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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第13ステージ】自転車史上初の「同一チームによる同一年3大ツール全制覇」に一歩前進。この夏のフランス王ヨナス・ヴィンゲゴー「ただ嬉しいし、誇らしい」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか単独で山頂を目指すヨナス・ヴィンゲゴー
完全なる独占。ユンボ・ヴィスマが区間トップ3に飛び込み、総合順位さえもトップ3に並んだ。この夏のフランス王ヨナス・ヴィンゲゴーが、秋のフランス訪問を堂々たる勝利で飾り、セップ・クスのマイヨ・ロホは、ツールマレーの頂でますます美しく輝いた。今ジロ総合覇者のプリモシュ・ログリッチも、老獪な走りでライバルたちをさんざん疲弊させた挙句、最後にきっちり自らの利を得た。第6ステージのクス、第8ステージのログリッチに続き、ユンボ・ヴィスマにとっては3人目のエースによる区間3勝目でもあった。
「チームのプランは、ライバルたちからタイムを稼げるかどうか試すというものだった。その通りに物事は運んだ。ただ嬉しいし、誇らしい。むしろ僕らはプラン以上の成功を手に入れたと言える」(ヴィンゲゴー)
スペイン一周が、フランスで大きく動いた。ゲラント・トーマスを含む20人前後の大きな塊も、マイケル・ストーラーを含む4人の小さなグループも、本当の意味で逃げ出すことはできなかった。スタート直後からユンボ・ヴィスマの隊列が高速テンポを刻み、レースを厳しい管理下に置いたせいだった。
数日前から風邪気味だったというジョアン・アルメイダは、ユンボの強いるスピードに耐え切れなくなった。スタートからほんの40km走っただけの、超級オービスクの上りで、メインプロトンから後退していく。それでも、この春のジロで生まれて初めてグランツール総合表彰台に上がった25歳は、最後まで決して大きく崩れることもなかった。最終的に区間勝者から6分47秒差でフィニッシュにたどり着き、総合も10位に踏みとどまった。
アルメイダが遅れだしたほんの少し先では……レムコ・エヴェネプールもまた、メイン集団から姿を消した。
ディフェンディングチャンピオンは今大会3日目にステージ勝利を挙げ、マイヨ・ロホだって3日間着用した。6日目に小さなバッドデーも経験したものの、大会13日目の朝、いわゆる「総合本命」の中では、エヴェネプールはいまだ最上位の総合3位につけていた。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第13ステージ|Cycle*2023
あまりに突然の失速だった。フィニッシュまでいまだ90kmも残っていた。遅れを最小限で食い止めようと、1分半から2分程度の遅れで長らく抵抗を続けたし、「ウルフパック」の仲間たちも、文字通り全員体制で若きエースを支えた。しかしエヴェネプールの苦しみを察知するや否やユンボ隊列は容赦なくテンポを上げ、オービスクからの下りでは、バーレーン・ヴィクトリアスも加速に加わった。
続く1級スパンデルの上りで、遅れは一気に広がった。ブエルタ2連覇の夢は、苦しみの中で潰えた。今ジロはコロナ陽性のせいで、マリア・ローザを着たまま途中棄権を余儀なくされたエヴェネプールは、この日だけで27分05秒を失い、総合では19位に陥落した。
「僕のタンクは空っぽだった。すべてを尽くしたし、後悔はない。1日中、僕の側にいてくれて、僕のために全力を費やしてくれたチームメイトたちに感謝したい」(エヴェネプール)
そのスパンデルに向けて、前線ではちょっとしたスパーリングも繰り広げられた。最も活発に動き回ったのがヴィンゲゴーだ。下りで加速したミケル・ランダに、クスと共に呼応したり、自ら小さな加速を打ったり。そのたびにマルク・ソレルが穴を埋めに走った。26秒差で総合2位につけるスペイン人の背後に、ログリッチはただ影のように張り付いた。
小さな加速ごっこはスパンデル中腹で終え、ユンボは再びコントロールモードに切り替えた。ウィルコ・ケルデルマンがテンポを刻み始めた。すでにオービスクでさんざん働いたロベルト・ヘーシンクも、後方から大急ぎで追いついてくると、再び牽引役を買って出た。20人ほどにまで絞り込まれていた先頭集団に、つまりユンボ・ヴィスマはいまだ5人を残していた。残り16km、最終峠ツールマレーの序盤でヘーシンクが作業を終え、残り8kmでケルデルマンが脇に逸れるまで……圧倒的な数的優位を誇るユンボによる、凄まじい統制は続けられた。
