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サイクル ロードレース コラム 2023年8月21日

【Cycle*2023 アークティックレース・オブ・ノルウェー:レビュー】“白夜の太陽”はスティーブン・ウィリアムズを照らす 個人総合争いは1秒差の大接戦

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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アークティックレース・オブ・ノルウェー

総合表彰台 優勝ウィリアムズ、2位スカローニ、3位ヴェルマーク

8月とは思えない、冷雨の中で進行した4日間。改めて「北極圏の8月」の気候というものを、レースを通じて知ることとなった。“原点に立ち返る”ことをコンセプトに、北極圏内(北緯66度33分以北)をめぐったステージレース「アークティックレース・オブ・ノルウェー」の2023年大会。毎ステージ、上りスプリントで決着した戦いは最終的にスティーブン・ウィリアムズ(イスラエル・プレミアテック)が個人総合優勝。2位のクリスティアン・スカローニ(アスタナ・カザクスタン チーム)との総合タイム差1秒という大接戦をモノにした。

「本当にうれしいよ。大会後半(第3・第4ステージ)は、これ以上ない戦い方だった。準備も含めて、この1週間は素晴らしい日々だったよ。仲間に感謝しなくちゃいけないね!」(スティーブン・ウィリアムズ)

北欧の中でもとりわけ北に位置する地域に、18チームが集結した今大会。6つのUCIワールドチームを中心に力のあるチームがそろったが、若手の登竜門的な位置づけとしてヤングライダーが多数参戦。それらを“北欧の雄”ノルウェー勢が迎え撃つ、この大会らしい構図が今年も展開された。

大会の幕開け、第1ステージで真価を見せたのはチーム ディーエスエム・フェルメニッヒだった。個人総合2連覇をかけて臨むはずだったアンドレアス・レックネスンが体調不良で出走を取りやめたが、それをカバーするべくアルベルト・ダイネーゼが上り基調の最終局面で爆発。これぞエーススプリンターの勝負強さで、最初のリーダージャージ着用者になった。

世界最北の不凍港を望めるハンメルフェストの丘でフィニッシュした第2ステージでは、ミケーレ・ガッツォーリ(アスタナ・カザクスタン チーム)が“完全復活”の勝利。スカローニとのワン・ツーフィニッシュで、チームに今季9勝目をもたらした。前記の“復活”とは、昨年8月から1年間の資格停止になっていて、このレースがトップシーン復帰戦だったのだ。意図しない禁止薬物の摂取という、本人も思いがけない形で戦列を離れたが、もともとは各年代で世界のトップを走ってきた猛者である。雌伏の1年に鍛錬を重ね、より強くなってプロトンに還ってきた。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTube

【ハイライト】アークティックレース・オブ・ノルウェー 第4ステージ|Cycle*2023

アークティックレース・オブ・ノルウェー

アークティックレース・オブ・ノルウェー

“白夜の太陽”ミッドナイト・サン・ジャージをかけた争いは、第3ステージから本格化した。主導権を握ったのは、ノルウェーが誇るUCIプロチームのウノエックス・プロサイクリングチーム。ツール・ド・フランス初出場を果たし、チーム全体が自信に満ちている中で迎えた今大会。ワールドチーム勢を差し置いて集団をコントロールし、第2ステージからはたびたび横風を利用した集団分断を試みていた。さらにこの日は強い雨が選手たちを襲った。それをも利用しようと、地の利を生かした作戦を企てた。

彼らの狙いは、若きエースのトビアス・ヨハンネセンを押し上げること。フィニッシュ前2.8kmで逃げていた選手たちを捕まえ、勾配10%超の最終局面で勝負に出た。ただ、このレイアウトでヨハンネセン以上に力を見せたのが、ウィリアムズだった。ディラン・トゥーンスとのホットラインが機能し、最後の100mで先頭へ。クールに、それでいて力強く、1級山岳頂上に敷かれたフィニッシュラインへ一番に飛び込んだ。

「最後の2時間は耐えがたい気象状況だった。どうやって体温を保つべきか悩んだよ。こういうときは基本に忠実に走るしかないんだ。みんなが僕のために役目を果たしてくれて、横風からも守ってくれた。せっかく手に入れたリーダージャージだから、最後まで守りたいね」(ウィリアムズ)

トップの座を守るために、イスラエル・プレミアテックはディフェンシブになることなく、むしろアグレッシブに最後の1日を戦った。序盤の逃げには、前日好アシストのディラン・トゥーンスを送り込んだ。個人総合で5位につけている彼の動きは、さすがに他チームが嫌ってふりだしに戻ることとなったが、最大15人の逃げが再編成されてからは、アシスト陣が2分30秒程度のタイム差を維持して、残りの距離を着々と減らしていった。

終盤の山岳区間では、総合タイム差12秒の位置につけるギヨーム・マルタンコフィディス)や、地元勝利を狙ったオドクリスティアン・エイキング(ノルウェーナショナルチーム)が再三再四のアタック。この状況にも慌てなかったリーダーチームのイスラエル・プレミアテック。ウィリアムズのみならず、トゥーンスの個人総合ジャンプアップを意識しながら、レースをクローズさせる方向へシフトしていく。

