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【Cycle*2024 UAEツアー:プレビュー】ホームレースでの覇権奪還を目指すUAEチームエミレーツ、ポイントは大会初日と2つの山岳か トップスプリンターの競演も見もの
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介UCIワールドツアーの第2戦、UAEツアー
シーズン序盤恒例の中東レース。アラビア半島の数カ国で熱戦が繰り広げられてきたが、UCIワールドツアーの第2戦に位置づけられる「UAEツアー」で“中東シリーズ”は終わりを迎える。
まだまだ冬の色が濃いヨーロッパとは異なり、昼間の気温は25度を超えようかという中東の環境は、ときに砂漠地帯特有の強風や砂塵が選手たちを苦しめることがあっても、長いシーズンの入口としてはコンディションを整えるのに十二分。例年2月下旬に催されるUAEツアーは、選手たちのエンジンもしっかり温まっている印象である。
今年も毎ステージ、激しい戦いが見られそうだ。近年はスプリント・タイムトライアル・山岳のバランスが整い、脚質ごとのスペシャリストが力を発揮するとともに、総合力が試されるステージレースの趣きである。それは、2024年大会も変わらない。
第1ステージ(141km)は主催者発表では平坦にカテゴライズされているが、風やレース展開次第ではプロトンがいくつにも砕かれる可能性がはらむ。砂漠地帯をおおよそ45kmにわたって南進したのち、モリーブ砂丘のサーキットを2周回。砂丘では部分的に10%超の急勾配が潜む。フィニッシュ前500mも5.6%の上りだ。
個人総合争いが本格的に動き出すのは、第2ステージからか。3500人収容のヴェロドロームが置かれ、2028年にはUCIグランフォンド世界選手権が開かれるアル・フダイリヤット島での12.1km個人タイムトライアル。いくつかの直角コーナーと2度のヘアピンコーナーがあるものの、総じて高速コース。有力選手間の大差は生まれないかもしれないが、数秒のタイムギャップが後の展開に影響を与える。
今大会1回目の本格山岳は第3ステージ(176km)。大会の名物であるジェベル・ジャイスの頂上を目指す。約20kmに及ぶ長い上りで、平均勾配5.6%。フィニッシュ前2km地点で最大勾配9%を数える。
ビッグシティのドバイを行く第4ステージ(175km)は、スプリンターが主役。美しいドバイハーバーにフィニッシュラインが敷かれる。続く第5ステージ(182km)は、再び砂漠地帯へ。中盤以降は針路を複数回変えることから、風を使ったチーム単位での動きが見られるかもしれない。最終日前日の第6ステージ(138km)は、首都アブダビの市街地をめぐる。
険しい自然を切り開くUAEツアー
そして、戦いの締めは名峰ジェベル・ハフィート登頂。第7ステージの行程161kmのうち、最後のおおよそ10kmが最終審判に。上り始めてからは8~9%の勾配が続き、フィニッシュ前3kmで最大11%に到達。最後の1kmを切ってからわずかな下り基調になり、思いのほかスピード感のある幕切れになるのも特徴だ。
この7日間の戦いに強い意志を持って臨むのが、事実上のホームチームであるUAEチームエミレーツだ。一昨年までタデイ・ポガチャルが個人総合2連覇を果たしたが、昨年は出走を回避し、チームメートにタイトルキープを託した。しかし、風による分断が起きた初日につまずき、アダム・イェーツが猛追したもののレムコ・エヴェネプールの逃げ切りを許す格好となった。
雪辱戦となる今回は、「トリプルリーダー体制での覇権奪還」をチームが宣言。個人としても4年ぶりの個人総合優勝を視野に入れるアダムに加えて、ブランドン・マクナルティ、ジェイ・ヴァインもタイトルを視野に走る姿勢だ。3人とも仕上がりはかなりもので、アダムは先のツアー・オブ・オマーンで最終日の逆転で個人総合優勝。マクナルティも1月下旬から2月上旬にかけてのボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレシアナを制覇。ヴァインは調整不足でツアー・ダウンアンダーの個人総合2連覇は諦めたが、UAEツアーにフォーカスし直して状態を整えてきた。
前回の二の舞にはなるまいと、ミッケル・ビョーグとヴェガールスターケ・ラエンゲンの“砂漠地帯要員”も配備。今度こそ、分断の後ろに取り残されることはないだろう。平坦では、フアン・モラノとイヴォ・オリヴェイラのホットラインが機能する。
これだけのメンツをそろえ、「UAEの誰もが誇りに思えるレースができそうだ」と手ごたえを口にしているアダム。戦力だけ見れば、他を圧倒している。
ただ、何が起きるか分からないのがサイクルロードレース。特に砂漠を突き進む中東のレースはなおさらである。前回の個人総合2位ルーク・プラップ(ジェイコ・アルウラー)や、同4位ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)は当然、上位戦線に加わるだろう。すでにワンデーレースで1勝しているベン・オコーナー(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル)や、移籍デビュー戦のトビアス・フォス(イネオス・グレナディアーズ)、前回ジェベル・ジャイスを制したエイネルアウグスト・ルビオ(モビスター)の走りも押さえておきたい。
トップスプリンターの競演も見もの
レムコを外して挑むスーダル・クイックステップは、ヤン・ヒルトやイラン・ファンウィルデルが軸に。ヴィスマ・リースアバイクは、アッティラ・ヴァルテルで上位入りを狙う。
UAEツアーのもうひとつの呼び物、スプリントも最高のメンバーが集結。次世代のスーパースプリンター、オラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)の勢いを、経験・実績とも豊富なディラン・フルーネウェーヘン(ジェイコ・アルウラー)やティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)らが抑えられるかが大きな見どころ。
確実にステージ上位を決めてくるカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)、新たな環境で心機一転してトップ返り咲きを目指すファビオ・ヤコブセン(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)の仕上がりはいかに。同じく再浮上を誓うサム・ベネット(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル)はUAEとの相性が良く、2月に入り地元コロンビアで1勝しているフェルナンド・ガビリア(モビスター)も調子を上げている。
ツール・ド・フランスのステージ優勝記録更新を目指し、キャリアを続行しているマーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタン)もスプリント戦線に名乗りを上げる。こちらもコロンビアで1勝しており、38歳となったいまなおスピードとフィニッシュ前のテクニックは若い選手たちに負けていない。
大会創設から6回目となる今年は、17のUCIワールドチームと4つの同プロチームがエントリー。全21チームが、2月に入って連戦してきた“アラビアン・ロード”の最後を彩る。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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