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【Cycle*2024 パリ〜ルーベ ファム:レビュー】世界チャンピオンのロッテ・コペッキーが6人のゴールスプリント勝負を制し初優勝
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸ルーベ自転車競技場の最終ストレートで逆転勝利したコペッキー
4回目の開催となる「北の地獄」を舞台とした女子ロードレース、2024年のパリ〜ルーベ ファムが、男子レースの前日となる4月6日に距離148.5kmで開催され、世界チャンピオンのロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)が6人のゴールスプリント勝負を制して初優勝した。
タイム差なしの2位はリドル・トレックのエリーザ・バルサモ(イタリア)、3位はdsmフィルメニッヒ・ポストNLのファイファー・ジョルジ(英国)。コペッキーとともに優勝候補に挙げられていたヴィスマ・リースアバイクのマリアンヌ・フォス(オランダ)は4位に終わった。
パリ〜ルーベ ファム
ランフェルドノール(北の地獄)と呼ばれるパヴェ(石畳)の悪路を断続的に走る伝統レースは、泥やホコリで誰であるかさえ判明できないほどに汚れ、まさしく無骨さを争う肉弾戦というイメージが強かった。性別を問わず活躍機会均等という潮流からその概念が一変。史上初めてパリ〜ルーベ女子レースが開催されるようになったのは2021年だ。
当初は2020年に初開催されるはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大でその年は大会実施を断念。2021年も伝統の4月開催を延期せざるを得なくなり、10月に晴れて初レースが行われた。距離116.5kmの戦いはリドル・トレックのエリザベス・ダイグナン(英国)が80kmを独走。初代女王となった。
2022年の第2回大会では、イタリアチャンピオンのエリーザ・ロンゴボルギーニ(リドル・トレック)が残り34km地点から単独で抜け出して優勝。2023年にはこの女子レースもすっかり定着し、走行距離も約150kmとなって本格化。レースは序盤の20km地点から抜け出した選手によるゴールスプリントとなって、EFエデュケーション・イージーポストのアリソン・ジャクソン(カナダ)が制した。
それにしても凄まじいレースを女子選手らもやりきってくれる。2024年も随所でスリリングなシーンが演じられた。「路面の悪さは沿道の観客の数で判断できる」とかつて男子選手が捨て台詞を吐いたほど、アクシデントを目撃するために悪路の沿道に見物客が集まった。舞台はナポレオン統治以前に敷設された古い石畳で、当のナポレオンが石畳の修復を命じた。第一次世界大戦では爆撃されて荒れ果てて、さらなる修復の必要があった。そんな歴史的建造物なのである。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】パリ〜ルーベ ファム|Cycle*2024
連覇を狙ったジャクソンがトラブル
石畳区間は断続的に出現する。ゴールのルーベに近い石畳からセクター1、2、3と数字が振られているので実際のレースではカウントダウンをしながら走ることになる。男子は29からのカウントダウンとなるが、女子は17から。17から1までのコースは男女で同じだ。
翌日に開催される男子は距離259.7kmで、パリ近郊のコンピエーニュをスタートするが、女子は107km地点の近くにあるドナンをスタートする。パリ〜ルーベの石畳の象徴であるアランベールはドナンの近くにありすぎて、女子レースではカットされる。大集団でいきなり突入することはさすがに避けたいからだ。難易度5つ星のセクター11モン=サン=ペヴェルとセクター4カルフール・ド・ラルブルが勝負どころとなる。
優勝の最有力は世界チャンピオンの称号である5本の虹色ジャージ、アルカンシエルを着用したコペッキーだ。前週のロンド・ファン・フラーンデレン女子でコペッキーは3連覇を目指したが、序盤の落車もあって優勝のエリーザ・ロンゴボルギーニ(リドル・トレック)から9秒遅れの5位に甘んじた。チームにはスプリントレースのエースであるロレーナ・ウィーベス(オランダ)もいる。
レースは曇天のもとで開始された。コースは出発地のドナンを出ると近郊を小さく2周するが、ここで早くも集団に緊張感がみなぎった。強風が吹き始めたからだ。集団が分断されやすいので、逃してはいけない選手が先行を始める可能性がある。有力選手の頭をよぎったのは2023年のレースだ。序盤の20km地点で抜け出した選手らが最後まで行ってしまい、伏兵ジャクソンがまさかの優勝をさらっている。
