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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第1ステージ】路面変化への対応を成功させたチーム ディーエスエム・フィルメニッヒが雨のチームTTを勝利! 今大会最初のマイヨ・ロホは21歳ミレージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ
灼熱の3週間……と思いきや、幕開けはよもやの大雨。2023年シーズン最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャは波乱から始まった。
オープニングステージは、昨年と同様にチームタイムトライアル。ブエルタにおいては大会初日に組み込まれることが多く、今回はスペインきっての大都市・バルセロナの市街地を突き進む14.8kmのコースが設定された。チーム力と合わせて、雨への対応力を問われたレースを勝ったのは、チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ。出場22チーム中、2番目にコースへ飛び出した彼らが、後半出走だった有力どころをすべて抑え、自分たちでも驚きの勝利を挙げた。
「夢のようなブエルタのスタートが切れたよ。今大会に臨む僕たちは若い選手が多く、学びの場でもあるんだ。経験を積んでほしいと思っていたけど、こんなにうまくいくとは思っていなかったよ」(ロマン・バルデ)
レースに大きな影響をもたらしたのは、雨とあわせて出走時間だったかもしれない。一番出走のカハルラル・セグロスRGAがコースへ飛び出したのが、現地時間の17時55分。そこから4分おきに各チームが出走していったわけだが、カハルラルのスタートとときを同じくして雨が強まっていった。
ときおり激しい雨が選手たちを打ち付ける中、二番出走だったチーム ディーエスエム・フィルメニッヒが14.8kmのコースを17分30秒で走破。彼らの前後を走ったチームが軒並み18分台だったこともあり、このタイムが当面のターゲットとされた。
ソロモストロビーチを出発し、バルセロナの名所を次々と通過していくルートは、本来であれば相当に華やかだったはずである。しかし、これほどの雨ではとても街並みどころではない。コース中にはいくつもの90度コーナーが待ち受けており、タイヤを滑らす危険性が大いにはらんでいる。どんなに集中して走っていたって、雨中のトラブルはもはや運でしかなくなってくる。街のシンボルであるサグラダ・ファミリアもかすんで見え、観ている側も「バルセロナ感」がなかなか味わえない。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第1ステージ|Cycle*2023
やはりアクシデントは多発した。チーム アルケア・サムシックはフィニッシュ目前で複数人が落車し、アルペシン・ドゥクーニンクやイネオス・グレナディアーズにもクラッシュした選手が現れた。トラブルを免れようにも、それを避けるためにはスピードを抑えるしかない。10番目に出走したバーレーン・ヴィクトリアスや、その次にコースへ繰り出したEFエデュケーション・イージーポストがトップタイムに迫ったが、彼らも最終的に10秒差と6秒差でのフィニッシュ。
後半出走のチームも、この状況は誰も打開することができなかった。14番目に走り出したグルパマ・エフデジが6秒差でのフィニッシュ。チームTTがお家芸のイネオス・グレナディアーズは、ローレンス・デプルスの落車に加えてフィリッポ・ガンナがパンク。9.6km地点に置かれた中間計測ポイントでは15秒遅れだったのを、残るルートで何とか後れをとどめてトップから20秒差に食い止めた。
今季のグランツール全制覇をもくろむユンボ・ヴィスマは、19番目にコースへ。2枚看板の一角であるヨナス・ヴィンゲゴーがパンクに見舞われ、チーム全体が一時的に減速。ヴィンゲゴーの復帰以降もリスクは負わず、無事に走り終えることを最優先。フィニッシュタイムは18分2秒と、トップからは30秒以上遅れたがそこは問題ないとのチーム見解だ。
「危険極まりないロードコンディションだった。速く走ることと安全を保つことのバランスはとれていたと思う。今日のレースは大きな問題が起きなかったという事実だけで成功だよ。21ステージのうち、たった1つ終わっただけだ。これからだよ」(プリモシュ・ログリッチ)
ホットシートに長く座り続けるチーム ディーエスエム・フィルメニッヒに最も迫ったのは、21番出走のモビスター チームだった。地の利を生かすように、前半から他を凌駕するペースで進行。中間計測ではトップタイムを7秒更新する。3人を切り離した後半も何とかペースを維持するが、最終局面で隊列が乱れた。前の2人と後ろの3人に分裂した状態でフィニッシュラインを越えると、そのタイムはチーム ディーエスエム・フィルメニッヒと0.55秒差。ほんのわずかな差で一番時計には届かなかった。それでも、選手たちは満足そうな表情を見せた。
