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サイクル ロードレース コラム 2024年5月6日

【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第2ステージ】叶えられなかった「夢」を射止めたポガチャル。全てのグランツールで区間優勝達成に「自転車界では大きな快挙。最高にハッピー」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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全てのグランツールで区間優勝を果たし、歴史に名を刻んだポガチャル

全てのグランツールで区間優勝を果たし、歴史に名を刻んだポガチャル

初日に叶えられなかった「夢」を、今度こそ確実に射止めた。残り4.5kmでタデイ・ポガチャルはすべてを振り払うと、オロパの聖域へと、単身で駆け上がった。初めてのマリア・ローザを颯爽と羽織り、総合2位以下には早くも45秒差を押し付けた。

「ジロのステージ勝利を夢見てた。ツールとブエルタで区間を勝って以来、ジロだけが足りなかったから、ずっと胸の中に思いを抱えてきた。3大ツールすべてで区間を勝った選手はそれほど多くはないから、自転車界においては大きな快挙。最高にハッピーだ」(ポガチャル)

同じ失敗は繰り返さなかった。フィリッポ・フィオレッリはスタートと同時に弾丸のように飛び出すと、小さなやり合いの果てに、5人の先頭グループを作り上げた。2日連続の逃げ挑戦。マリア・チクラミーノ姿ではあったけれど、実際のポイント賞順位は3位に過ぎない。1位ジョナタン・ナルバエスがマリア・ローザを、2位リリアン・カルメジャーヌがマリア・アッズーラを優先着用した結果、単にお下がりで着ていただけ。

「今ステージは僕がチクラミーノを着て走ると聞かされた時、たとえジャージが本当は僕のものではないとしても、すごく嬉しかった。今朝チームと計算してみたところ、山頂フィニッシュはフィニッシュでのポイントが少ないから、中間とインテルジロだけでジャージが取れると判明した。だからベストを尽くしてみることにした」(フィオレッリ)

チームメイトのマルティン・マルチェルージが一緒に逃げてくれた。先頭グループの全員がイタリア人だったせいか連携もスムーズだった。ステージ前半の道は限りなく平坦で、マリア・ローザ擁するイネオス・グレナディアーズが最大4分半の余裕を与えてくれたおかげで、逃げ集団へのストレスも少なかったはずだ。第1中間ポイントではまったく争うことなく、フィオレッリは楽々と満点を手に入れた。

5人のイタリア人選手が逃げに乗り、繰り下げ着用だったフィオレッリがマリア・チクラミーノを獲得

5人のイタリア人選手が逃げに乗り、繰り下げ着用だったフィオレッリがマリア・チクラミーノを獲得

もちろん最終的なチクラミーノを狙うスプリンターたちが、残されたわずかなポイントを収集しようと第1中間やインテルジロをめがけて隊列を組み上げ、そのたびにリードは急速に縮んでいった。106.6km地点のインテルジロに差し掛かる頃には、すでに道は起伏をはらみ、差も2分を切っていた。この時ばかりはバイスが真っ先に仕掛けた。ただフィオレッリは素早く反応し、きっちり先頭通過。前日との総計を42ポイントにのばし、1日の終わりには、望み通りマリア・チクラミーノ表彰式を楽しんだ。前日はあちこちでポイント収集に励んだ挙句に手ぶらで帰ったが、この日のフィオレッリは中間ポイント賞・フーガ賞・インテルジロ賞のすべてで総合首位に立った。

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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第2ステージ|Cycle*2024

スプリンターたちのポイント貯金に関しては、前日に続き、カーデン・グローブスが最も勢力的に動いた。翌3日目からの平地連戦を前に、チクラミーノ最終候補としては最多の8ポイントを確保。またグランツール区間11勝を誇りながら、これまでジャージ獲りには一切興味を示してこなかったカレブ・ユアンも、今区間は2度のポイント収集機会でスプリントに混ざった。

