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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第4ステージ】ヤスペル・フィリプセンがステージ2連勝 落車相次ぐ大混乱下で勝者を救ったのはやはりマチューだった!
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ステージ2連勝のヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)
スーパーヒーローは「ここぞ!」という時に助けに来てくれる。周囲でクラッシュが多発し、そのあおりで孤立しかけていたエーススプリンターを救ったのは、いまをときめくロードレース界のの大スターであり、発射台としても世界ナンバーワンの脚をもつあの男だった。
前日に続き、平坦路を進んだツール・ド・フランス2023の第4ステージ。ただただ平和に思われたレースは、最後の数キロで急速に激しさを極めた。残り2kmを切ってからはクラッシュが多発。それらをかわした選手たちによるスプリント勝負は、ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)がモノにした。これでステージ2連勝。勝者を絶好の位置へ引き上げたのは、この日もマチュー・ファンデルプールだった。
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「チームメートを見失っていたんだ。ちょっとパニックになっていたよ。だけど、突然僕の前に現れたんだよ!誰って?マチューだよ!彼は僕を遠くから見つけてくれて、すぐに進路を修正したっていうんだ。すごすぎるよ!」(ヤスペル・フィリプセン)
第3ステージでフランスに入国し、少しずつ内陸へと進んでいくプロトン。第4ステージは、ダックスからノガロまでの181.6km。
スタート地ダックスは、1950年代から60年代にかけて、ステージ通算22勝を挙げたアンドレ・ダリゲードを生んだ街。94歳の彼は今も健在で、スタート地点にも姿を見せた。関係者が出入りする憩いの場「ヴィラージュ」のステージにも上がって、居合わせた人々が彼を称える歌を大合唱。筆者も一緒に歌わせてもらった。
また、同じステージでは、11月に開催される「ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム」の関連セレモニーも行われて、日本から運んだ千羽鶴をアンバサダーのマルセル・キッテルが大会に贈呈。ツールの安全と成功を祈願した。
レースはここまでの3ステージと違って、逃げる選手が出ないまま進行。集団内のいたるところで談笑する選手の姿が見られ、リラックスムードがうかがえる。静かに進んだレースは、93.6km地点に設けられた中間スプリントポイントに向かってスピードアップ。主要スプリンターが競う形になって、フィリプセンが1位通過。20点を獲得し、バーチャルでマイヨ・ヴェール争いのトップに立った。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第4ステージ|Cycle*2023
直後にアントニー・ドゥラプラス(チーム アルケア・サムシック)とブノワ・コスヌフロワ(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)が飛び出し、そのまま逃げを開始。ようやく、レースを先行する選手が現れた。ただ、集団とのタイム差は開いても1分というところで、とてもではないが逃げ切るのは現実的ではない。やがてスプリンターチームが集団をコントロールし始めると、2人との差はすぐに縮まっていき、残り25kmで労せずキャッチとなった。
そこからは、このステージのセオリーであるスプリントに向けて、各チームが態勢を整備へ。残り10kmを切ったところからチーム単位での主導権争いとなっていって、フィニッシュ前4kmでユンボ・ヴィスマが先頭に立つと集団は一気に縦長に。その流れのまま、この日のフィニッシュ地点「シルキュイ・ポール・アルマニャック(ポール・アルマニャック・サーキット)」へと入っていった。
フランス最古の常設サーキットに入った途端に、それまでが嘘のように慌ただしくなった。いかにトラブルなく、それでいて速く走ることが求められるモータースポーツのように、このステージをクリアするには速く、巧く走ることが求められた。残り1.7kmでファビオ・ヤコブセン(スーダル・クイックステップ)が数人と絡んで落車。残り500mで抜けた最終コーナーでも数人がコース外側のバリケードにぶつかり、フィニッシュ直前でも何人かが地面に叩きつけられてしまった。
そんな混乱下で主導権を握ったのは、ロット・デスティニー。残り1kmを示すフラムルージュを通過すると同時に先頭に立つ。その脇からは、ウノエックス・プロサイクリングチームも上がってくる。ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)は、うまくポジションを入れ替えながらライバルの番手に入っている。勝負のときが迫る。
状勢が一変したのは、残り200mだった。マチューの牽きでアルペシン・ドゥクーニンクのトレインが先頭に急浮上し、そのままフィリプセンを放つ。一瞬ポジションを下げたカレブ・ユアン(ロット・デスティニー)が追いかけ、並びかけるが、前日の勝者は脚も勝負強さも一枚上だった。これでステージ2連勝である。
