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サイクル ロードレース コラム 2024年3月13日

【Cycle*2024 ティレーノ~アドリアティコ:レビュー】ヨナス・ヴィンゲゴーが山岳で本領発揮 圧巻の個人総合優勝でタイトルリストに新たな勲章を追加

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ティレーノ〜アドリアティコ

ティレーノ〜アドリアティコ 総合表彰台 優勝ヴィンゲゴー、2位アユソ、3位ヒンドレー

これこそが現役ツール・ド・フランス王者の強さ。初日に個人タイムトライアルで発生したタイム差にとらわれることなく、大会後半の山岳ステージに集中し、きっちり決める。王道ともいえるステージレースの戦い方をしながらライバルに大差をつける、これ以上ない走りをしてみせた。

全7ステージで争われた「2つの海をつなぐレース」ティレーノ~アドリアティコは、ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)が2位以下に1分以上の差をつけて完勝。“海の王”の象徴である、トリアイナのトロフィーを手にした。

「自転車競技の中でも特にインパクトあるトロフィーを得られてとてもうれしいよ。1週間を通して良いレースができて満足だ。この美しい勝利は僕だけではなく仲間にも捧げたい」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

終わってみれば、ヴィンゲゴーのティレーノ~アドリアティコ攻略はいたってシンプルだった。

第1ステージの10km個人タイムトライアルでは、競技途中での雨予報を受けて全体3番手で出走。個人総合争いのライバルと目されたフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)が勝利したが、ヴィンゲゴーも22秒差にまとめて無難にスタートを切る。

この22秒が先に控える重要ステージでどう作用するかが見ものだったが、ヴィンゲゴー、そしてヴィスマ・リースアバイクにとっては何の障壁にもならなかった。レースを完全に掌握したのは第5ステージ。ステフェン・クライスヴァイクディラン・ファンバーレの両ベテランが集団統率を担い、山岳のサン・ジャコモに入るとアッティラ・ヴァルテルとベン・トゥレットが猛然とペースアップ。特にトゥレットの牽きは、集団を総合系ライダーのみに絞った。

すると、頂上まで約5km、フィニッシュまでは29kmもの距離を残した状態で真打ち・ヴィンゲゴーがアタック。もう一枚残していたキアン・アイデブルックスをライバルたちの抑え役に回し、スーパーエースみずから独走態勢に。結果、この日だけで1分以上稼ぎだすことに成功。スタート前のビハインド22秒を完全に消し、1日でレースリーダーの座を確たるものにしたのだった。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ティレーノ〜アドリアティコ 第7ステージ|Cycle*2024

ティレーノ〜アドリアティコ

チームメートの働きに応えたヴィンゲゴー

「チームメートの働きに応えるという意味では、最高の走りができたと思う。ひとりでフィニッシュラインを越えられて大満足だよ」(ヴィンゲゴー)

こうなると、誰も王者を止めることはできない。今大会唯一の山頂フィニッシュとなった第6ステージも、ヴィンゲゴーの独壇場。強力な逃げが生まれ、ボーラ・ハンスグローエの牽引で集団がよりタフな状況となっても、ブルーのリーダージャージに着替えたヴィンゲゴーは慌てない。ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)やアユソの先制攻撃を抑えると、フィニッシュまで6kmを残して再び独走に持ち込んだ。

「ボーラ・ハンスグローエのペースアップは僕にとって不利なものではなかった。それまでにチームメートがレースを作ってくれていたし、ボーラがペーシングを引き継いでからはヒンドレーの動きをチェックしながらアタックのタイミングを探っていたんだ。最後の6kmは個人タイムトライアルの気分で上ったよ」(ヴィンゲゴー)

このステージまでに2位以下に1分以上の総合タイム差をつけ、大会制覇は決定的に。最終・第7ステージも危なげなく走り切り、初めてとなるティレーノ~アドリアティコのタイトルを手にした。

王者に言わせれば、今回の勝利は「ツールとはまったくの別物」だという。意味するところとしては、「ティレーノ制覇がツールの走りには直結しない」。“本番”までは3カ月以上あり、春の走りと結びつけるのは「さすがに無理がある」ということのよう。

それよりは、同時期開催のパリ~ニースと合わせてヴィスマ・リースアバイクがどこよりも強いと証明できたことの方が大きな価値があるとする。パリ~ニースでは、オフのトレーニングキャンプで同部屋だったマッテオ・ヨルゲンソンが最終日の逆転で個人総合優勝。「穏やかな人柄で、僕たちは一瞬で打ち解けた」というルームメートが移籍加入早々に結果を出してくれたことが、チームリーダーとしてはとてもうれしい。先々に控えるツールへの構築に向け、「モチベーションは高まる一方だよ」とチーム状況に自信を膨らませている。

