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【Cycle*2024 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム:レビュー】「あとわずか」で苦渋を飲んでいたグレース・ブラウンがキャリア最大の勝利に酔いしれる
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸優勝のブラウン。左が2位ロンゴボルギーニ、右が3位フォレリング
第8回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムがベルギーで4月21日に行われ、FDJ・スエズのグレース・ブラウン(オーストラリア)が悲願の初優勝を手中にした。2020年は英国のエリザベス・ダイグナンに敗れて2位、2022年はオランダのアネミエク・ファンフルーテンに敗れて2位だった。
31歳のブラウンはアップヒルを得意とするワンデーレースハンターで、タイムトライアルの現オーストラリアチャンピオンだ。特徴的なのは「あとわずか」という結果が多いこと。世界選手権の個人タイムトライアルでは2022年、2023年と2位。オーストラリア選手権ロードは3年連続で2位。東京五輪の個人タイムトライアルでもメダル獲得にわずかに届かず4位だった。
激坂を上るモニュメントレース
ブラウンは4年前とまったく同じような作戦を取り、レース途中で抜け出すと終盤に追いついてきた実力者を相手にしてゴールの競り合いで勝利を目指した。3度目の優勝を目指すSDワークス・プロタイムのデミ・フォレリング(オランダ)、リドル・トレックのエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)、4日前のフレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌを制したキャニオン・スラムレーシングのカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)という強力なトリオとのラスト勝負となり、誰が見ても「あとわずか」がリプレーされると思った。しかし最後の最後でブラウンは先行するロンゴボルギーニを抜き去ってガッツポーズした。
第8回リエージュ~バストーニュ~リエージュ ファムは140選手が13時45分にバストーニュをスタートした。ゴールのリエージュまでは152.9kmの道のり。同日開催の男子レースの序盤は気温の低い曇天だったが、女子レースが始まった頃は晴天に恵まれ、それでも横からの向かい風にさらされながら選手はリエージュを目指した。
序盤戦からアタックが連続し、有力選手が含まれるメイン集団がこれを追った。レース中盤になるとSDワークス・プロタイム、ヴィスマ・リースアバイク、キャニオン・スラムレーシング、リドル・トレック、UAEチームADQ、フェニックス・ドゥクーニンクといった強豪チームのサブエースが抜け出していく。こうして9人の先頭集団が形成されたが、ここに加わったのがブラウンだ。男子レースでタデイ・ポガチャルが勝利へのアタックを決めたラ・ルドゥットの丘にあと5kmと迫る地点で9選手はメイン集団に3分差をつけていた。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム|Cycle*2024
ベルギーのアルデンヌ地方が舞台
「このレースでは、中盤のセクションで非常に強力な逃げが起こることが多いと知っていた。私かチームメイトの誰かがそこに入る作戦だった。結果的にそれができたのは私だった」とブラウン。
「第1集団はうまく協力して、後続とのギャップを広げたのは私にとっては想定外だった。もし逃げがうまくいったら、私にとって長い1日になるだろうとわかっていたので。上りに入ったところで先行していれば有利なポジションで難所を走れるだろうとしか考えていなかった。だから先頭は引かなかった。後続集団も速くなかったので余裕はあった」(ブラウン)
ラ・ルドゥットの上りに入ると後続集団はロンゴボルギーニを勝たせるためにリドル・トレックがペースアップした。この上りで先頭集団が崩壊し、2023年のレースで5位になったキャニオン・スラムレーシングのエリーズ・シャベイ(スイス)、キム・カゾー(EFエデュケーション・イージーポスト)、ブラウンだけが前に残った。逃げ続ける3人は最後の上りとなるラ・ロッシュ=オー=フォーコンの麓で1分00秒の差を保っていた。
先行するブラウン、カゾー、シャベイ
「3人のグループでラ・ルドゥットを越えたとき、絶対に先頭グループでゴールできると思った。最後のラ・ロッシュ=オー=フォーコンでは限界を感じたけど、ここを越えればゴールまで下り坂であることは確認済みだった」(ブラウン)
後続集団で動いたのがロンゴボルギーニだ。力強いスパートで前を行く3人を追いかけると、これに反応できたのはフォレリングとニエウィアドマだけだった。フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌのトップ3であるニエウィアドマ、フォレリング、ロンゴボルギーニが残り9kmでついに先頭の3人に追いついた。
そして栄冠と挫折は紙一重だった。残り7km地点の環状交差点でブラウンがブレーキ制御を誤って前輪がロック。落車を避けるために態勢を立て直し、アスファルトに叩きつけられるよりもコースアウトを選択した。間一髪でクラッシュを回避したブラウンは、奇跡的に5人のライバルの集団に復帰する。
ブラウン(左)がロンゴボルギーニとフォレリングを制した
先頭を走るのは6選手で、キャニオン・スラムレーシングが2人。数的に有利になったチームが何度も仕掛けたが、リエージュの最後のストレートまで団子状態は変わらなかった。ニエウィアドマが先行し、その背後についたロンゴボルギーニが直線でスプリントに出て先頭に立った。前年はゴール勝負でフォレリングに負けたロンゴボルギーニが雪辱を期すかと思われたが、ブラウンが残り100mでロンゴボルギーニを追い抜いた。
「3人の有力選手が追いついてきたときも、私はグループ内で最も強いスプリンターだと信じていたし、最後のスプリントでは勝てると確信していた。残り数kmでは、キャニオン・スラムレーシングの2選手が攻撃の主導権を握っていた。彼女らがワンツーの動きをしていたので、私はどちらに追従するか賭けをした。キム(カゾー)がエリーザ(ロンゴボルギーニ)を引き連れてカタジナ(ニエウィアドマ)を追いかける間、私は辛抱強く背後で温存していようと努めた。残り数mで逆転できると期待していた。うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあるけど、今回はうまくいった」と優勝のブラウン。
モニュメント初制覇のブラウン
「おそらくこれは、これまでの私のキャリアの中で最大の勝利。私はこれまで多くの重要レースで2位だったけど、私と私のチームがモニュメントで優勝したのはこれが初めて。これは私にとってもチームにとっても、歴史上のエキサイティングなページになった。次のレースはラ・ブエルタ フェメニーナで、その後は少し休もうかな」(ブラウン)
「今日は私が一番強かったかもしれないが、自転車競技では常に最強が勝つとは限らない」と同タイムで2位になったロンゴボルギーニ。
「最も速い人、最も賢い人、またはコーナーを曲がるのが最も上手な人が勝利を収めることができる。これがサイクリングの素晴らしいところだと思う。やりすぎたとは思わない。ただやるべきことをやっただけだ」
「レース中はプレッシャーを感じなかった。自分が何も得られなかったことに気づくのは、レースの前後。勝てなかったことが悔しい。2年前、ここで何も得られずに悔しい思いをして、昨年はトリプルを達成した。今回の結果は、私に将来へのさらなるエネルギーを与えてくれるかもしれない。次のブエルタ・ラ・フェメニーナで頑張りたい」と3位のフォレリング。
女子レースは春のワンデークラシックシーズンを終了し、夏場のステージレースへとプログラムが移る。4月29日から5月5日までスペインでラ・ブエルタ フェメニーナが開催され、再び選手らの華やかなバトルが展開する。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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