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【Cycle*2024 UAEツアー:レビュー】新星レナルト・ファンイートヴェルトが大逆転で大会制覇! ステージ3勝のティム・メルリールは文句なしのスプリント王“即位”
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介UAEツアー 総合優勝ファンイートヴェルト、2位オコーナー、3位ビルバオ
大会のフィナーレにそびえた名峰ジェベル・ハフィートを征服したのは、プロ2年目の22歳レナルト・ファンイートヴェルト(ロット・デスティニー)。頂上まで2kmのポイントで飛び出すと、戦前の優勝候補たちがお見合い。その間に差を広げて、そのまま一番に登頂。同時に、第6回UAEツアーの王者に決まった。
「せっかくトップが見える位置を走っていたから、後悔したくなかったんだ。思い切ってアタックしてみたら大成功。本当に信じられないよ!」(レナルト・ファンイートヴェルト)
さすがに誰も、彼が大会を制するなんて予想していなかったに違いない。有力視されていた総合系ライダーたちがノーマークだった彼を見逃したこともさることながら、この登坂前には集団分断で後方に取り残されるピンチに遭っていた。「一度は諦めていた」と打ち明けた若きチャンピオンは、思いがけない形でみずからの名を大会の歴史に残すこととなった。
シーズン序盤恒例の中東シリーズは、このレースが事実上の最終戦。UAEツアーのみが最高峰のUCIワールドツアーの一戦に数えられ、トップオブトップのライダーたちが顔をそろえる主要レースとしての地位を固めている。今年も過去5回と同様に、平坦・タイムトライアル・山岳で構成された全7ステージで覇権を争った。
スプリンターの競演で幕を開けた今大会。第1ステージを制したのはティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)。早掛けに打って出たフアン・モラノ(UAEチームエミレーツ)やフェルナンド・ガビリア(モビスター)を冷静に追って、みずからのタイミングで加速。ここから、今大会の“メルリール劇場”が始まった。
ブランドン・マクナルティが13分27秒の一番時計
12.1kmの個人タイムトライアルが設定された第2ステージは、個人総合争いにおける第1関門。このステージを完全に押さえたのがUAEチームエミレーツだった。前日のフィニッシュがクラッシュによる混乱だったこともあり、有力選手の多くが前半スタートとなったなか、ブランドン・マクナルティが13分27秒の一番時計。時速にして53.977kmで走破。4秒差にはミッケル・ビョーグ、さらに2秒差でジェイ・ヴァインが続き、実質のホームチームがトップ3を独占した。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
JP 0:14 / 4:59 【ハイライト】UAEツアー 第7ステージ|Cycle*2024
ベン・オコーナーが絶妙なタイミングで飛び出しステージ勝利
タイムトライアルによるタイム差を受けてスタートした第3ステージは、今大会1つ目の本格山岳。ジェベル・ジャイスの頂上を目指した1日は、終始UAEチームエミレーツがコントロール。この間、エースのアダム・イェーツが落車し、一度はバイクに戻ったものの山岳に入ったところでリタイア。優勝候補の筆頭と目され、開催地の期待を背負っていた男が大会を途中で去った。それでも、マクナルティやヴァインが代役として奮起。ステージ勝利はベン・オコーナー(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル)に譲ったものの、最後まで追ったヴァインがリーダージャージに袖を通している。
第4ステージからは再びスプリンターが主役。やはり冴えに冴えたのがメルリールだった。最終局面に入り大混戦となり、多くのチームがトレインを崩壊させる中、メルリールも単騎となってみずからの脚でポジションを上げていく。オラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)らの動きを見逃さず勝負に出ると、スピードと勝負強さともに別格であることを証明した。
さすがにメルリールばかり良い思いはさせまいと、他のスプリンター陣も“本気”になった。第5ステージは、コーイが雪辱。マーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタン)やカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)が良い形を作ったが、加速力では負けないコーイが彼らをパス。たびたび単騎勝負を強いられていたメルリールにしても、このステージだけは勝者の背中を見る結果となった。
