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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第8ステージ】総合系ライダーたちによる争いに勝ったプリモシュ・ログリッチが今大会1回目の“テレマーク” マイヨ・ロホはセップ・クスのもとへ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介エヴェネプールと競り合うログリッチ
“ミスター・ブエルタ”がいよいよ動き出した。5つのカテゴリー山岳を越え、総合系ライダー8人によるステージ優勝争いとなった第8ステージ。過去3回ブエルタ・ア・エスパーニャを制しているプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)は、チームの数的優位を生かしながら、この日はステージ優勝にフォーカス。前回王者レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)の先駆けにも動じず、フィニッシュ前での勝負を制した。
「すごいエキサイティングだったね。スプリント勝負に持ち込むのはギャンブルではあったけど、勝ち切ることができてうれしいよ。チームメートの働きに応えるために、今日は勝つ以外の選択肢はなかったからね」(プリモシュ・ログリッチ)
今大会3回目となる山岳ステージ。序盤から中盤にかけて2級と3級のカテゴリー山岳4つを立て続けに上ったのち、中間スプリントポイントを挟んで最後の“大物”に挑むコース設定。その“大物”というのが、ブエルタでは6回目の登場となる1級山岳ショレト・デ・カティ。登坂距離は3.9kmと短いが、平均勾配は11.4%。最大勾配22%を数える急斜面をクリアすると、最後の3.3kmは下りとわずかな上り基調。頂上フィニッシュではないものの、プロトンを崩すには十二分な難コースが用意された。
リアルスタートからハイペースでレースは進む。たびたび10人前後のパックが集団に対し数秒リードするが、なかなか集団の容認を得られない。そうこうしているうちに1つ目の2級山岳の頂上が見えてきて、ここはヘスス・エラダ(コフィディス)が一番に上り切っている。
直後の下りで20人が前に出たのをきっかけに、集団から次々と選手が飛び出した。先行を許された選手は30人に膨らみ、そこからはリーダーチームのグルパマ・エフデジがメイン集団のペーシングを図った。
先を急ぐ30人は利害が一致しないまま、誰かが飛び出しては数人が追いつく……という流れを繰り返した。フィニッシュまで110km以上を残したところでトーマス・デヘント(ロット・ディステニー)がひとり抜け出してみたり、ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)が再三ペースアップを試みたりと慌ただしい。彼らがスピードを上下させている間、メイン集団ではグルパマ・エフデジによるコントロールに、ユンボ・ヴィスマからロベルト・ヘーシンクが加わる。チームはクスが個人総合2位につけ、ログリッチとヨナス・ヴィンゲゴーのダブルリーダーも臨戦態勢を整えている。ヘーシンクの牽引から、彼らの本気度が伝わってくる。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第8ステージ|Cycle*2023
この日4つ目の登坂である2級の上りを終えたところで、先頭は8人に絞られる。そこからさらにカルーゾが仕掛けて、アンドレアス・クロン(ロット・デスティニー)、ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)、オイエル・ラスカノ(モビスター チーム)が追随。それまで一緒に逃げてきたメンバーに対して1分以上の差をつけて、レース終盤へと入っていく。
その頃、メイン集団ではユンボ・ヴィスマがディラン・ファンバーレを牽引役に送り出しており、追撃態勢の強化を図っていた。狙い通り、前を行く選手たちとのタイム差はみるみる縮まっていく。先頭からこぼれた選手たちを次々拾っていくと、残り10kmで先頭4人との差は50秒に。1級山岳ショレト・デ・カティを上り始める残り7.2kmで、その差を30秒とした。
こうなると、レースの流れがメイン集団にあるのは明白。逃げ切りのわずかな可能性に賭けてラスカノとコスタがアタックするも、ほどなく集団が追いついた。そこからはスーダル・クイックステップもペーシングに加わり、ステージ優勝と個人総合、2つの争いを視野に前進。これらの動きに耐え切れず、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)が遅れ、マイヨ・ロホのレニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ)もフィニッシュまで5kmを残して後退した。
