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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第2ステージ】アンドレアス・クロンがグランツール初勝利 降り続く雨による“セミニュートラル”で、逃げ続けたピッコロにマイヨ・ロホが移る
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介グランツール初勝利のアンドレアス・クロン
前日にレース条件を狂わせた雨は、第2ステージが始まっても降り続き、一層危険度が高まっているとの判断がなされた。おおよそ2カ月間雨が降っていなかったというバルセロナだが、レースを走る選手たちにとってはとてもではないが、恵みの雨とはいえない。
このステージでは、フィニッシュ地点の9km手前で総合タイムを計測することとなり、結果として大多数のライダーがそこで“レースを終了”。とはいえ、ステージ優勝は争われて、“セミニュートラル”の状況下で一部選手たちが名誉をかけて戦った。バルセロナの名所・モンジュイックの上りで抜け出しに成功したアンドレアス・クロン(ロット・デスティニー)が、キャリア初となるグランツールでのステージ優勝を挙げている。
「この天候が僕に味方してくれると信じていたんだ。ニュートラルによって集団の人数が減ると予想していたので、ステージ優勝のチャンスはあると思いながら走っていた。ブエルタに向けて調整してきた成果を生かせて、今はとっても満足しているよ」(アンドレアス・クロン)
濡れた路面で落車が相次ぎ、一部チームには辺りの暗さも追い打ちをかけた前日のチームタイムトライアル。選手やチームからの不満も多く上がり、しばらくは波紋を広げそうである。それでもレースは続く。182kmに設定された第2ステージは、前日の舞台となったバルセロナがフィニッシュ地に。最終盤には、おなじみのモンジュイックの上りが控える。3月のボルタ・ア・カタルーニャでは、大会最終日の周回コースとして使われる最大勾配19%の難所は、ブエルタでもプロトンに大きな影響をもたらす存在となる。
本来であれば総合系ライダーたちも、モンジュイックを全力で駆け上がらなければならないはずだった。しかし、コンディションの悪化により、テクニカルな区間でのリスクを避ける判断が主催者によってなされた。大会はまだ2日目である。ここで大規模なトラブルが発生しては、ブエルタ全体の進行にも悪影響を及ぼす。そして何より、ライダーたちの安全確保が最優先だ。一度は、フィニッシュ前3.6kmのポイントにあたるモンジュイックの頂上での通過タイムを総合成績に反映させることを決めたが、後にフィニッシュ手前9km地点での計測に変更。モンジュイックはすべてニュートラル区間になった。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第2ステージ|Cycle*2023
迎えたレースは、アンドレア・ピッコロ(EFエデュケーション・イージーポスト)、マッテオ・ソブレロ(チーム ジェイコ・アルウラー)、ハビエル・ロモ(アスタナ・カザクスタン チーム)、ジョエル・ニコラウ(カハルラル・セグロスRGA)が飛び出し、後にイェツセ・ボル(ブルゴスBH)が合流。5人の逃げとなる。先行する間、序盤の3級山岳はロモ、この日最大の上りとなった2級山岳はソブレロがそれぞれ1位通過している。
一時は4分近くまでタイム差は広がったが、前日のチームTTを勝ったリーダーチームのチーム ディーエスエム・フィルメニッヒがコントロール。2分台で全体を落ち着かせ、レース後半へとつないでいく。一時的にレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が集団の約1分後ろを走行する局面もあったが、形勢には影響せず。降り続く雨への対応を都度施しながら、選手たちは残り距離を減らしていった。
フィニッシュまで50kmとなったあたりから、状勢は慌ただしくなる。先頭ではピッコロ、ソブレロ、ロモに3人がペースを上げて、ニコラウとボルを引き離すことに成功。タイミングを同じくして、メイン集団では各所で落車が発生。ステージ優勝候補に名が挙がっていたアルベルト・ダイネーゼ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)が地面に叩きつけられたほか、チームメートのオスカー・オンレーは鎖骨骨折の疑いでリタイアを余儀なくされている。
そうした状況とは裏腹に、集団のペースは上がっていく一方。徐々に逃げメンバーを射程圏に捉えられるようになっていく。しかし、残り30kmを前にまたもクラッシュ発生。今度はラウンドアバウトでプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)がタイヤを滑らせてしまった。チームの総合エースクラスのトラブルとあり、さすがに集団は減速。ペースを戻そうと試みる動きには、レムコやヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)らが“出馬”して減速するよう呼びかけた。
なおも落車はとどまらない。マイヨ・ロホを着るロレンツォ・ミレージ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)も巻き込まれてしまった。何とかバイクに戻ったものの、左肘からの流血が状況の悪さを物語る。集団復帰はならず、この時点でリーダーの座を明け渡すことが決まった。
バイク交換するヴィンゲゴー
一方で、逃げる選手たちは人数を減らしながらもわずかな可能性に賭けて先を急ぎ続けた。残り30kmで落車してしまったピッコロは、素早いリカバリーで復帰。やがてソブレロが遅れたことで、前を行くのはピッコロとロモに。残り20kmを切ってからリードを大きく減らすこととなったが、集団から18秒先行してフィニッシュ前9kmの計測地点を通過。直後に集団に飲み込まれたものの、その“18秒”が大きな意味を持つことになる。
