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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第9ステージ】レナード・ケムナが全グランツールステージ優勝を達成 マイヨ・ロホはセップ・クスが守って第1週を終える
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介激坂をよじ登っていくケムナ
逃げメンバーの中ではみずからが一番強いとの自覚がありつつも、スプリントに持ち込まれるのだけは避けたかった。ならば、独走するしかない。緩急のリズム変化が激しい最終登坂の特性を生かしてアタックを決めると、あとは頂上フィニッシュへまっしぐら。みずからの力でもって、壮大な計画を完遂させた。
第1週の最終日・第9ステージは、風雨によってレースペースの上下が激しくなるなか、逃げが最後まで容認される形になって、8選手によるステージ優勝争いへ。レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)が残り5kmでアタックに成功。独走に持ち込んで、2級山岳カラバカ・デ・ラ・クルスの頂上フィニッシュを制した。これで、すべてのグランツールでステージ優勝を挙げたことになる。
「この数カ月間の取り組みが実を結んだよ。ジロ・デ・イタリアを終えてからはなかなか調子が上がらなかったこともあり、今大会は目標をステージ優勝に切り替えていたんだ。すべてのグランツールで勝ったなんて信じられないことだね。どの勝利もチームあってのものだよ。感謝しなくちゃね」(レナード・ケムナ)
ローマ時代に栄華を極めたカタルヘナの街を出発したプロトンは、リアルスタート直後から激しい動きを見せた。このステージからリーダーチームとなったユンボ・ヴィスマが横風を利用してハイペースを作り出す。集団はあっという間に散り散りになり、10km地点を過ぎた時点で先頭には12人しか残らなかった。そのうち半数をユンボ・ヴィスマ勢が占め、マイヨ・ロホのセップ・クスや前日勝利のプリモシュ・ログリッチ、ヨナス・ヴィンゲゴーらが前線に位置。これにレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)らが続き、彼ら以外の総合系ライダーはほとんどが後方に取り残された。
ユンボ・ヴィスマ勢やレムコにとっては情勢が整っていることもあり、協調してハイペースの維持。後ろではバーレーン・ヴィクトリアスやUAEチームエミレーツが軸になって追走を図るが、その差は45秒まで拡大。1級山岳の上りに入ったところで後続ライダーたちが合流を果たしたが、レース最初の1時間は50.1km。それからも、全体的に高速のまま進行していくこととなる。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第9ステージ|Cycle*2023
プロトンがまとまったところで5人がカウンターで飛び出し、これを3人が追随。やがて8人による先頭グループが形成された。ここにケムナが乗り、後に優位に立つこととなる。集団とのタイム差は最大で8分35秒まで開いた。
メイン集団は、フィニッシュまで85kmを切ったあたりから再び緊張感が漂い始める。各チームが隊列を組んでポジショニングに着手すると、残り80kmでまたもユンボ・ヴィスマが猛然とスピードアップ。レース序盤と同様に横風を使って分断を試みた。ここにスーダル・クイックステップやボーラ・ハンスグローエも加勢。やはり集団が散り散りになり、前線に残ったのは22人。今度は多くの総合系ライダーが乗り込めたものの、個人総合3位につけるレニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ)は後ろへ。前の22人は誰一人欠けることなくローテーションする時間帯もあり、マルティネスに対して1分以上のリードを得る。
ただ、針路が変わると22人の勢いは続かなくなり、約30km進んだところでマルティネスが再合流。再度メイン集団がまとまると、一時3分30秒ほどまで縮まった先頭グループとの差も、5分まで拡大した。
その先頭グループでは、ヨン・バレネチェア(カハルラル・セグロスRGA)の落車やダニエル・ナバーロ(ブルゴスBH)のパンクがありながらも、都度復帰して逃げの態勢を維持。8人編成をキープして、フィニッシュ前9.5kmから始まる最終登坂へ。この時点でメイン集団との差は十分にあり、逃げ切りは濃厚となっていた。
カトリックの重要都市に位置づけられ、高台に街が置かれるカラバカ・デ・ラ・クルスへの上り。クリス・ハミルトン(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)のアタックを機に絞り込みが始まると、残り5.5kmで先頭はケムナ、マッテオ・ソブレロ(チーム ジェイコ・アルウラー)、アマヌエル・ゲブレイグザビエル(リドル・トレック)の3人に。そして残り5km、緩斜面と急斜面を繰り返す変化を利用してケムナがアタックすると、ソブレロとゲブレイグザビエルはついていけなかった。
