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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第20ステージ】アクシデントを乗り越え、プリモシュ・ログリッチがステージ優勝でマリア・ローザ獲得「みんなが応援してくれているのを見て、鳥肌が立ち、涙が浮かんだ」
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸最終日前日にマリア・ローザを獲得したログリッチ
第106回ジロ・デ・イタリアは5月27日、タルヴィーズィオ〜モンテ・ルッサリ間の18.6kmで第20ステージとして個人タイムトライアルが行われ、26秒遅れの総合2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)がトップタイムでステージ優勝。総合成績でゲラント・トーマス(英国、イネオス・グレナディアーズ)を逆転し、今大会で初めて首位に立った。
タルヴィーズィオはイタリアの最も北東部に位置していて、ログリッチの生まれ育ったスロベニアの国境まで数kmほど。16年前の2007年、スキージャンプ競技の世界選手権がこの地で開催され、当時ジャンプのスロベニア代表だったログリッチがジュニア部門で優勝した場所でもある。コース沿道にはログリッチを声援するファンが押し寄せたのは言うまでもない。
第20ステージは今大会3度目の個人タイムトライアル。距離18.6kmで、標高752mから1766mまで上り詰める独特のヒルクライムだ。11km地点までは平坦だが、そこから一気に上りが始まる。そのため選手たちはスタート台から乗っていたタイムトライアル専用バイクから、ドロップハンドル形状のノーマルバイクに乗り換える作戦を取った。
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グランツール最終日前日に設定されたヒルクライムタイムトライアル。ログリッチには忘れられない戦いがある。2020ツール・ド・フランス、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユで行われた第20ステージだ。
エガン・ベルナルと激しい首位争いを展開していたログリッチは、同胞タデイ・ポガチャルがツール・ド・フランス初勝利した第9ステージで念願の首位に。第19ステージまでマイヨ・ジョーヌを着用し、初制覇を懸けて得意とする個人タイムトライアルに挑んだ。総合2位ポガチャルとの差は57秒あった。
ところがポガチャルの信じられない激走にあって、まさかの首位陥落。この日終わって59秒遅れの総合2位となり、ツール・ド・フランスの初タイトルを取り逃してしまった。そのときと今回は立場が異なった。追われるのはトーマス。ログリッチは追う立場だった。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第20ステージ|Cycle*2023
最後から2番目に登場したログリッチは、この種目の東京五輪金メダリストでもある。3分前にスタートしたのは前走者がヤング・ライダー賞1位のジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)。アルメイダは最終日ローマでの表彰台はもちろん、マリア・ローザ獲得のチャンスもあり、中間計測ではトップタイム。
しかしこの日はログリッチがそれを上回る走りを見せた。上りに入って軽量バイクに乗り換えて軽快なテンポでログリッチが走った。トーマスとの前日までのタイム差26秒を上回ることがターゲットだった。
ドラマがあった。上り坂の最も急な部分でログリッチのチェーンが脱落した。
「チェーンが落ちたが、自分で元に戻した。すべてを失うこともあったかもしれないが、それはレースの一部だった」
バイクで追走していたメカニックと沿道に居合わせた観客が、あまりの急坂でペダルを漕ぎ出せないでいたログリッチのお尻を押して再スタートをサポート。それは一瞬の出来事だった。
「チェーンが落ちたので、それを元に戻す必要があったけど、少しだけフリーな休息を与えてくれた。リズムを取り戻して走ることに集中しなくちゃいけなかったが、その余力は残っていた。でもリスタートする場所がとても急だったので、誰かが私を押すためにそこにいたのは幸運だった」
最終走者、マリア・ローザのトーマスが苦戦
ログリッチはそれまでトップタイムのアルメイダを42秒も上回るタイムでゴール。そして最終走者トーマスがログリッチから40秒遅れた。その結果、ログリッチが総合成績でトーマスに14秒差をつけてこの大会で初めて首位に立つことになった。
「素晴らしい気分だ。信じられない。観客は私にプラスアルファのワットを与えてくれ、レースの雰囲気とエネルギーを楽しんだ。あと1日だね。最終日のコースは少しテクニカルなので、フィニッシュするまでレースは終わっていないと考えるのがよさそうだ」
ログリッチのジロ・デ・イタリア区間優勝はこれで4回目だが、すべて個人タイムトライアルだ。2016年の第9ステージで初勝利。第1ステージではジャイアント・アルペシンのトム・デュムラン(オランダ)にコンマ1秒の僅差で2位になっていた。
当時のチーム名はロットNLユンボで、現在もチームメートであるステフェン・クライスヴァイクのアシスト役だった。クライスヴァイクはその大会の第14ステージでマリア・ローザを獲得。しかし第19ステージのフランス国境アニェッロ峠からの下り坂で落車。4分54秒も遅れ、首位を陥落した。傷だらけでゴールすると骨折の疑いがあるためブリアンソンの病院に直行した。
2016年のログリッチはアシストとして参加し、最終的に総合58位だった。
2019年ジロ・デ・イタリアは初日の個人タイムトライアルでログリッチが優勝し、マリア・ローザを着用した。第6ステージで首位を明け渡したが、第9ステージの個人タイムトライアルでも優勝。一時は総合優勝するリチャル・カラパスまで7秒差の総合2位に詰め寄っている。
最終的にログリッチは総合3位となり、その年の秋に開催されたブエルタ・ア・エスパーニャで初めての総合優勝を達成している。
スロベニア国旗がログリッチを後押しする
「今回のジロ・デ・イタリアでの2回目のクラッシュからまだ5日しか経過していない。まだ少し影響はあったが、戦い続けた。痛みはあるけど、今日は勝つための脚があり、うまくいった。沿道の観客のおかげでできた。すべての人々のサポートを決して忘れないだろう。みんなが応援してくれているのを見て、鳥肌が立ち、涙が浮かんだ。私は結果をあまり気にしないようにした。ここまできた選手として信じられないほど誇りを感じている」
首位と総合2位の差はわずかに14秒だが、ジロ・デ・イタリアにはさらに僅差の記録が多い。1948年のフィオレンツォ・マーニとエツィオ・チェッキの差は11秒、1974年のエディ・メルクスとジャンバティスタ・バロンケッリとの差は12秒、そして1955年のマーニとファウスト・コッピとの差は13秒だ。
バーレーン・ヴィクトリアスの新城幸也は、全体の4番目でスタート。上りのタイムトライアルは得意としないので、10分54秒遅れながらフィニッシュ。第106回ジロ・デ・イタリアの完走をほぼ確実にした。総合成績は5時間19分06秒遅れの122位。
バーレーン・ヴィクトリアスはチーム賞部門で2位イネオス・グレナディアーズに16分22秒の大差をつけていて、翌日の最終日で総合チーム賞を獲得するのは間違いなくなった。
チームメートのジョナサン・ミラン(イタリア)は大会2日目に区間勝利して獲得したポイント賞ジャージを20区間守り抜いている。
山岳賞1位はティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)で、最終日のローマにゴールさえすれば山岳王が確定する。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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