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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第17ステージ】アルベルト・ダイネーゼが鬱憤晴らす僅差の勝利!山岳ラストバトル控える総合争い「自分は勝てるという自信と信念がある」(トーマス)
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸マリア・ローザのゲラント・トーマスとそれを援護するアシスト陣
第106回ジロ・デ・イタリアは5月24日、ペルジーネ・ヴァルスガーナ〜カオルレ間の平坦路で距離195kmの第17ステージが行われた。
ルートは標高530mのペルジーネ・ヴァルスガーナをスタートし、アドリア海に面したカオルレまで、全体的に下り基調で、山岳ポイントはない。70km過ぎに通過するバッサーノ・デル・グラッパは蒸留酒のグラッパの名産地として名高い。カオルレは観光地ヴェネツィアにも近い美しい漁港だ。
ヴェネツィアとトレヴィーゾ周辺の平原をまっすぐに突き進むコースが使用され、曲がり角はほとんどなく、高速レースの末にスプリンターたちのゴール勝負となることが予想された。
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そして翌日の第18ステージ、翌々日の第19ステージが過酷な山岳コースで行われ、さらに第20ステージの個人タイムトライアルがあることから、マリア・ローザを争う総合成績の上位選手とそのチームにとってはいかに体力を温存しながらゴールするかがこの日の課題となった。
総合1位のマリア・ローザを着用するのはゲラント・トーマス(英国、イネオス・グレナディアーズ)。18秒遅れの2位にヤング・ライダー賞1位のジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)。29秒遅れの3位にプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)がつけている。
第17ステージは下り基調で海を目指す
山岳賞はEFエデュケーション・イージーポストのベン・ヒーリー(アイルランド)が前日に初めてトップに立ったが、この日はお役御免だ。
第17ステージの天気はまずまずで、わずかにスコールはあったが日差しも降り注ぐ中でのレースとなった。ペルジーネ・ヴァルスガーナをスタートしたのは128選手。コロナ罹患や悪天候で体調を崩した選手が相次ぎ、集団はいくぶん小さく見える。
最終日のローマを除けばスプリンターにとってはラストチャンスとなる平坦ステージだ。序盤から複数の選手が先行するが、スプリンターを擁するチームがメイン集団のペースメークをして、最終局面までにきっちりと吸収した。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第17ステージ|Cycle*2023
この大会でこれまでステージ優勝できたスプリンターは、バーレーン・ヴィクトリアスのジョナサン・ミラン(イタリア)、チームジェイコ・アルウラーのマイケル・マシューズ(オーストラリア)、UAEチームエミレーツのパスカル・アッカーマン(ドイツ)の3人のみ。それ以外のスプリンターがゴールを見据えてラスト勝負に挑むなか、チームDSMのマリウス・マイヤーホーファー(ドイツ)が残り2kmからアルベルト・ダイネーゼ(イタリア)を牽引。ダイネーゼが好位置からスパートし、ミランとマシューズを抑えて優勝した。
「昨日まで、今年のジロ・デ・イタリアでステージ優勝できるとは思えなかった。第5ステージで勝負に出たが、降格してしまった。休みの日に体調を崩したが、昨夜はよく眠れて、今日は初めて気分がよかった」というダイネーゼ。
平坦区間の第5ステージでは好位置でスプリント勝負したが、ゴール手前で斜行したことで後ろについたマーク・カヴェンディッシュの落車要因を発生させて、その集団の最後位に降格している。そのうっぷんを晴らす日がやってきた。
ダイネーゼにとってはちょうど1年ぶりの勝利だ。ジロ・デ・イタリアでは通算2勝目となるが、過去3年半でダイネーゼが勝ったのは、2022ジロ・デ・イタリア第11ステージとこの日の2回のみ。年間数十のレースで優勝するスプリンターはたくさんいるが、その大半はメジャーレースではない。ダイネーゼは勝ちこそ少ないが、ジロ・デ・イタリアで勝っているのが注目点だ。
レッジョ・エミリアで行われた2022ジロ・デ・イタリア第11ステージでは、ダイネーゼは名だたるスプリンターのガビリア、コンソンニ、デマール、ユアンを破って初優勝している。
ダイネーゼはイタリア選手としては、これまでとは異なるキャリア選択をした。イタリアチームに安住せず、さらなる活躍を求めて外国チームに所属する先駆者の一人だった。2018年にオランダのSEGレーシングアカデミーに加入し、ヨーロッパU23ロードタイトルを獲得した後、プロ転向。
2020年に現チームの前身であるチーム・サンウェブで、なみいる有力選手らに加わることを選んだ。このチームにはそれまでイタリア選手が加入したことはなく、スタッフとしてもバスの運転手くらいだったという。ダイネーゼのキャリアは他の若手イタリア選手よりも困難な環境に囲まれ、ネオプロフェッショナルとしての通常の浮き沈みに加えて、外国チームに順応する必要もあったという。
身体的にはそれほど大きくなく、カヴェンディッシュに似ていると言われている。チームは、「カヴェンディッシュほど多くは勝てないだろうが、勝つための適切なステージを選ぶ方法を間違いなく知っている」と、この日のスプリントを託した。ダイネーゼは見事にその期待に応えたと言っていい。
ダイネーゼ(左)がマイケル・マシューズ(中央)とミランを制した
「こんなに僅差で勝つことはこれまで経験したことがなかった。以前は何度も僅差で負けている。ジュニアのときには手を上げたことで負けたこともある。勝ったと言われるまで緊張したままだった。この方法で勝つのがいいね」とダイネーゼ。
総合成績では前日に首位を奪還したトーマスが無難な走りでマリア・ローザを守った。翌日は自身の誕生日で、マリア・ローザを着用しての走りとなる。1948年と1949年5月23日のジョルダーノ・コットゥール、1986年6月2日のロベルト・ヴィセンティーニ、1994年6月3日のエフゲニー・ベルツィン、2006年5月7日のパオロ・サヴォルデッリ、2019年5月29日のリチャル・カラパスに続いて、大会史上6回目の記録だ。
「このジロ・デ・イタリアにしては雨も10分間でおさまったし、最も簡単な日の1つだった。フィニッシュはちょっと混沌としていて、かなり危険だったが、チームメートがそれをうまくさばいてくれたのでありがたかった」とトーマス。
「翌日からの3日間のために、できるだけ脚を使わないことを心がけていた。プリモシュ・ログリッチとジョアン・アルメイダはどちらも非常に危険な存在だ。ジョアンとのタイム差はかなり接近している。どちらも超強力なタイムトライアル選手なので、正直両方が怖い。とりわけ金曜日の第19ステージがクイーンステージだ。これまでの経験から、自分は勝てるという自信と信念がある。その場に飲み込まれないで冷静に走る手段も心得ているつもりだ」(トーマス)。
バーレーン・ヴィクトリアスの新城幸也は3分21秒遅れの122位でゴール。総合成績は3時間54分05秒遅れの127位。チームに貢献することと完走が目標だけに、着実に最終日に向けて走っているという印象だ。
チームメートのミラン(イタリア)は、この日4回目の2位。U23選手がこれだけ表彰台に上ったのは2004年のダミアノ・クネゴ(ステージ4勝と2位1回)以来の快挙だという。第2ステージで手中にしたポイント賞ジャージを一度も手放すことなくキープしている。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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