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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第11ステージ】33歳のヘスス・エラダが自身3つ目のブエルタ区間勝利で母国スペインに栄光をもたらす「僕らはジャージを守るために戦う」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか先頭でフィニッシュするヘスス・エラダ
自分向けの地形だと分かっていた。残り300mで腰を上げると、一気にすべてをふり払った。勾配13%の難ゾーンを全力で駆け登り、父の待つフィニッシュへ一直線。ヘスス・エラダが自身3つ目のブエルタ区間勝利をつかみ取り、所属先コフィディスと母国スペインに、今大会初の栄光をもたらした。睨み合い、化かし合い、総合エース勢はステージ覇者から5分50秒後に仲良く1日を終えた。
「いつ勝てるかなんて、自分では決して分からないもの。ただひたすらトライして、トライして……時には上手くいくし、時には上手くいかない。今回は上手くいった。本当に幸せだ」(エラダ)
茫洋たる平地の果てに聳える、短い急坂が、あらゆる脚質の選手に夢を見せた。スタート直後から幾多の飛び出しが試みられた。60kmもの長い長い努力の果てに、ついに26人の大きなグループが抜け出した。
ほんの24時間前に、25km超の全力疾走を成功させたばかりのフィリッポ・ガンナは、不運続きで総合の望みを完全に失ったゲラント・トーマスを引き連れて行った。20歳レニー・マルティネスのマイヨ・ロホ保守作業を終えたグルパマ・エフデジからは、新たな成功を目指して、同じく20歳のロマン・グレゴワールを含む3選手が前に走り出た。雨に濡れたバルセロナで勝利をさらったアンドレアス・クロンも、大胆に2勝目を目論んだ。参加22チーム中16チームが揃い、うち7チームが複数選手を送り込んだ。
「今日は逃げに乗るのにひどく苦労させられた。とてつもない力を費やして、ようやく前に行くことができたけど……トーマスやグルパマの面々と一緒だったから、無事に1日を終えるのは至難の業だった」(エラダ)
後方ではユンボ・ヴィスマが黙々とプロトンを率いた。総合首位セップ・クス、4位プリモシュ・ログリッチ、7位ヨナス・ヴィンゲゴーと3人の総合エースを擁するオランダチームは、極めて慎重にタイム差制御に努めた。しばらくは4分ほどの差で手綱を締め、最大でも6分までしかリードを与えなかった。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第11ステージ|Cycle*2023
つまりそれほど大きな余裕を得られなかった26人は、ぎりぎりまで協力体制を崩さなかった。そもそも前日の覇者ガンナが、決して、誰にも、勝手な振る舞いを許さなかった!
残り24kmで、さらには残り16kmで、ユリウス・ヨハンセンが軽く前方へ走り出すも、アワーレコード保持者が猛烈な牽引で引きずり降ろした。道がじわりと上り始めると、残り10.5kmでは、ポール・ウルスランが弾けるように飛び出した。一時は逃げの友たちを30秒近く突き放したが、やはりガンナが執拗に追い詰めた。
ラスト4.9kmであらゆる謀反を鎮めた後でさえ、マイヨ・アルカンシェル9枚を誇る偉大なるチャンピオンは、逃げ集団の先頭で強烈なテンポを刻み続けた。ガンナが強いるハイスピードに耐え切れぬ者たちは、後方から次々と振り落とされていった。あれほど大きかった塊は、いつしか9人にまで絞り込まれた。恐るべき力の証明は、フィニッシュ手前1.7kmまで延々続けられた。
「ガンナを見ていると、昨ツールのワウト・ファンアールトを思い出す。集団が横風で分裂しかけていたタイミングで、彼は飛び出した。後輪につけていた他の選手は、次々と脱落していった。彼こそが逃げを作り上げたんだ。エネルギー満タンで、本当に良い走りを見せてくれた」(トーマス)
残念ながら、肝心のトーマスが、「ガス欠」だった。ステージ半ばで自らの調子があまり良くないことには気付いていた。いよいよパンチャーたちによる区間争いが勃発し、平均勾配が10%近くに跳ね上がる残り1km手前で、ヨナタン・カイセドが飛び出していくと……それでも37歳のチームリーダーは責任を持って穴を埋めに走った。もはや限界に達していたにも関わらず。
