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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第14ステージ】得意のダウンヒルで勝負をかけたカルロス・ロドリゲスがツール初勝利!ヴィンゲゴーとポガチャルの“頂上決戦”はボーナスタイムで1秒拡大
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)
イネオス・グレナディアーズを率いるスポーツディレクターのシャビエル・アルテチェは、知人に紹介されるままに目にした彼の走りを見て驚いたという。「世界ナンバーワンのクライマーになれるかもしれない」。タイムトライアルも強化できれば、グランツールを勝てる選手になれるはず……そう確信した。それから数年。大事に、手塩にかけてきたヤングスターがついに“真のトップライダー”の仲間入りを果たす日がやってきた。
ツール・ド・フランス第14ステージは、アルプス山脈に足を踏み入れた。前日から続く本格山岳3連戦。その中日は、獲得標高4200mを数えるばかりか、ダウンヒルテクニックも要求された。そんなレースを制したのは、22歳のカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)。この日はアルテチェが惚れる登坂力だけでなく、ストロングポイントと自称する下りでステージ優勝を手繰り寄せた。
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「上りで差をつけられるのは仕方ないと思っていた。だから、下りで攻められるように無理のないペースで上っていたんだ。下りはすごく得意だから、どこかで生かせる日が来ないかとも思っていたよ。何回かクラッシュしかけたのは良くないことだけど……でもリスクを負わないと勝てないことも分かっているよ」(カルロス・ロドリゲス)
アルプスの山々を駆ける第14ステージ。スイス国境に面したスタート地のアルマスは、今大会を走るオレリアン・パレパントル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)の故郷。レース前のチームパドックではたくさんの知人に囲まれ、サインやら記念撮影やらで大忙し。さらにはメディア対応もあったから、スタートラインにつくのが少し遅れてしまったほど。何なら、実家も目と鼻の先だという。
リアルスタート直後こそいくつかのアタックがあったものの、それらが決まらないまま集団はひとつで進む。そのプロトンに大きなトラブルが起きたのは5.5km地点。雨でぬれた路面にタイヤをとられた選手が出て、次々と落車してしまった。これでレース全体が一度ニュートラルになって、クラッシュに巻き込まれた選手の手当てや復帰できる状況を待つことになった。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第14ステージ|Cycle*2023
ただ、落車した選手すべてがレースに戻ることはかなわなかった。一部選手は傷みが激しく、アントニオ・ペドレロ(モビスター チーム)はその場で救急搬送。個人総合13位でスタートしていたルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)は、鎖骨を骨折しレース続行を断念。8km地点で再度のリアルスタートが切られたが、直後にはエステバン・チャベス(EFエデュケーション・イージーポスト、コロンビア)が痛みに顔をゆがめ走るのをあきらめている。
逃げ狙いの動きも戻ってきて活性化するプロトンで、またも落車が発生。3級山岳サエル頂上通過後の下りで、個人総合12位のロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フェルメニッヒ)が地面に叩きつけられてしまう。複数箇所を傷め、バイクに戻ることはできず。ほぼ同じタイミングでジェームズ・ショー(EFエデュケーション・イージーポスト)も負傷リタイアしている。
混乱が続く一方で、レースは30km地点で20人の先頭グループが形成される。そこからの出入りやメンバーの入れ替わりなどもあって、慌ただしいまま。メイン集団に逃げの容認ムードがなく、タイム差が開いても30秒程度。2つの1級山岳クー、フーこそ先頭グループが先に頂上通過したが、中間地点を過ぎて上り始めた1級山岳ラマズ峠で逃げていた選手たちはすべて集団がキャッチ。残り58kmでレースはふりだしに戻った。
