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世界チャンピオンの称号を掴むのは誰だ!UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレースの注目国を栗村修が解説
サイクルロードレースレポート by J SPORTS 編集部UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレースの注目国を栗村修が解説!
ツール・ド・フランスの熱気と興奮が冷める間もなく、今年も世界一の称号“マイヨ・アルカンシェル”を懸けた熱い戦いが幕を開けた(8月3日〜13日)!スコットランドはグラスゴーで開催されている今大会は、近年別々に行われていた自転車競技13種目を集中開催する「スーパー(メガ)世界選手権」(今後、4年に1度のサイクルで開催予定)として世界中の耳目を集める。J SPORTSでは、男女エリートのロードレースと個人タイムトライアルの模様をLIVE配信でお届けする。そんな注目の一戦を前に、今年も7カ国+注目選手に絞って、栗村修さんが男子エリート・ロードレースの注目国を解説!昨年に続き、圧倒的戦力を備えるベルギーが世界チャンピオンの称号をつかむのか、それとも他国が巧みな戦略を駆使して、ベルギーの牙城を崩すのか、目が離せません!(※勝利予想の星の数はあくまでも7カ国間での比較になります)
コースの特徴:アムステルダムゴールドレースに近いレース展開を予想
コースプロフィール
コースの特徴を見る限り、誰が活躍するのか、正直分かりにくいですね。ライン区間に「クロウロード」(5.9km/平均勾配4.8%、最大勾配9.7%)という上りがありますが、難易度はあまり高くありません。1周14.3kmのフィニッシュサーキット内にある「モントローズストリート」(200m/平均勾配10%)の上りも、上りと言っていいのか分からないくらい短い上りで、メインとなる上りはコース全体を通してありません。ただ、距離は270kmオーバー、獲得標高が3570mと、距離の長さがポイントになりそうです。また、市街地コースは細かなアップダウンやコーナーが多く含まれています。フィニッシュサーキットの小周回の中には、合計42箇所ものコーナーがあり、選手たちの体力を消耗させます。さらに、レース当日の気温は最高17度/最低10度、しかも小雨の予報が出ていて、かなり涼しい気候が予想されます。ツール・ド・フランスでも背中に氷を入れて走る選手の姿が多く見られましたが、気温差に順応できるのかも、ポイントになるかもしれません。「細かいアップダウン」と「多くのコーナー」という意味では、アムステルダムゴールドレースに近いレース展開が予想され、最終的なメイン集団は30名ほどに絞られるんじゃないかなと思います。クラシックレーサーとか、パンチャータイプ、もしくはクラシックレースを戦えるようなスプリンターに優勝のチャンスがあると言えるかもしれません。
ベルギー:ベルギーの敵はベルギー?
ワウト・ファンアールト (写真中央)
勝利予想:★★★★★(5点/5点中)
注目選手:ワウト・ファンアールト、ヤスペル・フィリプセン、レムコ・エヴェネプール
ベルギーは最強です。最強過ぎるゆえに、「大丈夫か?」問題が浮上しています。ブックメーカーの人気順は1位がワウト・ファンアールト、3位がヤスペル・フィリプセン、4位がレムコ・エヴェネプール(いずれもベルギー)。他にもヤスペル・ストゥイヴェンといった有力選手もいますね。ディフェンディングチャンピオンのレムコは、先日行われたクラシカ・サンセバスティアンでも優勝しましたし、そんな彼をワウトのアシストに回すことが果たしてできるのでしょうか。コース特性的に言えば、スプリント勝負も考えられますし、その場合はフィリプセンが大本命。この贅沢すぎる布陣がどう転ぶのか、ベルギーの敵はベルギーと言えるかもしれません。事実、レムコとワウトは過去に不仲説も囁かれました。チームの約束事を守れないことで有名なレムコを、イヴ・ランパールトあたりがうまく教育できると、チームとしてまとまりが生まれるのかもしれません。変人ヴィクトール・カンペナールツもいますし、心配の種が尽きません。
