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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第2ステージ】乾坤一擲のアタックを決めたヴィクトル・ラフェがキャリア最大の勝利 計画遂行をみずから引き寄せた確たる自信
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ステージ勝利したヴィクトル・ラフェ
第1ステージの走りが自信になっていた。ただただ上りをこなしているつもりが、気が付くと横にはタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)とヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)しかいなかったのだ。当然、みずからに相応の力があることは確信した。同時に、第2ステージを勝つイメージもできた。難易度を高くしていた丘越えはひたすら耐え、最後の1kmに賭ける。状況は整った…。
スペイン・バスク自治州を走っているツール・ド・フランス2023の序盤戦。大会2日目にして最長距離となる208.9kmのステージは、前日に続いて複数の丘越え。ビスケー湾を望むサン・セバスティアンに敷かれたフィニッシュラインに到達する頃には、集団は24人にまで減っていた。スプリントになるかと思われたステージ優勝争いだったが、一瞬のスキを突いて飛び出したヴィクトル・ラフェ(コフィディス)が残り1kmから独走し、逃げ切り。最後は集団の追い込みをかわし、初めてとなるツールでの勝利をつかんだ。
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「実は計画していたんだ。昨日、ポガチャルとヴィンゲゴーについていくことができて、もしかしたらやれるのではないかと感じていた。丘はトップライダーにひたすら食らいついて、最後で勝負。うまくいくかは分からなかったけど、やってみて本当に良かったよ。大成功だ!」(ヴィクトル・ラフェ)
“イェーツ兄弟対決”に沸いた第1ステージを経て、プロトンは少しずつ旅を進めていく。第2ステージは、スペイン・バスク自治州の州都であるビトリア・ガスティスを出発し、観光や音楽祭、映画祭などで名高いサン・セバスティアンまでの208.9km。例年7月下旬に開催されるクラシカ・サン・セバスティアンでも採用される登坂区間ハイスキベルが、フィニッシュ前16.5kmのポイントにそびえる。今回はそのレースとは逆側から上るが、勝負どころであることには変わりない。頂上通過後は一気に駆け下って、サン・セバスティアンの中心部にフィニッシュする。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第2ステージ|Cycle*2023
前日のステージでクラッシュしたリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)が膝蓋骨の骨折で未出走。同じタイミングでの落車で肩甲骨を骨折したエンリク・マス(モビスター チーム)に続き、マイヨ・ジョーヌ候補が早々と大会を去ることに。一方で、トースタイン・トレーエン(ウノエックス・プロサイクリングチーム)は、肘の骨折を押して強行出走。「最悪だよ。今日から2日間が痛みのピークだと思う。でも走りたい。現状を乗り切りたいね」との言葉を残してコースへと向かった。
散発するアタックの中から、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(トタルエナジーズ)の動きをきっかけに、ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)、レミ・カヴァニャ(スーダル・クイックステップ)が同調。3人逃げが決まり、集団との差は最大で5分近くまで開いた。
先頭メンバーで中心になったのは、山岳賞のマイヨ・アポワを着るパウレス。この日5つあるカテゴリー山岳のうち、4つを1位で通過。水玉ジャージのキープを決めている。
「今日のプランは逃げることだった。カヴァニャとボアッソンハーゲンが思っていたより早く遅れてしまって、結果的に脚を使うことになってしまったけど、トライしたことについては悔いはない。今はこの水玉のジャージで頭がいっぱいさ。どこまで着られるか挑戦してみるよ」(ニールソン・パウレス)
メイン集団は、リーダーチームのUAEチームエミレーツがペースをコントロールし、逃げとの差を少しずつ減らしていく。ペースが上がるにつれて集団内部は慌ただしくなっていき、残り40kmを切ったタイミングで通過したラウンドアバウトでは落車が発生。ヴィンゲゴーやベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)といった総合系ライダーが一時的に足止めを余儀なくされたが、すぐに集団に復帰。この頃には、パウレスら先頭との差は2分台となっていた。
ニールソン・パウレス
勝負どころであるハイスキベルに向けて、ユンボ・ヴィスマやUAEチームエミレーツ、イネオス・グレナディアーズが前を固めてポジションを争う。上り始めると、前日2位のサイモン・イェーツ擁するチーム ジェイコ・アルウラーも牽引に加わる。こうなるとペースは上がっていくばかり。ひとり粘っていたパウレスも残り19kmで捕まり、焦点は集団の動向へと移っていく。
ハイスキベルの中腹以降は、UAEチームエミレーツが主導権を確保。ラファウ・マイカの牽きに続き先頭に出たのは、マイヨ・ジョーヌのアダム・イェーツだ。その後ろにつけるのはポガチャル…アダムの動きは、ポガチャルのアシストそのものである。
「タデイ(ポガチャル)がハイスキベルの頂上でボーナスタイムを獲れるようにセットアップすることが僕の役目だった。予定通りの仕事ができたよ」(アダム・イェーツ)
頂上まで200mのところでサイモンがアタックすると、すかさずヴィンゲゴーとポガチャルがチェック。そのままスプリントを開始して、頂上に用意されたボーナスタイムを争う。先着したのはポガチャル。8秒のボーナスタイムを獲得し、2位通過のヴィンゲゴーは5秒ボーナスとなった。
