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【Cycle*2024 ロンド・ファン・フラーンデレン:プレビュー】聖なる週間の締めくくり、北の大地で数々の受難を切り抜けてきた強者たちが真の王座を目指す
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかフランドルで最も美しいレース、ロンド・ファン・フラーンデレン
待ちに待った一戦が、J SPORTSに帰ってくる!祝・5大モニュメントコンプリート!ロンド・ファン・フラーンデレン、またの名をツール・デ・フランドル、もしくはツアー・オブ・フランダース。……この際、呼び名なんてどうでもいい。ベルギー・フランドル地方で繰り広げられる壮大なるぶつかりあいが、2024年の春、我々自転車ファンの心を新たに虜にするのだ。
聖なる週間の締めくくり。約10日前から北の大地で数々の受難を切り抜けてきた強者たちが、復活祭の日曜日、真の王座を目指す。フランドルで最も難しく、最も威厳高く、なにより「Vlaanderens Mooiste(フランドルで最も美しい)」との呼び声高いロンド・ファン・フラーンデレンにて、フランドルウィークはついにクライマックスを迎える。
見どころはズバリ、激坂と石畳。全長270.8kmのレースは、アントワープから走り出した後、前半こそ比較的なだらかな道が続く。ところが残り約135km、レースが後半戦に入ると、風景は一転する。戦いの舞台は西フランドルの丘陵地帯に移り、そこでは全14の坂道・トータル17回もの上り下りが待ち構えている!
ひとつひとつの登坂距離はたしかに長くはない。最長でも2700mしかなく、大半は500m前後の短い上りに過ぎない。ただし勾配は笑ってしまうくらいにきついのだ。たとえばフィニッシュ手前約45kmのコッペンベルグは、なんと平均勾配が11%を超える。加えて、ご存知の通り、坂道は昔ながらのごろごろした石畳にびっしり覆われている。全部で17ある坂のうち、実に10ヶ所が石畳の急坂で、平地に7つの石畳セクターも組み込まれている。
後半に難所がぎゅっと凝縮されているだけではない。たった25km四方ほどの極めて狭い地区を、選手たちは縦横無尽に駆け巡る。中でもオウデ・クワレモントは3回(第1登坂136.7km地点、第10登坂216.5km地点、第16登坂254.1km)、パテルベルグは2回(第11登坂219.9km、最終登坂257.6km)の通過。特に第9登坂コッペンベルグ(全長600m、平均勾配11.1%、最大22%)→第10オウデ・クワレモント(2600m、3.5%、11%)→第11パテルベルグ(400m、10%、21%)でたいてい本格的な戦いが勃発し、時に最後のオウデ・クワレモント→パテルベルグ連続通過まで勝負はもつれ込む。
見どころは激坂と石畳!
つまり沿道のファンたちは、あちこち走り回ってもよし、ビール片手に1カ所に腰を下ろしてもよし。モニュメントの中では観戦に最も適したコース設定のおかげで、初心者も通もたっぷりとレース通過を楽しみ、思う存分ヒートアップすることができるというわけだ。
大衆に愛され、昨春に創設110周年を迎えた同大会は、5大モニュメントの中で唯一、第2次世界大戦による中断を被らずにきた。時の政府から大切に守られ、まさにフランドルの誇りでもあるロンドはまた、1人のチャンピオンによる独占を決して許さずにいる。ミラノ〜サンレモならエディ・メルクスの7勝が燦然と輝き、さらにリエージュ〜バストーニュ〜リエージュもやはりメルクス5勝、イル・ロンバルディアはファウスト・コッピ5勝、あのパリ〜ルーベでさえロジェ・デフラーミンクとトム・ボーネンとが4勝ずつ持ち帰ってきた。ところにフランドルに関してだけは、史上最多3勝タイで、6人が肩を並べている。
そして今年2024年大会は、マチュー・ファンデルプールが、史上最多タイ3勝目へと挑みかかる。現役ロード世界王者にしてシクロクロス世界チャンピオン、しかも昨春はミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベのダブル制覇を成し遂げた稀代のワンデーハンターは、大会9日前に「ミニ・ロンド」E3サクソ・クラシックを勝ち取ったばかり。パテルベルグ、つまり本物のロンドでも2回通過する石畳の激坂で加速し、約44kmもの独走を成功させて!
しかもマチューこそが「唯一絶対」の優勝大本命と言ってもいい。残念ながらディフェンディングチャンピオンのタデイ・ポガチャルは、ジロ&ツール「ダブルツール」の快挙を果たすため、この春のフランドルには帰ってこない。さらにマチューの宿敵ワウト・ファンアールトは、大会4日前ドアーズ・ドア・フラーンデレンでの落車骨折で、無念の欠場。シクロクロス世界選手権もサンレモも出場辞退し、ただひたすら今季は「石畳モニュメント」獲りに集中してきたというのに……。
クラシックの王様とも呼ばれている
この春を席巻してきたリドル・トレックコンビが、ロンドで波状攻撃を仕掛ける姿もやはり、悲しいことに見られない。E3で最後まで抵抗し続けたヤスペル・ストゥイヴェンは、ワウトと同じ落車に巻き込まれ、同じ病院で手術を受け、つまりロンド欠場に追い込まれた。ヘント〜ウェヴェルヘムではマチューとの一騎打ちロングスプリントを制したマッズ・ピーダスンもまた、同じ落車で身体を痛め、モニュメントに「100%で臨めるかどうか分からない」状態なんだとか。
もちろんマチューの一人勝ちを許すまいと、多くのライバルたちが奮闘を誓っているはずだ。マテイ・モホリッチやアルベルト・ベッティオル、シュテファン・キュング、マイケル・マシューズ、ティム・ウェレンスといったクラシック上位常連勢は、積極的にレースを動かしてくるだろう。E3での積極性で石畳適正を改めて証明したオイエル・ラスカノや、パリ〜ニース総合優勝→E3で5位→ドアーズ優勝とワウトも驚愕の謎脚質マッテオ・ヨルゲンソンも、虎視眈々と勝機をうかがうはずだ。また2020年大会でマチュー&ワウトと最後まで並走しながら、レースモトに追突し落車リタイアしたジュリアン・アラフィリップにとっても、リベンジのチャンスを狙っている。
それでも史上屈指のフランドル男を蹴散らすのは、決して容易いことではないだろう。なにしろ2019年初参戦の4位がマチュー自身とっての最下位で、ここ4大会はすべて1位か2位で終えている。もしも、今年も予定通りにトップ3に入れば、マチュー・ファンデルプールこそがロンド・ファン・フラーンデレン史上初の5年連続表彰台乗りを達成することになる。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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