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サイクル ロードレース コラム 2023年7月19日

【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第16ステージ】“ザ・ヨナス・ヴィンゲゴー ショー”マイヨ・ジョーヌの方向性を示す山岳タイムトライアルでヴィンゲゴーが圧勝!タデイ・ポガチャルはよもやの1分38秒遅れに

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)

ヨナス・ヴィンゲゴー

チームカーからヨナス・ヴィンゲゴーに檄を飛ばしていたユンボ・ヴィスマのスポーツディレクター、グリシャ・ニールマンは思いがけず飛び込んできた光景に目を疑った。マイヨ・ジョーヌの向こうに、最大のライバルであるUAEチームエミレーツのチームカーが見えたのだ。心の中で勝利を確信していたとはいえ、2分前にスタートした前走者にそこまで近づいているとは想像すらしていなかった。興奮のまま無線を手に取り、その先にいるマイヨ・ジョーヌに向かって叫んだ。

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ツール・ド・フランス第3週の初日、第16ステージは22.4kmの個人タイムトライアル。山岳比重の高い今大会を象徴する起伏満ちたレイアウトを、マイヨ・ジョーヌで駆けたヴィンゲゴーが完全攻略。今大会1つ目となるステージ優勝は、ライバルであるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)に1分38秒差をつける圧勝だった。

「今日はとても調子が良かった。今までのタイムトライアルの中でも最高の走りだよ。自分の走りが誇らしいし、勝ててとてもうれしい。こんなにうまくいくとは思っていなかったよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

第2週後半からアルプス山脈を走っているプロトンは、同地で2回目の休息日を過ごして、新たな1週間に足を踏み入れた。その皮切りが、山岳での個人タイムトライアル。今大会唯一のタイムトライアルステージである。

その昔、結核の療養地として栄えたパシーを出発し、上りと下りを経て2級山岳のドマンシー坂へ。登坂距離2.5km、平均勾配9.4%、中腹で15%を超える区間があって、それからも10%級の勾配が続く。ここを上り終えても、フィニッシュまでの3.5kmは上り基調。ヴィクトル・ユーゴーが「アルプスの真珠」と呼んだコンブルーの街で走り終える。スタート・フィニッシュともにツールでは初登場の街である。

マイヨ・ジョーヌ争いにおける重要ステージを前に、現地では各選手のバイク選択に注目が集まっていた。ドマンシー坂が2016年大会第18ステージの個人タイムトライアルで採用された際は、クリストファー・フルームやトム・デュムランがTTバイクで走破(デュムランは今回の会場にも顔を出し、TTコースを試走している)。ただ、上位陣の中にはコース途中でノーマルバイクに乗り換えた選手も多く、今回もバイクチョイスが勝負のカギになる可能性があった。

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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第16ステージ|Cycle*2023

また、報道では「ポガチャル有利」の評が多く見られた。山岳で繰り出すアタックの鋭さ、下りのテクニックなどが挙げられ、「追う者の強み」なるメンタル状態もTTに生かされるのでは……との見方も。

第2週で負った傷が癒えないマッテオ・ヨルゲンソン(モビスター チーム)が大会を去り、出走したのは156人。個人総合順位の下位から順にコースへ。最初の15人は1分、そこからは1分30秒、最後の15人(個人総合上位15選手)は2分の間隔で出発した。

大会終盤の個人タイムトライアルとあって、多くが完走目的のセーフティー走行。一部選手に落車があったものの、いずれも大きなけがには至っていない。しばらくは目立ったタイムが生まれなかったが、47番目にスタートしたレミ・カヴァニャ(スーダル・クイックステップ)が35分42秒で走って、基準タイムを作った。

それからは長い間トップタイムが更新されなかったが、135番目に出走したワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)が流れを変える。7.1km地点の第1計測ポイント、16.1km地点の第2計測ポイントともに数秒の後れを取るも、ドマンシー坂からペースアップ。これを上り切った18.9km地点の第3計測ポイントでトップに立つと、フィニッシュは35分27秒。トップタイムを15秒更新し、2時間12分ホットシートに座り続けたカヴァニャから席を奪った。

個人総合上位陣のスタート時間になるとともに、タイムの水準が上がる。同8位のサイモン・イェーツ(チーム ジェイコ・アルウラー)は序盤から飛ばし、いったんペースを落ち着かせたのちにドマンシー坂で再加速。ワウトには届かなかったものの、7秒差にとどめて暫定2位。

このタイムを上回ったのが同7位のペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)。こちらも後半に好ペースを刻み、フィニッシュタイムはワウトから4秒差。随所でポガチャルを支えるアダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)も、この日は自分の走りに徹して暫定5番時計にまとめあげた。

いよいよ“2強”のスタート。まずは同2位のポガチャルから。ヴィンゲゴーとの総合タイム差10秒を縮め、さらには逆転を狙って序盤から飛ばす。もくろみ通り、第1計測からトップタイムを25秒更新、10分10秒を記録。

しかし、ポガチャルの出足を上回ったのが最終走者のヴィンゲゴーだった。スタートから攻めに攻めて、第1計測はただひとり10分を切る9分54秒。以降、両者の差は拡大の一途で、第2計測ではポガチャル19分36秒に対し、ヴィンゲゴー19分5秒。

フィニッシュまで5.6kmで、ポガチャルはTTバイクからノーマルバイクに交換する。レース前からチーム関係者がバイクを交換すると公言し、予行演習も行った。予定通りの対応で起伏の激しい区間をノーマルバイクで進むポガチャルだが、なおもTTバイクでプッシュするヴィンゲゴーが差を広げていく。第3計測はポガチャル26分57秒、ヴィンゲゴー25分52秒。