緊張が高まり、複数回のクラッシュが発生した。これに巻き込まれたのがジャクソンだ。舗装路のうちに抜け出そうとする選手はいるものの、メイン集団はそうはさせない。30km地点手前で抜け出した選手らはすべて捕えられた。そしてレースはいよいよ石畳区間に突入した。
コペッキーとスプリント時のエース、ウィーベス
フォスをエースにするヴィスマ・リースアバイク、ジョルジを擁するdsmフィルメニッヒ・ポストNLらがメイン集団の先頭に位置して主導権を争う。本格化したレースで一際目立ったのが上下純白に映えるジャージに身を包んだコペッキーで、積極果敢に先頭を突っ走る。ライバルのリドル・トレック勢もペースアップに加わり、選手の振るい落としにかかった。
コペッキーは石畳セクター15でペースを上げ、ゴールまで70kmを残した地点でライバルたちを突き放しにかかった。チームカーから六角レンチを手渡してもらい、ハンドルバーを調整することも怠らなかった。セクター12でコペッキーは再びアタック。残り53km地点でコペッキーに追従することができたのはフォス、ジョルジ、クリスティーナ・シュヴァインバーガー(フェニックス・ドゥクーニンク)の3名だけだった。
実力に優るコペッキーは残り45kmで独走を試みるが、さすがにこれは失敗。これを機に先行選手はいったん集団に吸収され、dsm、ヴィスマ、リドルらがペースメークして抜け出そうとする選手をことごとくつぶしていく。
この石畳の上で最もアクティブに走り続けた選手は、世界チャンピオンの名誉をかけたコペッキーだった。セクター5で再びアタックし、最終的に6選手に絞り込まれて、勝負のカルフール・ド・ラルブルに突入。ここでバルサモ、フォス、コペッキーは何度も攻撃を加えたが、お互いを突き放すことができなかった。
第2集団の10選手が20秒差に接近してきたが、コペッキーのチームメートであるウィーベスがここにいた。しかし第2集団は先頭の6人に届かなかった。優勝候補ばかり6選手がゴールとなるルーベの旧自転車競輪場に飛び込んできた。
バルサモとフォスがスプリントの口火を切ったが、コペッキーの力強いスプリントに抵抗することはできなかった。トラック種目のエリミネーション、ポイントレース、マディソンでも2度の世界タイトルを獲得しているコペッキーは第3コーナーから4番手位の位置からスプリントし、最後の直線でバルサモとフォスを逆転。パリ〜ルーベで初優勝した。
石畳の悪路を走る
コペッキーは2019年男子のフィリップ・ジルベール以来となるベルギー選手の優勝者。そして現世界チャンピオンとしては2018年のペーター・サガン以来の記録を打ち立てた。
「もちろん緊張していたけど、チームが私にどれだけの信頼を寄せているかを感じて、どこかでリラックスできていた。先週の日曜日の後はあまりいい感じじゃなかったけど、コンディションが戻ったのはラッキーだった」と、スタートからゴールまで世界女王の風格があふれる印象的なパフォーマンスを見せつけたコペッキー。
「友人たちと本当にいいチームが私の後ろにいた。序盤の60kmはトラブルを避けたかったし、石畳区間は最初の2セクターで先頭に立つことが作戦だった。その後は横風が吹くのが分かっていたからね。
1発目のアタックで選手をふるいにかけていきたかったけど、マリアンヌ(フォス)が着いてきたのは理想的ではなかった。マリアンヌがいるときは、スプリントでロレーナ(ウィーベス)が勝利を目指す作戦になる。私も勝ちたいけど、チームとしてロレーナのスプリント勝負にかける。レース状況がそうなった場合には110%その作戦に同意するつもりだった」
しかし、第2集団は追いつかなかった。
dsmとリドル勢も積極果敢な攻撃を見せた
「最後の局面ではマリアンヌとエリーザ(バルサモ)がバトルすることはわかっていた。向かい風で2人はかなり早めにスプリントを開始しなければならなかったので、私はただ落ち着いてゴールに集中した。かなり長いスプリントとなったが、それも私のアドバンテージになった。
石畳は特別な場所になった。昨年の世界選手権が最大の勝利だと今でも思っているけど、この世界チャンピオンジャージを着てパリ〜ルーベで優勝できたことは、それにかなり近いものになった」(コペッキー)
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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