この勢いで後続を引き離したポガチャルとヴィンゲゴーだったが、下りに入って後者が先頭交代に応じなかったこともあり逃げのムードとはならず。後ろでは、上りでバラけつつあった精鋭メンバーが再びまとまって、フィニッシュまで12kmを残したところで先頭2人に合流。そこからはユンボ・ヴィスマが主に牽引役となって、ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)やエマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)、マティアス・スケルモース(リドル・トレック)といった選手たちのアタックを摘み取っていった。
残り1kmを目前に、最前線に残ったのは24人。そのままスプリントになるかと思われた。ユンボ・ヴィスマはワウト・ファンアールトを残しており、おあつらえ向きの展開に持ち込んでいた。
しかし、一撃のアタックが状況を激変させた。残り1kmを示すフラムルージュ通過と同時に飛び出したのはラフェだ。ユンボ・ヴィスマのアシスト陣がいまひとつスピードに乗せきれていないのも関係し、あっという間に数秒差に開いた。
「このような形で勝ちを狙った経験がなかった。最初の500mは最高の気分だったよ(笑)。だけど、最後の500mは恐怖さ。400m、300m、200m…と心の中でカウントダウンしながら逃げていた。フィニッシュ直前のことはほとんど覚えていない。気が付いたときには勝っていたんだ」(ラフェ)
ビスケー湾沿いの最終ストレートで、集団もスプリントを開始。ワウトやポガチャルが加速し、ラフェに近づいた。しかし、ラフェが言うところの“最初の500m”で得たリードがモノをいった。27歳のフレンチマンのキャリア4勝目は、ツールという最高の舞台で完成した。
2021年にはジロ・デ・イタリアでステージ優勝しているし、今年も4月に1勝を挙げている。春のクラシックでは、ラ・フレーシュ・ワロンヌで6位。もっとも、前日の第1ステージではポガチャルやヴィンゲゴーをしたがえてトップを走る見せ場も作った。これまでの実績だけ見れば“大金星”との言葉がピッタリくるが、持っている力はツールのステージ優勝にふさわしいものである。
抜群のアタックで勝利をさらったヴィクトル・ラフェ
「昨日のステージは6位だったけど、トップ10フィニッシュには興味がない。あくまで目指していたのはステージ優勝なんだ。確かに昨日の走りは自信になったよ。今日のアタックに結びついたことは間違いない」(ラフェ)
コフィディスとしても、ツールでの勝利は2008年以来。ホスト国の雄でありながら、15年間勝てずにいた。昨年、バンジャマン・トマ(今大会は不出場)がフィニッシュ目前まで逃げながら集団に飲み込まれたステージがあったが、そんな悔しさもすべて糧にして、ラフェの劇的勝利につなげた。
マイヨ・ジョーヌはというと、引き続きアダムが着ることに。ポガチャルをサポートしつつ、きっちりメイン集団でレースを終えた。この日のスタート前には、フランスメディアを中心に「ポガチャルとアダムの共同エースはあり得るのか?」なんて議論も沸きつつあったけど、彼らの走りを見る限りはポガチャルがUAEチームエミレーツのエースで間違いはなさそうだ。何なら、彼はステージ3位に入ったことで1日で12秒のボーナスをゲット。アダムから総合タイム6秒差で2番手に上がってきて、いつでも“飛び出せる”態勢を作り出している。
「個人的な今日の目標はステージ優勝だったけど、まぁ悪くはないよ。ボーナスタイムを獲得して、ライバルからリードを得ることが重要だからね」(タデイ・ポガチャル)
少しずつ“2強”の様相が見えつつあるポガチャルとヴィンゲゴーだけど、両者の総合タイム差は11秒。要所でボーナスタイムを獲っているポガチャルがリードを広げつつある。僅差といえば僅差だが、積もり積もれば…という話でもある。さあ、これから先はどうなるだろうか。続く第3ステージで、プロトンはいよいよフランスに入国する。
●ステージ優勝 ヴィクトル・ラフェ(コフィディス)コメント
「すごい経験になったよ! アタックしてすぐの500mは最高の気分。だけど、最後の500mは恐怖でしかなかった(笑)。400m、300m、200m…と心の中でカウントダウンしながら逃げていたよ。アタックした瞬間は少し脚に力を入れすぎた気がした。最後までもたないかも…と少し不安にもなったよ。でも、昨日のステージでポガチャルやヴィンゲゴーと一緒に走る場面があって、それが自信になった。今日は丘ではトップライダーに食らいついて、最後で勝負すると決めて臨んでいた。その通りの走りができたよ。
この勝利はキャリアの大きな1ページになることは間違いない。でも、僕はまだまだ勝ちたいと思っている。15年間ツールで勝てていなかったチームに対するプレッシャーからも解放された。先々のステージでまたチャンスがめぐってくるかもしれないね」
●マイヨ・ジョーヌ アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)コメント
「タデイ(ポガチャル)がステージ優勝していればマイヨ・ジョーヌは彼のものだったけど、チームとしてジャージが保持できていれば問題はない。ひとつ確かなことは、チームとして成功を収めたステージであるということ。ここから2日間は平坦だから、理論上はレースリーダーの座をキープできるだろうけど、実際はやってみないと分からない。テクニカルなコースが続くから、集中力が問われるね」
●個人総合6位 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「ハイスキベルの下りでなぜタデイと協調しなかったかって? レース展開を考えたら難しい判断だったよ。僕としてはワウト(ファンアールト)のために働くべきだと思ったんだ。もちろん、タデイと協調する選択肢もあった。だけど、今日のフィニッシュを見てもらったら分かるように、ワウトのスプリントは好調だ。ステージ優勝のチャンスがあったんだ。
個人総合成績に集中するべきであるという見方は確かだね。でも、チームには別の目標もある。とにかく今日は、ワウトに勝ってほしかったんだ。ステージ2位は残念だけど、誰も悪くないし、誰も判断を誤ってなんかいないよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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