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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第9ステージ】35年ぶりツールが登坂のピュイ・ド・ドームはマイケル・ウッズが征服! マイヨ・ジョーヌ争いはヴィンゲゴーとポガチャルが17秒差で第1週を終了
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介苦手な1週目をマイヨ・ジョーヌで終えたヴィンゲゴー
いつもより山岳比重が高めのツール・ド・フランス。その第1週を締めくくるのが、中央山塊にそびえる火山ピュイ・ド・ドーム。35年ぶりにツールが上るその山の頂に、フィニッシュラインが敷かれる。
超級山岳頂上フィニッシュが設定された第9ステージ。スタート直後に決まった大人数の逃げがそのままステージ優勝争いに転化。フィニッシュ目前でトップに立ったマイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)が、36歳にしてうれしい、うれしいツール初のステージ優勝を挙げた。
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「自分で自分を誇りに思っているよ。ツールで勝つことがどれほど特別なことか。もうすぐ37歳の誕生日(10月12日)を迎えるし、もう若くはないからね。ツールのステージ優勝が究極の目標だったけど、タイムリミットが迫ってきていた。だから、今はホッとした気分だよ」(マイケル・ウッズ)
この日のスタート地は、サン・レオナール・ド・ノブラ。8度も総合表彰台を経験していながら、ただの一度もマイヨ・ジョーヌを着ることなくキャリアを終えた、レイモン・プリドールが晩年を過ごし、永遠に眠っている街である。スタート地点のいたるところに、彼の愛称「ププ(Pou Pou)」が記され、在りし日のププの姿を浮かべながらツールを歓迎する。孫にあたるマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)はこの日、祖父から自身まで3代にわたる系譜をたどることのできるスペシャルバイクで出走。スタート前には、祖母と再会している。
エモーショナルな空間を出発するプロトン。この日は169選手がスタートラインについた。第5ステージで激しいクラッシュに見舞われていたクイン・シモンズ(リドル・トレック)が走るのを取りやめている。
レースは早い段階で14人が逃げを決めて、メイン集団との差を広げる。その間、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)やマティアス・スケルモース(リドル・トレック)らが追走を図ったが、いずれも失敗に終わっている。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第9ステージ|Cycle*2023
先頭グループは着実にリードを広げ、残り110kmで10分差に。それからもタイムギャップは広がる一方で、彼らからステージ優勝者が出るのは決定的になった。
そうなると駆け引きが一層本格化する。残り62kmでのギヨーム・ボワヴァン(イスラエル・プレミアテック)のアタックをきっかけに、打ち合いが始まった。一時はウッズら4人が先行する局面もあったが、これは決まらず。残り47kmでマッテオ・ヨルゲンソン(モビスター チーム)の仕掛けが決まって独走を始めた。
「リスクが大きいことは分かっていたよ。でも、ウッズやニールソン(パウレス)に勝とうと思ったら、早めにアタックするしかないと思った。何人かで協調することが理想的だったけど、独走なら独走でそのまま行こうと決めていたんだ」(マッテオ・ヨルゲンソン)
ヨルゲンソンを追ってマチュー・ビュルゴドー(トタルエナジーズ)、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)、ダビ・デラクルス(アスタナ・カザクスタン チーム)、ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)がパックを組んだが、15秒差まで迫ったのを機に再びタイムギャップは拡大。最後の上りを前に、ヨルゲンソンが1分のリードを確保した。
ついにやってきたピュイ・ド・ドーム。登坂距離13.3km、平均勾配7.7%、最後の約4kmは12%前後の急勾配。標高1415mの頂上をめがけて上っていく。
単独先頭を行くヨルゲンソンをモホリッチがひとりで追い始めるが、その差はなかなか縮まらない。ヨルゲンソンがそのまま逃げ切るかと思われたが、第2追走グループでも変化が起きており、息をひそめていたウッズが猛然と追い上げていた。前を行く選手をひとり、またひとりとパスすると、残り1.5kmで2番手に。少しずつ、ヨルゲンソンの背中が大きくなっていった。
「ヨルゲンソンが前に出てからは、ステージ優勝のことは考えないようにしていたんだ。とにかく我慢、我慢だった。正直、彼には追いつけないだろうと思っていたから、最後までベストだけは尽くそうとね」(ウッズ)
しかし、長く独走をしてきたヨルゲンソンと、この上りにフォーカスしていたウッズとでは、勢いの違いは歴然。ツールカラーにペイントされた登山鉄道パラノミック・デ・ドームに見守られながら残り500mでついに追いつくと、50mほど息を整えたのちスパート一撃。勾配12%を数えるフィニッシュ前の急坂もものともせず、ウッズがピュイ・ド・ドームを征服した。
ツール区間初優勝マイケル・ウッズ
「最後の1時間はクレイジーなレースだったよ! 勝つのは難しいと思っていたから高望みはしていなかった。ただ、最後の4kmはフルスロットルで駆け上がると決めていたんだ。頂上までの山岳TTの気分でね。そうしたら勝ってしまったよ」(ウッズ)
