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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第19ステージ】流れを読み、冷静に後輪を渡り歩いたアルベルト・ダイネーゼがDSM最終年でブエルタ初勝利「チームで過ごした日々を、美しく締めくくりたかった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかダイネーゼがスプリントフィニッシュを制した
これがスプリントステージの難しさか。1日中チームの仲間たちと共に働いてきたとカーデン・グローブスは、ラスト1.5kmの集団落車で、一瞬にしてチャンスを失った。やはり同じ落車で発射台2人を失いながらも、フィニッシュラインぎりぎりまで我慢し続けたアルベルト・ダイネーゼに、勝利の女神は微笑んだ。閉幕まで2日。総合争いに一切の変動はなく、セップ・クスは12枚目のマイヨ・ロホを身にまとった。
「最高のやり方でシーズンを終えたかったし、チームで過ごした日々を、美しく締めくくりたかった。だからこそ、この勝利を、本当に特別なものに感じる」(ダイネーゼ)
3週目の終わりが近づいてきた。難関山岳ははるか後方へと過ぎ去った。大部分の選手たちは、7ステージぶりの平地で、イージーな1日を過ごすつもりだったに違いない。しかし、結局のところ、プロトンは全長177kmのコースを時速47.8kmの超高速で駆け抜けることになる。2回のタイムトライアルステージを除けば、文句なしの最速走行だった。
すべてはアルペシン・ドゥクーニンクのせいなのだ。スタートからほんの10kmほどで、小さなグループが前方へ逃げ出していくと、すぐにチーム総出で熱心にタイム差コントロールに取り掛かった。
クレモン・ダヴィ、ポール・ラペラ、マティス・ルベールというフランスチームのフランス人選手3人と、スペインチームのチェコ人ミカル・シュレゲルには、最大でも2分50秒しかリードを許さなかった。UAEチームエミレーツやロット・デスティニーの協力も得て、大部分の時間は1分半から2分の間で厳しく制御した。そしてステージも残り50kmを切ると、早くもタイム差を急速に縮めていく。
なにしろグローブスは、この日、2回スプリントするつもりだった。大会4日目の終わりから大切に守り続けてきたポイント賞首位の座は、レムコ・エヴェネプールに急速に脅かされつつあった。前日第18ステージ終了時には、グリーンジャージ用のリードは、もはや36ポイントに減っていた。最後の3日間で最大180ポイントが回収可能だったから、うち2日間がたとえ得意な平地ステージだったとしても、決して気を抜くわけにはいかない。中間スプリントでも、フィニッシュでも、最多ポイントを稼ぎたかった。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第19ステージ|Cycle*2023
残り19.3kmの中間スプリントで、グローブスは1度目の失敗を喫する。7kmも手前で10秒以内の射程圏内にとらえながらも、逃げの4人がしぶとく抵抗を示した。スペイン特有の真っ直ぐの道で、凄まじい綱引きが繰り広げられた。ラペラとルベールがついには諦め、ライン手前でシェレゲルを飲み込んだが、ほんのわずかな差でダヴィを取り逃してしまう。グローブは2位通過の17ポイントで満足するしかなかった。
アルペシン列車はその後も決して手を緩めなかった。直後にカウンターで飛び出して行ったサムエーレ・バティステッラは、フィニッシュまで10kmを残して、しっかりと回収した。
そこからは複数のスプリントチームが激しく最前列を奪いあった。イネオス・グレナディアーズでは、世界屈指のTTスペシャリストであるフィリッポ・ガンナを発車しようと、元ツール・ド・フランス総合覇者ゲラント・トーマスが凄まじい牽引役を務めた。前日まで山で総合争いを繰り広げてきたUAEチームエミレーツも、この日は、1年前にマドリード最終ステージを制したフアン・モラノのために働いた。チームDSM・フィルメニッヒも、ダイネーゼを最高の場所へと導きつつあった。もちろんアルペシンとグローブスは、ラスト2kmで、一番前のポジションを取り戻した。
残り1.5kmを切った直後だった。ブエルタ閉幕の1週間後に、初めてエリート代表として欧州選手権に挑むマライン・ファンデンベルフを乗せて、EFエデュケーション・イージーポストが猛スピードで駆け上がっていく。そのピンクの列車が左側に並んだ瞬間だ。右側のイネオスにばかり気を取られ、アルペシン隊列先頭にいたトビアス・バイヤーがバランスを崩した。そのままハイスピードで転落。後方にいた複数の選手が巻き込まれた。チームエースのグローブスも、脚を止めたひとりだった!
