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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第11ステージ】勝利への道をみずから切り拓いたヤスペル・フィリプセン 今大会の4つ目の勝利は新たな自信を手にする価値あるものに
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介今大会4勝目のヤスペル・フィリプセン
フィニッシュ前2kmからの連続コーナーで、アシストを失った。ライバルとのポジション争いも勝ったり負けたりでなかなか前へ上がれない。最後のコーナーを抜けて、残りの1.3kmは己の感覚だけで道を切り拓くしかなかった。
ツール・ド・フランス第2週で唯一平坦にカテゴライズされた第11ステージ。スプリンターにとっては、このステージを逃すと第3週までチャンスがめぐってこない可能性さえある。そんな1日の最後は、連続するコーナーで集団前方が混沌となり、大多数のスプリンターが発射台を失うような状況に。ライバルの間を縫い、勝負に加わることができたヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)が今大会4勝目となるステージ優勝。ここまでの3勝はマチュー・ファンデルプールとのホットラインが機能してのものだったが、この日はみずからの脚で位置を確保し、スプリントまで持ち込んだのだった。
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第1週の終盤から中央山塊を進行するプロトン。この日は久々の平坦ルートだ。スタート地クレルモン・フェランは、7月23日にはツール・ド・フランス・ファムのグランデパール(開幕地)にもなる。街をあげてツールを歓迎するムードが高まっている。
また、フィニッシュ地であるムーランは、これがツール初登場。同地が属するアリエ県の「県庁所在地」としても初の大会誘致で、これで96あるフランス本土・島嶼(海外県をのぞく)すべての県庁所在地をツールが制覇したことにもなる。
そんな記念すべき1日は、大会前からの予想通りにスプリントフィニッシュを念頭に進行していくこととなる。6km地点でダニエル・オス(トタルエナジーズ)、マティス・ルベール(チーム アルケア・サムシック)、アンドレイ・アマドール(EFエデュケーション・イージーポスト)がリードを開始するが、集団はタイム差を1分台にとどめる。スプリンターチームを中心に常に射程圏に捉えた状態で、あとはいつ前の3人を捕まえるか……というところ。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第11ステージ|Cycle*2023
「これならマチューがいなくても僕は勝てるね! いやいや、冗談だよ(笑) 最後はスペースを確保するのに必死で、下手すれば落車していた可能性だってある。だけど、良いタイミングでスペースを見つけられたんだ。それを見逃していたら勝てなかっただろうね」(ヤスペル・フィリプセン)
70.5km地点に設けられた中間スプリントポイントは、ルベールが1位通過。1分15秒差でメイン集団もやってきて、ここをフィリプセンが先着して全体4位通過。13点を加算し、マイヨ・ヴェール争いをより有利なものにしていく。
フィニッシュまで100kmを切ったあたりから、コース上には雨が降り出した。前日が気温30度をはるかに超す猛暑だったから、つい恵みの雨に思えてしまうけれど、路面はウェットになっていったから選手たちはクラッシュに注意しなければならない。
残り70kmを切ると、いよいよタイム差は1分を割る。さすがに逃げメンバーは苦しくなってきて、残り53kmでルベールが真っ先にあきらめると、数キロ進んだところでアマドールも集団へ戻る決断。先頭に残ることになったオスは二言三言アマドールと話して、笑顔で別れたところで独走を始めた。
結果的にステージ敢闘賞を獲ることになるオスは、残り13.5kmまでひとりで逃げ続けた。その間、メイン集団はすぐに追いついてしまわないよう、一時的にペースを調整。ときおり雨が強まる中、レースをふりだしに戻すタイミングを計った。
「今日のルートはもともと知っていたんだ。追い風が吹けば逃げが有利になる可能性だってあったんだよ。でも、トライしてみたら逃げには3人しかいなかった。“もっと一緒に逃げてくれたらチャンスがあるのになぁ……”と思いながら走っていたんだ」(ダニエル・オス)
勝負はセオリー通りのスプリント。オスを捕まえたのを機に、各チームのトレインが動き出す。数チームが主導権を奪い合ったが、残り5kmでユンボ・ヴィスマが前に出ると集団は一気に縦長に。マイヨ・ジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴーはもとより、ワウト・ファンアールトもしっかりと続いている。スタート前には、審判代表や主催するA.S.O.役員、元選手のニコラ・ロッシュ、現地放送局フランスTVによる選考で大会第1週の「最優秀チームメート賞」を贈られていたワウト。勝ってさらに花を添えられるか。
