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サイクル ロードレース コラム 2023年7月14日

【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第12ステージ】7年ぶりのステージ優勝に涙 ヨン・イサギレが鮮やか独走逃げ切り!「今年のツール・ド・フランスは大・大・大成功だ!」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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シモン・ゲシュケと勝利を喜ぶヨン・イサギレ(右)

シモン・ゲシュケと勝利を喜ぶヨン・イサギレ(右)

7年前にステージ優勝を挙げたとき、たくさんの人が喜ぶのを見てみずからの人生が変わっていくのを感じた。普段興味がない人であっても、「ツール・ド・フランスで勝った」と言えば大きな反応を示してくれる。ロードレースの世界だけでなく、日常生活にもツールが浸透しているのを実感する出来事になった。いまだに忘れていないあの感覚をもう一度味わいたい……ついにその日が訪れた。

ツール・ド・フランス第12ステージは、今大会第2の山地・中央山塊と第3の山地・ジュラ山脈をつないだ1日。丘陵地帯を行く168.8kmは逃げ向きとの見立て通りになって、アタックの打ち合いを制したヨン・イサギレ(コフィディス)がステージ優勝。チームとして今大会2勝目。自身のツール通算でも2勝目。そして、今回の開幕地であるスペイン・バスク出身選手としてもこの大会2勝目。最後の30kmを独走し、鮮やかに逃げ切ってみせた。

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「信じられないよ。ツール開幕から逃げを試み続けてきて、ようやく成功した。特に今日は自信があったし、タイム差さえあれば逃げ切れるとも思っていたんだ。いろんな思いがこみ上げてきて、最後の直線では感情的になってしまったよ」(ヨン・イサギレ)

この日はボージョレ・ヌーヴォーの山地であるボージョレ丘陵でのアップダウンステージ。スタート地ロアンヌは、星付きシェフが軒を連ねる美食の街としてしられる。今大会に出場するロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)、ニコラス・シュルツ(イスラエル・プレミアテック)、シモン・グリエルミ(チーム アルケア・サムシック)は、この街のアマチュアチーム「CR4Cロアンヌ」の出身。2019年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでクリストファー・フルーム(イスラエルプレミアテック・今大会は欠場)がTT試走中に落車し大けが負ったのも、この街である。

フィニッシュ地のベルヴィル・アン・ボージョレは、2019年1月1日に複数の自治体が合併して誕生した街で、3月に開催されるパリ~ニースではよく登場している。現在、ツールの現地中継でバイクレポーターを務めるトマ・ヴォクレールは、2011年同大会のベルヴィルフィニッシュを制している。

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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第12ステージ|Cycle*2023

そんな1日は、レース前のファビオ・ヤコブセン(スーダル・クイックステップ)未出走の報で始まった。サーキットフィニッシュだった第4ステージでの落車が響き、苦しい走りに終始していた。現状ではパリまで行くのは不可能だと判断し、ここで大会を去ることを決めた。

「気持ちを切り替えて、シーズン後半の調子を合わせていくよ」(ファビオ・ヤコブセン)

168選手でスタートしたレースは、逃げ狙いの動きが各所で起こり、アタックとキャッチの繰り返しに。一時的に数人がパックを組んでリードを奪いかける局面もあったが、なかなか逃げが決まるところまでは至らない。この日最初のカテゴリー山岳である3級の上りでは、カレブ・ユアン(ロット・デスティニー)らスプリンター陣が早々と後方へ。ユアンは最終的に、トップから37分差でステージを終えることになる。

スタートして25kmに達しようかというところで、集団が分断。マイヨ・ジョーヌを争うヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)とタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の2人は前に入ったが、個人総合10位でスタートしたセップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)や、同14位につけるミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)らは後方に取り残されてしまう。激しいクラッシュも発生し、ダビ・デラクルス(アスタナ・カザクスタン チーム)が負傷リタイア。アスタナ・カザクスタン チームにとっては、これで3人目の大会離脱者に。

45km地点でワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)がアタック。8kmほど進んだ先で集団に引き戻されたが、その後に動いたウィルコ・ケルデルマン(ユンボ・ヴィスマ)とマティアス・スケルモース(リドル・トレック)をきっかけに数選手が合流。いくぶんのメンバーシャッフルを経て、11人の先頭グループが形成される。その後も数人単位のパックが追いついて、先頭は最大15人まで膨らんだ。ここに加わったマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)は、93.3km地点に置かれた中間スプリントポイントを1位通過。ポイント賞争いで2位に浮上している。

ボージョレ・ヌーヴォーの山地を走るプロトン

ボージョレ・ヌーヴォーの山地を走るプロトン

フィニッシュまで65kmとなったところで、先頭15人とメイン集団との差は3分30秒。フェリックス・ガルとベン・オコーナーの総合ジャンプアップを狙うアージェードゥーゼール・シトロエン チームが集団を率い、後続との差を広げようと躍起。同じ頃、先頭ではマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)とアンドレイ・アマドール(EFエデュケーション・イージーポスト)が飛び出して、2級山岳クロワ・モンタンに入ったところでマチューがもう一度アタック。独走を試みた。

「勝利を狙う今週最後のチャンスだったので、できることはやってみようと思ったんだ。昨日よりは調子が良かったしね」(マチュー・ファンデルプール)

しかし、マチューとて簡単には逃がしてもらえない。後ろでは追走が図られて、この日最後のカテゴリー山岳である2級のクロワ・ロジエでマッテオ・ヨルゲンソン(モビスター チーム)とティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)がまず合流。さらにイサギレらも加わって先頭は9人となる。

