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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第12ステージ】ニコ・デンツがプロ10年目の大願成就!大逃げでグランツール初勝利 総合勢は五つ星ステージ前の“移動日”
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ニコ・デンツ(ボーラ・ハンスグローエ)
最大30人まで膨らんだ逃げグループは、思惑が交錯しているうちに分断が自然発生。偶発的に前に位置していた5選手がレースをリードする形になって、さらに絞られた3人がステージ優勝争いへ。最後はニコ・デンツ(ボーラ・ハンスグローエ)が競り合いを制して、ジロはもとよりグランツールで初めてとなる勝利を挙げた。
「今日のようなレース展開では勝てたことがなかったからビックリだよ! だけど、フィニッシュ前のレイアウトは頭に入れてあったんだ。だから、勝負するなら最後の最後と決めていた。自分でも素晴らしい勝ち方ができたと思っているよ」(ニコ・デンツ)
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2日間続いた平坦ステージを経て、この日は179kmの丘陵コース。2カ所あるカテゴリー山岳のうち、終盤に上る2級山岳コッレ・ブライダ(登坂距離9.8km、平均勾配7.1%)は最大勾配12%。頂上まで行けば、あとはフィニッシュまで約28km。一気に駆け下ることになる。
連日、大会を去る選手のことが話題になるが、このステージでもアレッサンドロ・コーヴィ(UAEチームエミレーツ)が出走できなかった。前日のステージで総合系ライダーとともにクラッシュ。何とか走り切ったものの、後に仙骨骨折の疑いがあることが分かったという。
139人で始まったレースは、スタートからアタックの応酬。10kmに達しようかというところで少しずつ集団からリードを得る選手が出てきて、やがて25人が先行。メイン集団では、リーダーチームのイネオス・グレナディアーズが早々に統率を開始し、先を急ぐ多数の選手たちを見送る構え。それからも何人かが飛び出していったが、惑わされることなく展開を落ち着かせた。
そうしているうちに、先頭グループは30人まで膨らんだ。マリア・チクラミーノを着るジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)は合流が間に合わず、ポイント収集が難しくなった。かたや、4人を前線へ送り込んだトレック・セガフレードはここぞとばかりにペースを引き上げて、マッズ・ピーダスンの中間スプリントポイント1位通過を後押し。狙い通りに得点を重ねている。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第12ステージ|Cycle*2023
先頭グループのムードが急変したのは、フィニッシュまで100kmを切ったタイミング。ラウンドアバウト通過時にわずかに生まれた中切れが運命を分けた。たまたま前を走っていたデンツ、サムエーレ・バティステッラ(アスタナ・カザクスタン チーム)、アレッサンドロ・トネッリ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)、セバスチャン・バーウィック(イスラエル・プレミアテック)、トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)は、後ろの選手たちとの差にに気が付いて一気にスピードアップ。バティステッラが遅れて4人になっても急ぐ姿勢は崩さない。
「先頭グループ内での協調がまったくできていなくて、分裂したのも偶然だった。そのとき僕は先頭にいて、プッシュするべきだと思ったんだ」(デンツ)
残されたメンバー間の空気は完全に乱れた。誰かがアタックすれば、誰かがチェックする、そんな動きの繰り返し。先頭にメンバーを送り込んだチームが抑えに回って、追走狙いの動きをすべて摘み取っていく。ペースを上げ下げしているうちに、先頭4人との差は3分まで開いてしまった。
そんな駆け引きをよそに、メイン集団はイネオス・グレナディアーズのコントロールで変わらない。この日も雨が降って、濡れた路面にタイヤをとられた選手たちがクラッシュしたが、レースの流れを左右するほどでもない。