ここまでくると、ヴィンゲゴーの勝利は濃厚だ。残る焦点はタイム。ポガチャルは前走者のカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)に追いつくと同時にフィニッシュして、34分14秒。この時点でワウトのタイムを1分13秒更新した。

ただ、このステージばかりはヴィンゲゴーが別格だった。ポガチャルのフィニッシュから22秒後、マイヨ・ジョーヌがフィニッシュへと現れた。そのタイム32分36秒。出走者で唯一平均時速40kmオーバーとなる、41.227kmで走破。ポガチャルを1分38秒上回り、ステージ優勝を決めた。

インタビューに応えるヴィンゲゴー

インタビューに応えるヴィンゲゴー

「今日のステージを走るにあたって、コースを4分割してプランを考えたんだ。最初の上りを全力、下りで回復、平坦を我慢、最後の数キロはペースを維持しながら上りでアクセル全開。イメージしていた通りの走りができたよ。緻密に計算して走っていたつもりだったけど、いざ走ってみたら想定していた出力を上回っていたんだ。パワーメーターが壊れたのかと思ったよ」(ヴィンゲゴー)

いまでこそTTで力を発揮できるのは周知の事実だが、数年前までは自身もTT能力に気付いていなかったというのだからユニークである。2021年のツールで個人総合2位となり鮮烈なイメージを観る者に与えたが、その直前に行ったチームの風洞実験には新型コロナ禍で参加できなかった。デンマークの自宅で行った代替の簡易テストで驚異的な数値をマークし、エアロポジションが天性のものであることが分かったのだという。

昨年ツールを初めて制し、今年もその頂が見えてきた。かつては「秘められた力」だったTTは、今回ついに最高の武器になろうとしている。

とはいえ、勝負が決したわけではない。次は獲得標高5000mを超える、“クイーンステージ”が待っている。マイヨ・ジョーヌは改めて気を引き締める。

「まだ今年のツール・ド・フランスを勝ったとは思っていないよ。厳しい日々が続くし、レースはまだ終わっていないからね。このイエローを守るためにできる限りのことをするよ。ツールで僕たちが行っていることは、日々実行中の大きな計画の一部でしかないからね」(ヴィンゲゴー)

かたや、まさかの大敗を喫したポガチャルは、このステージでマイヨ・ジョーヌを奪取する算段だった。計算が狂ったショックが表情に表れている。言葉を振り絞り、残りステージでの巻き返しを誓った。

肩を落とすポガチャル

肩を落とすポガチャル

「今日はイエロージャージを獲れるものと思っていた。ちょっと衝撃的だね。でもツールは終わっていない。こうなったらクレイジーな戦略を試みるしかないと思っている。アイデアはいくつかあるよ。あとは僕自身がコンディションを整えるだけだ」(タデイ・ポガチャル)

指揮官ニールマンみずから「戦略に変更はない」とするユンボ・ヴィスマに対し、「ヴィンゲゴーの強さは認めざるを得ない。まだ戦うつもりだが、現実を受け入れる必要性もある」と述べるUAEチームエミレーツ代表のマウロ・ジャネッティ。両チームのスタンスも、残された勝負機会に反映されることだろう。

●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「タデイ(ポガチャル)とのタイム差が1分38秒もついた理由が想像つかない。確かにスタートしてすぐに調子の良さを感じたし、このまま最後まで行けるとも思った。そこまでペダルに力を込めなくてもスピードの乗せられている感触があったからね。

イメージしていたのは平坦区間を360ワットで走ること。でも実際は380ワット出ていて、パワーメーターが壊れたのかと思った。間違いなくこれまでのタイムトライアルで最高のパフォーマンスだ。この日のために長い間準備をしてきたが、コンディショニングがうまくいった自覚は確かにあった。

レース中、チームカーからは予定通りだと言われていたけど、タデイとのタイム差については把握していなかった。状況を理解したのは、UAEチームエミレーツの車両が目の前に見えてきたとき。あの瞬間はモチベーションが高まって、最高のタイムトライアルになったと思えた。チームカーから“お前が何者かを世界に示せ!”と言われたのだけど、コース脇のファンの声援ですぐには理解できなかったんだ(笑)。だけど、チームからのサポートには心から感謝しているよ」

●ステージ2位、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「第1計測から第2計測までの間がイメージ通りの走りではなかったね。それでも最後まで踏めている実感はあったし、後半には挽回できるとも思っていた。今日のステージでマイヨ・ジョーヌに手が届くものと考えていたけど、結果はご覧の通り。ベストは尽くしたよ。

気持ちを切り替えて明日のステージに向かいたい。チーム一丸となればそれなりの結果は得られるはずだよ。クレイジーな戦略を試すしかないし、アイデアはいくつかある。タフなステージになるだろうし、何かがきっと起こると思うよ」

●ステージ3位 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「ちょっと信じられないね。ヨナス(ヴィンゲゴー)とタデイにあそこまで差がつくとはね。難しいタイムトライアルで、なおかつ大会終盤に設定されたことは僕たちにとって有利だったと感じている。ヨナスがそれを証明してくれたね。

僕個人としては“普通の人”の中では最高ってところかな(笑)。ツール全体を通して、ヨナスとタデイがずば抜けていることは間違いないよね。

今日はチームにとって素晴らしい1日になった。ただ油断はできないよ。昨年はツールに勝ったけど、過去には最終日前日に逆転された経験がある。パリに到達するまで集中していかなければいけないことは、僕たちが一番分かっているんだ」

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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