第6ステージは今大会4度目のスプリントフィニッシュ。前日までと同様に混戦となったなか、ひときわ鮮やかな緑のポイント賞ジャージに身を包んだメルリールが“復権”のステージ勝利。これで今大会3勝目、ハットトリックを達成だ。
「すごくうれしいよ! 1大会でステージ3勝したのは僕が初めてなんだって? UAEツアーの歴史を作ることができて誇らしいよ」(ティム・メルリール)
ティム・メルリールは区間3勝
6ステージを終えて、リーダージャージはヴァインで変わらず。総合タイム差30秒以内に5人、1分以内に14人。最後の1日で、誰が今大会の王座に就くかが決まる。
そんな運命の1日は、2度の集団分断がプロトンに一層の緊張感を漂わせた。前述したファンイートヴェルトだけでなく、個人総合5位でスタートしたペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)らも一時的とはいえ後方に取り残された。それが落ち着いたのはフィニッシュ前35km付近。3人の逃げを追いながら、最終決戦の山であるジェベル・ハフィートへと入った。
リーダーチームのUAEチームエミレーツとしては、ここまでは盤石だった。先の分断を仕掛けたデカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアルが、11秒差の個人総合2位につけるオコーナーを押し上げようと盛んに動きを見せたが、要所は抑えてヴァインのリーダージャージを守る態勢を固めていく。
ところが、肝心のリーダーたちが苦しんでしまった。デカトロンが速いペースを刻み始めると、まずマクナルティが脱落。ほどなくしてヴァインまで後退。これでUAEチームエミレーツが崩壊すると、バーレーン・ヴィクトリアスやアスタナカザクスタンチームも加勢。残り4kmからは、各チームの総合エースたちによるノーガードの打ち合いが始まった。
それまで逃げていたエマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)は捕まり、代わってエイネルアウグスト・ルビオ(モビスター)、オコーナー、ビルバオらが前をうかがう。そして決定打はフィニッシュ前2kmで生まれた。
ファンイートヴェルトがマイケル・ストーラー(チューダープロサイクリング)の動きをチェックすると、そのままカウンターアタック。みるみるうちに後続との差が開いていく。
「リードが広がっているのを見て、“えっ、本当!?”と思ったね。もう行くしかないと開き直ったよ。フィニッシュ前3kmで急勾配になることは把握していて、勝負はそこからだと思っていた」(ファンイートヴェルト)
最終日に大逆転、プロ初勝利&個人総合優勝のファンイートヴェルト
作戦成功だ。個人総合でトップに立てる可能性があることも把握していたから、最後まで踏み止めずに上った。自身初のワールドツアー勝利となるステージ優勝。そして、ビルバオやオコーナーたちが22秒差でのフィニッシュとなったため、ボーナスタイムを絡めた結果、ファンイートヴェルトのUAEツアー個人総合優勝が確定した。
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、プリモシュ・ログリッチ(ボーラ・ハンスグローエ)、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)などが名を刻む王者のリストに、22歳のベルジアンクライマーが並ぶ。それを問われた本人は、「クレイジーだね。とんでもないことをしてしまったよ」と笑う。
もっとも、第5ステージで122km逃げて、その間に2回の中間スプリントをトップ通過。合計6秒のボーナスタイムを得ていたこともプラスに働いた。プロデビューイヤーだった昨年は1クラスや2クラスのレースで勝利を収め、今年はマヨルカ島でのトロフェオ・セッラ・トラムンタナで優勝。勢いと将来性は誰もが認めていた中で、キャリア最高の栄誉をつかんだ。直近の目標にはストラーデ・ビアンケを挙げており、UAEでの強さを未舗装路でも生かすつもりだ。
ファンイートヴェルトから2秒差でオコーナーが2位。同じく11秒差でビルバオが3位となり、それぞれ総合表彰台を確保。メルリールは文句なしのポイント賞で“スプリント王”。再三逃げを打ったマーク・スチュワート(コラテック・ヴィーニファンティーニ)は中間スプリント賞に輝き、チーム総合はリドル・トレックにわたっている。
砂漠地帯を駆けた中東での戦いは終わり、トップシーンはヨーロッパ各地でのビッグレースへ。パリ~ニースやティレーノ~アドリアティコ、ミラノ~サンレモ、北のクラシックと見どころは盛りだくさん。どんなヒーローが生まれるのか、楽しみは尽きない。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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