残り5kmを切って、レムコみずから先頭に立った。これを見て、ユンボ・ヴィスマはクスがカウンターアタック。ログリッチとヴィンゲゴーはレムコをピッタリとマークし、プレッシャーをかけ続ける。レムコはこれに動じることなく、頂上を前にクスを引き戻すと、山岳ポイントをトップ通過。ログリッチ、ヴィンゲゴー、フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)、エンリク・マス(モビスター チーム)といった面々を引き連れ、最終盤へと突入した。
上りで遅れていた数人がダウンヒルの間に前線復帰し、8人のパックとなって最終局面へ。レムコの牽きは変わらず、その背後にログリッチとヴィンゲゴーがつける。そして最後の200m。先に仕掛けたのはレムコだったが、これに合わせたログリッチが緩い右コーナーの外側から一気に加速すると、そのまま先頭へ。今大会1つ目のステージ優勝は、総合系ライダー8人との競り合いを制してのものとなった。
「チームとして予定通りのレースになったよ。特にロベルト・ヘーシンクのペースメイクは素晴らしく、多くの選手が苦しめられたようだった。あれだけ働いてもらったのだから、僕たちの役割は勝つことだけだったんだ。ショレト・デ・カティ登坂は初めてで、慎重に上ろうと心掛けていた。それもあってステージ優勝するための選択肢はスプリントしかなかったのだけど、脚が十分に残っていたので勝つことができたよ」(ログリッチ)
一方で、ログリッチの背中を見ることになったレムコは、チームから戦況がうまく伝わっておらず、終盤に自分たちが先頭にいることを把握できていなかったという。
最後のスプリント勝負
「勝てるレースだったね。もったいないことをしたよ。逃げ残りの選手が何人かいるものと思っていて、それを追っているつもりになっていた。チーム内のコミュニケーション不足だね。先頭にいることが分かっていれば、僕はもう少し違った走りをしていたはずだよ」(レムコ・エヴェネプール)
かくして、ブエルタを知り尽くすログリッチが今大会1つ目のステージ優勝を達成。おなじみの“テレマーク”も、ポディウムできっちり決めてみせた。共闘のヴィンゲゴーもステージ5位とまとめて、史上最高クラスのダブルリーダーは順調に戦いを進めている。
そして何より、これまで両選手を支えてきたクスにマイヨ・ロホが舞い込んできた。前々日のステージを勝ち、個人総合でも2位につけていたが、この日マルティネスが遅れたことや、8人のステージ優勝争いに加わったことで、タイムをほとんど失うことなくリーダーの座を射止めた。
「レース展開的に、ジャージが手に入るのではないかと思っていた。調子は良かったし、不安はなかったよ。最後の上りでのアタック? それはジャージとは別で、プリモシュ(ログリッチ)のためだった。彼はステージ優勝したいと言っていたので、勝負どころまで負担を軽減させたいと思っていたんだ。彼がステージを獲って、僕がマイヨ・ロホ。最高の形で1日を終えられたね」(セップ・クス)
マイヨ・ロホを着たセップ・クス
アメリカ人ライダーのマイヨ・ロホは、2013年大会を制したクリス・ホーナー以来。今大会の戦力ナンバーワンで間違いないユンボ・ヴィスマの戦術カードは、充実の一途である。彼らにとって最大のライバルであるレムコは、クスから総合タイム2分31秒差。その7秒後ろにログリッチ、さらに4秒後ろにヴィンゲゴーがついている。2日前のステージで逃げ残った選手たちも引き続き個人総合上位につけており、形勢はまったくもって見えてこない。ただ、ひとつ確かなのは、数字のうえでユンボ・ヴィスマがダブルリーダーならぬ、「トリプルリーダー」態勢にあることだ。
「誰が総合リーダーかって? 見ての通り3人だよ。ヨナス(ヴィンゲゴー)、セップ(クス)、僕……もしかしたら他のチームメートもリーダーに名乗り出るかもね(笑)」(ログリッチ)
レース後にはクスのマイヨ・ロホを手放しで喜んだログリッチ。彼によれば、戦術における決定権は選手たちにゆだねられており、作戦やレース展開を見ながらそれぞれが意見を出し合って決めているのだという。
「リーダーであるヨナスと僕、そしてセップもここに加わる。その都度ベストな決定が下されるはずだ。少なくとも、ここまではすべて完璧さ」(ログリッチ)
雨のチームタイムトライアルから、1週間をかけて少しずつ後れを取り戻してきたユンボ・ヴィスマ。第1週最終日・第9ステージからは、ついにレースリーダーとなる。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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