フィリプセンとカレブ・ユアンのデッドヒート
「正直言って、自信はなかった。カレブが並びかけたときに“マズい”と思ったよ。何とかステージ2連勝を挙げられてホッとしている。最後はスーパーハイスピード。レーシングカーになった気分だったよ(笑)」(フィリプセン)
このステージに臨むにあたっては、チームで綿密なブリーフィングを行い、みずからもコース研究をしてきたという。勝つためにできるだけのことを行い、本番を迎える。タイヤがサーキットの路面とうまくマッチし、グリップが効いたことも勝利へのアシストになった。
そして、このステージでもマチューとのホットラインが機能した。前述のとおり、孤立しかけたフィリプセンをリードアウトマンが然るべき方向へと導いたのである。
「マチューのような人物が近くにいてくれるだけで安心だ。困難に陥っていたとしても、全力を尽くして僕を前へ引き上げてくれる。今日のレースでそれが改めて証明されたね」(フィリプセン)
フィリプセンは、この日だけで合計70点を獲得し、ポイント賞争いで文句なしのトップに立った。2位のヴィクトル・ラフェ(コフィディス)との差は70点。マイヨ・ヴェール着用に好条件が整いつつある。
「そうだね、ポイント賞は狙っていって良いだろうね。今大会の目標が定まったよ。マイヨ・ヴェールだ!」(フィリプセン)
フィニッシュ前3km以内でのトラブルによる救済も含め、大多数の選手がフィリプセンと同タイム扱いでのフィニッシュに。個人総合の大幅な変動も起きず、アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)が引き続きマイヨ・ジョーヌを着る。
「明日は大事な1日になるね。マイヨ・ジョーヌを着続けるのは難しいかもしれない。僕たちにはタデイというリーダーがいるからね。彼のために走れることがとてもうれしいよ」(アダム・イェーツ)
というのも、第5ステージからプロトンはピレネーの山々を走るのだ。今大会最初の超級山岳スデ峠を上り、1級山岳マリー・ブランクの頂上にはボーナスタイムも設定される。テクニカルなダウンヒルも待っている。ほぼ同じコースを走った3年前には、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が勝っている。彼のことだから、今年もきっと勝ちにいくだろう。
「タデイは少なくともボーナスタイムは獲りに行くだろうね。ステージ優勝は…どうだろう。まぁ明日になれば分かるよ」(アダム)
今ツールの方向性が見えるときが、大会5日目にしてやってくるかもしれない。
●ステージ優勝 ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)コメント
「みんなが明日のピレネーに向けて脚を休めたがっていた。イージーに進んでいたけど、サーキットに入った途端に落車音があちこち聞こえてきて、少し不安になったよ。サーキット内はテクニカルなコーナーが多かった。道が広い分、安全にフィニッシュまで行けると思ったけど、コーナーが最後の数キロを難しくしていた。それに、みんながステージ優勝しようと一生懸命走るからね。
最後の数百メートルで僕はチームメートを見失っていた。それを救ってくれたのはマチュー(ファンデルプール)だったんだ。僕を遠くから見つけてくれて、すぐに進路を修正したって言うんだよ。彼の走りは信じられないね。スプリントでは脚が攣りかけていたのだけど、何としても勝たないといけなかった。カレブ(ユアン)が迫ってきていたけど、勝てて本当に良かった。
まだ4ステージしか終わっていないけど、マイヨ・ヴェールに挑戦してみようと思うよ。今大会の目標だ」
マイヨ・ジョーヌ アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)
●マイヨ・ジョーヌ アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)コメント
「良い一日になったよ。最初から最後まで余裕をもって走ることができた。フィニッシュ前が混戦になることは予想できていたし、僕たちの目標は今日ではないからね。明日からのピレネーについてはまだ深く話ができていないが、ボーナスタイムもあって狙わないわけにはいかない。タデイが獲りに行くだろうね。一秒一秒が大切だし、タデイのような選手をサポートできることはとても誇らしいんだ」
●アシストとしてフィリプセンの勝利に貢献 マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)コメント
「ヤスペル(フィリプセン)が僕の後ろにぴったりついてきていると信じていた。最後の瞬間はわずかな隙間を見つけて、彼の勝利に貢献ができた。ヤスペルは目を閉じていたって僕についてくることができるんだ。それくらい彼は僕のことを信じてくれている。だからこそ、僕は彼のために働きたいと思えるんだ。僕には彼を勝利に導くだけの力があるとも思っている。
ツールは楽しいね。今大会で2回成功を収められた。もちろんリスクもあるけどね。ヤスペルが世界最高のスプリンターかって? もちろんその力はあると思う。僕が世界最高のリードアウトマン? その判断はみんなにお任せするよ(笑)」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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