ティレーノ〜アドリアティコ

3日間リーダージャージを着用したアユソ

そのツールで最大のライバルとなるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)がミラノ~サンレモへ行き、続くボルタ・ア・カタルーニャにも多くの猛者が集うが、ヴィンゲゴーはフィジカルと野心をいったん落ち着かせるための時間をつくる。スイス・ルガーノの自宅へと戻り、少しばかりの休養の後にイツリア・バスクカントリーに向かう予定だ。

一方、ヴィンゲゴーの背中を見ながら走った選手たち。オープニングウィナーとなり3日間リーダージャージを着用したアユソは、「完全な力負け」と敗北を認める。第5ステージで大きく水をあけられた時点で個人総合2位狙いに切り替えたことを打ち明け、順位を上げてきたヒンドレーのマークに徹した。当座のライバルとの勝負には勝ち、無事に2位を確保。UAEチームエミレーツは、新鋭のイサーク・デルトロも初出場ながら個人総合4位と大健闘。チーム総合では1位になり、実のある1週間となった。

「人間の中では一番だったから良かったよ(笑)。ステージ優勝できたし、個人総合で2位と4位、チーム総合では1位。良い結果だったと思う。何より、誰も大きなトラブルなく走り切れたことがうれしいし自信になるね」(フアン・アユソ)

3位のヒンドレーは今季、プリモシュ・ログリッチのツール制覇へ重要な任務が与えられている。4月のイツリア・バスクカントリー以降はログリッチシフトの一員として動く予定で、今回は単独エースとして走る大事な機会でもあった。

「大満足の3位だよ。大好きなイタリアのレースで表彰台に上がれたのだからね。山岳ではできる限りのことをしたし、チームメートも素晴らしい働きだった。みんなにとって自信になる1週間になったよ」(ジャイ・ヒンドレー)

今大会は例年と違わず、スプリンター陣の競演も熱いものに。

第2ステージは、フィニッシュ前350mで最終コーナーという難レイアウト。集団前方が混沌となる中でヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)が抜け出して今季初勝利。先に飛び出したティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)の動きに合わせ、みずからのタイミングで加速を決めた。

ティレーノ〜アドリアティコ

ポイント賞を手に入れたミラン

「このオフはスプリントトレーニングを行わなかったんだ。クラシックレースに向けた強化をしていたのだけれど、今日の結果でスプリント力が落ちていないことが証明できたよ」(ヤスペル・フィリプセン)

そのフィリプセンが最終コーナーで落車に見舞われた第3ステージは、最終局面で唯一トレインを組んでいたバーレーン・ヴィクトリアスがフィル・バウハウスを放つことに成功。バウハウスにとっては、昨年のツアー・ダウンアンダー以来1年ぶりの美酒を味わった。

「チームみんなが僕が勝てると信じてくれていた。今日の勝利は間違いなく彼らのおかげ。厳しいスプリントだったけどトライして良かった」(フィル・バウハウス)

アペニン山脈を越えてアドリア海に達した第4ステージでは、長くレースをリードしたヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ)が逃げ切りをかけて驚異の粘り。残り2kmで10秒を切っていたタイム差は最後の数百メートルまで変わらず。しかし、スプリンターたちが加速を始めると同時にアブラハムセンを猛追。フィニッシュ前50mでついに先頭交代、そしてジョナサン・ミラン(リドル・トレック)が勝ち名乗りを上げた。

これで完全に流れをつかんだミランは山岳2日間を乗り切り、最終の第7ステージでも快走。ソーレン・ヴァーレンショルト(ウノエックスモビリティ)のアタックで生まれた差をみずからの脚で埋め、スプリント態勢に入ると再びペダルに力を込める。脚の違いを見せつけて今大会2勝目、そしてポイント賞を確定させた。

「最終日まで脚を残しながら走り続けられたことは、僕にとって大きな経験になるだろうね。ポイント賞までついてきて、スペシャルな1週間になったよ。今までの取り組みが間違っていなかったと分かってとてもうれしい」(ジョナサン・ミラン)

最終的に、ヴィンゲゴーが個人総合と山岳賞、ミランがポイント賞、アユソがヤングライダー賞と、今大会の顔となるべく選手がその力を証明。激動の1週間を終えた。

また、新城幸也は最終ステージの途中で役割を終えてバイクを降りたが、第3ステージでのバウハウス勝利などチームに貢献。「不本意な形で終わってしまい、浮き沈みの激しい1週間だった」と振り返るが、調子自体はよく、今後のレースにつなげていきたいとしている。

ティレーノ~アドリアティコを終えたイタリアのレースシーンは、ミラノ~トリノ、そしてミラノ~サンレモと格式高きワンデーレースへと移っていく。主要ステージレースはスペインでのボルタ・ア・カタルーニャやイツリア・バスクカントリーが控えており、ライダーたちはそれぞれの目標や脚質に合わせ、それぞれの“持ち場”で役割を果たすことになる。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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