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サイクル ロードレース コラム 2024年3月18日

【Cycle*2024 ミラノ~サンレモ:レビュー】大一番で機能した最強ホットライン 最終盤でマチューのアシストを受けたヤスペル・フィリプセンが「人生を変える」大勝利!

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ミラノ〜サンレモ

ミラノ〜サンレモ表彰台 優勝フィリプセン、2位マシューズ、3位ポガチャル

最終登坂ポッジオを上り終えたとき、まだまだ脚に余裕があった。数十メートル先では大会2連覇がかかっているスーパーエースがライバルと競っている。このまま先行してもらうことを選ぶべきか、自分で勝負するべきか……悩むまでもなく、選ぶはただひとつだった。

クラシックレースの中でもとりわけ歴史と高い格式を持つ“モニュメント”。その2024年最初であるミラノ~サンレモは、最終局面まで生き残った12人による白熱のスプリント決戦。それを制したのは、プロトン最高のスプリンターのひとりであるヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)だった。

「今日勝てなかったら一生後悔するんじゃないかと思うくらい、自分にとって最高の展開だった。勝たなきゃと思えば思うほど怖くなったけど、僕たちはやり遂げたんだ。これで人生が大きく変わるかもしれない? 確かにそうかもしれないね」(ヤスペル・フィリプセン)

全行程288kmの大部分で、アルペシン・ドゥクーニンクは戦う姿勢を示していた。序盤で11人が逃げグループを形成すると、すぐさまシルヴァン・ディリエが集団先頭へ。長時間の牽引は、先頭ライダーたちとの差を2~3分にとどめた。

中盤の登坂区間パッソ・デル・トルキーノを越え、リグーリア海岸沿いの道に出ると、リドル・トレック、イネオス・グレナディアーズ、ボーラ・ハンスグローエなどが加勢。フィニッシュ前50km前後でやってくる3つの連続登坂「トレ・カーピ」のひとつめ、カーポ・メーレではUAEチームエミレーツが早々と絞り込みを本格的に始めた。

これによって、有力視されていた選手のうちクリストフ・ラポルト(ヴィスマ・リースアバイク)やアレクサンダー・クリストフ(ウノエックスモビリティ)らが脱落。UAEチームエミレーツの隊列最後尾にはタデイ・ポガチャルがつけ、それをうけたアルペシン・ドゥクーニンクはマチュー・ファンデルプールみずからチェックに入った。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ミラノ〜サンレモ|Cycle*2024

ミラノ〜サンレモ

最初に仕掛けたのはやはりポガチャル

このレースに並々ならぬ意欲を見せていたポガチャルは、2つある重要区間のうち先に達するチプレッサ(登坂距離5.6km、平均勾配4.1%、最大勾配9%)で仕掛けようとしているのでは?との戦前の噂があった。たが、実際にはみずから動くことはなく、イサーク・デルトロに牽引を任せる。大会前には「タデイの考えていることはだいたい分かっている」といって牽制したマチューも、当然ながらマークは外さない。

最後の勝負どころポッジオを前に、集団の牽引役はリドル・トレックへ。チプレッサで一度遅れながら前線復帰したスプリンターのジョナサン・ミランを出して、粘り続けていた逃げメンバーを一掃。最重要区間を前に、王者を決める戦いの舞台は整った。

ポッジオ(3.7km、3.7%、8%)に先頭で入ったのはチューダープロサイクリング。ペースをさらに引き上げると、ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)やティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツ)も主導権争いに加わる。一列棒状に伸びたメイン集団は、35人程度まで絞り込まれている。ウェレンスが牽く後ろにはポガチャルが控え、マチューが睨みを利かせる。アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)らも上がってきた。

頂上まで1km、ついに局面は動いた。一番に仕掛けたのは、やはりポガチャルだった。最も勾配が厳しくなる8%区間でねらい通りのアタック。

「自分では会心のアタックだと思ったんだけどね。だけど、僕のようなクライマーがハードにできるほどのレースではなかったのかもしれない」(タデイ・ポガチャル)

踏み込めば、決まってマチューやベッティオル、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)らがついてくる。頂上までに200mのポイントでもう一度アタックしたが、少し間を置いて腰を上げたマチューが追いつく。ポガチャルはポッジオを5分39秒で走破し、登坂記録を更新。それでも、10人以上のライダーが彼の背中が見える位置で上りを終えた。

ミラノ〜サンレモ

ポッジオの下りで選手たちは追いつく

数十メートル先行していたポガチャルとマチューに、まずはトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)がおなじみのダウンヒルテクニックで合流。同様に下りを得意とするマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)も追随し、さらに8選手が加わった。

