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【シクロクロス2023 WC第9戦 アントワープ:プレビュー】ついに「ビッグスリー」が集結、真冬のビーチで砂まみれの三つ巴バトルが巻き起こる!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか悪路を走るワウト・ファンアールトとマチュー・ファンデルプール
世界中のシクロクロスファンへ、とっておきのクリスマスプレゼント。12月23日、ベルギーのアントワープに、ついに「ビッグスリー」が集結する。真冬のビーチで、砂まみれの、三つ巴バトルが巻き起こる!
全14戦で争われるUCIシクロクロスワールドカップ2023/2024シーズンは、10月半ばにスタートした。シクロクロス界の「カニバル」と呼ばれた偉大なる王スヴェンの息子、20歳(当時)ティボー・ネイスのエリートカテゴリーW杯初勝利で幕を開け、その後はラルス・ファン・デル・ハール、ピム・ロンハール、エリ・イザビット、ヨリス・ニューエンハイスといった、いわゆる「シクロクロススペシャリスト」たちが順当に勝利を重ねてきた。すでに8戦目までを終え、優勝2回・表彰台3回のイザビットがワールドカップ総合首位の証、ホワイト&レッドのリーダージャージを身にまとう。
ただし暦も12月となり……いよいよ、主役たちの出番がやってきた。それがマチュー・ファンデルプール、ワウト・ファンアールト、そしてトム・ピドコック。いずれおとらぬ現代の自転車界が誇る「ハイブリッド」たち。3人あわせてシクロクロス世界選手権9連覇中なのはもちろん、ご存知の通りロード界での活躍から、はてはマウンテンバイク(ワウトを除く)まで支配下に置く3人が、次々と泥んこコースへと漕ぎ出してきくる。
モニュメントクラシックも、個人タイムトライアルも、シャンゼリゼの集団スプリントからモン・ヴァントゥ難関山岳まで、いつでもどこでも輝ける稀有な「全地形型」脚質を有するファンアールトは、12月9日に早くもシクロクロスシーズンを始動させた。軽いウォーミングアップを兼ねつつ、あっさりと優勝をさらった。
ただ、その後ファンアールトはスペインに渡り、ロードシーズンへ向けて走り込み。実は「去年までシクロクロスは目標だったが、今年はロードの調整手段」と宣言する。2024年こそは、どうしても春の石畳モニュメントが欲しいのだ。それでもクリスマス〜お正月の休暇を有意義に過ごすため、12月22日からの2週間で7レースに集中転戦。調子が良ければさらに2レース追加を考えているそうだけれど、過去3度勝ち取った世界選手権は、2年ぶりに欠場する。
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ピドコックもやはり、世界選手権には行かないと決めている。2年前のシクロ世界王者にして、現役マウンテンバイク世界王者&五輪王者は、2024年は夏に比重をおいている。ツール・ド・フランス総合争いと、直後のパリ五輪でのMTB2連覇に最高の調子で挑むために、ちょっとだけ早くシクロクロスシーズンを切り上げるつもりらしい。
ただ冬の1ヶ月間だけは、ピドコックがシクロクロスに100%を捧げることに変わりはない。12月16日の初戦はファンデルプールに次ぐ2位、17日のワールドカップ初戦は優勝、と好調のシーズンイン。しかも両戦ともスタートダッシュに失敗し、ときにトラブルに襲われながらも、凄まじい追い上げで格の違いを見せつけた。
一方で冬も、春も、夏も、秋も、全力で突っ走る覚悟なのがファンデルプール。春はサンレモからルーベまで、自身5つ目のモニュメントタイトルを追い求めるし、もしかしたらリエージュまで足を伸ばすかもしれないらしい。ツール完走→五輪ロードか、それともツール欠場→五輪MTB→五輪ロード→ブエルタ初出場かで、夏については未だ悩み中だそうだけど……。
とにかく現役ロード世界王者が固く誓うのは、2月のチェコで、自身6度目のシクロクロス世界タイトルを獲ること。ジュニア時代から通算してシクロクロス210勝、勝率73%(12月21日現在)という驚異的な数字を叩き出してきたMVDPにとって、エリック・デフラーミンクの史上最多世界選7勝に並び、追い越すことこそが「シクロクロスを続ける大きな理由」だから。この冬は本来であれば12月22日からシクロクロス入りする予定を1週間早めて、16日にさらりと初戦をもぎ取っている。
つまり、「ビッグスリー」は、それぞれに足慣らしを済ませ、この冬1勝目を手にし、間違いなく調子は上々。ちなみに16日のマチューvsピドコックは前者が圧倒し、22日にはマチューvsワウトが実現済み(原稿執筆時点では結果は不明)。そして12月23日のクリスマス・イヴ・イヴに、UCIシクロクロスワールドカップ第9戦で、お待ちかね、今シーズン初の三者直接対決が勃発するのだ。
3人にばかり視線が集まるものの、シクロクロスのスペシャリストたちも、きっと専門家の意地を見せてくれるはずだ。やはり「兼任」選手たち、たとえばロード合宿に出かけていたネイスは3週間ぶりの悪路大戦に帰ってくるし、スーダル・クイックステップのピュアスプリンター、ティム・メルリールは今冬初のシクロクロス出走。日本チャンピオンの織田聖もまた、強豪たちとともにスタートラインに並ぶ。
気になるコースの難題は、ずばり砂と草。2006年の創設以来「スヘルデクロス」の名称で親しまれてきた通り、スヘルデ川のほとりのシント・アナストランド、文字通り訳せば「聖アンナビーチ」にコースが引かれるのだ。冬の湿気を含んだ砂地は重く、河川敷の芝生では高速が出る。砂セクションが長いからこそ、バイクを担いで走る時間も長め。
パワーとスピードを要し、極めてテクニカルでもある同コースは、実はファンデルプールがひときわ得意とする地でもある。過去アントワープ大会には8回出走し、優勝6回・2位2回。3位以下に落ちたことすら一度もない。1年前には2位ファンアールトを、「マチューは速すぎた」と絶望させたほど。
この冬のアントワープでもまた、ファンデルプールが無双してしまうのか。2日後のクリスマスを心の底から笑って祝えるのは、ただ勝者1人だけなのだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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