フィニッシュ地点を一度通過して、2級山岳コッレ・ブライダへ。逃げ切りに向けて、スクインシュがアタックで口火を切る。これでトネッリが遅れると、今度はバーウィックがほぼ先頭固定で上りを突き進む。頂上を前にスクインシュが再度前に上がるが、デンツは上体を揺らして懸命のクライミング。3人の態勢を維持してフィニッシュへつながる下りへ入っていく。後ろでは、追走メンバーが盛んに動いてはいるものの、先頭グループに迫るまではいかない。前の3選手の中からステージ優勝者が出るのは決定的になった。
誰が勝ってもグランツール初勝利。下り終えたところでデンツがアタックすると、すかさずスクインシュが反応。一度離されたバーウィックも、3kmほど追いかけて再合流。それからはデンツとスクインシュが先頭交代を繰り返し、バーウィックは付き位置をキープ。そのまま最後の1kmを迎えた。
デンツ、スクインシュ、バーウィックの並びで最終ストレートに還ってくると、残り250mでバーウィックがスプリントを開始。このアクションを待っていたかのようにデンツとスクインシュも合わせにいく。最後はバーウィックを引き離した2人のマッチスプリント状態になって、デンツが一番にフィニッシュラインを通過した。
「上りでは何度も“もうダメだ”と思ったよ。頂上までが本当に長かった。でも、下りで脚が戻ってきたことを感じていたんだ。試しにアタックしてみたけど、やっぱり大丈夫だった。これならフィニッシュ勝負ができると」(デンツ)
待っていたチームスタッフと大絶叫で喜んだプロ10年目の29歳。ジュニア時代にフランスへ渡って脚を磨くと、2015年にアージェードゥーゼール ラモンディアール(現アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)でプロデビュー。以来、数チームを渡り歩きながらアシストとしてのキャリアを歩んできた。劇的勝利を挙げたこのステージだって、本当はチームメートをサポートする役割を与えられていた。
最後のスプリント勝負
「もともと逃げるつもりじゃなかったのだけど、突然ゴーサインが出たんだ。逃げ予定だったボブ(ユンゲルス)を急遽温存させることにして、代役として僕に声がかかった。逃げてはみたものの、周りはモンスター級の選手ばかり。僕じゃ勝負にならないから、総合成績がかかっているコニー(パトリック・コンラッド)を助けようと思っていたんだ」(デンツ)
昨年のジロではジャイ・ヒンドレーのマリア・ローザ獲得の土台となった男は、みずからの走りを追い求められる千載一遇のチャンスを最高の形で仕上げてみせた。チームは、個人総合6位のレナード・ケムナと、このステージで同13位まで上げたコンラッドで山岳を戦う。生粋のアシストマンの勝利は、勝負どころへ向けモチベーションを上げるに十二分すぎるほどのプライズとなった。
さて、完全に“別のレース化”したメイン集団は、40人程度まで絞られたものの、イネオス・グレナディアーズのコントロールは変わらぬままステージを完了した。逃げからこぼれた選手たちを無理に拾うこともせず、「移動ステージ」と割り切って走り終えている。もちろん、個人総合トップ10に変化は生じていない。
マリア・ローザのゲラント・トーマス
「逃げを行かせるまでが大変だったのだけど、それからはリズムよく走ることに終始した。昨日、チームはダメージを負ったけど、今日は立ち直れたと思う。明日は大きな1日。レースで起こるものすべてに適応していかないといけない」(ゲラント・トーマス)
そう、次のステージは今大会初めての五つ星ステージなのだ。降雪によってチーマ・コッピ予定だったグラン・サン・ベルナルドのルートこそ変わったものの、それでも獲得標高は4500m。タフなことには変わりない。3つの1級山岳を上り終えたときに、マリア・ローザを争う形勢はどうなっているだろうか。
首位トーマスから2秒差でプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)、22秒差でジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)、35秒差でアンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム)と、ここまでが総合タイム差1分以内。3分差まで広げると11人がひしめく激戦である。大会中盤のヤマ場でアクションを起こす選手が現れるだろうか。ひとつ確かなのは、大きな遅れを喫した時点でマリア・ローザ着用資格が失われるということである。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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