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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第4ステージ】“リトル・サンレモ”を制したのはジョナサン・ミラン 勝利の雄たけびは「ジロに100%集中していることの表れ」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ステージ優勝後「シモーネ・コンソンニを中心としたチームの働きに言葉を失う」と賞賛したミラン
フィニッシュ前4kmで待ち受けたカポ・メーレの上り。どのようにクリアし、スプリントへと持ち込むか、イメージははっきりしていた。何なら、誰がアタックするかさえも想定できていた。リードアウトマンが追いかけ、追いつき、そしてみずからのスプリントへ。勝つその瞬間まで、プラン通りに事は運んだ。
ミラノ~サンレモの最終盤で走る地中海沿いの海岸線を進んだ第4ステージ。前日に続いてスプリンターが主役となった1日は、ジョナサン・ミラン(リドル・トレック)が勝利。カポ・メーレでのフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)のアタックにはアシスト陣が対処。追いついた流れからそのままスプリントへと持ち込んで、激戦を制した。
「これこそが力勝負! 誰に競争力があるかを証明する素晴らしいフィナーレだったね。エディ(エドワルト・トゥーンス)とシモーネ(コンソンニ)は最高のリードアウトをしてくれた。それに応えられて本当にうれしいよ」(ジョナサン・ミラン)
走行距離50km。先頭の3人、ムニョス、カルメジャーヌ、デボッドを4分05秒差で追いかける集団
第3ステージ同様に、レースは静かに始まった。フランシスコ・ムニョス(ポルティ・コメタ)のファーストアタックに集団は反応せず、続いたリリアン・カルメジャーヌ(アンテルマルシェ・ワンティ)、ステファン・デボッド(EFエデュケーション・イージーポスト)も労せず逃げに加わった。その後に合流を図ったガンナの飛び出しで様子が一変するかに思われたが、状勢が慌ただしくなる前に集団に戻っている。何やら、チームカーから逃げをやめるよう指示があったという。
5分30秒ほどのリードを得た先頭の3人は、そのままレース半ばに連続するスプリント・山岳両ポイントへ。79.2km地点に設定された第1中間スプリントはムニョスが1位通過。メイン集団ではスプリンター陣が競ってカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)が先着。全体の4番手で通過している。
穏やかだったムードが少しずつ変化したのは、88.1km地点で頂上を達した3級山岳。カルメジャーヌが1位通過したが、その先の下りが濃霧で視界不良。この頃にはメイン集団ではヤン・トラトニク(ヴィスマ・リースアバイク)がコントロール役を担い、ペースが固まり始めていた。上りではファビオ・ヤコブセン(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)ら一部のスプリンターがついていけなくなり、霧の下りではベン・オコーナー(デカトロン・AG2Rラモンディアル)やビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)らが絡むクラッシュが発生。
特にギルマイにいたっては再出走までに時間を要し、何とか走り出したものの今度は単独で落車。心身ともに走り続けられる状況にはなく、リタイアを決断した。
116.5km地点に設けられたインテルジロもムニョスが1位通過。少し置いてやってきたメイン集団は、オラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)が先着して全体4位としている。
3級山岳通過後にリリアン・カルメジャーヌが集団に戻ったため、逃げは2人に。メイン集団はヤン・トラトニクが長く牽き、そこにリドル・トレックも加勢したことで着実にタイム差が縮まっていく。残り40kmで2分だったその差は、10km進んで1分30秒、さらに10km進むと1分に。フィニッシュまで20kmとなる頃には多くのチームがトレインを組んで、レース終盤を見据える。
タイム差1分を切ってから一層粘りの姿勢を見せたムニョスとデボッドだったが、それも残り5kmまで。スプリント決着へ、状況は整った…かに思われた。
アタックに出るフィリッポ・ガンナ。
残り4km。最終登坂のカポ・メーレでガンナがアタック。前日と同様に、フィニッシュ目前で逃げを集団が追う構図となる。海沿いのワインディングを攻めるガンナは6秒のリード。集団から散発的に追走狙いのアタックが見られるが、どれも決まらない。頂上を越え下りに入ると、態勢を整えたリドル・トレックが本格的に追撃を開始。ミランを引き上げ、ガンナをキャッチした流れからスプリントに持ち込む構えだ。
「ガンナがカポ・メーレでアタックすることは予想できていた。イタリア代表ではチームメートだけど、今日はライバル。負けるわけにはいかなかったんだ」(ミラン)
ガンナのアタックにも慌てず、最終局面に向けて着々とミッションを進行させたリドル・トレック。残り500mでガンナをキャッチすると同時に、発射台のコンソンニが腰を上げる。その脇からはヴィスマ・リースアバイクのトレインも上がってきたが、十二分なお膳立てを受けたミランはみずからのタイミングで加速するだけだった。
2004年以来、24歳未満でジロ2ステージを制した初のイタリア人選手となったジョナサン・ミラン
「今日は中間スプリントを狙わないと決めていて、途中の上りでもできるだけ脚を使わないよう心掛けた。だからフィニッシュ前でも脚はフレッシュだったんだ。最初から最後まで、プラン通りにレースをすることができたよ」(ミラン)
スプリンターの中でもひときわ大きな体躯の男が、重戦車のようにグングンと突き進む。一見接戦のように感じたフィニッシュ前の争いは、よくよく見ればライバルを圧倒している。ひとり別次元のスピードで“リトル・サンレモ”と称された第4ステージを勝ってみせると、全身で喜びを表した。続けてフィニッシュにやってきたアシスト陣も大興奮だ。
「最高の気分だよ。ついついたくさん叫んでしまったけど、ジロ・デ・イタリアに100%集中していることの表れだと思ってほしい。僕はこのレースに賭けているんだ」(ミラン)
勝利に導いたコンソンニとともに、ジロが終わればパリ五輪へとフォーカスすることが決まっている。イタリア代表では、トラック競技・チームパシュートの主力だ。この日レースを盛り上げたガンナも代表チームの大事な仲間。だが、当面はいま置かれている状況にコミットする。勝ったことでめぐってきたマリア・チクラミーノ。ポイント賞2連覇を目指す戦いが、いよいよ始まる。
「ジロが終われば五輪に向けて一度休もうと思っている。でも今は関係ない。チームメート、そして僕たちのために尽力してくれているスタッフのためにも3週間走るつもりだよ。今日のステージを観に来てくれた両親のためにもね。」(ミラン)
スプリントに沸いた後ろでは、マリア・ローザもきっちり集団でレースを完了。普段はこのあたりでトレーニングをしているというタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)は、危なげなくジャージを守っている。何より、スプリンターチームが終始レースをコントロールしたので、リーダーチームであるUAEチームエミレーツにとっても負担なく走り終えることができた。
「僕としても、チームとしても良い1日だった。ガンナのアタック? 彼をチェックするには(集団内の)ポジションが悪かった。でもまったく問題ない。リラックスして走れたことが大満足だよ」(タデイ・ポガチャル)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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