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サイクル ロードレース コラム 2024年2月5日

【ハイライト動画あり】圧倒的王者による圧倒的勝利 ファンデルプール6度目の戴冠|シクロクロス世界選手権2024レースレポート

サイクルロードレースレポート by 辻 啓
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6回目のアルカンシェル獲得したマチュー・ファンデルプール(オランダ)

1秒たりとも崩れない、集中し切った表情。スタートのその瞬間から1時間弱にわたって、何人たりともマチュー・ファンデルプールの前に出ることは許されなかった。2年連続となる、6回目のアルカンシェル獲得。2015年(当時まだ20歳)に初めてエリートカテゴリーで世界タイトルを手にしたチェコ・ターボルの地で、ファンデルプールが誰も寄せ付けないパーフェクトウィンを飾った。

ロードレースでは決して強豪国とは言えないが、シクロクロスでは伝統的に存在感を示すチェコ。その象徴とも言えるターボルでの世界選手権は2001年、2010年、2015年に続く4回目となる。コースレイアウトは微調整が加えられながらもこれまでのフォーマットを踏襲しており、川沿いに広がる緩やかな勾配の広場と土手を縦横無尽に駆け回る。かつてシーズン前半にワールドカップ会場として登場した際は多くの場合ドライだったが、シーズン後半は決まって天候が悪く、積雪や凍結に見舞われることもしばしば。幸か不幸か今回の世界選手権当日はそこまで気温が下がらず(最高7度)、時折太陽が顔を出す曇天のコンディションが選手を迎えた。

全長2950mコースの路面は大半が泥、泥、泥。「深くぬかるんだ」という表現とまではいかないまでも、登りだけでなく下りもしっかり踏まないとバイクが進まない絶えず出力が必要なパワーコースに。それまでに行われたU23やジュニアのレースよりもずっと乗車率が高いエリート男子のレースでさえ、1周につき10分弱のラップタイムを要した。なお、一人当たりのビール消費量ランキングで断トツ世界一のチェコだが、ベルギーやオランダと比べると観客の行儀はすこぶるよかった。コース上にプラスチックのビールカップが散乱するようなことはなかった。

定刻通り午後2時35分、日本から参戦した沢田時を含む49人のエリートシクロクロッサーたちが一斉にコースへと駆け出していく。手慣れたペダルキャッチが決まり、ひと踏み目から抜け出したファンデルプールを先頭に舗装路の第一コーナーへと突入する。泥対策として空気圧を落としたタイヤセッティングにもかかわらず、このホールショット争いのトップスピードは約55km/h。トラブルなく軽やかにコーナーを抜け、泥をものともしないスピードを披露したファンデルプールの独走が早くも1周目の前半から始まった。

無料動画

【ハイライト動画】UCI世界選手権大会 男子エリート シクロクロス

オレンジ色のオランダナショナルジャージを着用するファンデルプールを単独で追いかけたのは、同じくオランダカラーのヨリス・ニューエンハイスだ。今シーズンのワールドカップで1勝を飾るとともにシリーズランキング2位に入った現オランダチャンピオンが、淡々と、ファンデルプールに肉薄するラップタイムを刻んで周回を重ねる。チームDSM時代の2019年から2022年にかけてツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャの出場も経験し、2020年パリ~トゥール3位表彰台の実績ある27歳がしばらくファンデルプールを視界にとらえていたが、じわりとそのタイム差は開いていく。

ファンデルプールを追い2位でフィニッシュしたヨリス・ニューエンハイス(オランダ)

