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【Cycle*2024 パリ〜ニース:プレビュー】まさしくツール・ド・フランスの前哨戦、五輪への敬意も表しつつ7月の四天王頂上決戦へ向けてログリッチとエヴェネプールが直接対決
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか「太陽へと向かうレース」パリ〜ニース
この夏のオリンピック開催都市名と、今年のツール・ド・フランス閉幕の地の名の両方を冠する大会だからこそ、2024年パリ〜ニースは自ずとスペシャルな空気をまとう。7月の四天王頂上決戦へ向けて、早くもプリモシュ・ログリッチとレムコ・エヴェネプールの直接対決も待っている!
いまだ灰色の雲に覆われた北から、春の陽気に包まれた暖かな南へ。いわゆる「太陽へと向かうレース」は、3月3日(日)、パリの北西40kmほどレ・ミュローから全速力で走り出す。
全8日間のステージレースはまた、「ミニ・ツール」の愛称でも親しまれてきた。今年は五輪へちょっとした敬意を表することも忘れない。パリ郊外で繰り広げられる序盤2日間で、五輪ロードレースのコースをほんのわずかながら拝借するのだ。第2ステージ序盤の3級山岳コート・デ・メニュルは、五輪本番でも同じ方向から登る。
8月の金メダル争いに思いをはせつつ……、3月のイエロージャージ争奪戦初日は、パンチ力の強さが試される。「平坦」と区分されてはいるものの、終盤には3つの3級山岳が組み込まれた。しかも2回通過予定の3級コート・デルブヴィルでは、最大14%ゾーンが牙をむく。もしも勝利をもぎ取れるスプリンターがいるのだとしたら、それは間違いなく「上れる」という枕詞を持つ者だろう。
この春ここまで怪物級に絶好調のマッズ・ピーダスンを筆頭に、マイケル・マシューズ、ブライアン・コカール、アルノー・ドゥリーと、パワフルな俊足はそろっている。一方でアルノー・デマール、サム・ベネット、オラフ・コーイ、ファビオ・ヤコブセン、ディラン・フルーネウェーヘン、カーデン・グローブス、パスカル・アッカーマン……と大挙して押しかけてくるピュアスプリンターたちにとっては、第2ステージこそが実力の見せ所。かつてカヴやマキュワンが勝ち取ったモンタルジスまでの道中には、地形的な難所はほぼ存在しない。
ただしステージ後半で、パリ〜ニース序盤の名物とも言える強風が吹き荒れる可能性も。もちろん開催委員会は、横風分断を演出するために、意図的に進行方向が何度も変わるコースを描いた。1週間後の総合優勝を目指す者たちも、最大限に警戒せねばなるまい。
変則的チームタイムトライアル
1年前に大いに話題を呼んだ変則的チームタイムトライアルが、今年も第3ステージに帰ってくる。伝統的にTTTでは、チーム内で前から4番目ないし5番目にフィニッシュした選手のタイムが、チーム全体の記録として採用されてきた。しかし、昨大会に続き、今回もずばり「1番目」の選手のタイムで競われる。
単独でロングスプリントを打ったり(ポガチャル)、最後まで複数アシストにしっかり守られたり(ヴィンゲゴー)、さらにはTTスペシャリストとタンデム走行をしたり(ゴデュ)と、昨大会は総合系チームの戦術差が際立った。果たしてTT五輪金メダリストのログリッチやTT世界王者エヴェネプールの、作戦やいかに。
今大会はリベンジも2つ。第4ステージのフィニッシュ地、モン・ブルイィは2016年大会の大雪によるステージ中止を、第6ステージのラ・コル・シュル・ルーは、昨大会での強風による中止を受けての再訪となる。
地名のブルイィが示すとおり、4日目は美味しいボジョレーワインの産地を巡る。そしてボジョレーと言えば、自転車界では、アップダウンコースを意味する。短めの山岳が7つも詰め込まれ、どうやらうち6つが13%超の激坂ゾーンを隠し持つらしい。つまりはクラシック風味満載。リエージュ新旧覇者のエヴェネプールとログリッチも、きっと面白い動きを見せてくれるに違いない。
5日目は「移動ステージ」と呼ばれてはいるが、スプリンターと逃げの壮大な駆け引きに期待したい。前回パリ〜ニースがシストロンにフィニッシュした2018年、似たようなコースプロファイルが採用され、4人の逃げのうち2人が数秒差で逃げ切った。
そのとき2位に泣いたニルス・ポリッツは、改めて今大会に乗り込む。かつてスプリンターを翻弄し、勝利をさらった経験のあるドリース・デボントやマチュー・ビュルゴドーもプロトン内に潜んでいる。昨ツールで劇的な大逃げ勝利を決めたヨン・イサギレとペリョ・ビルバオ、さらには勝てなかったけれど総合敢闘賞に輝いたヴィクトル・カンペナールツもやってくる。
