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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第7ステージ】35歳ジョフレ・スープがグランツール初勝利!リードアウトマンとしての経験が混沌のスプリントを抜け出す最大の武器に
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介フィニッシュ後に仲間と喜ぶジョフレ・スープ
連続するコーナーとフィニッシュ前数百メートルのレイアウトから、どこにポジションを構えているのがベストかはイメージできていた。あとは混戦の中でどう立ち回るか。簡単でないことは経験上理解している。それゆえ、ここまでイメージ通りに事が運ぶとは思っていなかった。最終コーナーを抜けると、自身の後ろには誰もついてきていない。このまま踏み込めば勝てる。会心のレースになった。
主催者設定では、今大会最初の平坦カテゴリーであったブエルタ・ア・エスパーニャ第7ステージ。セオリー通りのスプリントフィニッシュは、ジョフレ・スープ(トタルエネルジー)が制した。35歳、プロキャリア13年目のベテランは初のグランツール勝利である。
「信じられないことが起こったよ。グランツールのスプリントで勝てるだなんて考えたことすらなかった。確かにスピードなら他のスプリンターにも負けていないから、ステージ優勝できる可能性はあったのだと思う。今日なんかは“もしかしたら勝てるかも”と思った途端に緊張してしまってね。個人的にも、チームとしても最高の1日になったよ」(ジョフレ・スープ)
すでに集団でのスプリントフィニッシュは実現しているものの、「平坦」とカテゴライズされているのは4ステージしかない。そのうちのひとつがやってきた。
同時に、今大会最初の200km超えステージでもある。200.8kmの道のりには、カテゴリー山岳がひとつも設けられていない。中盤以降はフラットで、そのレイアウトはスプリンターのためのものであった。
クラッシュしたゲラント・トーマス
コース設定に忠実に、スプリントを見越して走り出したプロトン。リアルスタート早々にホセ・エラダ(コフィディス)とアンデル・オカミカ(ブルゴスBH)のアタックを見送ると、アルペシン・ドゥクーニンクを中心としたペースメイクで2人との差を2分30秒前後にとどめる。途中では、ゲラント・トーマスらイネオス・グレナディアーズ勢が複数人クラッシュ。トーマスは一度止まって傷の手当を受けてから、改めて走り出している。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第7ステージ|Cycle*2023
フィニッシュまで100kmを切ったあたりから、先頭2人と集団とのタイム差は1分台へ。あとは差が縮まる一方で、残り70kmに前後して集団のペースが上がると、エラダが先に集団へ戻る決断。おおよそ2週間後のマドリードフィニッシュをもって、長きにわたったキャリアを終える37歳は、また別の機会にチャンスをうかがうこととなった。
前線にひとり残ったオカミカも捕まるのは時間の問題。集団はペース調整のため意識的にオカミカとのタイム差を広げたが、フィニッシュ前34kmに設置される中間スプリントポイントが近づいてくると、再びスピードアップ。残り41kmでオカミカをキャッチすると、各チームが集団前方で隊列をなしてさらに前進した。
迎えた中間スプリントポイントは、ポイント賞トップのカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)が1位通過。この後ろでは、ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)も加速して3番手で通過。2秒のボーナスタイムを獲得し、個人総合争いのライバルたちにプレッシャーを与えている。
最終盤を前に、ペースが緩むメイン集団。数チームが前方を固めながら態勢を整えて、残り20kmを切ったあたりから再びスピードを上げる。残り距離が減るとともにポジション争いも激しさを増し、残り10kmでは前日勝利のセップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)ら数人を巻き込んだクラッシュが発生。クスは素早いリカバリーで集団に戻ったが、ピエール・ラトゥール(トタルエネルジー)らは復帰に時間を要してしまう。
さらに、残り5kmでもクラッシュ。街の中に入って道幅が狭まったことで、一部のライダーは身動きが取れない状況に陥っていた。なかでも、テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)はその場から起き上がることができず救急搬送。リタイアを余儀なくされている。
コーナーやラウンドアバウトが連続した最終盤。これらをクリアするたびに隊列が乱れ、一層混沌となっていく。残り1kmを切ったところでアンテルマルシェ・サーカス・ワンティやアルペシン・ドゥクーニンクが態勢を立て直したが、フィニッシュ前300mで現れた直角コーナーでまたも混乱。オーバースピードで突っ込んだ選手が外側に膨らんだ一方で、慎重にクリアした選手ほど減速することなくスプリントに持ち込むことができた。
この状況で真っ先に飛び出したのがスープだった。かつては最終リードアウトマンとして、アルノー・デマールやナセル・ブアニ(ともに現チーム アルケア・サムシック)を幾度となく勝利に導いてきた男は、ついに大舞台で自分のためにスプリントする瞬間を迎えた。
長年のリードアウトのテクニックで勝利を掴んだジョフレ・スープ
「(エーススプリンターの)ドリス・ファンヘステルがスプリントできる状況ではないと分かってからは、自分で勝負するしかないと考えていた。グランツールのスプリントはいつだって特別さ。ブエルタではナセル(ブアニ)と何度も勝利を経験してきたけど、みずからが勝ってみると言葉が出てこない。当時の興奮がよみがえってきたよ」(スープ)
オールイス・アウラール(カハルラル・セグロスRGA)らの追い上げをかわして、一番にフィニッシュラインを越えたスープ。今季は1月のトロピカル・アミッサ・ボンゴを制するなど好調ではあったが、ブエルタへの出場予定はなかったという。入れ替わりで招集されるや最高の成果。2日前にはステージ8位にもなっていたが、開幕時にウイルス感染に見舞われて体調はイマイチ。案外、そんなときこそ余計な力が抜けて、持っている能力を発揮できたりするものである。グランツール初勝利はおろか、ヨーロッパのレース自体初勝利という記念すべき1日になった。
「毎日テストしているようなもの。フィニッシュまで走り切れるのか、自問自答しながらのレースだよ。でも今日は紛れもなく“僕の日”だ。いまだに何が起こっているのか分からないけど、大成功であることは確かだね」(スープ)
緊張感が高まった最終盤ではあったが、ステージ95位までの選手がトップと同タイムで1日を終えた。史上最年少マイヨ・ロホのレニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ)も、アシスト陣にガードされながらレースを完了。問題なくリーダーの座をキープしている。
「今日の目的はジャージを守ることだった。クラッシュやタイムを失うことは絶対避けたかった。チームのみんなに感謝だね。常に集団前方を走っていたけど、スプリンターたちと並んで走り続けるなんて初めての経験でドキドキしたよ(笑)。レース前後にはたくさんのライダーが祝福に来てくれて、とてもうれしい1日になった」(レニー・マルティネス)
総合系ライダーのうち、トーマスが集団から24秒遅れ、エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)やロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)もクラッシュの影響で大きく遅れてフィニッシュしている。今後のステージへは、戦術を変えて臨むことが求められそうだ。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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