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【シクロクロス2023 WC第9戦アントワープ:レビュー】「過去最高の仕上がり」ファンデルプールが砂舞う地元レースで圧勝する
サイクルロードレースレポート by 辻 啓マチュー・ファンデルプール
長い砂のストレートで仕掛けて先頭に立ったアルカンシェルが、そのまま40分間レースをリードして独走フィニッシュ。「ビッグ・スリー」が集結して大きな注目を集めたUCIシクロクロスワールドカップ第9戦アントワープで、鮮やかなテクニックで砂を走破し、パワーとスピードで他を蹴散らしたマチュー・ファンデルプールが勝利した。もはや「ビッグ・ワン」と揶揄されるほどの圧倒的な力で。
「スタートでミスして出遅れたんだ。序盤の混沌とした状況で前に上がるまでに時間がかかったけど、脚の調子は良かったし、パニックになることなく踏み続けた」。シクロクロスの勝負を分つと言っても過言ではないホールショット争い(スタート後のスプリント)でペダルが外れてバランスを崩し、集団後方に沈んだファンデルプール。UCIワールドカップ初戦を迎えた全日本チャンピオンジャージの織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)よりも後ろまで下がったが、そこから怒涛の追い上げが始まる。
トーマス・ピドコック
同じく序盤に苦戦したのが前週の第8戦ナミュールを制したばかりのトーマス・ピドコックだった。熾烈なポジション争いが繰り広げられた1周目の砂セクションで転倒したピドコックは、ファンデルプールと同様に後方からの追い上げを強いられる展開に。
ワウト・ファンアールト
その一方で好スタートを切ったのがワウト・ファンアールトだった。UCIワールドカップリーダーのエリ・イザビットやマイケル・ヴァントゥレンハウト、ピム・ロンハール、ヨリス・ニューエンハイスと言った今季ワールドカップの常連に混じってレースを展開したファンアールト。しかし、後方から強烈なペースで追い上げてきたファンデルプールには対応できなかった。「まだ1時間を全開で走れるコンディションではないので、コンサバティブに走ることにした。自分のペースを刻むことで燃え尽きることなく走ることができたので、良い判断だったと思う」と振り返るファンアールトは、3周目に7分19秒という最速ラップ(平均27.05km/h)を刻んで一躍先頭に立ったファンデルプールの後ろで、イザビットと2位争いを繰り広げることになる。体調不良で1週間思うようなトレーニングとリカバリーができなかったというピドコックも、ファンデルプールのスピードには対応できずに8番手で走るのがやっとだった。
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【ハイライト動画】UCIシクロクロス ワールドカップ 第9戦 アントワープ
港湾都市アントワープ(現地フラマン語でアントウェルペン)のシントアナストランド公園を利用したコースの特徴は何と言ってもスヘルデ川に面した長い砂浜エリア。熱烈な声援を受けるファンデルプールはかっ飛ぶように砂地を駆け抜け、滑らかな重心移動と身のこなしでコーナーをクリアしていく。「ライバルたちが砂セクションで苦戦しているのを見て、できるだけスムーズに走って先頭に立った。風が強くて、しかもハイスピードなレースだったので、後続が牽制してくれるのを期待しながら自分は自分のペースで走り続けたんだ」。オランダ国籍ではあるが、会場から直線距離で10kmほどしか離れていないベルギー・アントウェルペン州カペレン出身のファンデルプールが、10000枚以上の観戦チケットが販売された地元開催のUCIワールドカップで勝利した。
ファンデルプールにとってキャリア152勝。今季UCIワールドカップ初勝利で、前季から数えるとUCIワールドカップ3連勝。UCI世界選手権を含めると直近の6レースで負けなしの6連勝。ロードの世界タイトル保持者は、シクロクロスの世界タイトル連覇(そして自身6度目のタイトル)に向けて絶好調のまま年末の連戦を白星でスタートさせた。その無双ぶりは、「シクロクロスにおけるベストなマチューだ。これほどまで状態の良い仕上がりの彼を見たことがない」とチーム首脳陣が舌を巻くほど。
ファンデルプールから29秒遅れでフィニッシュに飛び込んだのはファンアールト。「早め(9月中旬)にロードシーズンを切り上げたマチューに対して、自分は(10月上旬まで)長めのロードシーズンを過ごした。シーズンの組み立て方は人それぞれなのでコンディションに違いが出るのは仕方がない。現状マチューは手が付けられないものの、レースをこなす毎に少しずつ改善できればと思う」。シルバーコレクションにまた一つ2位を追加する結果となったが、イザビットを突き放した残り2周(合計8周回のうち7周目)に7分21秒というファンデルプールに肉薄するラップを刻んだことからも、調子が上向きであることがうかがえる。
次戦のUCIシクロクロスワールドカップ第10戦ガーフェレでは再び「ビッグ・スリー」が顔を合わせる。コース特性は砂の平地から泥の丘へ。長年シクロクロスのシリーズ戦であるスーパープレスティージュの一戦として開催され、2022年に初めてUCIワールドカップに組み込まれた名コースで、ファンデルプールが3勝、ファンアールトが2勝、ピドコックが1勝をそれぞれ飾っている。
辻 啓
海外レースの撮影を行なうフォトグラファー
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