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【Cycle*2023 パリ〜トゥール:プレビュー】デマールの3連覇なるか! 新・欧州王者のラポルト、絶好調ドゥリーらも虎視眈々 ぶどう畑のグラベルと丘陵が真の猛者を決める
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介パリ〜トゥール
サイクルロードレースシーズンの終わりを告げるレースがそれぞれの国で存在するが、フランスにおいてはパリ〜トゥールと相場が決まっている(厳密にはクロノ・デ・ナシオンというTTレースが最終戦)。初開催は1896年、今年で117回目を迎える伝統の一戦は、トップカテゴリーからひとつ下のUCIプロシリーズに位置しているが、レースそのものの格式は何ひとつ変わっていない。平地系ライダーにとっては憧れのレースであり、ここでの勝利から世界の一線級へとステップアップした選手も多い。
このレースの最大の特徴は、「シュマン」と呼ばれるぶどう畑を縫うグラベル(未舗装区間)をゆく点にある。フィニッシュまで70kmを切ったタイミング(フィニッシュ前50kmとの主催者発表もあるが……)からグラベルが始まり、全10セクター・総距離10kmを数える。
パリ〜トゥール コースマップ
それだけならまだ何とかなりそうだけど、グラベルとグラベルの間には短めの丘越えも待っていて、これが選手たちの脚を削る要素にもなっている。シュマンが採用された2018年以降は難度の高い区間で仕掛けた数人がそのまま優勝争いに転化しがちだったが、コース攻略の糸口をつかむ選手が年々増えていて、昨年は集団スプリントで決着している。
2023年大会は昨年に引き続き、ゴシック建築の大聖堂がユネスコ世界遺産に登録されるシャルトル(パリから南西に約90km)を出発。おおむね南西に針路をとって、これまた古城が世界遺産登録されるトゥールにフィニッシュ。214kmの行程は前回から500mのみの延伸で、ほぼ同じルーティングとなっている。
今大会最大の焦点は、アルノー・デマール(チーム アルケア・サムシック)の3連覇なるか。一昨年は3選手の争いを、昨年は集団スプリントをそれぞれ制し、異なる形で勝利を収めた。今年の8月にチームを移り、10月1日のツール・ド・ヴァンデで移籍後初勝利。チームとしても、新たなエーススプリンターを盛り立てていく気概に満ちている。
高低差図
そんな“パリ〜トゥール メートル”(巨匠)に対抗するのは、9月下旬に新たなヨーロッパ王者に就いたクリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィスマ)。春には北のクラシックで主軸を務めるくらいだから、グラベルも当然お手のもの。独走でも、小集団でも、そしてスプリントでも勝てる器用さがあるから、デマールと同様にあらゆる展開に対応が可能だ。
彼らと同様に、このところは“本職”のスプリントだけでなく丘陵コースにも強さを見せているアルノー・ドゥリー(ロット・デスティニー)も楽しみ。その他スプリンター系では、ツール・ド・フランスのシャンゼリゼステージを制したヨルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ)や、ブエルタ・ア・エスパーニャでポイント賞を獲ったカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)、コンスタントに上位を押さえてくるビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)らの名が挙がる。エドワルト・トゥーンス(リドル・トレック)は、この大会でジャパンカップ前の総仕上げ。
「シュマン」と呼ばれるぶどう畑を縫うグラベル区間 マップ拡大
グラベル区間 概要
かたや、オールラウンドに力を発揮するタイプでは、マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)、トビアス・ヨハンネセン(ウノエックス・プロサイクリング チーム)、マッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ)、ロジャー・アドリア(エキポ・ケルンファルマ)あたり。本格的にシュマンが導入された初年度の2018年に勝っているセーアン・クラーウアナスン(アルペシン・ドゥクーニンク)も調子を上げているし、ツールやブエルタでの働きぶりが光ったディラン・ファンバーレ(ユンボ・ヴィスマ)は独走に持ち込むと一気に勝機が膨らむ。
そして、やはり今年もエモーショナルなレースになりそうだ。昨年はフィリップ・ジルベールが引退レースにパリ〜トゥールを選んだが、今回はグレッグ・ファンアーヴェルマート(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)が“ラストダンス”の舞台にチョイス。その理由は、「キャリア初のビッグクラシック勝利がこのレースだったから」。2011年大会での優勝は、2016年リオ五輪の金メダルや、翌年のパリ〜ルーベ制覇などにつながる大きな一歩だったとの思いは強く、「勝ってキャリアを終えたい」と意欲的。「他の選手にプレゼントをするつもりはないし、もちろんプレゼントしてもらうつもりもない。最後まで本気で走る」との宣言も飛び出した。チームからはブノワ・コスヌフロワもメンバー入りしており、双頭体制でシーズン末のタイトルを目指す。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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