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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第7ステージ】ヤスペル・フィリプセンが自身も驚きの今大会3勝目 マーク・カヴェンディッシュのツール最多勝利記録更新はおあずけ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介今大会3勝目のヤスペル・フィリプセン
ピレネーの山々を越え、中央山塊へと針路をとる。丘陵地帯に行く前の平坦路は、美しきボルドーの世界遺産の中で。3ステージぶりとなるスプリントフィニッシュは、ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)がモノに。ここまでこなしてきた3つのスプリントステージすべてで勝利を収めている。
「大会前に僕が“ステージ3勝するつもりだ”なんて言っていたら、誰もが笑っていたんじゃないかな。でも僕はやってみせたよ。このツールはまるで夢のよう。この調子で走り続けたいね」(ヤスペル・フィリプセン)
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モン・ド・マルサンを出発し、ボルドーへ向かう169.9kmのステージ。オールフラットともいえそうなコースレイアウトは、前日までタフな山越えに耐え忍んできたスプリンターたちに再び主役となるチャンスを与える。目的地は、大会史上80回目の登場となるボルドー。フランス南西部の中心都市は、パリに次いで到達回数が多い街でもある。世界遺産「月の港ボルドー」のど真ん中がフィニッシュ地点になって、都市繁栄のシンボルであるブルス広場前を抜けて、ヨーロッパの都市広場最大のカンコンス広場前に飛び込む。
迎えたレースは、スタートアタックからの流れで最前線に残ったシモン・グリエルミ(チーム アルケア・サムシック)がひとり逃げ。最大で約6分までリードを広げるが、フィニッシュまで100kmを切ろうかという頃には3分までタイム差は縮まって、イニシアティブはメイン集団のものに。中間スプリントポイントはグリエルミのトップ通過後に集団が争って、ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)が全体の2番手。次にフィリプセンが通過して、きっちり15ポイントを収めている。
この直後、ピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ)とナンス・ペテルス(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)がアタック。労せずグリエルミに追いついて、逃げは3人に膨らむ。とはいっても、メイン集団はすでに彼らを射程圏に捉えており、いつでもキャッチできるような状勢。フィニッシュまで40kmを残したところでグリエルミが逃げをあきらめ、先頭に残った2人と集団とはおおよそ1分の差で終盤戦へと入っていった。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第7ステージ|Cycle*2023
メイン集団はリーダーチームのユンボ・ヴィスマが率いて、マイヨ・ジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴーは3番手付近に位置。すぐ後ろにはタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)ら総合系ライダーも続いて、危険を回避している。残り10kmを切っても逃げ続けたペテルスとラトゥールだったが、順に集団へと飲み込まれ、勝負はセオリー通りスプリントにゆだねられた。
この日はフィニッシュ前のトラブルにかかわる救済措置を通常の3kmから3.5kmに延伸したが、目立ったアクシデントは出ずに最終局面へ。複数チームが前線に顔を見せる中、残り1.5kmから主導権を得たのはアルペシン・ドゥクーニンク。フィニッシュを目前に、これまでのスプリントステージ同様にマチュー・ファンデルプールがリードアウト。フィリプセンにとっては最高の舞台が整った。
そのときだ。最前線に位置していたスプリンターたちが進行方向左に偏った瞬間に、反対サイドからマーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム)が猛然と加速。そのまま先頭に躍り出て、目指すはフィニッシュラインだけに。
しかし、この日もフィリプセンは強く、冷静だった。カヴェンディッシュの背後につけると、もう一度トップへ。他の追随を許さず、今大会3回目となる勝ち名乗りを受けることとなった。
指を3本立ててフィニッシュするフィリプセン
