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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第3ステージ】レムコ、2連覇へ視界は良好 山頂スプリントでヴィンゲゴーら振り切り今大会初勝利とマイヨ・ロホをゲット
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介レムコ・エヴェネプール
大会3日目にして早くも本命たちが動き出した。いや、動くほかなかったと言えようか。21日間で6回やってくる難関山頂フィニッシュの1つ目が第3ステージに設けられたのだ。それも、アンドラ入国のピレネーステージである。足を踏み入れた以上は、大会何日目であろうと勝負する以外の選択肢はない……というのが実情か。
ブエルタでは初のフィニッシュ地となったアンドラ公国領内のアリンサルを目指した第3ステージ。1級山岳の頂上に敷かれたフィニッシュラインに向かって、本命たちによる上りスプリント。10人以上がなだれ込んだ激戦は、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)がライバルに1秒差をつけて先着。大会2連覇に向けて、状況が整いつつあることを示した。
「1級山岳を2つ上った後に、これほど良いパンチが出せるなんて自分でも驚いているよ。今日の走りには満足だ。チームは終始レースをコントロールしていて、僕の負担を和らげてくれた。互いに信頼し合って役目を果たした末の勝利だから、とてもうれしいね」(レムコ・エヴェネプール)
大雨に左右された2日間を乗り越え、第3ステージは好天下でのレースが実現した。ただ、今大会1つ目の難関山頂フィニッシュである。標高2000mにまで達しようかという2つの1級山岳が、選手たちの脚を試すこととなった。行程の後半にはピレネーの小国・アンドラに入国。その2つの山々はいずれも同国領内にそびえる。
レースはリアルスタートからアタックの打ち合いに。なかなか有効打が生まれず出入りが繰り返されたが、スタートから1時間ほど経ったところでエドゥアルド・セプルベダ(ロット・デスティニー)の動きに数人が同調。この一連の流れがメイン集団の容認を得て、やがて11人の先頭グループとなった。
この中には、ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)やレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)といった実績のある選手たちも加わった。集団に対して最大で5分のリードを持って、残り距離を減らしていく。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第3ステージ|Cycle*2023
メイン集団では、レムコ擁するスーダル・クイックステップ、プリモシュ・ログリッチとヨナス・ヴィンゲゴーを配するユンボ・ヴィスマ、ゲラント・トーマスでの勝負をもくろむイネオス・グレナディアーズがそれぞれアシストを数人ずつ前線へ。全体のコントロールを図り、然るべきタイミングまでレースを構築していった。
フィニッシュまで残り50kmで約3分30秒だった先頭と集団とのタイム差は、残り30kmで約2分30秒まで縮まる。1級山岳オルディノ峠(登坂距離8.9km、平均勾配7.7%)を上り始めると、脚の差が顕著になった先頭グループはカルーゾ、ケムナ、セプルベダの3人に絞られた。山頂はセプルベダが1位通過。一緒に設けられたボーナスタイム(6秒・4秒・2秒)はセプルベダ、カルーゾ、ケムナの順で獲得している。
メイン集団では、前日に失ったマイヨ・ロホを奪還しようとチーム ディーエスエム・フィルメニッヒがペースアップ。エースのロマン・バルデみずから攻撃に出るなど、集団を活性化させる。こうした動きに耐えられず、レースリーダーとしてスタートしていたアンドレア・ピッコロ(EFエデュケーション・イージーポスト)は脱落した。
この頃には1分ほどの差となり、集団はいつでも先頭メンバーをキャッチできるところまできていた。逃げ切りの可能性に賭けて、下りを得意とするカルーゾとケムナがテクニカルなダウンヒルを攻めて、セプルベダを振り切る。その勢いのまま最後の上りである1級アリンサル(8.3km、7.7%)へ。登坂を開始すると、ケムナが果敢に仕掛ける。
残り3km、13%の急勾配区間でケムナがカルーゾを引き離し、単独でフィニッシュを目指す。ただ、メイン集団でもフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)のアタックをきっかけに、複数人を残していたユンボ・ヴィスマが攻撃を開始。セップ・クスを先行させて他チームの動きを誘発すると、ひとり逃げ続けていたケムナは残り1kmを前に精鋭メンバーがパス。大会で本命視される選手たちが最前線に残り、ステージ優勝争いへと移った。
マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)が強烈なアタックを繰り出すが、ユンボ・ヴィスマ勢がテンポで追って残り1kmを示すフラムルージュ通過と同時にキャッチ。10人以上が一団のまま最終局面を迎えると、勝負は上りスプリントにゆだねられる。そして残り250m、腰を上げたのはレムコだ。
ベルギーチャンピオンジャージのスパートに真っ先に反応したのはヴィンゲゴー。ブエルタとツールの両グランツール王者によるマッチアップあるかと思われたが、ここはレムコのパワーが勝った。追いかける選手たちに1秒差をつけて、一番にアリンサルの頂上に到達。誇らしく両手を広げて、みずからの力を誇示してみせた。
