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【Cycle*2023 UCI世界選手権大会 男子エリート 個人タイムトライアル:レビュー】2022年ロードレース世界チャンピオンから2023年個人タイムトライアル世界チャンピオンへ、レムコ・エヴェネプール
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかレムコ・エヴェネプールが個人タイムトライアルでも世界一
退位わずか5日後に、新たな王座に駆け上がった。2022年ロードレース世界チャンピオンから、2023年個人タイムトライアル世界チャンピオンへ。平地あり、上りあり、石畳あり、強風あり……の全長47.8kmのコースを55分19秒23で攻略したレムコ・エヴェネプールが、新たなマイヨ・アルカンシェルの着用権利を勝ち取った。
「すごく幸せだし、すごく誇らしい。今シーズン掲げていた大きな目標のひとつだったし、これでキャリアの目標としてきた6つのチャンピオンジャージのうち、5つを手に入れた。信じられないよ」(エヴェネプール)
グラスゴーで開催中の「スーパー」世界選手権は、いつもとはかなり勝手が違った。今回の男子エリート個人タイムトライアルも、ツール・ド・フランスの後、ロードレースの後、トラック種目の後……と極めて特殊なスケジュール。
例えば7月の3週間はマイヨ・ジョーヌ争いを繰り広げ、5日前には「480のコーナー」の消耗戦で「身体の奥底から全力を絞り出して」銅メダルを手にしたタデイ・ポガチャルは、満足する走りができなかった。過去2度の参戦はいずれもトップ10で終えたにも関わらず、今回は首位エヴェネプールから3分05秒遅れの21位。「僕の身体と心は休息を求めている」と、数週間レースから離れる。
過去3大会で2度表彰台に登り、今年も優勝候補の一角に上げられていたシュテファン・キュングは、6月中旬以降ほぼ休みなく走り続けてきた。そのうえ今回の世界選は日曜日にロード5位、火曜日にミックスリレーで優勝、そして金曜日に個人TTと、かなり忙しい1週間を過ごした。「意志と情熱だけでは、補えなかった」と、まさかの12位。9月下旬の欧州選手権へと気持ちを切り替えた。
自分としては悪くないリズムで走れたと感じていたのに、5位という結果と1分37秒遅れという大差に、ショックを受けたのがワウト・ファンアールト。ロードレースは2度目の銀メダルに甘んじ、世界選個人TTは、人生3度目の参戦で初めての表彰台落ちを経験した。本人の分析によれば、敗因は脚の調子だけでなく、前半のペースをあまりに抑えすぎたこと。 第1計測地点(12.6km地点)で早くも首位から34秒も遅れていた。ただ全長750mの石畳の急坂を含むラスト4.3kmだけを見れば、エヴェネプールを0.58秒差で抑え堂々のトップタイム!
J SPORTS サイクルロードレース【公式】|YouTube
【ハイライト】UCI世界選手権大会 男子エリート 個人タイムトライアル|Cycle*2023
一方で2018年・2019年に世界選個人TT2連覇を果たしたローハン・デニスにとっては、約2ヶ月ぶりのレースであり、なにより人生最後の世界選手権だった。残念ながら石畳区間での落車・自転車交換がたたり、7位と、不満の残る幕切れとなった。またディフェンディングチャンピオンのトビアス・フォスは11位、元U23世界王者×3回のミッケル・ビョーグは9位、元ジュニアTT世界チャンプのブランドン・マクナルティは4位だった。
世界3位の走りをみせたジョシュア・ターリング
1年前にジュニア=19歳未満でTT世界王者に上り詰めたジョシュア・ターリングは、今年のグラスゴーでは、エリート部門でTT世界3位に飛び込む衝撃を演出した。
今年6月の英国選手権TTですでに、並み居る先輩たちを退けチャンピオンジャージをつかみとっていた。さらに7月末のツール・ド・ワロニーのTT区間では、フィリッポ・ガンナに次ぐ2位に食い込んだ。実はちょっとしたミスでターリングの使用バイクにはサイクルコンピュータが装着されておらず、約48kmという人生最長のTTコースを、ひたすら自分の感覚だけを頼りに走り切ったという。
それでも全78名の出走者の中で最も若い19歳のプロ一年生は、最後から19番目にスタートすると、3つの中間計測地点でもフィニッシュでもトップタイムを叩き出した。最終的に驚異のティーンエージャーを上回ることができたのは、ガンナとエヴェネプールだけだった。
「ちょっとクレイジーだし、地元英国でこれを成し遂げられたなんて最高だ。去年のオーストラリアも信じられないような体験だったけど、今年はそれを上回る。この先のレースが楽しみでたまらない」
