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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第5ステージ】バンジャマン・トマが自身も予想外の逃げ切りでUCIワールドツアー初優勝 世界を5度制したトラックの走りをロードに応用し大仕事成し遂げる
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介勝利を祝うバンジャマン・トマ
3日連続のスプリントフィニッシュが予想されていた第5ステージ。プロトンの静かなムードを切り裂くように中盤で飛び出した4人が逃げに逃げ、果ては大集団の追撃をかわしてみせた。ステージ優勝をかけた勝負は、この展開のきっかけを作ったバンジャマン・トマ(コフィディス)が制した。
「直感にしたがって走った結果だよ。もともと逃げでチャンスを探ってはいたけど、実のところ今日のステージは僕向きだとは思っていなかった。でも走りながら“逃げたら何か起きるかも”と感じたんだ。さすがに勝つことまではイメージしていなかったけど…クレイジーだね!」(トマ)
4選手が逃げグループを形成して始まったレースは、セオリー通りスプリンターチームがメイン集団をコントロールする形で進んだ。50km地点を前にして上りが始まると、アルペシン・ドゥクーニンクが意識的にペースを上げて、他チームのスプリンターの消耗を誘う。ファビオ・ヤコブセン(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)が真っ先に遅れ、ティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)やカレブ・ユアン(ジェイコ・アルウラー)らもポジションを下げた。彼らはその後の下りで集団復帰をしたものの、肝心のスプリントを前に脚を使わざるを得ない状況となる。
図らずも、先頭4人とのタイム差も縮小。63.1km地点に置かれた3級山岳の頂上は逃げのシモン・ゲシュケ(コフィディス)が獲ったが、ほどなく集団が追いついた。そこからしばらくはパレード走行を思わせるほどのサイクリングペースに。
しばしの“休息”を経て動き出したのは、99.2km地点に設けられる第1中間スプリントに向かって。再びアルペシン・ドゥクーニンクが先頭に立ち、それをマリア・チクラミーノ着用のジョナサン・ミラン擁するリドル・トレックがチェック。両チームが主導権を争う中からカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)が加速して1位通過。オラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)、ミランと続いた。
4選手が逃げグループを形成
この直後だった。スプリントを終えて少しばかり緩んだプロトンから、4人が足並みをそろえて飛び出した。それを率いたのはトマ。結果としてステージの行方を左右する動きとなるわけだが、当然このときは誰もそうなるとは思いもしない。
「数人に“一緒に行かないか?”と声をかけたんだ。一番に話に乗ってきたのがミケル・ヴァルグレン(EFエデュケーション・イージーポスト)だった。自分と同じフランス人ライダーも誘ったら、エンゾ・パレニ(グルパマ・FDJ)が行くと言ってきた。もうひとり、アンドレア・ピエトロボン(ポルティ・コメタ)も加わって、チャレンジが始まったんだ」(トマ)
フィニッシュまでの残り距離が80kmを切っていたこともあり、それほど大きなリードは得られない。メイン集団ではアルペシン・ドゥクーニンクを中心にタイム差のコントロールがなされていて、タイム差は広がっても1分30秒程度。それでも、申し合わせて逃げを打った4人である。協調、さらには結束力は固かった。
「チームパシュートをしているかのようだった。僕としては、間違いなくトラック競技の経験が生きていた」(トマ)
集団ではたびたび落車が発生。数人が絡んで地面に叩きつけられるが、レースの大勢にはさほど影響しない。ただ、逃げ4人とのタイム差がなかなか縮まらない。1分前後のタイムギャップから動きがないまま残り20kmを切ったあたりから、集団のムードが少しずつ慌ただしくなっていった。
「スプリントを狙うチームの間でも考えが一致していなかった。前を追わなければいけないのに、実行に移そうとするチームが少なかったんだ。もう少しみんなで力を合わせなければいけなかった」(ミラン)
