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【Cycle*2023 UCI世界選手権大会 男子エリート 個人タイムトライアル:プレビュー】トラック終わりのガンナ、 ロードの雪辱期すワウト、ポガチャル、レムコも! 平坦・上り・石畳のミックスコースで一番時計を決める!
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ファンアールトとエヴェネプールに挟まれて表彰台の真ん中に立つガンナ
8月3日から競技が進行している、“スーパー世界選手権”ことUCI世界選手権。
とりわけハイライトとなっているのが、8月6日に行われた男子エリートロードレースだ。難易度の高いグラスゴーの市街地サーキットを攻略し、終盤に圧倒的な強さを見せたマチュー・ファンデルプール(オランダ)の走りは世界が驚愕。それに続けと、11日に個人タイムトライアルが行われる。
個の走力がそのまま反映される戦い。今回はレース距離47.8km、獲得標高352mのコースが用意された。グラスゴーから北西に位置するスターリングを発着地とし、前半はおおむね西向き、後半は東に向いてスターリングへ戻ってくる。
コース中、いくつかの登坂ポイントが控えている。スタートから12kmほど進んだところから始まるソーンヒルへの緩やかな上りが1つ。30km地点手前にはキッペンへの登坂。35km地点を過ぎたところからはガーガノックの丘越えがあって、全カテゴリー共通のルーティングになる最後の8kmも断続的に上り基調。残り4kmで通過するキャンブスバーロンからいよいよ最終局面へと移っていくと、フィニッシュ前750mには6%の上り勾配が待ち受ける。
フィニッシュラインが敷かれるスターリング城へ向かう石畳は最後の難所で、8月9日に行われた男子アンダー23の個人タイムトライアルでも勝負を左右する大きな局面となった。前半から脚を使いすぎると、終盤にかけて失速しがちな印象だった。
実際にレースを走る選手たちのコース評はというと、優勝候補のシュテファン・キュング(スイス)は「前半はDHバーから腕を離すことがそう多くはないだろうね」。男子アンダー23を勝ったロレンツォ・ミレージ(イタリア)は「最後の750mをしっかり踏み切ることと、途中の短い下りでできる限り回復に努めることが重要」。その意味では、平坦区間ではスピードに乗せつつ、上りは無理なく、下りで回復して、最終局面で大勝負……といった流れを巧みに構築した選手に勝機がめぐってきそうだ。
チームタイムトライアルミックスリレー表彰台 1位スイス、2位フランス3位ドイツ
今大会のロード競技・男子エリート種目最後となるプログラムには、豪華メンバーが集結。ロードレースを勝ったマチューはマウンテンバイク競技参戦によりこのレースは走らないが、各選手がそれぞれの思いを胸にコースへと繰り出すことになる。
最大の目玉は、2年ぶりの王座返り咲きを目指すフィリッポ・ガンナ(イタリア)の走りだ。今大会はトラック競技で2つのメダルを獲得。とりわけ、インディビジュアルパシュートでは最後の1000mで驚異的な逆転を演じ、その脚は確かなものであることは証明済み。このレースに合わせて新たなTTバイクが用意され、すでにコースチェックも完了。個人タイムトライアルが最大目標であることを公言し、フィニッシュ前の上りについても不安はないとしている。トラック競技同様に、後半追い上げ型の走りで優勝争いの水準を高めることだろう。
前回大会ではトップから3秒差の2位で悔しさをあらわにしたキュング。ロード種目では個人初のマイヨ・アルカンシエル獲得に向け、準備は整っている。ロードレースは5位とまとめ、8月8日にはミックスリレーで優勝。前述のとおり今回のコースには好印象で、攻略する自信もあるとしている。スイス勢では前回5位のシュテファン・ビッセガーも控えており、両人そろってアルカンシエル争いに加わってきそうだ。
スイスと同様に複数人での上位独占の期待が高まるのが、ベルギー勢だ。何といっても、ワウト・ファンアールトとレムコ・エヴェネプールのコンビである。ロードレースでは銀メダルだったワウトは、ロード種目初のアルカンシエルをかけてこの一戦へ。平坦区間はもとより、最後の石畳の上りこそ彼にとっておあつらえ向きと言えそうだ。前回大会3位のレムコは、「脚質的に合わなかった」というロードレースの雪辱戦。石畳の走りが未知数とはいえ、距離を考えれば苦戦することはないだろう。前半からペースに乗せていけばライバルを凌駕するタイムをマークする可能性は十分。
ツール・ド・フランスで個人TTを走るタデイ・ポガチャル
ロードレースに続き、タデイ・ポガチャル(スロベニア)もエントリー。上り・下り・石畳と苦にしないポガチャルのことだから、トラブルさえなければ上位戦線に入ってくることは間違いない。ガンナも「ポガチャルの存在は脅威」とマークすべき選手に挙げている。
ゲラント・トーマス(イギリス)は今大会、この一本にフォーカス。直前のツール・ド・ポローニュではTTステージで3位に入り、「良い調整になった」と前向きだ。ブエルタ・ア・エスパーニャを目指す中で臨むとあって、コンディションを図る良い機会でもある。
そして、前回覇者のトビアス・フォス(ノルウェー)を忘れるわけにはいかない。昨年はアウトサイダーからの金星だったが、今回は「もちろん連覇を狙う」と宣言。“ビッグネーム喰い”の再現はあるか。
一昨年は4位に入っているカスパー・アスグリーン(デンマーク)や、TT巧者の一面を持つジョアン・アルメイダ(ポルトガル)も上位候補。2018年と2019年にこの種目で世界の頂点に立っているローハン・デニス(オーストラリア)は今季限りでの引退を表明しており、これが最後の世界選手権になる。
このレースを勝った選手には、世界王者の証として純白に虹色を施したスペシャルジャージ「マイヨ・アルカンシエル」が贈られ、おおよそ1年間、個人タイムトライアル出走時に着用が許可される。
今レースは現地時間14時35分(日本時間22時35分)に第一走者がスタート。男子アンダー23では、ミレージがアベレージスピード50.512kmで走破しており、男子エリートも同等またはそれを上回る速度での優勝争いになりそうだ。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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