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サイクル ロードレース コラム 2023年7月6日

【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第5ステージ】勝利への啓示は一瞬のひらめき ジャイ・ヒンドレーが初出場初勝利でマイヨ・ジョーヌ! ポガチャルはヴィンゲゴーのアタック許し約1分の遅れ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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マイヨ・ジョーヌを着たジャイ・ヒンドレー

マイヨ・ジョーヌを着たジャイ・ヒンドレー

ツール・ド・フランス2023はピレネー山脈へ。今大会最初の超級山岳スデ峠を上り、最後には1級山岳マリー・ブランクへ挑んだ第5ステージは、ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)が独走勝利。逃げでレースを進め、マリー・ブランクでのアタックを成功させた。

2022年のジロ・デ・イタリア覇者の力は伊達ではなかった。当然といえば当然か。ただ、総合系ライダーがみずから逃げに入って勝負をしようというのは、決して正攻法とはいえない。リスクにもなりうる動きを敢行し、勝利するその走りは、やはり強者でないと成し得ない。

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「逃げに乗る予定はなかったんだ。アドリブだよ(笑)。あのような展開になった以上、レースを楽しむべきだと思ったんだ。ツールに対するやる気は人一倍ある。十分にトレーニングを積んでツールに乗り込んだ甲斐があったよ!」(ジャイ・ヒンドレー)

162.7kmのルートは、3年前の第9ステージとほぼ同じ。そのときはタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が5人によるスプリントを制して勝利を収めている。今年は果たして。

前日のクラッシュでルイスレオン・サンチェス(アスタナ・カザクスタン チーム)が鎖骨を、ジャコポ・グアルニエーリ(ロット・デスティニー)が肋骨をそれぞれ骨折。彼らをのぞく172人がスタートを切った。リアルスタートからアタックが頻発し、ピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ)がしばし1人逃げの状態になるが、完全にリードを得るところまでは至らない。全体的にペースが速く、ファビオ・ヤコブセン(スーダル・クイックステップ)らスプリンター陣が早々に遅れだす様子も見られる。

スタートから30kmほど進んだところで集団が割れ、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)やジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)らを含んだ30人以上の選手たちが先行を開始。勝利を収めることになるヒンドレーも、この中に加わっていた。

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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第5ステージ|Cycle*2023

先頭グループは最大で36人。メイン集団はリーダーチームのUAEチームエミレーツがコントロールを担って、先を急ぐ大人数に対して十二分なリードは与えない。この間、中間スプリントポイントを前に先頭から4人が抜け出し、ブライアン・コカール(コフィディス)が1位通過をしている。

スデ峠に入ったところからは、ワウトとヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)が先頭に立ったが、その後ろを走っていた選手たちもペースを刻んで、頂上2.5km手前で合流。同時に先頭メンバーのシャッフルがあり、ヒンドレー、ジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)、フェリックス・ガル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)、クリスツ・ニーランズ(イスラエル・プレミアテック)が前へ。そこからさらにガルがアタックして、山頂を1位通過。山岳ポイント20点を獲得し、この段階でバーチャル山岳賞となった。

「逃げに入ることができて、気持ちが高揚した。マイヨ・アポワを狙うモチベーションが高まったよ。昨日までは思ったように走れなくて自信を失いかけていたけど、今日になったら調子が上がっていたんだ」(フェリックス・ガル)

その後の下りと平坦で多くの選手が先頭に復帰して、17人まで人数を戻す。残り50kmを前にニーランズが飛び出して独走を始めると、さらに13kmほど進んだところでワウトとアラフィリップが追走。2人は3級山岳を越える間にニーランズに追いついたものの、他の逃げメンバーも20秒ほどの差で続いており、マリー・ブランクに入ったところで再びひとつに。この頃にはメイン集団もUAEチームエミレーツを中心にペースを上げていて、タイム差は2分台にまで縮まっていた。

マリー・ブランクの頂上を目前に、この日のハイライトがやってきた。フィニッシュまで残り20kmになろうかというタイミングで、ヒンドレーとガルが最前線へ。その流れからヒンドレーがアタックを決めて独走に持ち込むと、後ろとの差は一気に広がった。

単独で逃げるヒンドレー

単独で逃げるヒンドレー

「逃げに入った段階で、総合タイムを稼ぎたいと考えていた。ステージ優勝を意識したのはレースが進んでから。“これは勝利とマイヨ・ジョーヌを同時に手にできるかもしれない”と思ったんだ」(ヒンドレー)

約2分後方でも決定的な瞬間が訪れていた。セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)の牽きによってメイン集団が破壊されると、追随できたのはヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)とポガチャルだけ。そして、タイミングを計ったかのようにヴィンゲゴーがアタックすると、ポガチャルが遅れ始めた。

「UAEチームエミレーツの強さを考えると、そう簡単にアタックできるタイミングはやってこないと思っていた。セップ(クス)がハイスピードで上っている間も僕の脚はまったくダメージがなかったんだ。やってみるべきだと思ったね。アタックはテストのつもりだったのだけれど、タデイ(ポガチャル)に対して効果的なものになったよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

そこからは、ヴィンゲゴーの「猛追ショー」である。逃げ残りの選手たちをパスしながら、ポガチャルとのリード拡大を図る。ポガチャルにはクスがマークにつき、追撃の芽を摘んでいく。ペースを上げきれないポガチャルは、上りで遅れていたチームメートでマイヨ・ジョーヌのアダム・イェーツら複数の総合系ライダーに追いつかれる格好に。ヴィンゲゴーは彼らに約1分の差をつけた。

