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サイクル ロードレース コラム 2023年7月30日

【Cycle*2023 クラシカ・サンセバスティアン:レビュー】アルカンシエル、ブエルタ防衛に死角なし! レムコ・エヴェネプールがドノスティア3勝目「今日を人生最後のマイヨ・アルカンシエルにするつもりは全くない」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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レムコ・エヴェネプールが2連覇

レムコ・エヴェネプールが2連覇

もはや死角が見つからない。ステージレースでは山岳・TTを常にハイクオリティにこなし、ワンデーレースでは長短の距離問わず独走に持ち込む驚異的なパワーとスピード。“ワンダーボーイ”レムコ・エヴェネプールスーダル・クイックステップ)が、今度はマッチスプリントで夏のクラシックをモノにした。フィニッシュまで70km以上残したタイミングでのアタックは、一瞬のひらめき。それからは自分でレースを組み立てて、揺るがぬ自信とともにフィニッシュ前での勝負に挑んだ。

「ハードなレースの最後にスプリントする脚には自信があった。スプリント力が向上していることも分かっていたし、ライバルとの差を最後に明確にできる力があることは自分でも感じていたんだ」(エヴェネプール)

今年も仕掛けたのは1級山岳エライツ(登坂距離3.8km、平均勾配10.6%)だった。昨年はそこからフィニッシュまでの約45kmをひとりで駆け抜けたけど、今年はルート変更によって行程は70km以上残されている。いくらレムコと言えども、独走に持ち込むのは無茶ではないか。当の本人は特段独走へのこだわりはなかったという。

「集団が割れかけていたから、近くにいた何人かと先行できないかと考えたんだ。前では強い選手が逃げていたし、結果的についてきた選手たちも含めて完璧な協調体制が生まれた」(エヴェネプール)

レース序盤の出入りから、ロマン・バルデチームDSM・フィルメニッヒ)やネイサン・ファンホーイドンク(ユンボ・ヴィスマ)らが最大4分ほどのリードを得ていた。中盤からはスーダル・クイックステップのアシスト陣がメイン集団のペースを上げて、逃げる選手たちとのタイム差を縮小。今年はいつもより早い段階で上るエライツで仕掛けることは予定になかったというレムコだが、前線めがけて集団を飛び出すには十分な状況が整っていた。

「チームとしてレース全体をハードにしようと話していて、その通りに進んでいった。仲間たちは最高の仕事をしてくれたよ。70km以上残っているところで自分で動くことは当初は考えていなかった。だけど、いざやってみたら1km進むごとにアドバンテージが生まれて、“これはチャンスだ”と確信したんだ」(エヴェネプール)

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTube

【ハイライト】クラシカ・サンセバスティアン|Cycle*2023

レムコに追随した選手の脚もそろっていた。ペリョ・ビルバオバーレーン・ヴィクトリアス)、アレクサンドル・ウラソフボーラ・ハンスグローエ)、アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)。労せず先頭に追い付くと、実力通りバルデとファンホーイドンクも逃げ残って、前を行く選手たちが一層有利な状況となった。

残り40kmほどで迎えたメンディソロツ(4.1km、7.3%)に入ると、再びレムコが仕掛ける。ここについていけたのはビルバオとウラソフ。後ろではツール・ド・フランスでの好走が記憶に新しいフェリックス・ガル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)らが動きを見せていたが、先頭合流を果たせるほどのタイム差と勢いではない。

3人となった先頭パックでは、少しずつレムコの牽引時間が長くなっていく。いよいよ最後の登坂区間、最大勾配20%の2級山岳ムルギル・トントラ(2.1km、10.1%)に入ると、攻め続けるレムコに食らいつけたのはビルバオただひとり。それも、ビルバオのペースアップによってウラソフが後退。それからはレムコも簡単には前を譲ることなく、ビルバオとのマッチアップのムードを高めていった。

レムコにとって初めてこのレースを勝った2019年は、ムルギルで奪ったリードがモノをいった。ただ、今回は地元バスクのヒーローであるビルバオがピッタリとマークしている。それでも、純白に虹を施した世界王者に動揺など一切なかった。