念願を果たしたフィオレッリは、インテルジロを最後にプロトンへと戻り、そのインテルジロへ向けたダッシュを利用して、アンドレア・ピッコロが逃げ集団からさらに前へ出た。目標はずばりステージ優勝。「簡単ではないことは分かっていたが、トライしなければ始まらない」と、2年前のジャパンカップで2位に食い込んだ23歳は、単独での逃げに切り替えた。少なくなったタイム差も、一時は再び3分にまでこじ開けた。

ただラスト50kmには3つの山岳が連なり、なにより道の果てには、今大会初の山頂フィニッシュが待っていた。序盤の平地では最前列にコントロール役を1人配置していただけのイネオスも、山の接近とともに、いよいよチーム全員で隊列を組み上げた。ナルバエスのピンク保守の可能性を潰してしまわぬように、同時に昨ジロ総合2位ゲラント・トーマスの戦いを有利に運ぶために、黙々と一定リズムを刻む。少しずつ、着実に、ピッコロとの距離を縮めていく。

一方のUAEチームエミレーツは、序盤からアシストを惜しみなく働かせた前日とは異なり、この日は100kmを過ぎまで控えめに過ごした。山入り後もすぐには主導権を取りに行かず、あくまで最終峠を待った。ひどくクレイジーだった初日と比べれば、極めてクラシカルな手法を選んだ。

集団はイネオスとUAEチームエミレーツが終始コントロール

集団はイネオスとUAEチームエミレーツが終始コントロール

しかし、ジロは、いつだってドラマに満ちている。最終登坂オロパの登坂口に第2中間ポイント……すなわちボーナスタイム発生ポイントが設置されていたものだから、自ずとプロトン内の緊張感は高まった。複数の総合チームが前方へと競り上がり、スピードも急激に増していく。それでも世界最高ルーラー、フィリッポ・ガンナの引くイネオス隊列が決して場所を譲らず、ライン手前で巧みにトーマスを最前線へと押し出した。いまだ1分半先を行くピッコロに次いで、元ツール覇者は2位通過2秒を手中に収めた。ガンナも3位1秒を回収した。

……そんな最悪のタイミングで、ポガチャルがパンク!しかもバイク交換しようと停止する直前、空気の抜けた前輪をコーナーで滑らせ、地面に転がり落ちてしまった。さらには大急ぎで背後に上がってきたチームカーに、あわや轢かれてしまうところだった。

「大騒ぎするほどのことではない。僕はコーナーの前で止まろうと思っていたのに、チームカーから無線で『コーナーの後』と言われて、ちょっと混乱しただけ。落車もしたけど大したことはなかった」(ポガチャル)

新しいバイクで再スタートを切った時点で、スピードの上がりきったメイン集団から、ポガチャルは20秒ほど引き離されていた。幸いにもアシスト2人が集団後方に駆けつけた。今から25年前に、マルコ・パンターニがトラブルからのごぼう抜きで優勝をさらったオロパの山道へ向けて、エースを大急ぎで前線へと引き戻した。

「たしかにアドレナリンが少し出たよ。でも自分の調子に自信を持っていたし、チームメイトと共に集団へ帰れると確信していた。その通り、チームはファンタスティックな仕事をしてくれた。しかも集団復帰後は、みんなが完璧なペースを作ってくれたんだ」(ポガチャル)

独走勝利を目指したアンドレア・ピッコロ

独走勝利を目指したアンドレア・ピッコロ

残り10kmで集団へのしっぽを捕らえ、そのまま4人のチームメートと共に集団最前列へとせり上がると、ためらわずポガチャルは高速モードに切り替えた。まずはフェリックス・グロスシャートナーが、続いてミッケル・ビョーグが全開で飛ばした。わずか3.5km先でピッコロとの1分半差を0に減らし、前にはもはや誰もいなくなった。集団は細く長くなり、後方からもどんどん弱者を蹴落としていった。

残り5.5kmからはラファウ・マイカが先導する番だった。ところでポガチャルは「チームの誰もこの上りを知らなかったんじゃないかな?」なんて笑っていたが、34歳マイカは10年前のジロで、エースとしてオロパ登坂を経験済み。ベテランはラスト4.5kmからの難勾配ゾーンで恐ろしいほどにスピードを上げると、S字カーブの先で、ポガチャルを先頭へと解き放った!