注目選手を挙げるとすれば、一番人気はもちろんワウトになりますが、彼はとにかくビッグレースでの2位が多い。だからこそ、彼をエースにすると2位に終わりそうな予感がしてしまいます。圧倒的な戦力を有しているという意味で、どんなレースパターンになっても誰かしらが勝つことができる可能性を秘めている一方で、ワウトを単独エースに据えてチームとして機能させることができるのか。フィリプセンをスプリント勝負に向けて温存するプランBもあるでしょうし、エヴェネプールもジョーカー的に存在する中で、お互いに潰し合わないようにしなければいけません。本当のことを言えば、フィリプセンのスプリントに絞って、他の選手で逃げやアタックを潰し続ける戦い方の方が、チームとしてはまとまりが生まれやすいとは思うのですが……。でも、戦力は圧倒的です。星は文句なしの5つ星。6つでもいいくらいです。
フランス:トマ・ヴォクレール監督の采配が勝利の鍵
クリストフ・ラポルト
勝利予想:★★★★☆(4点/5点中)
注目選手:ジュリアン・アラフィリップ、クリストフ・ラポルト
正直、ベルギーに比べると存在感は落ちますが、世界選手権でのフランスは組織的な動きで例年目立った活躍を見せています。監督はあのトマ・ヴォクレールさん。選手引退後にナショナルチームを率いて、既にジュリアン・アラフィリップの2連覇を含めて結果を残しています。元世界王者のアラフィリップについては、ツール・ド・フランスでの走りを見る限り本調子とは言えません。前回大会で2位だったクリストフ・ラポルトが事実上のエースと言えるのかもしれません。スプリンターとしてはブライアン・コカールもいます。チームとしてどう戦ってくるかによりますが、僕はラポルトで獲りに来るんじゃないかなと思います。
フランスとしては、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)のようなピュアスプリンターが残れないくらい厳しくしつつ、でもラポルトは残れるみたいなレース展開が理想的です。なので、アラフィリップやヴァランタン・マドゥアスあたりが厳しいレースを作ってくるんじゃないかなと思います。ラポルトであれば、ワウト・ファンアールトやレムコ・エヴェネプールにもスプリント勝負で勝てるかもしれませんが、さすがにフィリプセンには勝てません。なので、ピュアスプリンターを排除する動きがフランスの要になるかもしれません。また、冷たい雨が降る中で行われた今年のヘント〜ウェヴェルヘムで、ワウトと共に逃げを成功させて優勝したラポルトは、雨や寒さに強いという意味で、アドバンテージを有しているかもしれません。
詰まるところ、フランスはボクレール監督の采配次第です。ベルギーのチーム内部に仲違いが生まれるような演出をしてくる可能性だって考えられます。アラフィリップがレムコの耳元で「2連覇は良いぞ……」「2連覇しないと世界チャンピオンって言えないよね」と囁いて、レムコがアタックしちゃうみたいな。フランス人は良い意味でも勝利のために手段を選ばないイメージなので、さまざまな手段を使って優勝を狙ってくるはずです。
デンマーク:どんなレース展開でも勝てるだけの戦力
マッズ・ピーダスン
勝利予想:★★★★☆(4点/5点中)
注目選手:マッズ・ピーダスン、マティアス・スケルモース
