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【Cycle*2024 フレーシュ・ワロンヌ:レビュー】悪天候で脱落する選手が続出するなかスティーブン・ウィリアムズが英国人初の勝者に
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸イスラエル・プレミアテックのスティーブン・ウィリアムズが優勝
イスラエル・プレミアテックのスティーブン・ウィリアムズ(英国)が2024年4月17日にベルギーで開催された第88回フレーシュ・ワロンヌを制した。英国勢としては初勝利。激坂ミュール・ド・ユイを4回上るレースで、最後の登坂で絶妙なタイミングから抜け出してトップフィニッシュした。
太陽の光、土砂降りの雨、さらには雪も見られた距離198.6kmのレースで、アルケア・B&Bホテルズのケヴィン・ヴォークラン(フランス)が3秒遅れの2位、ロット・デスティニーのマキシム・ファンヒルス(ベルギー)が3位になった。
シャルルロワをスタート
この週の伝統レースは「アルデンヌの1週間」というくくりで語られることが多い。前週に隣国オランダでアムステルゴールドレースが開催されると、ベルギーのワロン地域の一部であるアルデンヌ地方に舞台を移し、ベルギーの人たちが愛してやまないクラシックレースが連続で行われるのだ。
まずは水曜日に行われるのがフレーシュ・ワロンヌ。そして週末の日曜日にはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが行われる。この2つのレースは現在、ツール・ド・フランスを運営するフランスのメディアグループ、A.S.O.社が主催するようなった。とはいってもA.S.O.が参入する以前から、この2レースはひとくくりにされ、同じ年に2レースを連覇した選手を「アルデンヌの王者」と呼んで讃える。その象徴はベルギーが生んだスーパースター、エディ・メルクスだ。
矢のように突き進むレースが始まる
平日開催のフレーシュ・ワロンヌだが、その格式はパリ〜ルーベやロンド・ファン・フラーンデレン、ひいてはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと対等だ。「ワロンヌ」とはこの地域をさす言葉で、「フレーシュ」は尖塔あるいは矢という意味だ。
ツール・ド・フランスもたまに訪問するシャルルロワをスタートし、古都ユイをゴールとしてアルデンヌ地方を矢のように突っ走るルート。ミュール(壁)と呼ぶにふさわしい上り坂が波状的に出現するリエージュ〜バストーニュ〜リエージュとは異なり、フレーシュ・ワロンヌはミュール・ド・ユイ(ユイの壁)で雌雄を決着させる。当初はここを通過するだけだったが、40年前からこの壁がゴールになった。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】フレーシュ・ワロンヌ|Cycle*2024
レース序盤は快晴
2024年はここを大会史上初めて4回上る。この激坂はシュマン・デ・シャペル、教会に至る小径という通りの名前が付けられているが、距離1.3kmで高低差130mを駆け上がる。最大勾配値は26%だという。
そして第88回フレーシュ・ワロンヌ。30回目のスタート地点となったシャルルロワを出発したのは174選手。ところが完走は44人で、バーレーン・ヴィクトリアスの新城幸也もリタイア。想像以上に厳しいレースになった。
11km地点で6人の先行集団が形成された。アスタナカザクスタンのイゴール・チザン(カザフスタン)とビンゴール・WBのヨハン・ミーンス(ベルギー)が、先行していた4人のライダー、アンテルマルシェ・ワンティのリリアン・カルメジャーヌ(フランス)、トタルエネルジーのアラン・ジュソーム(フランス)、Q36.5のジェームス・ウィーラン(オーストラリア)、1km地点でファーストアタックを決めたエウスカルテル・エウスカディのチョミン・フアリスティ(スペイン)に加わったのだ。
先行選手が積極的に走る
逃げ出した6人は50km地点でメイン集団に4分30秒差をつけた。レースはおよそ80km地点で周回コースに突入するのだが、必死の逃げを見せる第一集団を待っていたものは豪雨と降雪だった。ウィーランはレインウエアを着るのに相当手間取ってしまい他の5選手から一時的に遅れをとったものの、ようやくミュール・ド・ユイの手前でしっかりと着用することができた。
リドル・トレックとイネオス・グレナディアーズがペースメークする後続集団は、4回上るミュール・ド・ユイの最初のラップでその差を2分に縮めてきた。ボーラ・ハンスグローエのアレクサンドル・ウラソフやスーダルクイックステップのマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー)を含む数人が脱落。さらに2022年の優勝者であるイスラエル・プレミアテックのディラン・トゥーンス(ベルギー)は残り75kmで遅れを取った。
これぞユイの壁
先行集団ではカルメジャーヌ、ミーンス、フアリスティが意地を見せたが、ついには集団に飲み込まれる。2度目のミュール・ド・ユイでは、前年の覇者タデイ・ポガチャルの欠場によってナンバーカード1番をつけた大本命マルク・ヒルシ(スイス、UAEチームエミレーツ)が脱落。さらにアムステルゴールドレースを制したイネオス・グレナディアーズのトム・ピドコック(英国)、リドル・トレックのマティアス・スケルモース(デンマーク)まで遅れた。
レースは残り46kmの時点でおよそ30選手しか残っていなかった。ここからはバーレーン・ヴィクトリアスのサンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア)、EFエデュケーション・イージーポストのリチャル・カラパス(エクアドル)らがアタックを見せるが、残り15kmで最後まで抵抗を見せていたアルペシン・ドゥクーニンクのセーアン・クラーウアナスン(デンマーク)が集団に追いつかれ、勝負は4回目の最終ゴールへ。31選手が心臓の飛び出そうなほどの最大心拍数で激坂に挑んだ。
「道路にちょっとした障害物があって、みんながそこでスローダウンした。残り300m
という看板を確認し、走行ラインを見てここでアタックすれば集団に5秒から10秒はつけられると思った」とウィリアムズ。
「勝利のチャンスが与えられたんだ。脚はわずかに余裕があったので少し様子を見ていたが、後ろが迫ってきていたので、粘った」
観客は4回も観戦できる
わずかに抜け出したウィリアムズは、最大のパワーでペダルを踏み続けると同時に追走する選手らとの距離を確認し、フィニッシュラインまで逃げ切った。失速ギリギリ、精魂使い果たしたかの表情で、わずかにウイニングポーズを取ったものの体力の限界で余裕はなかった。
「勝てて本当にうれしいけど、疲れた。言葉を失ってしまうほど本当に感慨深い。自転車レースは本当に難しいスポーツで、特にこれほどのクラシックレースで勝つのは難しい。フレーシュ・ワロンヌで英国人初の勝者になれたんだから素晴らしいと思う。実は何年もこのレースを観戦していた。だからこのレースの格式と威信を知っている。アルデンヌに来てフレーシュ・ワロンヌに勝つことは本当に特別なことだ」とウィリアムズ。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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