「大会前の高地トレーニングをアンドラで行っていたんだ。もちろん今日のコースもチェックしていたよ。最終コーナーの形状を把握していたから、どこで勝負に出るべきかはイメージできていた。他の選手たちとの違いはそのあたりにあったんじゃないかな」(エヴェネプール)
歓喜のフィニッシュ直後には、選手導線をふさいでいた大会関係者やチームスタッフの一団に突っ込んでしまい、派手に落車(筆者の経験上、大会側のオペレーションに問題があったと思われる)。右目の上を切ってしまったが、大会2連覇への視界まではさえぎられていないようだ。個人総合でも首位に立ち、マイヨ・ロホに袖を通した。今後の戦い方にも注目が集まる。
フィニッシュ後に転倒して右目の上を切ったレムコ
「開幕から3日続けて安全上の問題が発生しているのは残念だけど、額の皮と肉が減った分上りは軽くなるんじゃないかな(笑)。マイヨ・ロホ? こんなに早く着るイメージはしていなかったのだけど、ステージ優勝と同時に手に入るなら受け取るつもりではあったよ。途中で誰かに譲るかどうかは、レース展開を見ながら考えることにする」(エヴェネプール)
レムコの背中を見る結果にはなったが、大多数の総合系ライダーは上位フィニッシュでまとめている。戦力ナンバーワンのユンボ・ヴィスマは、4選手がトップ15に収まった。ヴィンゲゴーはステージ2位、ログリッチは同4位と、先々に戦えるポジションをしっかりと押さえている。
ヨナス・ヴィンゲゴー
「今日はベストではなかったけど、結果には満足している。レムコは勝利に値する走りだったよ。僕たちもトライしたけど、彼にはかなわなかったね」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
一方で、レース中には集団コントロールにも加わっていたイネオス・グレナディアーズ勢にはタフな1日となってしまった。トーマスがエガン・ベルナルとともにレムコから47秒遅れを喫してしまった。前日のクラッシュで膝を強打したようだが、このステージでの遅れに直接的な影響があったかは本人も分からないという。
「そもそも今日は脚がなかったのだと思う。それ以外の何物でもないよ。集団についていくので精いっぱいだったし、最後はエネルギーが切れてしまっていた。まぁ、まだ大会序盤だし、落ち込んでもいられないよ。これからの走りで挽回したいね」(ゲラント・トーマス)
マイヨ・ロホ争いの形勢がうっすらと見えた感はあるが、すべてが決するにはまだ早い。ただひとつ確かなのは、今年のブエルタも「とんでもない日々」になるであろうことだ。
●参考:主な総合系ライダーのトップとのタイム差
1 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)8:43:11
2 エンリク・マス(モビスター チーム)+5秒
3 レニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ)+11秒
4 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)+31秒
5 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+33秒
6 キアン・アイデブルックス(ボーラ・ハンスグローエ)+33秒
7 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)+35秒
8 サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)+35秒
10 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)+37秒
11 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)+38秒
12 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)+42秒
14 テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)+45秒
17 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)+1分7秒
21 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)+1分11秒
22 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)+1分11秒
25 ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)+1分24秒
29 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)+1分43秒
33 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)+2分8秒
42 エディ・ダンバー(チーム ジェイコ・アルウラー)+3分32秒
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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