この状況で、アルペシン・ドゥクーニンクは2枚のカードを有した。ひとつはもちろんマチュー。もうひとつはフィリプセンだ。

両者がダウンヒルの間に行った無線でのやり取りが、運命を決めることになる。

「“僕の脚の状態はパーフェクトだ。だから頼むからポガチャルと行かないでくれ”とマチューに伝えたんだ」(フィリプセン)

昨年のツール・ド・フランスで何度と決まったマチューとフィリプセンによるホットラインが、この大一番で“再開”されることになる。下りを終える間際でのモホリッチのアタックには、マチューが捨て身の追走。ポガチャルも、ピーダスンも、マイケル・マシューズ(ジェイコ・アルウラー)も、みんなマチューをチェックする。その後ろで、フィリプセンは息をひそめた。

残り1kmを前にマッテオ・ソブレロ(ボーラ・ハンスグローエ)が抜け出しを図り、それに続いたピドコックがカウンターアタック。最終ストレートのローマ通りに入り、ヤスペル・ストゥイヴェン(リドル・トレック)がピーダスンのために牽引を開始。ピドコックを捕まえたところで、フィニッシュに向かって右コーナーからピーダスンが、逆サイドからマシューズがスプリントを開始した。

このふたりが「完璧なタイミングで加速できたと思った」とレース後に口をそろえたが、それを上回ったのがフィリプセン。マシューズの番手に入り、彼の動きに合わせてスプリントを開始。一瞬コース脇のバリアーに押し寄せられかけたが、なかば強引にスプリントラインをこじ開けて、フィニッシュラインめがけてハンドルを投げた。その差は5センチあるかどうか。マシューズをかわし、ミラノ~サンレモ初戴冠のときをたぐり寄せた。

ミラノ〜サンレモ

最後は小集団でのスプリント勝負へ

「最後の1kmは不安でいっぱいだった。集団に何人残っているのかが分からず、かといって振り返って人数を確かめるのも怖くてできなくて……。僕としてはマイケル(マシューズ)をマークすべきだと考えていた。スプリントを始めてすぐにバリアーにぶつかるかと思ったけど、彼はフェアな走りをしてくれた。だからこそ素晴らしい勝負ができたと思う」(フィリプセン)

フィリプセンを勝利に導いた、マチューの働きも大いなる称賛に値する。マイヨ・アルカンシエルが2連覇の可能性を捨て、チームメートのスプリントにすべてを託したのだ。「正直言えば勝つ自信があった」という気持ちに突き動かされることなく、チームプレーに徹した。

「ポッジオでタデイと2人になったとき、このまま行けるのではないかと思ったんだ。でもすぐにヤスペルが“脚の状態がすごく良い”と言ってきたから、考えを切り替えた。それがなければ、モホリッチのアタックを追いかけることができなかっただろうし、他選手の動きを抑えることも難しかったと思う。とにかく迷っている時間はなかったんだ」(マチュー・ファンデルプール)

これぞチームプレー。これぞロードレース。勝った者だけではなく、それを支える者にも「真の強さ」がそなわっていてこそ、世界最高峰の戦いを制するにふさわしい。アルペシン・ドゥクーニンクの戦いぶりこそ、それを体現したものといえよう。

一方で、フィリプセンの後塵を拝した選手たちも、その戦いを誇らしいと胸を張る。

「自分らしいパフォーマンスはできた。体調が悪くパリ~ニースに出られなかったけど、今日の走りで多少は取り戻せたかな。敗因? フィニッシュ50m手前でアイウェアが顔からずれてしまったことかな……。それでスプリントを一瞬緩めてしまったのかもしれないね」(マイケル・マシューズ)

「今日できうるレースとしては最高の成績だと思う。ヤスペルもマイケルも、僕の大事な友達で、彼らが勝つなら僕もすごくうれしい。個人的にはどうしても勝ちたいレースだから、また挑戦するよ。3回出場して、5位・4位・3位ときているので次は……2位じゃダメなんだよ、優勝したいんだ(笑)」(ポガチャル)

そうそうたる面々が集ったミラノ~サンレモにあって、留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)がプロ1年目にして初出場。エースのベッティオルが5位に入賞し、そのアシストとして成果を上げた。自身はフィリプセンから4分40秒差の94位で完走。この先続くキャリアの大きな、大きな第一歩を記している。

なお、ポガチャルがポッジオの登坂記録を更新したと前述したが、今回のレースそのものもミラノ~サンレモの歴史上、最速スピードであった。288kmを平均時速46.11kmで走破し、前回記録されたばかりの45.773kmを更新。まさに、近年のレーススピード高速化を象徴する結果となっている。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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