残り10kmでその差44秒。リドル・トレックやスーダル・クイックステップ、ジェイコ・アルウラーが集団牽引を担うが、選手やチームによっては先頭交代を拒否する様子も見られ、テンポよく追い上げる空気感は見られない。
それよりなにより、逃げ4人の勢いが衰えない。残り5kmで40秒差。この頃には集団牽引にイネオス・グレナディアーズも加わるが、だからといってその差が一気に縮まる感じでもない。逃げ切りのムードが高まっていく。残り1kmでも22秒のリード。集団の追い上げを見事にかわした。
「残り3kmの石畳セクションで十分なタイム差があると分かって、そこで初めて勝てるかもしれないと思った」(トマ)
ラスト100m!見応えのある展開となったステージ優勝争い
勝負のときがやってきた。終盤にきて先頭交代のローテーションから外れがちになっていたピエトロボンが一気呵成のアタック。それまで貯めていた脚で他の3人を引き離しにかかる。しかし、フィニッシュを目前にスピードが落ちた。そこをトマとヴァルグレンが見逃さない。残り100mで追いつくと、ステージ優勝をかけたスプリントへ。最後は、ヴァルグレンの付き位置からトマがスパート。一番にフィニッシュラインに飛び込んだ。
「誰よりも僕が一番びっくりしているよ。今朝、誰かに“今日勝つのは君だよ”と言われたとして、信じられるわけがない。でも本当に勝ったんだ。努力してきた甲斐があったと心の底から思えるよ」(トマ)
サイクリストとしてのキャリアは十二分である。トラック競技ではオムニアムとマディソン合わせて5度、マイヨ・アルカンシエルを獲得。2021年の東京五輪でも、マディソンで銅メダルを手にしている。フランスきってのトラックスペシャリストは、並行して取り組むロードレースでは意外や意外、これがUCIワールドツアー初勝利である。脚質的にはスプリントやタイムトライアルを得意とするが、同じトラックとロードの“ダブルワーカー”であるミランやフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)のような派手さは、お世辞にもあるとは言えない。
「今日の勝利に限らず、普段からトラックの走りがロードにつながっていることは間違いない。ミランやガンナの走りがそれを証明している。ただ、僕個人としては彼らのような走りができないのは認めざるを得ない。彼らと比べて僕は体が小さい(身長179cm・体重68kg)からね。だから逃げに活路を見出しているんだ」(トマ)
今大会ですでにスプリントで魅せているミランや、アタックでインパクトを残したガンナだけではない。トマもジロが終われば、パリ五輪にフォーカスする。今年の最大目標はオムニアムでの金メダル獲得だ。きっと、この勝利が彼の走りに勢いをもたらすに違いない。
ジロエクスプレスと並走する集団
そして、コフィディスにとってもこれが今季初勝利。2025年シーズン終わりに決まるUCIワールドチーム残留へ、「早くも黄色信号か?」なんて声も聞かれるけれど、ここから巻き返しを図っていく。
逃げ切った4人がステージ上位を占め、メイン集団は5位を争うスプリント。ここはミランが先着して、マリア・チクラミーノをしっかりキープしている。
「今日も勝ちたかったよ。チャンスを逃してしまった…悔しいね。でもチームメートが僕のスプリントのためにたくさん働いてくれた。感謝しているよ」(ミラン)
そして、マリア・ローザは引き続きタデイ・タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が着用する。このステージも危なげなく走り終えた。
「集中して走れているよ。ジロ・デ・イタリアは初出場だけど、5月にこのレースを走れるのはとても幸せなことだね」(ポガチャル)
プロトンは第6ステージでトスカーナの未舗装路へ足を踏み入れる。ストラーデ・ビアンケでも使用されるグラベルセクションは、今大会そのものの流れを生み出す可能性を秘める。週末には個人タイムトライアル、本格山岳と続いていく。この2日間、セーフティに走ったポガチャルの独壇場となるだろうか。
大会はまだ第1週である。ここから数日、われわれはいつも以上に壮大なイタリアの旅を感じることとなるだろう。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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