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【Cycle*2024 パリ~ニース:レビュー】マッテオ・ヨルゲンソンが最終日の逆転で個人総合優勝! 友人マクナルティとの競り合いをポジティブに、大物食いに成功
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介パリ〜ニース総合表彰台 優勝ヨルゲンソン、2位エヴェネプール、3位マクナルティ
めまぐるしく変化したレース展開を表すように、接戦となったマイヨ・ジョーヌ争い。最後の最後、黄色のジャージに袖を通したのは24歳のアメリカンオールラウンダー、マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク)だった。
「喜びよりも驚きで足が震えているよ。UCIワールドツアーのステージレースで勝てるなんて考えたこともなかった。どうやって勝ったのか、頭と心の整理がつかないよ。とにかく、人生における最高の1ページになったことは間違いないね」(マッテオ・ヨルゲンソン)
ニースに拠点を置いて活動していることもあり、大会後半のルートはいずれも土地勘があった。特に第6ステージの後半部は日頃のトレーニングコースと“ドンピシャ”だったそうで、後に控える山岳ステージと合わせて勝負したいと考えていたのだとか。
そして、実行に移した。2級と3級の合わせて5カ所のカテゴリー山岳を越えたこの日は、速いペースで展開したこともあり、最終山岳に入る頃には総合系ライダーしか前線に残っていない状態だった。その中を敢然と飛び出し、一時は独走。後から合流したのがジュニア時代からの友人であるブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)と、個人総合で遅れていたマティアス・スケルモース(リドル・トレック)だったのも幸い。ステージはスケルモースに譲ったが、この日マイヨ・ジョーヌに袖を通したマクナルティとともにライバルに対し総合タイムで一歩リードすることができた。
ヨルゲンソンにとって、1歳年上のマクナルティはジュニア時代からの友人で、互いを高めてきた間柄でもある。登坂力ではどちらが上かと問われると答えに窮するけど、何より土地勘がある。調子が良く、最終日に逆転する自信はあった。
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【ハイライト】パリ〜ニース 第8ステージ|Cycle*2024
8日間で争うパリ〜ニース
山頂フィニッシュだった第7ステージでレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)やプリモシュ・ログリッチ(ボーラ・ハンスグローエ)らと同グループで走り終えたヨルゲンソンに対し、マクナルティは19秒遅れた(ステージ優勝のアレクサンドル・ウラソフからは27秒遅れ)。マクナルティとヨルゲンソンとの総合タイム差は、これで4秒。この状況も、ヨルゲンソンの心理面を楽にした。
パリ~ニース最終日恒例ともいえる、山岳地帯をめぐってニース市街地へと戻った第8ステージ。最後に良いところを、とばかりにフィニッシュまで40km以上を残しながら攻めに転じたレムコをヨルゲンソンは徹底マーク。リーダーの座を守りたいマクナルティも追随するが、3度にわたったレムコの攻撃でついに後退。しっかり食らいついたヨルゲンソンは、その後に設けられていた中間スプリントポイントを1位通過し、6秒ボーナスを得たところでバーチャルリーダーに。あとはフィニッシュまで行くだけとなった。
「レムコには“ステージは譲る”と伝えたんだ。一緒に逃げていたウラソフが途中で遅れてしまったけど、僕ら2人は脚があって、お互いに逃げ切れると確信していた。こんなにうまくいくなんて不思議なくらいだ」(ヨルゲンソン)
かくして、2024年のパリ~ニースのタイトルを戴冠したヨルゲンソン。昨年までの3年間はモビスターで走り、今季からヴィスマ・リースアバイクに3年契約で加入。移籍が決まった当初は「クラシックレースでの強力アシスト」といった見方をされたりもしたが、もともとステージレースでの実績は積んでいたし、改めて総合力の高さを証明した。実のところ、すでにツール・ド・フランスのメンバー入りも内定していて、3連覇を狙う王者ヨナス・ヴィンゲゴーがその強さを高く評価しているという。
「チームの方向性や栄養面での取り組みにフィットできているんだ。それに、ヨナスという素晴らしい教材が身近にいて、たくさんのことを教えてもらっている。ツールも一緒に走る予定だよ。彼のために全力を尽くすつもりだ」(ヨルゲンソン)
