた。
40km超えの個人タイムトライアル!マリア・ローザのスタート
ただ王者の爆走の前には、すべてが霞んでしまった。ポガチャルにとっては昨8月11日の世界選手権個人タイムトライアル以来……つまり丸々9ヶ月ぶりの個人TTであり、だからこそ極めて慎重に走り出したはずだった。
「まず最初は良いペースに乗ろうと考えた。あまり飛ばしすぎず、自分のペースをつかみたかった。数キロ走った先で、脚の調子が良いことを確信した。だから平坦部分ももう少しプッシュすることにしたんだ。特にコーナーを抜け出すたびに、スピードを上げるよう心がけた」(ポガチャル)
第1中間までの18.6kmでガンナに対して44秒もの遅れを取りながら、続く第2中間までの15.4kmでは、わずか3秒しか落とさなかった。勝負の4級山岳には47秒ビハインドで上り始めた。昨ツールの第16ステージ、「マイヨ・ジョーヌを取りに行く」つもりで飛ばした登坂タイムトライアルでヨーナス・ヴィンゲゴーの異次元の走りに打ちのめされた悪夢を、繰り返すつもりはなかった。
「上りに入る2km前から、できるかぎり呼吸を整えた。そして道が上り始めたら、あとはてっぺんまで全力だった」(ポガチャル)
大きなギアを踏みつけたガンナやトーマスとは違い、ポガチャルは小さく軽やかにペダルを回した。最終6.6kmはガンナより1分04秒も、トーマスより1分20秒も早く上った。上りだけなら2番目に速かったマルティネスでさえ、32秒も足りなかった。
山の上で、ポガチャルは、今大会ステージ2勝目をあっさり手に入れた。2020年ツール第20ステージ、2021年ツール第5ステージに続く、自身3つ目のグランツールTT区間勝利。これでグランツール区間勝利数を通算16勝にのばしたのはもちろん、参加した6つすべてのグランツールで、少なくとも2区間ずつは勝ち取ったことになる。またジロ開催委員会のトリビアによると、21世紀のジロで通常区間とTT区間とを同一年に制した選手は、2020年大会のガンナに続く2人目なんだとか。
「ポジティブな意味で、今日の自分の走りには少し驚いている」
「ポジティブな意味で、今日の自分の走りには少し驚いている。ただ自転車の上で本当に調子良く感じたし、それこそが目指してきたこと。トーマスとマルティネスとはもっと接戦になると予想していた。でもハードな1日だったし、それだけハードなTTだったということ」(ポガチャル)
それにしても、いまだ2024年ジロは3分の1しか終わっていないというのに、まるで早々と決着がついてしまったかのようだ。ポガチャルはすでに総合2位に2分36秒という大差をつけてしまった。4位以降に至っては、3分半差とひどく遠い。
「これで少しリラックスしたいところだけど……でもローマまではいまだ遠い。本格的な山岳ステージさえ始まってないんだから。誰もが遠くからアタックを仕掛けてくるだろうし、逃げを試み、機会を虎視眈々と狙ってくるはずだ。だからこの先はレースコントロールが非常に難しくなるだろう。まだなにも終わってはいない」(ポガチャル)
宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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