「ミニ・ツール」の愛称でも親しまれてきたパリ〜ニース
地中海のほんの手前までたどり着く第6ステージのほうが、むしろ逃げ向きとの声が大きい。中盤に立て続けに襲いかかるる3つの中級山岳が、アタッカーたちを刺激するだろう。最終的な勝負を左右するのは、フィニッシュ手前約20kmの激坂コート・ド・ラ・コル・シュル・ルー(平均10%、最大19%)か、それとも直後の中間ポイント(12%)か。勝負の週末を前に、総合勢の殴り合いだって見られるかもしれない。
そしてプロトンはニースへと入場する。パリ五輪の影響で、シャンゼリゼフィニッシュが不可能になった今年のツール・ド・フランスが、史上初めて「パリ以外」の閉幕地として選んだのは、90年以上前から熱戦の最終章を受け入れてきたこの町だった。
ニースの裏山を駆け巡る2日間は、当然、ツールの下見も兼ねている。例えば第7ステージでは、ツール第20ステージに使用される1級コル・ド・ラ・コルミアーヌ(7.5km、7.1%)を通過する。近年すっかりパリ〜ニースの常連峠となり、2020年にはツールでも使用された。2021年3月にはログリッチが……今は亡きジーノ・メーダーを退けこの山を制した。
ただツール第20ステージの最終峠麓までは行くけれど、この3月9日は、そこから別の山を目指す。ツール第19ステージ最終峠の登坂口であるイゾラさえ経由しつつ、最後はスキーリゾート地のオロンへ。全長7.3km、平均勾配7.2%の1級山岳は、正真正銘、大会初登場だ。
今シーズン初めて標高1500m超の山頂フィニッシュの終わりに、間違いなく、この春一番のクライマーが判明する。ボーラ・ハンスグローエ移籍後初レースのログリッチと、プロ入り後初めてフランス開催のステージレースに臨むエヴェネプールは、それぞれ思い通りの走りを見せているだろうか。
昨大会2位のダヴィド・ゴデュ、ジョアン・アルメイダ率いるUAE軍団、復調しつつあるエガン・ベルナルと若きカルロス・ロドリゲスを擁するイネオス・グレナディアーズ勢、さらにはフェリックス・ガルやサンティアゴ・ブイトラゴといったピュア山岳巧者等々、ライバルは少なくない。またたとえピュアスプリンターのコーイを連れてきたとは言っても、ヴィスマ・リースアバイクが、マッテオ・ヨルゲンソンとウィルコ・ケルデルマンとで成績を狙わないはずはない。
最終ステージには波乱を生み出す要素がいくつも用意されているパリ〜ニース
しかも土曜日のクイーンステージが終わっても、総合争いは終わりではない。最終日に総合表彰台が入れ替わったのは過去10大会で8回。総合首位の交代劇さえ、この10大会で3回もあった。今年も最終ステージには、波乱を生み出す要素がいくつも用意されている。
ニース発・ニース着の全長109.3kmのコースは、いつも通り、まるでジェットコースターのようだ。全部で5つの山岳がちりばめられた。上りも下りも、この一帯は、ひたすら曲がりくねった道が続く。実はスプリントポイント=ボーナスタイム収集チャンスに指定された、第6の山岳さえ存在する。それが……おなじみのエズ峠。今年のツール・ド・フランス最終日では、このエズへの上り(全長1.6km、平均8.1%、最大13%)が、そっくりそのまま個人タイムトライアルのコースとなる。
ツール本番ではエズからニースへとまっすぐ下って終了なのに対して、パリ〜ニースでは、途中で道を引き返して1級コル・デ・キャトル・シュマン(3.6km、8.8%、最大16%)へと寄り道だ。5年ぶりに登場するこの激坂のおかげで、最終山頂からフィニッシュまでのダウンヒル距離は、わずか9.3kmへと短縮される。この迂回路が初めて登場した2018年は、マルク・ソレルが37秒差をひっくり返して、衝撃的な大逆転総合制覇をもぎ取った。逆に翌2019年は総合首位エガン・ベルナルが、そこまでの道程で2位ナイロ・キンタナから遅れを取るも、ここからの猛ダウンヒルで見事に差を詰めた。
手に汗握るサスペンスは、地中海岸にて幕を閉じる。第82代パリ〜ニース王者は、黄色い衣を身にまとい、4カ月後もこの地にマイヨ・ジョーヌ姿で戻ってくることを夢見るのだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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