「怪我はしていない。自転車から足を外して、地面に叩きつけられる事態は避けられた。だから僕自身は大丈夫。不幸だったのは、タイミングが悪かったこと。スプリントできなくて本当に残念だ」(グローブス)
フィニッシュまで3km以内で発生した事故だったため、落車した選手にも、分断で後方集団に追いやられた選手にも、ルールに則って区間勝者と同じタイムが与えられた。しかしステージ順位は、実際にラインを通過した順番で記録される。奮闘むなしく、グローブスは133位で1日を終えた。
カーデン・グローブスが巻き込まれたクラッシュ
グローブスは区間3勝目どころか、つまりフィニッシュでの緑ジャージ用ポイントさえ取り逃した。ただ、かろうじて中間で17ポイントを収集していたおかげで、2位以下との差は再び53ポイントに開いたし、実は人生初のグランツールポイント賞に輝く可能性も大いに高まった。翌第20ステージは最大でも40ポイントしか配分されない。たとえ山岳賞エヴェネプールが通算5度目の逃げに乗り、全ポイントをさらい取ったとしても……少なくとも、土曜日に逆転される危険性はない。
同じ落車では、DSM列車を高速で牽引していたショーン・フリンとマックス・プールもまた、アスファルトに投げ出された。分断を逃れ、スプリントへと雪崩れ込んだ30人ほどの先頭集団の中に、ダイネーゼのアシスト役は皆無だった。
「2人を失ったのは本当に不幸だった。でも、その時点まで、彼らは僕をパーフェクトなポジションに留め置いてくれたんだ」(ダイネーゼ)
複数を前に残したEFとイネオスが猛烈に競り合い、残り250mで、ガンナが大胆にロングスプリントを切った。つられて多くの選手が全力疾走を始めた一方で、2列目でじっと姿を潜めていたダイネーゼは、決して慌てなかった。流れを読み、冷静に後輪を渡り歩いた。
「第1週目のスプリントを見直して、どこが上手く行かなかったのかを考えた。おかげで今日の僕らは、計画通りの走りができた。フィニッシュで向かい風が吹いていることは理解していた。だからガンナや他の選手たちを早めに行かせて、僕はタイミングを待った」(ダイネーゼ)
残り100mまで我慢したダイネーゼは、一気にパワーを爆発させると、ライン直前でガンナを抜き去った。この春のジロでも、大会3週目に両手を挙げたイタリアンスプリンターにとっては、スペイン一周でつかんだ初めての勝利。プロ入り以来4年間過ごしてきたDSMにーー来季からはファビアン・カンチェッラーラがオーナーを務めるチューダー・プロサイクリングで走るーー、初日チームタイムトライアルに続く、今ブエルタ2勝目を献上した。
また第10ステージ個人TT区間勝者ガンナは、「僕はスプリンターじゃないから」と肩をすくめたものの、今大会の大集団スプリントフィニッシュで2度目の区間2位。4位にはダヴィデ・チモライが入り、区間トップ4に3人のイタリア人が肩を並べた。
総合トップ3を有するユンボ・ヴィスマは、最終盤に集団前方で隊列を走らせた以外は、極めて静かに平地ステージを終えた。マイヨ・ロホのセップ・クスは、今季のツール総合覇者ヨナス・ヴィンゲゴーとジロ王者プリモシュ・ログリッチに支えられ、いよいよ翌第20ステージ、2023年ブエルタ・ア・エスパーニャ最後の試練に挑む。スーパーアシストのグランツール初優勝なるか。同一チームによる同一年年間3大ツール全制覇&同一チームによる総合表彰台独占という、歴史的快挙も待っている。
マイヨ・ロホで手を振るセップ・クス
「幸いにも、僕らはあらゆるトラブルを回避し、無傷でフィニッシュにたどり着いた。チームメイトたちに助けられて、常に前方に留まることができた。こうしてまた1日を消化した。僕らの目標に、さらに1日、近づいたんだ」(クス)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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