今回がキャリア4回目のツール出場。初めてのステージ優勝は、超級山岳を制してのものとなった。思えば、2018年のブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージで勝った時も、急峻な山で粘り抜いてフィニッシュを目前にトップに立ったのだった。みずからも「あのときと似ているね」と振り返った会心の勝利だ。
「苦しかったけど夢をかなえられて本当に幸せだ。この日を迎えられたのも、妻や子供たち、周りの人たちのおかげだよ。何人にありがとうと伝えないといけないだろうね(笑)」(ウッズ)
さて、まったくもって「別のレース」になったマイヨ・ジョーヌ争い。ヨルゲンソンが独走していたタイミングでは、この日最大の16分差にまで広がっていた。
とはいえ、先頭を走る選手とのタイム差は関係ない。この日重要なのは、総合系ライダー間でのタイム差がどうなるかである。
メイン集団はおおむねユンボ・ヴィスマがコントロールを担い、ピュイ・ド・ドームに入ってからはウィルコ・ケルデルマンやワウト・ファンアールトが牽引役を務めた。任務を山岳最終アシストのセップ・クスに引き渡すと、一瞬にして集団は崩壊。そのペースについていけたのは、個人総合上位陣だけだった。
クスの牽引が終わるといささか牽制気味になるシーンもあったが、フィニッシュ前1.5kmでポガチャルが動いた。当然ヴィンゲゴーが反応するが、ピュイ・ド・ドームの急坂はポガチャルが勝った。数秒後ろにヴィンゲゴーをしたがえた状態で最後の1kmを迎えたが、フィニッシュまで600mのところでポガチャルがもう一度踏み込むと、ヴィンゲゴーとの差が広がった。
頂上まで攻め切ったポガチャルは、ヴィンゲゴーに8秒先着。後者のマイヨ・ジョーヌは変わらないが、総合タイム差17秒まで縮まったところで大会第1週を終える。個人総合3位につけるジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)が2分40秒差、同4位以下がすでに4分以上の差となっており、ヴィンゲゴーとポガチャルによる“2強”の構図がよりくっきりとしている。
ヴィンゲゴーとのタイム差を8秒縮めたポガチャル
「小さな勝利だ。今日の走りには満足しているよ。最後の上りまでかなり楽に走ることができて、脚の状態も良かった。フィニッシュ前1.5kmまでアタックしなかったのは念のため。ヨナス(ヴィンゲゴー)との差が開くまでプッシュし続けて正解だったね」(タデイ・ポガチャル)
開幕からタフなステージが続いた第1週を終え、次の週は中央山塊からアルプスへと向かっていく。まだまだマイヨ・ジョーヌの行方は分からない。もしかすると、アルプスを終えても決まっていないかもしれない。
「いろいろなところで話しているけど、僕は第1週が苦手だからね。いつも苦しむんだ。でも今回は現時点でマイヨ・ジョーヌを着られている。この点はかなりポジティブにとらえているよ。個人的にはアルプスの上りの方が得意だと思っているからね。もっと良い走りができるはずだよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
まだまだ控えるメイクドラマを前に、ちょっとストップ。選手・関係者は1回目の休息日をクレルモン・フェランで過ごして、7月11日から大会第2週のレースを迎える。
●ステージ優勝 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)コメント
「ツール・ド・フランスのステージ優勝は頭の中でしかしたことがなかったよ(笑)。
今日がキャリア最大の勝利であることは間違いないね。10月に37歳になるのだけれど、ツールで勝つためのタイムリミットが迫ってきていることは分かっていた。何度かトライしては失敗していたので、正直もうダメなのかな…と思っていたほど。それだけに、夢がかなって本当に幸せな気分だよ。
最後の5kmはコース脇に誰もいなくて、静寂の世界だった。新型コロナ禍でのレースを思い出したよ。静かな中で気持ちを集中させて、前を走る選手たちをひとりずつ追い抜いていったんだ。気分が良かったよ」
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「ポガチャルとのタイムを失いたくはなかった。でも、もともと第1週は苦手で、大会前はもっと苦しむじゃないかと思っていたんだ。だから、マイヨ・ジョーヌを着られているという事実はかなりポジティブにとらえているよ。確かに今日はタデイの方が走りとしては上だったけど、僕に走りも悪くはなかったよ。
逃げと大差がついたけど、もし僕たちが集団コントロールを引き受けていなかったら40分差になっていたんじゃないかな(笑)。それは冗談だけど、いずれにしてもどこかのタイミングで僕たちがペーシングを行う必要があったんだ」
●ステージ敢闘賞 マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター チーム)コメント
「アタックしたときに誰かがついてきてくれたら良かったのだけど、独走になったので行くしかないと思ったんだ。最後の4kmはチーム無線が入らなくなってしまって、後ろの状況がまったく分からなかった。残り1kmに達するときにはもう空っぽで、ウッズに追いつかれてからはなす術がなかったよ。でも、リスクを追ってでも攻めたことは後悔していない。やるだけのことはやったし、僕にもチャンスがあるんだと分かっただけでも大収穫だよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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