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サイクル ロードレース コラム 2023年9月14日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第17ステージ】ユンボの三神が区間トップ3を独占!総合3位プリモシュ・ログリッチ「正直に言えば、行きたい気持ちもあったし、行きたくない気持ちもあった」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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激坂のよじ登るログリッチとセップ・クス

激坂のよじ登るログリッチとセップ・クス

ある意味、状況は、よりクリアになった。またしても区間トップ3を独占したユンボ・ヴィスマ最強トリオは、マドリードでの総合表彰台完全占拠へと大きく前進した。またある意味では、アングリルの深い霧の中で、むしろ状況は混沌さを増した。3人の最終的な順列は、ますます分らなくなった。激坂でほんの少し遅れをとった総合首位セップ・クスから、この日のステージ勝者にして総合3位プリモシュ・ログリッチまでの距離は、わずか1分08秒でしかない。なによりヨナス・ヴィンゲゴーが、マイヨ・ロホまで、たったの8秒差に迫っている。

「今の時点ではセップが赤ジャージであり、フィニッシュでは、彼が首位を守れるよう願った。でも、ベストを尽くすのが、僕の義務でもある。誰が最後にマイヨ・ロホを決ているのかは、道が、決めるだろう」(ログリッチ)

青玉ジャージへの執念は凄まじかった。予告通り、レムコ・エヴェネプールは飛び出した。ディフェンディングチャンピオンは、まるまる1時間続いた時速50kmの高速バトルを、見事に勝ち抜いた。先に逃げ出していたチームメイトのマティア・カッタネオの待つ小集団に、思い切ってブリッジをかけると、ついには最前線へと駆け出した。

出来上がった11人の逃げグループの中でも、エヴェネプールは決して安穏とはしていなかった。カッタネオと共にあっという間に先頭を3選手に絞り込んだ。急ぐ理由があった。ステージ優勝を狙えるほど脚の調子は良くなかった。しかもスタート前に、クスから、はっきり告げられた。区間勝利を狙うために、ユンボ・ヴィスマがレースを制御するであろうことを。タイム差は最大3分しか許されなかった。

「厳しい戦いになることは最初から予想していた。でも、どうしても、飛び出したかった。序盤2つの山でポイントを最大限収集する必要があった。山岳争いを有利に運ぶためには、この2つ山の存在が極めて重要だと分かっていたから」(エヴェネプール)

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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第17ステージ|Cycle*2023

1つ目の1級山岳コリャディエリャに入ると、残る1人もあっさり振り落とし、ウルフパック2人はさらに厳しくテンポを刻んだ。カッタネオは続く2つ目の1級コルダルの麓まで、懸命に作業を請け負った。そこから先は、エヴェネプールが孤独な努力を続けた。

望み通り、2つの1級峠で、それぞれ先頭通過を果たした。山岳ポイントを合計20pts積み上げ、山岳賞2位ヴィンゲゴーとの差を40ptsに、3位マイケル・ストーラーとの差を52ptsに開いた。もちろん青玉ジャージの最終的な行方はいまだ決してはいない。翌第18ステージで38pts、第20ステージでは30ptsが回収可能だ。だからこそ、エヴェネプールは、新たに予告する。

「明日はまたしても逃げに乗るチャンスがやって来る。ポイントを改めて取りに行く。もしもヴィンゲゴーやストーラーが前に飛び出さなければ、僕も逃げる必要はないのだけど……でも、ステージ優勝のためにも前に行きたい」(エヴェネプール)

緑ジャージにかけるカーデン・グローブスの執念もまた、凄まじかった。1級峠ではユンボ・ヴィスマ隊列の強いるスピードにしがみついた。すべては下り切った先に配置された、中間ポイントのため。残り33.1km、「上れる」スプリンターは、メイン集団の先頭できっちり中間スプリントを駆け抜けた。ただ、逃げ選手が、いまだあちこちに散らばっていたせいで、全体で見れば6番通過。ポイントがもらえる上位5位圏内を逃し、ポイント賞2位エヴェネプールに対するリードを76ptsに減らした。マドリードまでは残り4日。グローブスにとって幸いなことに、平坦ステージはあと2回残っている。

副賞ジャージを追い求める者たちの奮闘に呼応するかのように、区間と総合を巡る争いも、過熱していく。1つ目の1級峠では、総合6位マルク・ソレルが、メイン集団から単独で飛び出した。「アングリルの激坂こそ僕らチームの有利に働くはず」と、2回目の休息日に語っていた総合4位フアン・アユソのための布石に違いなかった。

レムコ・エヴェネプール

レムコ・エヴェネプール

2つ目の1級峠では、ユンボ隊列から、突如としてバーレーン・ヴィクトリアスがプロトンの主導権をむしり取った。ステージ優勝と総合7位ミケル・ランダの総合ジャンプアップという2つの目標を掲げ、5人がかりで隊列を組み上げると、猛烈な牽引を敢行した。早々にソレルを前から引きずりおろし、さらにはエヴェネプールをも、残り5.5km、超級アングリルの山道で回収した。

その細く険しい山道は、相変わらず美しくもあり、恐ろしくもあった。クレイジーなほどの勾配が、繰り返し選手に襲い掛かった。この特異な地で2017年と2011年の2度、区間2位に食い込んだ経験を持つ35歳ワウト・プールスが、ランダを背負ってさらにペースを上げた。