最終的には区間5位に甘んじるトーマスの、その背中にぴたりと張り付いたグレゴワールとクロンもまた、最後の一押しが足りなかった。特に前者には、約3週間前のツール・ド・リムザン3日目に、同じような上りフィニッシュでエラダを力強く振り払った記憶があった。だから残り300mでコフィディス所属のスペイン人が加速を切ると、ほんの一瞬、同じようにやれるに違いないと考えたという。
「でもエラダに力ずくでふり払われた。本当に何もできなかった。僕はいるべき場所にいたし、できる限りの手を尽くした。ただ、僕の前には、エラダがいた。彼は普段は控え目な選手だけど、一旦逃げに乗ると、モンスター級の力を発揮するんだ。」(グレゴワール)
若きライバルを蹴落とし、前を行くカイセドを追い抜き、エラダは無我夢中でペダルを踏み続けた。チームスポンサーロゴで飾られた真っ赤なゲートへと、全力で飛び込んだ。一介のアシスト役に過ぎなかったモビスターを離れ、現チームにエース格として迎え入れられて6年目。3つ目のブエルタ区間勝利もまた、コフィディスの名の下で手に入れた。しかも加入1年目にマイヨ・ロホを2日間着用した33歳は、この日は、コフィディスにとってはいわば「伝統」のブエルタ山岳ジャージ――過去15年で6枚持ち帰っている――を、ほんの1ポイント差でまんまと身にまとった!
「山岳ジャージは、優勝の副賞のようなもの。少なくとも明日は守れるけど、この先は難しいだろう。おそらく総合系選手の手に渡ると思うけど、もちろん、僕らはジャージを守るために戦う」(エラダ)
エラダがチームスタッフの腕の中で息を吹き返し、父の胸で嬉し涙に暮れていた頃、はるか後方では総合エースたちが奇妙な戦いを繰り広げていた。
たしかに最終峠の接近と共に、セオリー通り、すべての総合系チームが最前列で隊列を組んだ。ただし、スピードは、ちっとも上がらなかった。さらには激勾配ゾーンに差し掛かると、総合14位キアン・アイデブルックスがひとり飛び出していった背後で、総合3位レムコ・エヴェネプール率いるスーダル・クイックステップが道幅いっぱいに並んだ。集団に蓋を閉めてしまった!
総合3位レムコ・エヴェネプール
「トゥルマレ前の2日間を、静かに過ごしたかった。だから、リズムを上げようとした選手たちに対して、減速するよう声をかけたんだ。だって僕らレースの先頭を走っていたわけじゃないし、上りのたびにアタックしていたら身体が持たない。ありがたいことに、みんな理解してくれた。だから僕らはスピードを下げた」(エヴェネプール)
それでも総合13位ヒュー・カーシーは、残り1kmを切った直後に、なんとか包囲網を潜り抜けた。ウィルコ・ケルデルマンがすかさず監視役として張り付いた。なによりフィニッシュ手前200mで、まさかのエヴェネプール本人が、いの一番にスプリントに打って出た。
「だって最後尾をうろうろして、数秒失うかもしれないリスクを冒すよりも、グループの先頭で終わる方がいつだっていいに決まってるじゃないか」(エヴェネプール)
マイヨ・ロホ姿のセップ・クスは、冷静に背中に飛び乗った。誰もが後に続いた。アイデブルックスの奮闘も、カーシーの努力も、すべてがきれいさっぱり回収された。総合上位20人中18人を含む小集団が、ばらばらと数珠つなぎの……同タイムで、フィニッシュラインを越えた。
マイヨ・ロホ姿のセップ・クス
「いい1日だった。速く走っても、ゆっくり走っても、結局のところ今日みたいなスプリントで終わったに違いないんだ」(クス)
総合トップ11位までタイムの変動は一切なかった。本スタート直前に落車し、右半身を打ち付けた総合8位フアン・アユソも、問題なく1日を終えた。総合16位までは順位の入れ替えもなかった。順位を3つ上げて、17位には、ゲラント・トーマスが浮上している。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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