「ムルギルの上りでリズムをつかむことができたのは好都合だった。ペリョ(ビルバオ)は地元だから、うまく対応してくることも予想していた。彼にスプリント力があることも分かっていたから、それ以上に速く走らないと勝てないと集中したよ」(エヴェネプール)

2人のままサン・セバスティアンの市街地へと戻ってきた。いくつかのコーナーを抜け、海岸道路でフィニッシュに達する。最終局面で前に出たのはビルバオだ。互いにスプリントタイミングを計りながら、残り200mでレムコが腰を上げた。ビルバオをパスするとフィニッシュ前50mで勝利を確信。全身で喜びを表して連覇、そして3度目となる優勝を喜んだ。

クラシカ・サンセバスティアン

コンチャ湾に浮かぶサンタ・クララ島を眺めるコースレイアウト

このレースは本当に大好きなんだ。バスクのファンはいつだってアメージング。今日の展開だとみんなペリョを応援していたけど、そんなことよりあの熱狂ぶりが気に入っているんだ。ペリョがいてくれたおかげで最後まで盛り上がりの中を走ることができたよ」(エヴェネプール)

自分でレースを構築し、どんな展開になっても勝負に持ち込める対応力。毎度のことながら、23歳の走りとは思えない。この日はリアルスタート前のニュートラル区間で落車に巻き込まれてしまったが、ダメージなくレースに集中ができた。

これでひとまずはマイヨ・アルカンシエルが見納めとなるが、今の勢いならまたすぐにでも取り戻しているかもしれない。いずれにせよ、1週間後に控えるロード世界選手権、さらには連覇がかかるブエルタ・ア・エスパーニャへ、最高の脚試しになった。

「今日がアルカンシエルを着るキャリア最後の日になったら悲しすぎるね。そうするつもりは全然ないよ」(エヴェネプール)

ジロ・デ・イタリアではトップを走りながら新型コロナウイルス感染で大会を去ったが、6月のツール・ド・スイス、ベルギー選手権までは走って、ツール・ド・フランス期間中は休養と調整に充てた。シーズン後半の第一歩となったドノスティアでしっかりと結果を出した。大きな目標へ、このまま突き進む。

「トレーニング内容やスケジュール的には昨年と同じ。何をしたかデータなどを見返して、まったく同じプランを立てて進めてきた」(エヴェネプール)

地元勝利とはならなかったが、ビルバオも大満足の2位。ツール・ド・フランスでステージ優勝し、個人総合でも6位になった好調そのままにドノスティアを走り切った。

「レムコがエライツで動くことは予想していた。先頭グループではみんなで協調できたから、このまま逃げ切れると思っていたよ。勝つならムルギルでレムコを引き離さないといけなかったのだけど、彼の方が強かった。ペースを上げても上げてもついてきたからね。ツールからのこの数週間は、激しくも素晴らしい経験だった。自分のしたことを心から誇りに思えるよ」(ビルバオ)

クラシカ・サンセバスティアン

クラシカ・サンセバスティアン

トップ2から後れを取ったウラソフも終盤をまとめて3位は確保。ジロではレムコ同様新型コロナ感染で大会を途中離脱。それ以来のレースでシーズン後半への足掛かりを作った。こちらも当面の目標はブエルタだ。

「5月以来のレースだったけど、表彰台に上がれてホッとしているよ。ブエルタに向けて自信を取り戻すことができた。いまはとにかく前進あるのみだね」(アレクサンドル・ウラソフ)

全日本選手権ロード以来のレースだった新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は、ビルバオらの集団ポジショニングのミッションをこなし、途中でレースを離れている。

次週は今年のアルカンシエルを決める戦い、世界選手権だ。新たな取り組みである、4年に一度の“複合世界選”として、イギリス・グラスゴーに自転車競技すべてが一挙に集まる。そのため、例年よりロード開催が早まるが、それが選手たちの走りにどう作用するだろうか。ドノスティアで勢いづくレムコのアルカンシエル防衛はあるのか。興味は尽きない。

「このレースを勝てたことで、頭の中も、モチベーションも大丈夫そう。不安なくグラスゴーへと行けるよ」(エヴェネプール)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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