こんなターリングが模範とする選手は、同じようにアンダーカテゴリーをスキップし、2018年ジュニア世界TT優勝→2019年エリート世界TT2位と同じような経歴をたどってきた……もちろんエヴェネプール!「彼の進んだ道を、僕も進んでいきたい」と、宣言する。
フィリッポ・ガンナ
ツール・ド・ワロニーで、そのターリングと揃って総合でもワンツーフィニッシュを果たしたガンナが、スコットランド上陸後に真っ先に向かった先はサー・クリス・ホイ自転車競技場。そこで8月5日にはトラックの団体追い抜きで銀メダル、8月6日には個人追い抜きで金メダルを射止めた。
ただしトラックでは世界選タイトル7つ・五輪タイトル1つを誇るガンナの、今スーパー世界選手権での最大の目標は、タイムトライアル世界王者のタイトルを取り戻すこと。2020年・2021年秋に2連覇を果たしながら、昨季は7位と、納得の行く結果を残せなかった(2週間半後にアワーレコード樹立)。
ガンナはスタートと同時にハイペースを刻んだ。追い風に乗って、第1計測地点では全体のトップタイムも叩き出した。エヴェネプールより4.62秒も速かった。第2計測地点(34.7km地点)から第3計測地点(43.5km地点)でも、やはりエヴェネプールのタイムを1.42秒上回っている。また石畳を含む最終区間も、エヴェネプールに対する損失を1.6秒差に食い止めた。しかし試走後に「かなりテクニカル」と危惧していた第1計測から第2計測までの区間だけで、ガンナは16.72秒も失った。
「かつてないほどいい走りができた。つまりこれ以上速く走るのは不可能だったのさ。銀よりも金が欲しかったけれど、ただ、トラックとロードTTを同時期に走るのは、僕にとっては難しかった」
ちなみに今回の「スーパー」世界選手権の機会に、種目の枠を超えて「スーパー」な活躍を成功させた選手だって存在する。女子ロード世界チャンピオンのロッタ・コペッキーはトラックのポイントレースとエリミネーションで、女子タイムトライアルチャンピオンのクロエ・ダイガートは個人追い抜きで、それぞれアルカンシェルを持ち帰った。また男子ジュニアロード王者アルベール・フィリプセンは、マウンテンバイククロスカントリーでも王者に。
優勝エヴェネプール、2位ガンナ、3位ターリング
そしてジュニア時代には2018年国内選&欧州選&世界選でロード&個人TTと6枚のチャンピオンジャージを勝ち取り、エリートに転向して以降は2019年欧州選TT、2022年国内選TT、2022年世界選ロード、2023年国内選ロードと順調に勝ちを重ねてきたエヴェネプールは、このグラスゴーで世界選TTのアルカンシェルをコレクションに加えたことになる。
こんなエヴェネプールもまた、先の日曜日にはロードレースを戦った。代表チームメイトのファンアールトのために、幾度となく囮アタックも繰り出した。ただ7月のほぼまる一ヶ月は、高地トレーニングに当てていた。そして7月末のクラシカ・サンセバスティアン(優勝)で、レースを再開したばかり。
「タイムトライアルに必要なのは、フレッシュな脚なんだ。まさにパーフェクトな1日だった。第1計測地点でガンナに対して遅れていたのは分かっていたけど、脚の調子が良かったから、スピードを上げた。作戦は中間の区間でタイムを稼くこと。自分の限界を超える走りをした」
前半部分は時に突風に自転車を煽られ、「体重の軽い」エヴェネプールにとって、バランスを保つのことが難しかったという。ただ前述の通り、第1計測から第2計測までの22.1km(つまりコースの約半分)だけで、ガンナに16.72秒という大差を押し付けた。最終的には2位以下に12.28秒差を保って、フィニッシュラインを越えた。走行時速は51.843kmだった。
1994年に創設された世界選手権個人タイムトライアル部門で、ベルギー人選手が頂点に立つのは史上初めて。また23歳198日で、史上最年少の同種目男子エリート王者となった。そして1995年ロード&1998年TTを制したアブラハム・オラノに次ぐ、史上2人目の世界選ロード両種目チャンピオンでもある。
そのオラノはブエルタ・ア・エスパーニャの総合を1度だけ勝ち取っているが、今年のエヴェネプールは2度目のブエルタ制覇に向かう。真新しいアルカンシェルのお披露目は、8月26日の開幕ステージはチームタイムトライアルだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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