途端にアングリル初体験の20歳のアユソは、この山の真の恐ろしさを理解することになる。逆転表彰台乗りを試みるどころか、「まるで永遠に続くかのような」苦行に耐え切れず、山頂まで5.2kmで早々と勝負から脱落した。すでに魔の山をレースで2回登り、1回目の2017年はアルベルト・コンタドールの人生最後の優勝に大きく貢献し、2回目の2020年は区間3位に飛び込んだ総合5位エンリク・マスさえ、4.7kmを残して静かに後退していく。

先頭にはバーレーン3人(プールス、ランダ、サンティアゴ・ブイトラゴ)とユンボ3人(クス、ヴィンゲゴー、ログリッチ)だけが残った。いつしかブイトラゴも後方へと消えていった。プールスの作業も限界が近づきつつあった。そこまでバーレーンの背後でひたすら守備的に走ってきたユンボ勢が、残り3km、満を持してとうとう攻撃に転じた。

「バーレーンにペースを委ねていた。彼らは十分な速さで走っていたからね。でも、ある時点で、ペースが少し下がったように感じた。だから前に出て、あとは山頂までマイペースで突き進むことに決めた」(ログリッチ)

ログリッチは、そろり、と最前列へと踊り出した。あまりの難勾配に爆発的な加速など不可能で、ミリ単位でしか距離は開かなかった。それでも背後でもがくプールスやランダの姿は、山道に詰めかけた人並みの向こう側に、少しずつ、着実に遠ざかっていく。

逆に500mほど先で、クスがログラに追いついてきた。さらにはヴィンゲゴーさえも!他のライバルの影など一切なく、「アストゥリアスのオリンポス山」には、ただユンボの三神のみが君臨した。2023年ブエルタを、ユンボが完全なる支配下に治めた瞬間だった。

しかし3人のランデヴーは長くは続かなかった。先頭のログリッチはあくまで「マイペース」を貫き、2番目のヴィンゲゴーは後輪にぴたり張り付き、3番目につけていたマイヨ・ロホが……残り2km、後方へと滑り落ちていった。チラリ、とヴィンゲゴーは振り返った。2人のグランツール覇者は、スピードを緩めなかった。この春にジロ総合勝利をもたらし、夏にはツール2連覇の立役者となった最高の山岳アシストを、ログリッチとヴィンゲゴーは待たなかった。

「セップが脱落した瞬間は、少し奇妙な間隔を覚えた。正直に言えば、行きたい気持ちもあったし、行きたくない気持ちもあった。でも今日のレースは、全員に勝ちを取りに行く自由が与えられていた」(ログリッチ)

そのまま山頂まで、ただ黙々と、先頭交代さえせずに突き進んだ。もしも3人一緒だったら、手に手を取り合って、フィニッシュしていたのだろうか。2人はライン上でスピードを落とさなかった。ウィニングポーズも控え目に、ログリッチが今大会区間2勝目にして通算12勝目を挙げた。24時間前は志願して区間を勝ちに行ったヴィンゲゴーは、この日は自ら一切動かぬまま、区間2位のボーナスタイム6秒を手に入れた。

2人に置き去りにされたクスは、なにもすべてを失ってしまったわけではない。ラスト1.5kmで追いついてきたランダの全力疾走に乗じて、2人との遅れをわずか19秒に食い止めた。それどころか協力者を出し抜いて、野心的に、区間3位のボーナスタイム4秒も獲りに行った。ライン通過の瞬間は「ジャージを失ったに違いない」とも考えたという。実際は、29歳の誕生日を、人生10度目のマイヨ・ロホ表彰式で祝った。いまだ8秒のリードを有していた。

マイヨ・ロホを守ったセップ・クス

マイヨ・ロホを守ったセップ・クス

「奇妙な感じだけど、決して悪い気分ではない。またしても、とびきり強く、友でもあるチームメート2人と、1日を過ごすことができた。2人は偉大なるチャンピオンだ。僕も自分の勝ちが欲しいけど、もしも必要とあらば、僕は彼らのために働く準備もできている」(クス)

ユンボにとっては、第13ステージに次ぐ、今大会2度目のステージトップ3独占。「今日のメインゴール」だった総合1・2・3の座も、まるで危なげなく、5日連続で守った。しかも総合3位ログリッチと、この日の激坂に大いに苦しめられた4位アユソのタイム差は、前日までの1分から一気に2分52秒へと広がり、ユンボ・ヴィスマによる最終総合表彰台の独占の可能性はかつてないほどに高まった。どの順番で乗るかだけが、いまだに分からない。

「セップがまだレッドジャージを着ていることを、素直に嬉しく思う。正直に言えば、彼にジャージを守ってほしかったし、セップにブエルタ総合制覇を成し遂げてほしいと思ってる」(ヴィンゲゴー)

ユンボ・ヴィスマの牙城はあまりに堅固で、この先は、総合トップ5の残り2つの席を巡る争いが激化するかもしれない。なにしろ3日後に21歳の誕生日を迎えるアユソは、2年連続の総合表彰台乗りを狙う前に、4位確保さえ分からなくなってきた。チーム総出で健闘したランダが、アユソから16秒遅れの総合5位に浮上した。さらに14秒後の6位には、マスがつけている。新人ジャージは、現時点で2位以下に2分43秒差をつけるアユソが、いまだ安泰だろうか。もちろんアングリルで上手く巻き返した20歳のキアン・アイデルブルックスを、用心するに越したことはない。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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