「正直、勝つための準備に欠けていた。最後の上りではすべて使い果たしてしまっていたよ。ベストコンディションじゃないと勝つことは難しいね。今日のレースで改めて分かったよ」(ファンデルプール)

決定打はクロワ・ロジエの頂上まで2km、フィニッシュまでは30kmのタイミングだった。イサギレがアタックすると、一瞬マチューが追随したが続けず、そのまま独走態勢へ。ピノやマチュー・ビュルゴドー(トタルエナジーズ)らが繰り返し追撃を図るが、コフィディスはここにギヨーム・マルタンを残しており、すべての芽を摘み取っていく。クロワ・ロジエ頂上での28秒差は、残り15kmで50秒差に。やがて1分以上に広がり、イサギレの逃げ切りが濃厚となった。

「アタックは他選手の外側から仕掛けたもの。迷いはなかったよ。ひとりになってからも脚がよく動いたし、最後の最後まで力を失うことなく走り切れた」(イサギレ)

逃げる間は、チームカーからゼネラルマネージャーのセドリック・ヴァスール氏が檄を飛ばし続けた。そして、チームスタッフの待つフィニッシュラインを通過した瞬間、涙があふれた。

「地元バスクでのツール開幕は一生の思い出になったし、第2ステージでヴィクトル・ラフェが勝ったことでチームのムードは最高に良くなったんだ。同じバスクの仲間であるペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)が一昨日勝って道筋を作ってくれたことも、僕の力になった。それらを思っているうちに胸がいっぱいになってしまったよ」(イサギレ)

今季序盤は落車に巻き込まれることが多く、なかなか調子が上がってこなかったという。4月1日のGPミゲル・インドゥラインを勝ち、直後のイツリア・バスクカントリーでも個人総合3位。自信を取り戻したというのに、アルデンヌクラシックでまた失敗。ここまで浮き沈みの激しいシーズンを送ってきた。

レース巧者ヨン・イサギレが7年ぶりのツール区間優勝

レース巧者ヨン・イサギレが7年ぶりのツール区間優勝

「個人としては目の前にあるレースに集中するタイプなので、うまくいかないことが続いて落ち込んだりもした。ただ、5月以降はツールのステージ優勝に完全フォーカスして取り組んできて、気持ちも高まっていた。何よりラフェが勝ってくれたのは大きかったよ。あれでチームがひとつになったからね」(イサギレ)

この日レース終盤は追走グループの抑えに徹し、イサギレの勝利をサポートしたマルタンも胸を張る。

「勝利が勝利を呼ぶというのかな……いまの僕たちは好循環だね。ツールはまだ続くし、チームとしてまた何か大きなことができるんじゃないかと感じているよ」(ギヨーム・マルタン)

ツールでは15年間勝利に見放されていたコフィディスが、1つの勝ち星をきっかけに団結し、次の勝利につなげる。マイヨ・ジョーヌ争いやスプリントで勝つような派手さはないけれど、アウトサイダーとしては最高の姿ではないか。地元フランスの雄が、いよいよその気になってきた。

さて、メイン集団はというと、レース後半にクスやランダらを含んだ後方グループが戻ってきたことで、アージェードゥーゼール・シトロエン チームのねらいは成功せず。最後はイネオス・グレナディアーズやバーレーン・ヴィクトリアスがペースを作って、そのままレースをクローズさせた。ヴィンゲゴーはマイヨ・ジョーヌのまま、これから始まる本格山岳へ飛び込む。

「毎日全力で取り組んでいるよ。今日も良い走りができた。すごくハードだったけど、その先に待つものは何だろうね。いずれ分かることだよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

翌7月14日はフランス革命記念日。第13ステージは、ジュラ山脈に舞台を移して超級山岳グラン・コロンビエ“一発勝負”だ。いや、レース距離としては137.8kmなのだけれど、勝負すべきはこの超級一択なのである。3年前にはポガチャルが勝ったが、今度はいかに。いずれにせよ、マイヨ・ジョーヌ争いにおいてはプライオリティの高いステージであることは間違いない。

●ステージ優勝 ヨン・イサギレ(コフィディス)コメント
「逃げグループに入るまでが一苦労だったけど、それからはギヨーム(マルタン)と一緒に仕掛けどころを探っていった。レース後半に入ってアタックする選手が次々出てきたけど、僕らはひたすらテンポをキープして、然るべきタイミングを待ったんだ。みんながお見合いし始めたから、ならばと攻撃に転じてみた。追い風が吹いていたし、僕は下りも得意。ひとりになって“これは決まった!”と思ったよ。

フランスのチームでツールを勝つのは特別なことだね。コフィディスは自分の家と思えるくらいに居心地が良いんだ。第2ステージでラフェが勝ってくれたおかげでプレッシャーからも解放されて、チームがより団結した。違うチームだけど、ペリョ(ビルバオ)の勝利も刺激的になったね」

●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「観ている側にとってはとても楽しいツールだろうね。僕もうれしいよ。今日もハードで、僕に限らずみんなストレスを抱えていたように思う。

グラン・コロンビエ? 一度走ったことがあって、とても印象に残っているんだ。どんなレースにするかのイメージもできているよ。あとはベストを尽くすだけさ」

●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「昨日、今日ととても楽な2日間を過ごすことができた。特に今日はチームのみんなが集中していて、良いレースに仕上げられたと思う。明日は難しいレースになるだろうけど、僕にとってはプラス材料だ。良い脚をもってグラン・コロンビエにトライをしたい。ヨナス(ヴィンゲゴー)との総合タイム差を少しでも縮めて終えられたらうれしいね」

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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