「チームメートとともに成し遂げたことが誇らしいよ。僕が最高のスプリンターかどうかは分からない。ただひとつ確かなことは、リードアウトマンが素晴らしい点。マチュー(ファンデルプール)がいることは、僕にとってとても大きなことなんだ。それに、彼のスピードを生かすためにチームメートが好ポジションを見つけ出す必要性もある。その作業は並大抵のセンスではできないことなんだよ!」(フィリプセン)
この勝利でポイントを215点まで伸ばして、マイヨ・ヴェール争いで2位につけるブライアン・コカール(コフィディス)に88点差をつけている。ただひとり身をまとうことが許される“グリーン”は、当面彼のものだ。
そして……カヴェンディッシュである。エディ・メルクスの持つツール通算勝利記録34勝に並んだのが2021年。2年越しの新記録達成まであと一歩のところまで迫った。レースを見守った誰もが夢を見たであろう彼のスプリント。実は機材にトラブルがあったことをフィニッシュ後に打ち明けている。
「誤算だったのが、スプリントを開始したときにギアが一気にトップまで上がってしまったこと。セカンドに戻すためにシッティングで踏み込むしかなくなってしまったんだ。あれでリズムが崩れてしまった。悔しいけど、これを力に変えてみせるよ」(マーク・カヴェンディッシュ)
それでも、レース後のデータでは最後の300mを最高時速74.7kmで走ったことが記録されている。38歳とはいえ、スプリンターとしてはまだまだ老け込んでいない。ピレネーの山岳も“計算して”走ったことを強調していたくらいだから、この先もうまく走りをコントロールしながら、きっとまた次のチャンスを引き寄せることだろう。
おおむね平和なステージで、マイヨ・ジョーヌ争いは“休戦”。個人総合上位陣の順位には変動がなく、ヴィンゲゴーが引き続きレースリーダーを務める。
「楽をさせてもらったよ。今日は暑かったけど、僕はその方が良い走りができるんだ。去年のツールも暑い日に力を発揮したからね」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
フランス、いや世界でも有数のワインどころを走っているプロトン。次の第8ステージもぶどう畑を縫いながらフランスの広大な大地を進んでいく。
●ステージ優勝、マイヨ・ヴェール ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)コメント
「ステージ3勝もできるだなんて思っていなかったよ。支えてくれるチームメートが誇らしい。僕が最高のスプリンターかは分からないけど、最高のリードアウトマンをそろえていることだけは間違いないね。マチューの存在は僕にとって大きい。そして、マチューのスピードを生かすために良いポジションへと引き上げてくれる他のメンバーもとても強いんだ。
今後の目標もステージ優勝で変わらない。昨年まではなかなか勝てず、緊張した状態でスタートラインに立ったりしていたけど、今はもう余計なプレッシャーがない点でかなりの進歩を感じている。
マーク(カヴェンディッシュ)が僕を追い抜いていったときは驚きしかなかった。真っ先に“35勝目!?”というのが思い浮かんだ。年齢を考えたら、彼の走りは驚異的だよね。きっと最多勝利記録を達成するだろうし、そうあってほしい。彼こそが史上最高のスプリンターなんだ」
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「1日中氷を首にあてながら走ったよ。暑いのは得意なので、このままのコンディションで走れたらと思っている。昨日がとてもハードだったから、今日は脚が重たいかもしれないと考えていたけど、それほどでもなくて安心している。
ツールはいつも第1週で苦しむんだ。第1・第2ステージは本当に大変。だけど、今年はそこまで苦になっていないんだ。これは大きな成長かもしれないね。総合で少し遅れていても仕方がないと思っていたから、マイヨ・ジョーヌを着ている今の状況はかなりポジティブにとらえているよ」
●ステージ2位 マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム)コメント
「あの状況を作り出してくれたのはケース・ボルなんだ。彼のポジショニングの巧さはプロトンを切り裂くようだよ。スプリント開始が早かったのではないかって? その見方は間違っていないけれど、僕としてはベストタイミングだったと思っている。仕掛けたところは2010年に勝った時(第18ステージ)とほとんど同じだからね。
僕にとって誤算だったのは、スプリントを始めたときにギアがトップに入ってしまったこと。それで、セカンドに戻すためにシッティングで踏み込むしかなくなってしまったんだ。リズムが崩れたよ。いやぁ、悔しいね。でも、この経験を大切にして次のチャレンジに生かしたい。僕にはできることがまだまだあるんだ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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