残る焦点はステージ優勝争い。モンジュイックの上りに入る頃には集団の人数は半数以下となり、この頂上に置かれる3級の山岳ポイントとフィニッシュを狙う選手だけに絞られた。そんな状況下で飛び出したのがクロン。数発のアタックをやり過ごすと、頂上手前でカウンターアタック。他の選手たちを引き離し、独走に持ち込んだ。
最後の3.6kmは、連続コーナーのある下りとフィニッシュラインへ向かっての短い上り。数秒後ろでは約20人が追っていたが、クロンは最後まで勢いを失うことはなかった。1992年バルセロナ五輪のメインスタジアム「エスタディ・オリンピック・リュイス・コンパニス」前に、一番に到達。グランツールでは初めてとなる、ステージ優勝の瞬間を迎えた。
「正直言うと、本当にレースができるのかと思っていた。バイクで走るには危険な1日だったよ。それでも、僕がグランツールで戦えることを示す機会にできたことは素直にうれしいね」(クロン)
スペインのレース、もっと言えばカタルーニャでのレースとは相性抜群だ。2021年のボルタ・ア・カタルーニャでは第1ステージで勝っているし、今年の同大会ではバルセロナのステージで6位に入っている。
そして何より、チームとして今大会に期する思いはかなりのものだった。育成チームで走っていたティル・デデッケルがトレーニング中の事故で亡くなり、彼のためにと選手たちは心をひとつにしていた。来季からトップチームに昇格し、いまブエルタに臨んでいる選手たちも一緒に走る予定だった。
「グランツール初勝利は亡き母に…と以前から決めていたのだけれど、個人的な感情はまた次の機会で良いと思っている。今はチームの困難に寄り添い、思いを共有し合うことが一番大切なんだ。もちろんこの勝利はティルに捧げるよ。母のことはって? グランツール2勝目はきっと近いうちに挙げられるだろうから、彼女にはその日まで待ってもらうことにするよ」(クロン)
クロンから数秒後に追走メンバーがフィニッシュラインを通過し、以降続々と選手たちがレースを完了。後ろに下がった総合系ライダーたちも無事に走り終えている。イレギュラー化したステージゆえ、マイヨ・ロホの行方が見ものとなったが、集計の結果、ピッコロが総合タイムトップで確定。残り9kmポイントでの集団とのタイム差や、ステージ3位で終えていた前日のチームタイムトライアルの走りが生かされた格好だ。
アンドレア・ピッコロ
「スタート前からマイヨ・ロホを狙っていたんだ。今日の走りには心の底から満足しているよ。自分の走りを信じていたし、トライを後押ししてくれたチームのおかげでもあるね。急いでガールフレンドや家族に報告しなくちゃ。ディナーの席ではみんなとお祝いだ!」(アンドレア・ピッコロ)
大会2日目にして、妙に混沌となっている個人総合争い。整理をすると、トップのピッコロから11秒差の2位にロモがつけ、13秒差の3位にはイバン・ガルシア(モビスター チーム)が浮上。ガルシアと同タイムでロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)ら7人が続いている。
レース後には大会ディレクターのハビエル・ギエン氏がインタビューに応じ、第2ステージにおける対応については「異常気象プロトコル」を採用したものだと説明。「長く晴れが続いて乾燥していたカタルーニャの地質を考えると、雨によるリスクはより大きなものになる」と、地盤の問題にも目を向けたとしている。また、ニュートラル化に関する話し合いは基本的に選手たちが主導しているとも述べている。
この雨の影響で、第1ステージで激しく落車したローレンス・デプルス(イネオス・グレナディアーズ)が骨盤骨折で第2ステージを未出走。今大会最初のリタイア選手になってしまった。前述のオンレーも加え、早くも2人が大会を去っている。
●参考:主な総合系ライダーのトップとのタイム差
1 アンドレア・ピッコロ(EFエデュケーション・イージーポスト)4:27:23
4 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)+13秒
8 エンリク・マス(モビスター チーム)+13秒
19 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)+19秒
20 ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)+19秒
27 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)+23秒
29 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)+23秒
41 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)+33秒
43 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)+33秒
52 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+41秒
53 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)+41秒
56 セルヒオ・イギータ(ボーラ・ハンスグローエ)+41秒
58 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)+45秒
62 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)+45秒
71 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)+50秒
72 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)+50秒
97 エディ・ダンバー(チーム ジェイコ・アルウラー)+1分4秒
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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