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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第12ステージ】フアン・モラノが力強い勝利をさらい取る!UAEは2023年3大ツールすべてで区間勝利獲得「この勝利はチームみんなのものだ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか仲間と喜ぶフアン・モラノ(左)
最高の軌道と、最高のタイミングで。文字通り1日中働いてきたアルペシン・ドゥクーニンク隊列を、ラスト350mで、UAEチームエミレーツのタンデムが攪乱した。発射台ルイ・オリヴェイラにパーフェクトに導かれて、フアン・モラノが力強い勝利をさらい取った。総合4位プリモシュ・ログリッチがボーナスタイム4秒を手に入れた以外は、総合勢に一切の変動はなかった。
「チームの仕事に心から感謝してる。今日はみんなが僕のために働いてくれた。オリヴェイラは完璧で、すべてが予定通りに進んだ。この勝利はチームみんなのものだ」(モラノ)
スタート直後にイェツセ・ボルとアベル・バルデルストーネが飛び出して行くと、ひどく簡単に本日の逃げは決まった。収集すべき山岳ポイントは一切存在しなかったし、なにしろトゥルマレ登坂を翌日に控えている。大多数の選手は、静かにペダルを回すことを選んだようだった。
ただ、アルペシン・ドゥクーニンクだけは、真摯に仕事に打ち込んだ。わずか15kmほど走った先で、早くもタイム差制御に乗り出した。深緑のポイント賞ジャージを着込むカーデン・グローブスを乗せて、青い列車はひたすら黙々と、コントロールを続けた。先を行く2人に、決して2分半以上の余裕を与えることはなかった。
おかげで、いまだフィニッシュまで44kmを残して、あっさり逃げの2人は吸収された。……ほんの200mほど集団内に留まっただけで、ボルは再び加速を切るのだけれど。今度は一人旅だった。小さな坂道のてっぺんで、ボルはファンたちの歓声を独り占めし、1日の終わりには敢闘賞も手に入れた。6km粘った挙句、今度こそボルは完全に吸収された。
風の影響も心配されたが、恐れていた分断の試みさえ見られなかった。特筆すべきことなどほとんどなかった。残り18.9kmの中間ポイントが、かろうじて、ほんの少しざわついた。軽い下り基調の道で……ヤン・トラトニクに引かれて、ログリッチがスプリントを切ったのだ!
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第12ステージ|Cycle*2023
今年のブエルタは、区間によって、中間ポイントにボーナスタイムが仕込まれている。こうして第5ステージではレムコ・エヴェネプールが1位通過で6秒を回収し、第7ステージではヨナス・ヴィンゲゴーが3位通過で2秒獲得した。そして、この第12ステージでは、エヴェネプールの同僚カスパー・ピーダスンが慌てて阻止に走ったが……グローブスの背後で、ログリッチが2位通過をまんまと成功させた。わずか4秒ながらポケットに入れ、総合3位エヴェネプールに対する遅れを27秒から23秒へと縮めた。
もちろん、ユンボ・ヴィスマの同僚セップ・クスの総合首位の座は、この日も安泰だった。ステージ最終盤のトラブルを避けるため、総合7位につける「ツール総合覇者」ヴィンゲゴーが、なんとマイヨ・ロホを集団先頭へと導くアシスト役さえ務めた。
レース前のクス(左)とエヴェネプール(右)
「プリモシュとヨナスはレース中にたくさんのアドバイスをくれるし、僕に自信を与えてくれる。2人が僕を信じてくれているのがすごく嬉しい。でも、僕らはみな、互いに支え合っている。それが一番大切なこと」(クス)
残り3.8kmのUターンを無事にこなし、トラブルによる遅れは救済される最終3kmに入ると、総合エースたちはプロトン最前列から完全に姿を消した。
代わりに、すでに145km近くも懸命に働いてきたアルペシン・ドゥクーニンクが、いよいよ作業の仕上げに取り掛かった。アンテルマルシェ・サーカス・ワンティが競り合い、リドル・トレックも前線浮上を試みた。ところが肩を並べるどころか、いずれもエースは発射台の後輪からはぐれてしまっただけ。先頭を頑なに譲らなかったアルペシンは、4人でラスト1.2kmの左カーブを抜け出し、そのまま最終1kmのアーチを潜り抜けた。
道はゆるやかに左へと曲がっていた。しかも右側から風が吹きつけていたせいもあり、アルペシンを筆頭に、多くのチームが左フェンス側へと流れていた。つまり右側は大きく開いていたのだ。
UAEチームエミレーツも、当初の計画では、左側を突く予定だったという。しかしスクラッチやエリミネーションで欧州チャンピオンを射止めた経験を持つオリヴェイラは、集団内にカオスを見て取ると、残り500m、右側から大胆にスピードを上げた。その後輪には、ピタリと、エースのモラノがついていた。
コロンビアのファンたちの声援に応えるフアン・モラノ
「最終コーナーで左を曲がった時点で、僕らは最前列にいなきゃならなかった。そして、左側のフェンス間際で、スプリントを打つ予定だったんだ」(モレノ)
ラスト350mの緩やかな左コーナーを利用しながら、オリヴェイラとモレノは集団の横を右側からすり抜けていく。そのまま残り200mでアルペシンに並び、さらには先頭を奪い取った。一瞬で距離を開くと、残り150m、モラノはパワフルに加速を切った。
チームメイトたちの「ファンタスティックな仕事」のおかげで、絶好のポジションにつけていたはずのグローブスは、もちろんUAEの動きに反応しなかったわけではない。
「でもスプリントの瞬間、チェーンが落ちてしまったように感じた。何が起こったのかは正確には分からない。道のでっぱりに乗り上げたのかもしれないし、もしかしたらチームメイトの後輪にはすってしまったのかも。とにかく、僕は、勢いを削がれてしまった」(グローブス)
止まりかけた脚を、再度奮い起こして、グローブスは慌ててモラノを追った。残念ながら、フィニッシュラインまで、もはや十分な距離が残っていなかった。トップスピードに再び乗る前に、すでにライバルは悠々と両手を挙げていた。
1年前の最終日マドリードで歓喜を味わったモラノにとっては、人生2つ目のブエルタ区間勝利。3月末の練習中に自動車事故に遭い、足指骨折と脳震盪で難しい日々を過ごしてきたからこそ、喜びはひときわ大きかった。また今年のジロとツールでそれぞれ区間3勝ずつ持ち帰っているUAEは、アルペシン、ユンボ・ヴィスマ、ボラ・ハンスグローエと並んで、2023年3大ツールすべてで区間勝利を獲得したことになる。
2位に泣いたグローブスは、緑ジャージ用ポイントを新たに積み重ねられたことで満足するしかなかった。平坦ステージは1週間後まで巡ってこない。ピュアスプリンターが中間ポイント収集できる機会も、この先3日間は皆無だ。なにより戦いの舞台がピレネー山脈に移る今週末は、総合エースたちが熾烈なマイヨ・ロホ争いを繰り広げながら、ありとあらゆるポイントを貪り食うに違いないのだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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