さらにその後方ではオレンジ軍団の一角ピム・ロンハールが3番手に浮上。しかし、エリート女子に続くオランダ勢による表彰台独占に、水色のベルギーナショナルジャージを着るマイケル・ヴァントゥレンハウトが待ったをかけた。これまで世界選手権30回制覇(オランダは10回)の常勝ベルギーは、キャプテンワウトを欠きながらも、ワールドカップ年間王者エリ・イザビットや、ファンデルプールと同様に元世界チャンピオンの父親をもつティボー・ネイスがいる。プライドとプレッシャーを背負ったヨーロッパチャンピオンのヴァントゥレンハウトは、レース中盤にロンハールを蹴落とすことに成功。一時はニューエンハイスの15秒後方にまで迫ったが、迫りきれず、3番手の走行に終始した。

3位にはヨーロッパチャンピオンのヴァントゥレンハウト(ベルギー)

先頭ファンデルプールは無双だった。今シーズン唯一黒星がついたワールドカップ第13戦ベニドルムのように、転倒などのミスまたは機材トラブル(この日ラース・ファンデルハーが被ったチェーン切れのように)が起これば簡単にひっくり返るのがシクロクロスだが、丁寧かつ冷静なライン取りと圧倒的なパワーで他を寄せ付けなかった。「いつでも最有力候補が勝てるわけじゃない。でも今日は脚の調子も良かったし、常に状況をコントロールできていた。決してリスクは冒さなかった。できるだけ慎重に難しいセクションをこなし、踏めるところはとことん踏んだ(ファンデルプール)」。

58分14秒間先頭を走り続けたファンデルプールは、フィニッシュラインを切ると、手際よく降車して、ピットで交換したばかりのキャニオン・インフライトCF SLXを指差した。ニューエンハイスが2位に入ってオランダ勢がワンツー。ヴァントゥレンハウトがベルギーに表彰台の安堵をもたらした。沢田時は同一周回での完走は果たせずに44位でレースを終えている。

勝利を飾ったバイクを指差すファンデルプール

今シーズン14戦13勝。もはや話が飛躍して、スタート前から「エリック・デフラミンクが60年代から70年代にかけて作った7回の最多勝利記録に近づく」といった具合に、勝つことだけを期待されていた男が勝った。ただ、ワウト・ファンアールトやトーマス・ピドコックが早めにシクロクロスを切り上げたように、ロードシーズンとの兼ね合いからファンデルプールが来季以降どこまでシクロクロスを走るのかは分からない。「(スケジュールに関しては)個人で決めることができず、これからチームと一緒に話し合っていく。冬場のシクロクロスは労力を要するんだ。シクロクロスをスキップすることがロードレースでのより良いパフォーマンスにつながるのであれば、そうする他ない。でもまだ来年の冬のことは分からないけどね(ファンデルプール)」。スター選手の今後のシクロクロス出場が気になるところだが、本人の言葉通り、100%ロードシーズンに傾倒したファンデルプールの力を見てみたい側面もあるのが一(いち)シクロクロスファンの気持ち。今はただ彼の偉業を祝福したい。

「シクロクロスシーズンで最も重要なレース」を終えたファンデルプールは、再びスペイン・マヨルカ島でのロードトレーニングに戻る。「1時間の高強度走行」に特化したフィジカルを、春のクラシックレースに向けてエンデュランス方向にシフトさせていく必要がある。目下、ファンデルプールは3月31日のロンド・ファン・フラーンデレンと4月7日のパリ~ルーベに出場予定。近いうちに3月のイタリアやフランスでの出場レース予定も発表されるはずだ。

この日、人一倍大きな声援を受けたゼネク・スティバルは、目に涙を浮かべながら31番手でフィニッシュした。表彰式後の特別セレモニーでスティバルは、家族ならびにサポーターに感謝の言葉を伝えるとともに、文字通りバイクをハングアップ(フックにかける=引退)した。2010年にこのターボルで世界チャンピオンに輝き、アルカンシェルを3回着用するとともにロードレース兼業シクロクロッサーとして駆け抜けてきたスティバルが、18年間のプロ生活にピリオドを打った。

現役最後のレースを駆け抜けたゼネク・スティバル(チェコ)

 

文:辻 啓

代替画像

辻 啓

海外レースの撮影を行なうフォトグラファー

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