ちなみにスパンデル山頂へ向けて、2年前の山岳賞ストーラーの山岳ポイント収集アタックだけは、ユンボは寛容な心で見逃した。ただ、その背後ではヴィンゲゴーが2位争いのスプリントに加わり、ボーナスタイム4秒をきっちり競り落としている(3位はフアン・アユソ)。それに、1日の終わりには、ヴィンゲゴーが山岳賞首位の青玉ジャージを身にまとうことになるのだ。
なによりヴィンゲゴーは、初めてのブエルタ区間勝利を手に入れた。ヘーシンクとケルデルマンの献身のおかげで、1ダースにまで数を減らした先頭集団から、残り8km、アタックに転じた。もはや小手試しなどではなかった。2度、畳みかけるように加速を切ると、そのまま独走態勢に持ち込んだ。
スタート前の話し合いで、今区間はヴィンゲゴーでステージ勝利を狙うよう、ユンボ・ヴィスマの全員が合意していたという。山道が長く、標高の高いツールマレーは、間違いなくヴィンゲゴー向きの上りだった。7月のツールでは個人タイムトライアルの1勝に留まったから、今度こそ、山頂フィニッシュで勝ちたかった。しかも、この9月8日は、愛娘フリダちゃんの3歳の誕生日。絶対に勝利をプレゼントしようと、ツール・ド・フランス2連覇中のチャンピオンは強く心に誓っていた。
圧倒的な統率力を示したユンボ・ヴィスマ
「勝ちに行くのに、これほど最高の日はなかった。だって今日は娘の誕生日だ。彼女のためにどうしても勝ちたかった。本当に嬉しい。今日は娘のためにがんばった」(ヴィンゲゴー)
一方でクスの使命は、そのヴィンゲゴーの飛び出しを上手く利用しつつ、マイヨ・ロホを守ること。だから真っ先に追走に乗り出した昨大会2位のエンリク・マスの、後輪にピタリと張り付いた。残り4kmの加速で一度はマスを振り払ってはみたものの、しばらく先で追いつかれると……途端に減速。さすがプロトン屈指の名アシスト。たとえ赤いジャージを着ていようとも、すでに30秒先を走っていたヴィンゲゴーにライバルが追いついてしまわぬよう、巧みな駆け引きは忘れない。
またログリッチは監視役として、昨大会3位アユソと昨ツール・ド・ラヴニール覇者キアン・アイデブルックスの「20歳コンビ」に長らく同伴した。スパンデルのスパーリングで力を使いすぎたミケル・ランダは、落ちたり追いついたりを繰り返し、同じくソレルは、完全に後方へと吹き飛ばされていた。
時にはマスとアユソが力を合わせて、なんとか状況を打開しようと試みた。また時にはアユソが2度、3度と加速し、敵を突き放しにかかった。しかしヴィンゲゴーに追いつくことは不可能で、クスとログリッチを振り払うこともまた、不可能だった。それどころか、逆に、徹底的にユンボにやり込められてしまうことになる。
ヴィンゲゴーは8kmの独走を勝利に結びつけた。クスは残り1.2km、改めて加速を切ると、今度こそ一人でフィニッシュへと急いだ。最後まで監視役に徹したログリッチもまた、山頂直前に、邪魔者をすべてまとめて振り払った。ヴィンゲゴーはフィニッシュラインギリギリまで踏み続け、その30秒後にクスもまた全速力でステージを終えた。3秒後にはログリッチが山頂に駆け込んだ。3人はそれぞれ10秒、6秒、4秒のボーナスタイムも積み重ねた。
当然ながらクスは総合首位の座を動かず、ログリッチが1分37秒遅れの総合2位に、ヴィンゲゴーは1分44秒遅れの総合3位にそれぞれ浮上した。また最後までユンボに抵抗し続けたアユソは総合4位(2分37秒差)に順位を上げ、新人ジャージもエヴェネプールから引き継いだ。マスは総合5位(3分06秒差)に、アイデブルックスは総合9位(5分30秒差)にジャンプアップ。赤ジャージ着用の希望を失ったソレルは、3分10秒遅れ総合6位に踏みとどまっている。
マイヨ・ロホを守ったセップ・クス
「ユンボ・ヴィスマがブエルタを勝ったと断言するのは、まだ早すぎる。僕らは間違いなく非常に良いポジションにつけている。しかも僕ら3人ともが総合優勝を狙える位置にいる。ただ、僕らは、互いに戦うために今大会にやってきたわけではないんだ。僕らの中で誰がブエルタを勝つべきかなんて、今日明日には決まらない。僕らの願いは、とにかく、ユンボ・ヴィスマが今大会勝つことなんだ」(クス)
自転車史上初の「同一チームによる同一年3大ツール全制覇」を狙うユンボ・ヴィスマは、1996年ブエルタ以来57年ぶりの「同一チームによる総合表彰台独占」さえも、可能な位置につけている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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