残り2kmを前にウノエックス・プロサイクリングチームやアルペシン・ドゥクーニンクも上がってきたが、直後に迎えた連続コーナーで集団前方は混沌となり、どのチームもトレインが崩壊。最後のコーナーを抜け、約1.3kmと長い最終ストレートでかろうじて人数を残していたチーム ジェイコ・アルウラー勢がフルーネウェーヘンを引き上げる。しかし、他のスプリンターたちも脚を使ってでも好位置に収まろうと躍起だ。
ヤスペル・フィリプセン
「今日ばかりは他選手の車輪を見ながら自分のスペースを確保していくしかなかった。ディラン・フルーネウェーヘンの後ろにスペースが見えたんだ。迷っている暇はなかったよ。これが最大の幸運だった」(フィリプセン)
最後の直線に入った時点ではポジションを下げていたフィリプセンだったが、少しずつ前につけ、残り300mでフルーネウェーヘンの後ろへ。最後の100mで一気に加速して先頭に出ると、他の追い込みを許さず一番にフィニッシュラインを通過した。
「このツールはうまくいきすぎだよ! 信じられないね。何がどれだけうまくいっているのか、頭の中で整理すらできないくらいさ。絶好調な自分が誇らしいよ。今日はトラブルなくスプリントまでもっていくことが重要だったから、大成功だよ」(フィリプセン)
何より、“絶対的リードアウトマン”のマチューに頼れずとも勝ち切れたことは、新たな自信になったよう。
「マチューは今日、あまり体調が良くなかったんだ。無理はさせたくないと思っていた。もちろん、いつだって彼がいた方が成功はしやすいよ。でも彼がいないときにどうやって勝利に結びつけるかも大事なテーマだと僕は分かっているつもりさ」(フィリプセン)
ここまで着用を続けているマイヨ・ヴェールも徐々に安泰ムードになってきた。ポイント賞2位のブライアン・コカール(コフィディス)との差は145点に拡大。主催者が平坦にカテゴライズするステージは残り3つだが、ここから先はスプリントには執着せず、グリーンのジャージをパリまで運ぶことにフォーカスする考えを示している。
「平坦ステージとはいっても、逃げを試みる選手が出てくると思う。ステージ優勝は彼らに譲っても良いかもしれない。個人的には4勝できて大満足なんだ。いまの目標はこのジャージをパリまで着続けること。もうすぐやってくるアルプスも安心して走れそうだよ」(フィリプセン)
最終局面がテクニカルだったためメイン集団の前方で中切れが発生したが、個人総合上位陣はいずれもスプリンター陣の後ろでレースを完了。タイム差は発生せず、順位の変動もなし。ヴィンゲゴーが次のステージもマイヨ・ジョーヌを着る。
「順調だよ。先々のことに備える準備もできている。僕がポディウムで手に入れるライオンのぬいぐるみを娘が気に入ってね。だから、できるだけライオンを“捕獲”しないといけないんだ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
マイヨ・ジョーヌを守るためのモチベーションが、またひとつ生まれている。
●ステージ優勝、マイヨ・ヴェール ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)コメント
「簡単に4勝したように思えるかもしれないけど、まったくそんなことないからね! でも、すべてが順調に運んでいることは誇らしいよ。今年のツールは本当に夢のよう。スプリントトレインがこれほどまでにうまくいっているレースは今までなかったし、今日のように運が味方するようなレースもなかなかないものだからね。物事がうまくいくときはこんなものなのかもね。
スプリントのために、チームが一丸となって戦っているんだ。みんなが助けてくれるから僕も勝負に集中できる。今日はマチューが近くにいなくて大変だったけど、勝てて自信になっているよ。彼は少し体調が良くなくて、明日以降のために無理をさせられなかったんだ」
ポガチャルとヴィンゲゴー
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「穏やかなステージだったとは言い難いね。正直ストレスのたまるレースだった。風を利用してどこかのチームが仕掛けるのではないかと戦々恐々としていたし、雨で緊張感が増したからね。それでも、チームメートが集団の前の方で僕を守ってくれて無事に走り終えることができたよ。
明日も気温の変化が大きな1日になるらしいね。今週末は厳しいステージが続くから、できるだけエネルギーを温存しておきたい。マイヨ・ジョーヌを着て走る毎日はとても充実しているよ。サイクリングの世界で最も美しいジャージだからね」
●ステージ9位 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「最後の数キロでいくつものコーナーを過ぎるのは把握していたから、早いうちに集団前方を確保しておきたかった。残り1kmまでは完璧だったんだよ。だけど、後ろから次々と選手たちが来てしまって、思ったようなスプリントができなかったんだ。がっかりだよ。
ヤスペル(フィリプセン)には脱帽だよ。彼が好位置につけるのはとてもスマートにレースをしているからだろうね。運が良かっただけではないはずだよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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