メイン集団をコントロールするのはリーダーチームのユンボ・ヴィスマ。ワウト・ファンアールトやウィルコ・ケルデルマンのペーシングで人数を絞り込んでいくと、ラマズ峠頂上2km手前で先頭グループは17人に。個人総合上位陣では、8位につけているトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)が残れず、そのまま戦線から離脱した。
残り30kmを切り、最後の上りである超級山岳ジュー・プラーヌへ。先頭は16人となって上り始めると、ワウトの牽きでさらに人数は減少。一度は役目を終えたかに思えたワウトだったが、集団後方からまた前に上がってきて、牽いていたラファウ・マイカ(UAEチームエミレーツ)を振り落とす。ワウトが仕事を終えたらセップ・クスが引き継いで、前線に残ったのはヴィンゲゴーやポガチャルら7人。
残り17.5kmで個人総合14位につけるフェリックス・ガル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)が遅れ、ほどなくして同3位のジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)も後ろへ。ヒンドレーは序盤の大クラッシュに巻き込まれており、ジャージの背中や太腿部分が破れてしまっている。アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)が牽引を始めると、さらにペースが上がってクスとロドリゲスが下がっていく。いよいよヴィンゲゴーとポガチャルの頂上決戦の色合いが濃くなっていった。
フィニッシュまで残りは15.7km。ついにポガチャルが腰を上げた。瞬時の動きにヴィンゲゴーが反応しきれず、5秒ほどのタイム差がつく。ただヴィンゲゴーもそれ以上遅れることはなく、テンポでポガチャルを追う。リードを広げたいポガチャルは沿道のチームスタッフからボトルを受け取り水を身体にかけながら進んだが、頂上まで1.6kmで再び両者がひとつのパックに。2人は互いを見合い、牽制したまま頂上へと近づいていく。
なかなか決め手が生まれないが、頂上まで500mのところでポガチャルがアタック。ところが、大興奮の観衆に前をふさがれたモーターバイク2台に阻まれてしまった。代わってヴィンゲゴーがアタックし、頂上をトップ通過。ここにはボーナスタイムが設けられていて、1位通過の8秒をゲット。ポガチャルもカウンターアタックで応戦したが、下りに入ったこともあって差はつかなかった。
「まぁ、こんなこともあるよ。ジュー・プラーヌの頂上に向かって、残っている力をすべて注いでも良いくらいに考えていたんだけどね。またチャンスはあるだろうから、そのときに成功させたいね」(タデイ・ポガチャル)
ダウンヒルでも意識し合う2人に、ロドリゲスとアダムが再合流。ロドリゲスはその勢いのままアタックして、他の3人を引き離しにかかる。残り7kmで独走に持ち込んで、モルジヌのフィニッシュラインへ急いだ。
グランツール初区間優勝カルロス・ロドリゲス
「ヴィンゲゴーとポガチャルはお見合いをしていたからね。僕まで彼らのペースに合わせる必要はないし、だったらそのまま行こうと思って。下りのスピードならそう簡単には負けないよ。落車しないようにだけ気を付けて、集中して走った。うん、大成功だよ!」(ロドリゲス)
モルジヌの街に設けられたフィニッシュラインに、ロドリゲスが単独で到達した。ツール初出場の22歳が大きな、大きな勝利。前日にはミハウ・クフィアトコフスキが独走で勝ったが、それに続くチーム2連勝。
「ミハウ(クフィアトコフスキ)の勝ち方が僕にインスピレーションを与えてくれた。彼は本当にすごくて、走り方だけでなくチームをひとつにする術も持っているんだ。いまの僕の手本は紛れもなく彼さ。細かいところまで気が付くし、今日だって何度も僕のためにボトルを運んでくれたんだよ」(ロドリゲス)
若いながらもすでにプロキャリアはすでに4年目。アンダー23カテゴリーを経ずに、ジュニア世代から「飛び級」してきた。そこにいたるエピソードもなかなかのものである。
もとはマウンテンバイク・トライアル競技の年代別スペイン王者だったのが、ロードレースを走らせても非凡だと関係者の目に留まり、すぐに転向。地元チームに入ったが、周りは平地系ライダーばかりで、急遽ロドリゲスのための山岳系チームを作ったのだとか。「アルベルト・コンタドール財団」をベースとするエオーロ・コメタのU19チームに加わってからは、タイトルを総なめ。そして、冒頭のアルテチェの出会いへとつながる。
