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サイクル ロードレース コラム 2024年5月7日

【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第3ステージ】ティム・メルリールが亡きウェイラントに捧ぐジロ通算2勝目 ウルフパックとしても記念すべきジロ30勝目

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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マリア・チクラミーノを獲得したメルリール

意気揚々とイタリアに乗り込んだスプリンターたちの“予定”が大きく狂う一歩手前だった。前日に別次元の強さを印象付けたマリア・ローザによるアクションだったものだから、彼らにとっては食い止めるのが余計に困難だった。狂いかけたシナリオを間一髪のところで本来の軌道に戻して、いざ勝負。いまのプロトンをときめくスプリンターたちによる競演は、ティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)に軍配。大会3日目にしてついに迎えた一つ目のスプリントステージをモノにした。

「今日はとても集中できていた。グランツールで最初のスプリントを勝つことが多いって? 理由までは分からない。でも今日に限っては、いつも以上に集中できていたことが勝因だろうね」(ティム・メルリール)

各チームトレインを組んで位置取り争い

開幕前は、第1ステージからスプリンターたちが競うのではないかとの見方もあった。実際に今大会最初のマリア・ローザ着用を目標に据えたスプリンターもいたし、やる気になっていた者も少なくなかった。しかしふたを開けてみれば、UAEチームエミレーツによる徹底したペーシングがスピードマンたちの可能性を摘み取っていった。大多数のスプリンターが早々に後方へと下がり、グルペットでレースを終えることになった。

それから、彼らがフォーカスすべきは第3ステージになった。

166kmに設定されたレースは静かに始まった。アクチュアルスタートに合わせて飛び出す選手は現れず、プロトンは一団のまま進む。

実質最初のアクションは、リリアン・カルメジャーヌ(アンテルマルシェ・ワンティ)によるものだった。50km地点を過ぎたところでスルスルと集団から抜け出して、労せずリードを広げていく。デヴィデ・バッレリーニ(アスタナカザクスタン)も追ってきて、2人逃げの態勢に。しかし、58.1km地点に置かれたこの日唯一のカテゴリー山岳(4級)をカルメジャーヌが1位通過すると、目的を果たしたとして集団へと戻る。ひとり取り残されてしまったバッレリーニもやがて集団に下がる判断をしている。

無料動画

【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第3ステージ|Cycle*2024

78.8km地点に設定された第1中間スプリントが近づくと、リラックスムードのプロトンが少しずつ締まりを見せ始める。アルペシン・ドゥクーニンクやチューダープロサイクリング、アンテルマルシェ・ワンティなどが隊列を組んで先頭付近を固める中、ジョナサン・ミラン(リドル・トレック)が先に仕掛けたエドワルト・プランカールト(アルペシン・ドゥクーニンク)をパスして1位通過。

前線のスプリンターたちがスピードを緩めたタイミングを利用して、フィリッポ・フィオレッリ(VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ)が飛び出した。マリア・チクラミーノのアクションには、脚を止めていたスプリンター陣も一斉に反応し、気が付くとメイン集団に対して1分30秒近いタイム差。中間スプリントを前に自然発生した中切れも彼らの動きを誘発する一因となった。そのまま97.1km地点のインテルジロへと突き進む流れになって、再びミランが1位通過に成功している。

メイン集団はいささかパニック気味になっていた。先頭にメンバーを送り込んでいないポルティ・コメタやモビスター大急ぎでタイム差を縮めにかかると、強い風も作用してあちらこちらで分断が発生。マリア・ローザを着るタデイ・ポガチャルは好位置をキープするが、マリア・ビアンカのキアン・アイデブルックス(ヴィスマ・リースアバイク)は反応が遅れて後方に取り残されてしまう。

レース後半は気の緩む暇もなかった

結果的に30kmほど進んだ先で後ろの選手たちは前線復帰を果たし、タイミングをほとんど同じくして先頭を走っていた選手たちも集団へと戻された。ただ、こうした流れがレース序盤のゆったりムードを忘れさせ、この先に待つ思いがけない展開の伏線となったのだった。

フィニッシュまで30km以上を残しながら各チームが隊列を組み始めたのは、スプリントを狙うチームの強い意志の表れ。143.9km地点の第2中間スプリントに向けては、ポガチャルも前へと上がってきてボーナスタイム獲得を狙う。ベン・スウィフト(イネオス・グレナディアーズ)に1位通過は阻止されたが、2番手は押さえて2秒ボーナスをゲット。この先マリア・ローザを争うことになるであろうゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)は3位通過で1秒ボーナスを手にしている。