アークティックレース・オブ・ノルウェー

アークティックレース・オブ・ノルウェー

「チームとしてリーダージャージをキープできれば良いと思っていた。スティーヴィー(ウィリアムズ)の走りは問題なかったし、僕も前日以上に調子が良かった。最後は僕のスプリントで終わらせることで一致し、レースをクローズさせることにしたんだ」(トゥーンス)

ただひとり、最後の最後まで逃げ続けていたワルテル・カルツォーニ(Q36.5プロサイクリングチーム)をフィニッシュ前200mで捕まえた集団は、その流れのまま4ステージ連続の上りスプリントへ。クレマン・シャンプッサンチーム アルケア・サムシック)が、エイキングやガッツォーリらとの競り合いを制してステージ勝利を挙げたすぐ後ろで、ウィリアムズも走りをまとめて個人総合優勝を確定。トゥーンスのスプリントは決まらなかったものの、リーダージャージを守り切った点でイスラエル・プレミアテックは最終日の走りを遂行させたといえよう。

「15人が逃げてもチームはまったく慌てていなかった。ある程度のタイム差をキープしていれば大丈夫だと思っていたし、今日のフィニッシュも問題なくこなせることは分かっていた。トラブルだけないように集中して走ったよ。無事に終えられて本当に良かった」(ウィリアムズ)

27歳のウィリアムズにとって、ステージレースの個人総合優勝は2021年のクロ・レース以来。ゲラント・トーマスイネオス・グレナディアーズ)らと同じウェールズ出身で、もともとはサッカー少年だったが膝の怪我をきっかけに16歳で自転車競技に転向した。2019年から4シーズン、バーレーン・ヴィクトリアス(加入時はバーレーン・メリダ)で走り、今季から現チームで走る。もっとも、本来はB&Bホテルズ・KTMに移る予定だったのが、同チームの事実上の解体で行き場をなくした経緯がある。そんな彼を拾ったのがイスラエル・プレミアテック。今季所属30人(中途退団選手を含む)のうち、最後に加わったのが彼だった。そんな“30番目の男”がもたらした大きな勝利。数年でのUCIワールドチーム返り咲きを目指すチームは、ここから上昇気流に乗る。

アークティックレース・オブ・ノルウェー

アークティックレース・オブ・ノルウェー

「最後にチーム入りしたとはいえ、私たちは数年前から彼をチェックしていました。上りに強く、スプリントも得意。ユーティリティーな選手を求めていて、スティーヴィーが最適だと考えていました」(イスラエル・プレミアテック チームマネージャー:キェール・カールストローム氏)

「彼はこれからさらに強くなるはずです。あらゆるプランに沿って、巧みに走ることができる器用さがあるのです。今大会の彼は勝利に値しますし、さらに勝利を重ねられる実力を持っていることは確かです」(イスラエル・プレミアテック スポーツディレクター:スティーブ・バウアー氏)

ウィリアムズとトゥーンスを最後まで追い込んだスカローニは、総合タイムで1秒届かず2位。ワン・ツーの“ツー”だった第2ステージが、もし“ワン”だったら、ボーナスタイムの関係で最終的に個人総合トップに立っていた計算になる。ただ、本人は「そんなことを言っても仕方ない」といった姿勢を崩さなかった。

「確かに、リーダージャージを着ていた可能性はあったね。惜しいことをしたよ。でも、毎日スプリントフィニッシュだった中で、勝ちたいと思っていたのは僕たちだけじゃなかったんだ。チームとして1勝を挙げられたことを喜びたいし、僕個人の結果も悪くない。今後のレースもきっとうまくいくと思うよ」(クリスティアン・スカローニ)

多くのヤングライダーが参戦しただけあって、4日間を通して若き力が躍動した印象だ。第1ステージで2位に食い込んだ19歳のノア・ホッブス(グルパマ・エフデジ コンチネンタルチーム)は、翌日にはリーダージャージに袖を通した。それこそ1日で明け渡したけど、第4ステージでは逃げに乗り、一時はポイント賞争いで首位にもなった。22歳のケヴィン・ヴェルマーク(チーム ディーエスエム・フェルメニッヒ)は個人総合3位に入ってヤングライダー賞を獲得。レックネスンの穴を埋める走りを見せた。山岳賞の“孔雀ジャージ”ことピーコックジャージを獲得したヴィンセント・ファンヘーメレン(チーム フランダース・バロワーズ)も22歳。前述のガッツォーリは24歳で、スカローニとシャンプッサンは25歳。

頂点に立ったウィリアムズも含めて、将来が楽しみな選手たちがそれぞれに見せ場を作った今大会。「北極圏から、世界のトップへ」それはジンクスなんかじゃなく、実現性の高い要素として、今後のレースシーンで重要度が高まっていくことだろう。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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