アルテチェに言わせれば、「初のグランツールだった昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ個人総合7位は大成功。あれでツール出場が明確な目標になった」という。実際にツールのメンバー入りが決まると、「現時点では個人総合10位に入れば十分。ヴィンゲゴーやポガチャルとの差はやがて埋まるものだから」。
しかしどうだろう。このステージを終えた時点で個人総合3位に浮上した。ヒンドレーが1秒差で後ろにつけてはいるが、総合表彰台を現実的な目標に据えても良いところまでやってきている。普段はスペイン・マラガ大学で機械工学と電気工学を学びデュアルキャリア真っ只中のスパニッシュヤングスターは、残りのステージをどう戦うだろうか。周囲の評は「とても責任感が強く、自分自身をよく知っている男」。冷静に設定するであろう目標のゆくえは、いずれ分かるはずだ。
歓喜のロドリゲスから5秒後。ポガチャルとヴィンゲゴーがフィニッシュへやってきた。最後はアダムの牽引からスプリントしたポガチャルが2位、ヴィンゲゴーもピッタリと背後について3位を押さえた。
ジュ・プラーヌ頂上とフィニッシュでのボーナスタイムを合わせて、マイヨ・ジョーヌを守ったヴィンゲゴーと2位ポガチャルとの差は10秒に。前日から1秒開いたが、勝負としてはまだ同条件と言えるだろう。
密着して走るポガチャルとヴィンゲゴー
「1秒でも稼げて良かったよ。フィニッシュではタデイが先を行ったけど、総合タイム差10秒は悪くはない。パリまでエキサイティングな戦いになるのは間違いないね。みんなと同じように僕も楽しみだよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
次の第15ステージは、今大会4度目にして最後の山頂フィニッシュ。4つの上りを経て、最後に1級山岳サン・ジェルヴェ・モン・ブランへ。登坂距離7km、平均勾配7.7%の頂だけが、第2週最終日の果てを知っている。
●ステージ優勝 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)コメント
「信じられないよ! もう言葉にならないね。ツール・ド・フランスにいるだけで夢のようなのに勝てるだなんて……僕の夢がすべてかなってしまったよ。チームのみんなが僕を信じてくれたおかげだ。感謝しかないよ。
できうる限り力強く、それでいて自分のリズムで、そして下りを攻める。これが今日のねらいで、すべてがうまくいった。ヴィンゲゴーとポガチャルがお見合いをしていたから、僕は彼らに合わせずアクセル全開で下るだけだった。
少しでも総合タイムを稼ぎたいと思っていて、それが達成できた。今夜は勝った喜びに浸って、明日からはまた次のレース。しっかり回復させて大事なステージに臨むよ」
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「レースリーダー同士の戦いになったね。1秒でもタイム差を広げられたのは喜ばしいね。タデイ(ポガチャル)がアタックしたときは自分のペースをを守ることを重視し、遅れを最小限にとどめようと思っていた。だから追いついたことは自分の中では勝ちに等しいものがあるよ。
フィニッシュはタデイの方が速かったけど、総合では僕が10秒リードしている。パリまではエキサイティングな戦いになるだろうね。みんなと同じように、僕も楽しみにしているよ」
●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「僕たちにとっては素晴らしいステージになったと思う。チームはみんな強かったし、勝てはしなかったけど全力でプッシュできたから次のステージにつながるね。
今回のツールはどこで決まるかって? 明日は非常にハードなステージだし、その後にはタイムトライアル、第17ステージ、第20ステージと重要なステージが控えている。どれも厳しいレースになるだろうけど、気持ちとコンディションを高めて臨めばよい結果が得られるんじゃないかな」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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