最大勾配20%の区間もグイグイと踏み込んだケムナ。後ろで粘るソブレロを完全に振り切ると、独走態勢を固めて頂上のフィニッシュ地点へとやってきた。プロキャリアでは9勝目。2020年ツール第16ステージ、2022年ジロ・デ・イタリア第4ステージで勝利しており、このブエルタ初勝利によってすべてのグランツールで勝利を挙げたライダーとなった。
「ペースの上下が激しく、集中するのが難しいレースだった。。できるだけ脚を使わないように心掛けていて、それは逃げに加わっても同じだった。最後の上りは変化が多く、どこでアタックするかは悩みどころだったけど、自分自身のフィーリングにゆだねて正解だったよ」(ケムナ)
今年はジロ・デ・イタリアで個人総合9位に入り、チーム内では総合エースとしての地位を確立しつつあった。しかし、3週間をフルに戦った代償は大きく、疲労の回復に時間がかかってしまった。さらには今大会の開幕に前後して体調を崩してしまい、ここまでのステージは日々「生き残るための戦いだった」。
全グランツールステージ優勝を達成したレナード・ケムナ
「近いうちにグランツールの総合争いに戻りたいと思っている。それを可能にする力はあるはずなんだ。すべてのグランツールで勝ったことは大きな自信になるだろうね」(ケムナ)
数分後ろでは、個人総合上位陣もカラバカ・デ・ラ・クルスを目指してのクライミング。雨による土の流入でコース上の危険性が高まったこともあり、このステージのタイム計測はフィニッシュ前2.05kmで行われた。そこへ向かって、個人総合11位のジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)と同13位のアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)が先にアタック。他の総合系ライダーたちに5秒差をつけて“先着”した。また、ログリッチも攻撃に出て、ヴィンゲゴーやレムコ、エンリク・マス(モビスター チーム)、フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)とのパックで計測ラインを通過。そこからフィニッシュラインまでの約2kmはニュートラルとなった。
このステージを終えて、マイヨ・ロホはクスで変わらず。トップのまま休息日を挟んで第2週を迎えることになった。個人総合2位のマルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)とは43秒差。レムコは2分22秒差とし、その7秒後ろにログリッチ、さらに4秒後ろにヴィンゲゴーとマスが続いている。第2週初日の第10ステージは25.8kmの個人タイムトライアルで、大なり小なり上位陣のシャッフルがあるものと思われる。
「特にプレッシャーは感じていない。むしろかなりリラックスしているくらいだ。タイムトライアルではベストを尽くすけど、結果がどうあれ受け入れる心構えはできているよ」(セップ・クス)
ブエルタにしては珍しく荒天が多く、この日は第2ステージに続いての計測ポイント移動になった。残り30kmを切ったところで一度「フィニッシュ前2.6kmでのタイム計測」が各チームに伝達されたが、「フィニッシュ前2.05kmでの計測」に改められた。選手も、チームスタッフも、大会関係者も慌ただしい時間を過ごしたことだろう。
「急な決定になってしまったことは申し訳ない。ただ、あの状況でフィニッシュ前のスプリントをすることになればリスクが大きくなる。フィニッシュ地点の状況については、現地のスタッフから私に連絡があり、状況を確認したうえで計測ポイントの移動を決めました」(大会テクニカルディレクター:キコ・ガルシア氏)
ベルギーのスポーツメディアでは、「今大会の明らかな敗者は大会の運営そのものだ」「ブエルタにおけるアマチュアリズムの新たな1ページ」などといった厳しい論調も。スペインでは各地で暴風雨警報が発令され、鉄道の運休や主要道路の通行止めも発生しており、レースの進行も天候や周囲の状況を見ながら判断する必要に迫られている。そうした中で、ここまで大きな事故なく選手が走り続けられている点は評価されるべきであろう。
「天気ばかりはコントロールできないからね。今日のステージは本来であればとてもきれいな景色が見られたのだけどね。最終局面がニュートラルなのは観に来たファンには申し訳ないけど、僕たちの安全を考えたら仕方のないことだよ。主催者には“正しい判断をありがとう”と伝えたい」(エンリク・マス)
アタックするログリッチ
「実際にフィニッシュまで行ってみたらかなりトリッキーだった。あの状況で競うのは無理があるね。早めに計測ポイントを置いてくれたことに感謝したい」(プリモシュ・ログリッチ)
第2週こそ、スペインらしいギラギラの太陽のもとでレースができることを願いたい。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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