後方が慌ただしくなっているのをよそに、ヒンドレーはラランスの街に敷かれるフィニッシュラインへまっしぐら。ライバルとのタイム差、ステージ1位のボーナスタイム(10秒)、さらにはマリー・ブランクの頂上に設定されたボーナスタイム(8秒)を利かせて、狙い通りにステージ優勝とマイヨ・ジョーヌ奪取を決めた。

「言葉にならないよ。そもそも僕が逃げに入ったときに何で他の総合系ライダーが反応しないのか疑問だったんだ。僕にはチームメートが一緒にいて、チーム戦術を立てられるメリットもあった。今日はスデ峠の麓に両親が来てくれていたんだ。そんな日に勝てるなんてね…もう胸がいっぱいだよ」(ヒンドレー)

新型コロナ禍で行われた2020年のジロで個人総合2位になり、一躍グランツールレーサーとしての地位を確立したヒンドレー。2022年のジロでは最終日前日の劇的な逆転でマリア・ローザを獲得し、その走りは一層確かなものとなった。山岳比重の高い今年のツールは自信のあるところで、早くから出場を表明。2連覇の権利を有していたジロをあきらめてまで。意外にもツールは初出場で、これが初勝利。オーストラリア人ライダーとしては、史上8人目となるマイヨ・ジョーヌ着用者になった。

ヒンドレーの歓喜から約30秒。ヴィンゲゴーらのグループがフィニッシュへとやってきた。追いつかれたジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)らは先頭交代のローテーションにほとんど応じず、ヴィンゲゴーの鬼牽き状態。ステージ2位はチッコーネが押さえて、ヴィンゲゴーは5位。ただ、彼にとってはステージ順位など問題ではない。ポガチャルらとのタイム差である。

そのポガチャルたちは、ヒンドレーから1分38秒、ヴィンゲゴーとは1分4秒差でのフィニッシュ。いまひとつ綺麗に先頭交代が回らず、先を急いだ選手たちとの差が広がる形になった。ただポガチャルは自身のレース結果とは異なる心配を口にしている。

「難しいレースだったけど、それよりもガールフレンドがジロ・ドンネでクラッシュしたと聞いて心配なんだ。僕にとって深刻なのはヨナスから1分遅れたことじゃない」(タデイ・ポガチャル)

第5ステージの結果を受けて、マイヨ・ジョーヌはヒンドレーへ。総合タイム差47秒でヴィンゲゴーが続き、同1分3秒差でチッコーネが個人総合3位につける。ポガチャルは1分40秒差の6位。今大会最初の本格山岳ステージで、早くも状勢が混沌としてきた。

「今日のタデイに何があったのかは分からない。でも、彼のことはよく知っているつもりだよ。最後の最後まで決してあきらめないところとかね。パリまでの戦いになるよ」(ヴィンゲゴー)

第6ステージもピレネーを走る。名峰トゥルマレで標高2000m超えをして、今大会最初の山頂フィニッシュとなる1級のコトレ・カンバスクへ。予想のはるか上を行くシナリオが、きっと待っていることだろう。

●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)コメント
「今日勝てるなんて想像すらしていなかったよ。でも、逃げ切りたいという誘惑に駆られてしまったんだ(笑)。ツールが始まった頃は、できるだけ落ち着いて走ることを心掛けていた。ただ、今日のようなチャンスがあるならトライするべきだと思った。実は大会前にこのステージと明日のステージ(第6ステージ)の試走を済ませていて、今日の最後のダウンヒルも特徴をつかんでいたんだ。

マイヨ・ジョーヌを着て走る明日が楽しみだ。ライダーとしてはまだまだ学ぶべきことが多いので、自分で自分にプレッシャーをかけすぎないよう努めたい。ヨナス(ヴィンゲゴー)とタデイ(ポガチャル)? 彼らは絶好調だからね、これからクレイジーなレースになるのは間違いない。

ツールに向けては4週間高地トレーニングを行った。2カ月間はスーツケースひとつで生活していたようなもので、家族にも会わず、修道士のような日々を送ってきたんだ。だから、この勝利は本当のプライズなんだよ」

●個人総合2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「最後の上りでチームメートが減ってしまっていた点で想定とは異なっていた。ただ、調子は良かったので、セップ(クス)にペースを上げてもらうことにしたんだ。UAEチームエミレーツの強さを考えると、そう簡単にアタックできるタイミングはやってこないと思っていた。だから、タデイとの差が開いたときは驚きだった。ちょっと試してみただけなのに、1分もタイム差がつくなんてね。ただ、タデイは最後の最後まであきらめないことを僕は知っている。パリに到達するまで、毎日がハードな戦いだよ」

レース前のポガチャル

レース前のポガチャル

●個人総合6位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「ガールフレンドがジロ・ドンネでクラッシュしたんだ。それを聞いてショックを受けている。僕にとって深刻なのは、ヨナスに1分差をつけられたことではない。

セップ・クスがペースを上げた段階でヨナスが攻撃するであろうことは想像できた。それでも、頂上までの2kmは彼についていくことができなかったよ。今日の彼はいつも以上に強かったね。僕も調子の良さを感じているけど、もう少し脚が動いてくれるとベストだね。明日は良い走りができると思うよ」

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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