デンマークの注目選手は2019年の世界選手権チャンピオン、マッズ・ピーダスンですね。彼が優勝した2019年大会も雨が降る中で行われて、耐久戦のような様相を呈していました。あのときは気温も零度近かったんじゃないでしょうか。メンバーもすごく良いですね。マティアス・スケルモース、カスパー・アスグリーン、セーアン・クラーウアナスン、マグナス・コルトがいる。みんな強い選手ですが、デンマークの戦い方はおそらくはっきりしていて、ピーダスンで勝ちにくると思います。上れて最後まで集団に残れる力を持つピーダスンとフランスのラポルト。彼らはスプリント力も同等と言えるでしょう。なので、デンマークもフランスと同じく星は4つ。フランスはボクレール監督の下、さまざまな戦略を練ってきそうなイメージがありますが、デンマークはピーダスンを勝たせるために直球勝負してきそうな印象があり、そこが両国の違いとして挙げられるかもしれません。ただ、先に説明の通り、今回は展開が読めません。意外とサバイバルなレース展開になって、ラポルトやピーダスンといった選手が最後まで残れない可能性だってあります。そんなサバイバルな展開になったとしても、デンマークはピーダスン以外の選手で勝ちに行ける戦力を十分に備えていると言えるのではないでしょうか。
オランダ:マチュー・ファンデルプールのスター性に期待
マチュー・ファンデルプール
勝利予想:★★★★☆(4点/5点中)
注目選手:マチュー・ファンデルプール、ディラン・ファンバーレ、オラフ・コーイ
オランダはブックメーカーで2番人気だったマチュー・ファンデルプールがエースです。スプリント勝負になれば、オラフ・コーイが面白いし、アシスト職人も揃っているのでバランスが良いチームと言えます。各選手の脚質とキャラクターとキャリアに差があるので、ベルギーとやや似ている部分がありますが、オランダは選手同士がしっかりと支え合えるイメージがあります。チームワークにあまり不安を感じさせません。マチューとディラン・ファンバーレはタイプ的に被りますが、ファンバーレは我の強い選手ではないので、この二人が個性を出し合ってぶつかるようなことは起きないと予想されます。ワウトとレムコの関係のように「混ぜるな危険」といった印象は受けません。ただ、ファンバーレも強い選手ですから、スーパースターのマチューがガンガン攻めている陰にそっと潜んで、最後に単独でアタックして勝っちゃうみたいなことは想像できますね。
ツールではあまり目立った走りをしなかったスーパースターのマチューですが、ツール後はレースを走っていないので、現在の調子がどうなのかは正直に言って分かりません。ただ、マチューは目眩し的なことをしてくる選手でもあります。今シーズンのはじめも調子が良いのか悪いのか分からない状態のまま、ミラノ・サンレモで勝っちゃいましたし、悲願のパリ〜ルーベも獲った。ワウト・ファンアールトがビッグレースで勝てないのとは対照的に、ビッグレースで勝つのがマチュー。ツールでアシストに徹していた感じが、逆にアルカンシェルを着ちゃう伏線になっていそうな気もします。それでも、チームとしての星は4つ、ベルギーには敵いません。
イギリス:地元の利を活かせるかが鍵
フレッド・ライト(写真左)
勝利予想:★★★☆☆(3点/5点中)
注目選手:フレッド・ライト
地元開催でチャンピオン奪取に燃えるイギリスは星3つ。イギリスチャンピオンのフレッド・ライトがエースかなと思います。彼の脚質からすると小集団フィニッシュの方が勝つ確率は高いでしょうから、イギリスとしてはピュアスプリンターを排除したいはずです。ただ、チームメイトとなる選手を眺めていくと、決して際立ってはいません。正直、地元大会ということで注目国の一つに挙げさせてもらいましたが、彼らのアドバンテージは左側通行に慣れていることくらいでしょうか(※レースには全然関係ありません。栗村ジョークです)。あとは、地元の声援がどれくらい彼らの背中を押してくれるのか。期待値はあまり高くありませんが、見えない力が作用する可能性を秘めている点で、星3つです。
オーストラリア:ポケットロケット、カレブ・ユアンのコンディションが鍵
カーデン・グローブス
勝利予想:★★★☆☆(3点/5点中)
注目選手:カーデン・グローブス、マイケル・マシューズ、カレブ・ユアン