「中間スプリントでは何もしないつもりだった。でも、イネオス・グレナディアーズがペースを上げて、ボーナスタイムを狙う姿勢を見せていたので対応するほかなかった。彼らの動きは常にチェックしていないといけないからね。トーマスに対しては1秒でも多くリードして、レースを有利にしておきたいしね」(タデイ・ポガチャル)

さあ、スプリントに向かって…となるものと誰もが思っていた。残り10kmを切ってイネオス・グレナディアーズやグルパマ・エフデジが前を固め始めると、残り4.5kmから始まるこの日最後の上りでは、チューダープロサイクリングやリドル・トレックも主導権争いに加わる。しかし、それら隊列の中にマリア・ローザが割って入っているのが、セオリー通りにはいかない“何か”を予感させる。

その予感は的中する。残り3kmでミッケルフレーリク・ホノレ(EFエデュケーション・イージーポスト)がアタックすると、すかさずマリア・ローザが反応した。スプリント狙いのチームがまごつく間に、トーマスも集団から抜け出して前の2人に追いついた。

ばら色におめかししたポガチャル

「自分からアタックするつもりはなかったんだ。ミッケルのアタックに合わせているうちに、集団との差が広がっていて…それに気づいたのもしばらくしてからだからね。さすがに勝つのは難しいと思ったけど、こうなったらやってみようと」(ポガチャル)

逃げ切りにフォーカスしたポガチャルについていけたのは、トーマスだけ。ホノレは付き切れし、やがて集団に飲み込まれた。その集団は、数秒先を走る今大会の“2強”になかなか迫れない。スプリントを想定していた多くのチームがリードアウトマンを追走に費やす格好となり、最後はスプリンターみずからが2人を追いかけ、そのままトップでのフィニッシュを目指すという「力業」に出るほかなくなった。

どうにか、こうにか、ポガチャルとトーマスを捕まえたのが残り200m。そのままスプリントが始まって、先に仕掛けたトビアスルンド・アンドレースン(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)の両脇からミランとメルリールが加速。2人が左右両サイドから伸びて、ほぼ当時にフィニッシュラインに向かってハンドルを投げた。

写真判定にゆだねられたステージ優勝は、メルリールで確定。当の本人はフィニッシュと同時に勝利を確信し、両手で「W」マークを天にかざしていた。それは、2011年の第3ステージレース中に事故で命を落としたワウテル・ウェイラントに捧ぐことを意味する。

「ワウテル・ウェイラントが亡くなった時、僕は18歳。彼は僕にとってアイドルだったから、すごくショックで、まるで昨日のことのように記憶に残っている。2021年にジロで初めて勝った時もそうだったけど、今回も彼に捧げたいと思っていた。彼の親友であったイーリョ・ケイセが今、僕たちのチームでスポーツディレクターを務めていることにも運命を感じずにはいられないんだ」(メルリール)

そんなエモーショナルな勝利だけど、メルリールに言わせれば「今まで勝ってきた中で1,2を争うくらい苦しいレースだった」という。

「最後の上りで(集団内の)ポジションを下げてしまい、それを戻すのに必死だった。だから、ポガチャルとトーマスの動きは見えていなかったんだ。誰かが前に行ったことだけは把握できていて、とりあえず追いかけなきゃという思いだけだった。今日のレース途中でスプリンターたちが逃げるような形になったけど、それをポガチャルたちが怒っていたのかもね…これからは彼らを怒らせないように気を付けなきゃね(笑)」(メルリール)

ウェイラントに勝利を捧げるメルリール

何にせよ、ジロ通算2勝目である。昨年は出場がかなわなかったグランツールへの復帰をみずから祝う価値ある1勝。「スプリント以外にも僕にできる仕事はあるはずだ」とグランツールのメンバー入りを熱望していた男は、自分のスピードでもってその力を証明するとともに、ウルフパックに記念すべきジロ30勝目をもたらしている。

メルリールが言うように怒っていたのかは定かではないけれど、このステージもポガチャルは攻撃的な姿勢を崩さなかった。逃げ切りはならなかったものの、2位トーマスとの総合タイム差を46秒に広げることには成功している。

「今日はスプリンターズデーだったからね。でもトライして良かったと思っている」(ポガチャル)

トライして良かった…それはトーマスも同感だったよう。

「自分の走りには満足しているよ。最後の上りでは明らかにプロトン全体が疲れていた。タデイの動きに乗るべきだと直感が働いたね。やってみて良かったよ」(ゲラント・トーマス)

続く第4ステージも平坦にカテゴライズ。再びスプリンターが主役になるものとみられるが、フィニッシュ前3kmの小さな丘に“魔物”が潜んでいるかもしれない。第3ステージの展開を受けて、さすがにスプリンターチームも対策するだろうけれど…ポガチャルとトーマスの“本気具合”には誰もが戦々恐々としているに違いない。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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