エヴェネプールは区間優勝、ヨルゲンソンは総合優勝
プロトン最高チームであるヴィスマ・リースアバイクにまたひとり、ビッグタレントが生まれた。
最終日を飾ったレムコは、結果的に個人総合2位。ヨルゲンソンとの逃げ切りが奏功した形となった。ステージ優勝を喜ぶ一方で、最後まで追う展開となったことが悔しい。敗因として、第6ステージの走りを挙げる。
「ヨルゲンソンを甘く見たわけではないのだけれど、彼のアタックに反応しなかったことは失敗だった。その後のマクナルティとスケルモースの動きに対してもだね。あのステージでマイヨ・ジョーヌを着ることが事実上不可能になってしまった。ただ、ヨルゲンソンとマクナルティが相当強かったことは確かなんだ。だから文句のつけようがない結果だったと思うよ」(レムコ・エヴェネプール)
ヨルゲンソンと大会を大いに盛り上げたマクナルティも3位となり、総合表彰台は確保。殊勲の結果である。
「ジュニアの頃、アメリカ国内のレースではいつも一緒に逃げていたんだ。当時を思い出したよ。個人総合優勝が彼で本当に良かった。もちろん僕だって勝ちたかったよ。最後の2日間は調子を落としてしまったことが悔やまれるね」(ブランドン・マクナルティ)
激動のマイヨ・ジョーヌ争いだけでなく、毎ステージの優勝争いも華があった。
第1ステージからレムコやエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)が仕掛けたものの、スプリント狙いのチームがそれを許さない。結果、オープニングウィンはオラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)に。22歳の気鋭のスプリンターは、スーパースターがそろうチームにあって、スプリント戦線からビッグレースのメンバー入りを図っている。
第2ステージは前日以上にスプリンター向けのレイアウトで、ピュアスプリンターたちによる競演。コーイが位置を下げてしまった一方で、躍動したのは招待出場のチューダープロサイクリングチーム。最後はアーヴィッド・デクラインを放ち、ワールドツアー初勝利に導いた。
チームタイムトライアルが総合争いを混沌とさせた
「仲間たちは何をするべきかすべて理解してくれていた。だから僕も迷いなくスプリントを始められたんだ。残り200mから加速してからはフィニッシュまで全力で踏んだよ」(アーヴィッド・デクライン)
26.9kmのチームタイムトライアルで争われた第3ステージは、チーム内トップ選手のタイムが採用される変則システム。全体10番目にスタートしたUAEチームエミレーツが勝ったわけだが、後半スタート組は雨にたたられ本来の走力を発揮できずに終わった。この時点でマクナルティが一時的に個人総合首位に立ち、レムコは18秒差、ログリッチは54秒もの遅れをとることに。ここで発生したタイム差が、マイヨ・ジョーヌ争いを混沌とさせた一因でもある。
1級と2級合わせて7つのカテゴリー山岳を上った第4ステージでは、終盤に単独先頭に立ったルーク・プラップ(ジェイコ・アルウラー)をサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)が追いかけ、やがて2人によるステージ優勝争いへ。急坂になるフィニッシュ前1kmでペースを上げたブイトラゴが勝利。2位で終えたプラップはこの時点で個人総合首位に立ち、その後マイヨ・ジョーヌを2日間着用。最終的に個人総合6位で終えている。
実質最後のスプリントチャンスだった第5ステージは、コーイが4日ぶりの勝利。今シーズン6勝目を挙げ、勝利量産体制に入っている。
「スプリントに向けて細かく計画を立てて臨んでいた。その甲斐あってのステージ優勝だね。僕にとって、このパリ~ニースは大成功だよ」(オラフ・コーイ)
第6ステージ以降は前述の通り。第7ステージを独走で勝ったウラソフは最後まで好調を維持。第8ステージで調子を下げたエースのログリッチに代わって総合戦線に残り、最終的に個人総合5位とまとめている。
南仏へ向かう様から「太陽へ向かうレース」との呼び名もあるパリ~ニースだけど、今回は最後まで雨と寒さとの戦いでもあった。とはいえ、それをもモノともしない猛者たちによる戦いは熱く、そして春の到来を実感させるものに。“ミニ・ツール”を終え、ここからは本格的なクラシックシーズンへ。今大会で活躍した選手たちが勢いのまま突き進むのか、はたまた新鋭や伏兵の登場があるのか。プロトンから目が離せない日々がまだまだ続いていく。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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