オーストラリアも勢いのある、来そうな雰囲気のあるチームですよね。注目選手は耐久力のあるスプリンター、カーデン・グローブス、いつ勝ってもおかしくないマイケル・マシューズ、ツールをリタイヤしてしまったカレブ・ユアンの3名です。厳密に言うとそれぞれタイプは違いますが、3人とも勝つ可能性があるのと、大枠で括れば同じタイプなので、どうやって優先順をつけるのかが気になります。ユアンをエースに据えて、全員で逃げを潰していく戦い方もできますが、ユアンはここ数年あまり調子が良くない。ただ、あえて1枠を使って彼を入れてきていることも事実。調子が悪ければチーム内部の撹乱要因になってしまうので、メンバーに入れないはずです。アシストを入れて、グローブスとマシューズのどちらかで勝ちに行く方がチームとしてまとまるはずだからです。そう考えると、チームとしてはユアンで勝てる算段がついているのかもしれません。マシューズは地元オーストラリアで開催された前回大会で3位に入った実力者ですから、世界選手権との相性は悪くない。ですが、スプリント力は近年落ちてきているので、4位や5位といったところが無難かもしれません。全体的に一番勝つ確率が高そうなのは、やはりグローブスだと思います。
※文章は8月1日の内容です、カレブ・ユアンは棄権を発表いたしました
ノルウェー:チームワークはNo.1
アレクサンダー・クリストフ
勝利予想:★★★☆☆(3点/5点中)
注目選手:アレクサンダー・クリストフ、ソーレン・ヴァーレンショルト
今年のツール・ド・フランスにノルウェーのウノエックス・プロサイクリング チームが初出場しました。今回ノルウェーのメンバーを見ると、なんとアンドレアス・レックネスン以外の5選手がウノエックスに在籍する選手なんです。だから、チームプレーみたいなものにおいては、彼らが一番力を発揮するのではないかなと考えられます。ベテランのアレクサンダー・クリストフは荒れたレース展開にも強く、キャプテンとしても存在感を発揮してくれると思います。彼が名実共にエースと言えますが、ジョーカー的存在になるのが、ソーレン・ヴァーレンショルト。パリ・シャンゼリゼで行われたツール最終ステージでは8位に入った選手です。どちらかと言えばタイムトライアルに強い選手ですが、荒れたスプリント勝負になれば勝機を見出せるかもしれません。
その他:タデイ・ポガチャルがどう戦うのかも注目!
タデイ・ポガチャル
スロベニアはタデイ・ポガチャルが出場するということですが、プリモシュ・ログリッチも、マテイ・モホリッチもいませんので、チームメイトに強い選手が揃っていません。なので、チーム力としては7チームの中には入れませんでした。ツールが終わって間もないですから、どれくらいコンディションが良いのかが最大の関心事です。今年はロンド・ファン・フラーンデレンでも勝っていますし、ワンデーレースでも比類なき強さを発揮しているポガチャルですから、もちろん彼が世界チャンピオンになる可能性はあります。ただ、チーム力がほぼ無いに等しいので、どこに漬け込んで勝ちをさらうのか。例えば、ベルギーにうまく漬け込んで、うまく泳ぎながら勝つ感じが一番想像できる勝ちパターンと言えます。
アイルランドのベン・ヒーリーも注目すべき一人です。アルデンヌ・クラシックやジロ・デ・イタリアでも活躍しましたし、アイルランドなのでスコットランドは半地元みたいな感じですから、声援の後押しもあるかもしれません。彼とすればもっと上りがあった方が良いはずで、決して彼向きのコースでありませんが、ワンダーボーイ的な勢いのある選手ですから、ダークホース的な存在としてちょっと面白いかなという印象です。
日本の新城幸也選手は単騎参戦なのでやれることは少ないと思いますけど、自分のために走れる数少ないレースだと思うので、どういうレースをしてくれるのか注目したいです。
全体的に、去年と比べて勝ちそうな選手が多い印象です。展開や天候で波乱が起きれば、名前を挙げていないような選手が勝ってもおかしくありません。荒れる可能性が高い、展開が読めない面白いレースになると思います。
解説:栗村修
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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