「勝ちたかったけど、これ以上の走りはできなかったよ。雨の中でトラブルがなかったことをまずは喜びたい。個人的にも好調で、良いスタートが切れたことがとてもうれしいね」(エンリク・マス)
いよいよ真打ち登場。最終出走は、個人総合2連覇がかかるレムコ・エヴェネプール擁するスーダル・クイックステップだ。チームTTを得意とするだけあって、雨の中でも状勢は狂わない……はずだった。中間計測もチーム ディーエスエム・フィルメニッヒと同タイム。さあ、ここから……だったわけだが、時間の経過とともに深まる「辺りの暗さ」が選手たちの視界をさえぎった。彼らのスタート時刻は現地時間20時19分。どこをどう走っているかも分からない状態で選手たちはフィニッシュを目指すしかなかった。結局、トップからは6秒遅れ。タイム差や4位というステージ順位だけ見れば何とかまとめた印象だが、チャンピオンは怒りを隠そうとしなかった。
「“お持ちのカメラにライトをつけてください”と言いたいね。要は暗すぎるということだよ。顔に水をかけられ、前が見えなくなった状況を想像してみてほしい。そこにこの暗さが加わるということは、誰がどう見たって危険なのは分かると思う。本当に何も見えなかったんだ」(レムコ・エヴェネプール)
かくして、チーム ディーエスエム・フィルメニッヒはホットシートから最後まで動くことはなく、第1ステージの勝利が決定。スーダル・クイックステップのタイムを確認するや、選手たちが肩を組んで喜び合った。今大会最初のリーダージャージ「マイヨ・ロホ」は、チームの先頭でフィニッシュしたロレンツォ・ミレージへ。先のスーパー世界選手権では、アンダー23個人タイムトライアルでマイヨ・アルカンシエルを手にした、将来が有望視される21歳のイタリアンだ。
ロレンツォ・ミレージ
「チームで勝つってこんなに感動的なんだね。みんなで力を合わせて走り抜いた実感があるし、それが報われて本当に良かったよ。グラスゴーとどっちが大変だったかって? 間違いなく今日だね(笑)。勝因は少しばかりリスクを負ったところかもしれない。レースプランを組み立てて、それに忠実に走ったんだ。チームを代表してマイヨ・ロホを着させてもらえるのもうれしいね」(ロレンツォ・ミレージ)
いつもであれば取りこぼしを少なくすることが求められるブエルタのチームTTだけど、今回ばかりは事情が異なった。それに、今大会のテーマが“山”“上り”と言われるように、勝負どころがこの先いくつも控えている。タイムだけ見れば出遅れたように思われる選手でも、ここから挽回は十分に可能。ひとまずは大会初日をクリアしたことをプラスに捉えるべきだろう。
第2ステージでは、「バルセロナといえば……」のモンジュイックの丘へ。大会早々にして、打ち合いが見られるはずだ。
●参考:主な総合系ライダーのトップとのタイム差
1 ロレンツォ・ミレージ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)17:30
3 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)+0秒
7 エンリク・マス(モビスター チーム)+0秒
17 ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)+6秒
18 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)+6秒
30 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)+10秒
34 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)+10秒
45 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)+20秒
48 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)+20秒
56 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+28秒
57 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)+28秒
59 セルヒオ・イギータ(ボーラ・ハンスグローエ)+28秒
65 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)+32秒
66 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)+32秒
79 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)+37秒
83 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)+37秒
116 エディ・ダンバー(チーム ジェイコ・アルウラー)+51秒
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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