すかさず後輪に飛び乗ったのは、ベン・オコーナー1人だけ。かろうじて200mほどは食らいついたが、すぐにポガチャルのテンポについていけなくなった。しばらくはトーマスと共に追走を試みるが、いつしか後方へと姿を消した。肝心のトーマスは、あえて脊髄反射を避けていた。背後にナルバエスを連れていたせいでもある。ただ前日の区間覇者がもはや限界に達したことを悟っても、あくまで淡々と一定ペースを貫いた。そもそも37歳「G」にとっては、これはいわば通常運転だった。

「あそこで反応していたら、完全にふっとばされてしまうことは分かっていたからね。僕だって限界ギリギリだった。ひたすら体力配分に努めた」(トーマス)

他の大部分のライバルたちも、状況は似たようなもの。ボーラ・ハンスグローエは最後まで2選手を残したが、フロリアン・リポヴィッツが振り返ったように、無茶な追走は企てなかった。誰もが自分たちの走りを心がけた。

それはポガチャルも同じこと。すぐに後続に30秒近い差をつけると、あとは山頂までのペース配分を心がけたという

「ラファがアタックを準備してくれた時点で、ほぼ限界に達していた。だから1人になった後、もちろんできる限りの力は尽くしたけど、むしろ走りを制御した。ライバルたちとの差は保たねばならなかったから、通常通りのペースを保ちつつ、注意して走り続けた」(ポガチャル)

ポガチャルは全てのグランツールで区間優勝を果たした

ジロ初勝利にガッツポーズで雄叫びをあげるポガチャル

後続に27秒差をつけ、ポガチャルが「パンターニの山」を制圧した。2019年初出場ブエルタと2020年初出場ツールではそれぞれ9日目に初勝利を手にしたが、2024年初出場のジロでは、2日目にあっさり勝ちを手に入れた。全3大ツールで区間を制した史上108人目の選手となり、自身にとって6度目のグランツール出場で、早くも区間勝利は通算15勝に達した。

過去5回のグランツールすべてで表彰台乗りを果たしてきたポガチャルは、山頂で、1秒たりとも無駄にタイムを失わなかった。フィニッシュラインを全力で駆け抜けてから、ようやくハンドルから両手を離し、ガッツポーズで雄叫びを放った。ボーナスタイムも10秒収集。念願のピンクジャージをしっかりとその手につかみとると同時に、山頂フィニッシュ時に限って山岳ポイント増額……のジロ固有ルールに則って、青い山岳ジャージも受け取った。

リポヴィッツとの連携が光り、27秒差の2位にはダニエル・マルティネスが飛び込んだ(ボーナス6秒)。トーマスは3位に食い込み(ボーナス4秒+中間2秒)、元ゾンコラン覇者ロレンツォ・フォルトゥナートと、直前のロマンディ総合3位と急台頭のリポヴィッツもまた同タイムで続いた。総合ではトーマスが2位、マルティネスが3位につけ、いずれもポガチャルからは45秒差。

マリア・ローザ着用をしたポガチャル

マリア・ローザ着用をしたポガチャル

また区間は30秒遅れの7位に入り、総合では54秒遅れの4位に浮上した21歳キアン・アイデブルックスは、嬉しい新人ジャージ獲得。総合4位と同タイムの総合5位エイネルアウグスト・ルビオまでが、ポガチャルから1分以内に食いとどまり、総合6位以下は早くも1分以上の大差がついている。2024年ジロのサスペンスは、2日目にして、早々と終わってしまったのだろうか。

「今日のステージ優勝は嬉しいけれど、同時に残り19ステージのことを考えている。大きな目標はあくまで最終的なジロ総合優勝であり、区間を1つ勝ったからって、手放しでお祝いすることはできない。ただ数日間は、チームも、僕も、リラックスできるかな。スプリントステージだから、安全第一で走るつもり」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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