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サイクル ロードレース コラム 2024年4月20日

【Cycle*2024 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム:プレビュー】春の伝統レースのフィナーレを飾る152.9kmの女子レース、強く美しい戦いを待ちわびる

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム

2023リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム

現存する大会で最古の歴史を誇るリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(ベルギー)の女子レース、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムが4月21日に距離152.9kmで開催される。2017年に女子部門が始まった大会は2024年で8回目となる。

距離254.5kmで争われる男子レースの復路部分、つまりバストーニュをスタートして同じ丘陵地を走ってリエージュにゴールする。だったら「バストーニュ〜リエージュ」だろ!と指摘したくなるが、この大会の勝負どころは男子レースの後半部分であり、美しい牧歌的風景に加えて女子ロードならではの華やかさが加わる。もう一つのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュなのである。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム

高低差図

リエージュはベルギーで5番目に大きな都市で、2004年と2012年にはツール・ド・フランスのグランデパール(開幕地)ともなった。オランダ語ではLuik(ルク)と表記されるのだが、そうとは知らなかった2004年、パリからこのツール・ド・フランス開幕地に向かっていて途方に暮れたことがある。高速道路で「リエージュ」の標識を頼りに走っていたのだが、目的地が近くなるといきなり「リエージュ」の文字が消えたのだ。結局、地元で呼ばれる「Luik」の文字に置き換わっていただけなのだが、そんな経験もあって、2023年の開幕地を目指すルートで、サンセバスティアンがバスク語のドノスティアになっても、ヴィトリアがガスティスになっても慌てることはなかった。

リエージュは北海、ドイツ、フランスなどとの物流の十字路で、多彩な食文化も魅力。その文化や伝統はその中でもフランスの影響を色濃く受けている。言語はもちろんフランス語。自転車レースもしかり。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュはツール・ド・フランスの主催社A.S.O.が早くから運営する姉妹大会になった。フランス人にとってここは陸続きの町で、アウェーという雰囲気がないことも特徴だ。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム

2023優勝のフォレリング。左はロンゴボルギーニ、右はマーレン・ロイサー

過去7大会では、アンナ・ファンデルブレッヘン(2017、2018)、アネミエク・ファンフルーテン(2019、2022)、現SDワークス・プロタイムのデミ・フォレリング(2021、2023)とオランダ勢が6勝。英国のエリザベス・ダイグナンが2020年に優勝している。過去の優勝者リストを見ても、山岳に強い細身の選手が強みを発揮するレースであることは確かだ。

男子と女子は4日前のフレーシュ・ワロンヌと同様に同日開催のレースとなる。そして興味深いのは4日前と同様に男子レースが先陣を切って走り、女子がその後に続くというところだ。かつてツール・ド・フランスが、男子のコースを短縮して女子レースを同日開催していた時代があったが、言葉は悪いが「女子は男子の前座」という位置づけが少なからずあったはずだ。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム

コースマップ

ところがこのレースでは最後にリエージュにゴールしてくるのは女子。その理由としては、男子の1時間半前には興行的な広告キャラバン隊が隊列を組んで走っているなど物理的な背景がある。また、女子レースの推定時速は男子よりも1時間につき4km遅いため、2つのレースが接近する危険性を排除するという理由も少なからずある。ただ主催者のねらいは女子レースの価値観向上で、このあたりの詳細は「フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌのレビュー記事」を参照のこと。

いずれにしても男子はリエージュを午前10時にスタートし、バストーニュを12時30分前後に通過する。女子はバストーニュをおよそ1時間後にスタートし、リエージュのゴールには男子が16時半前後、女子が18時前にやってくる。だからバストーニュからリエージュまでの沿道に陣取っていれば、2タイプのプロレースを楽しむことができるのである。

春のクラシックシーズンはこれまで、4月6日のパリ〜ルーベ ファムでロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)が接戦を制した。アムステルゴールドレース レディースではロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム)を逆転したマリアンヌ・フォス(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)が優勝。パワフルな選手らが主役だったが、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムでは各チームともエースを差し替えてくる。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム

2023リエージュのニエウィアドマ

SDワークス・プロタイムではフォレリングがいよいよエースとして活躍する時期になった。パリ〜ルーベ ファムを回避し、アムステルゴールドレース レディースではアシストを務めた。4日前のフレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌでは連覇を狙ったが、残り200mのパワー勝負でキャニオン・スラムレーシングのカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)に負けた。

2023年のこの時期はアムステルゴールドレース レディース、フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムと3連勝し、ツール・ド・フランス ファムでも初の総合優勝を達成したフォレリング。しかし今季は依然勝ち星なし。

実はこのフォレリングの立場は、世界チャンピオンのコペッキーがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムのメンバーに初起用されたことで揺らいでいる。地元ベルギーのアイコン的存在コペッキーは、2週間前にパリ〜ルーベ ファムで絶好調の走りを示し、リエージュ初参加に向けて準備を整えてきた。フォレリングとコペッキーがどんな役割分担をするのかが注目点で、その結果によっては今シーズン全体のチームの方針にも影響を与えかねない。

キャニオン・スラムレーシングのニエウィアドマもあなどれない。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムですでに4回トップ10入りを果たしている。4日前のミュール・ド・ユイでフォレリングを置き去りにした勝利は、ニエウィアドマの成長ぶりを明らかにさせた。ニエウィアドマには、2023年のレースで強さを見せたエリーズ・シャベイ(5位)とソラヤ・パラディン(9位)という2人のアシストがいるのが強みだ。

そのミュール・ド・ユイでニエウィアドマとフォレリングに続いて3位に入ったリドル・トレックのエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)もチームの総合力を考慮すると優勝候補。ロンド・ファン・フラーンデレンではシリン・ファンアンローイのアシストを受けてゴール勝負を制して優勝し、さらにファンアンローイも3位になった。2023年のリエージュでは、若手イタリアの後任候補ガイア・レアリーニと連携して2位に、レアリーニも7位となった。2024年は3選手ともスタートラインに並ぶ。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム

2023年優勝のフォレリング

ヴィスマ・リースアバイクのフォスはアムステルゴールドレース レディースで、SDワークス・プロタイムのウィーベスが両手を挙げている隙をついて僅差で逆転勝利。ただしリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムでは過去4回出場し、2020年の4位が最高とアップダウンの連続するコースに苦戦している。2024年最初のUCI女子ワールドツアーのワンデーイベントであるオーストラリアのディーキン大学ロードレースで優勝した20歳になったばかりのロジータ・レインハウト(オランダ)がチームメンバーに抜擢された。

ベルギーやオランダを中心に開催されてきた春の伝統レースも、このリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムでフィナーレ。152.9kmは女子レースとしてはかなりの長丁場で、非常に難しい連続アップダウンも加わる。優れたクライマーの実力勝負となるが、アルプスのような長い上りではないのでチームプレーも不可欠になる。最後の勝負どころにいいポジションと脚で突入できるか? 華やかな女性レーサーたちがどんな走りを見せてくれるか? 天候は水曜日のフレーシュ・ワロンヌの時よりもよくなると予想されている。

文:山口和幸

代替画像

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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